ホワイトメンズよ、私と代われ!『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』はインディらしさよりも、今時らしさ満載な娯楽映画

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル


監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、トビー・ジョーンズ、マッツ・ミケルセン、アントニオ・バンデラス、ジョン・リス=デイヴィス、シャウネット・レネー・ウィルソン 他
言語:英語
リリース年:2023
評価★★★★★☆☆☆☆☆

Indiana Jones and the Dial of Destiny(2023) ©Walt Disney Pictures/Lucasfilm Ltd.『参照:https://www.imdb.com


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~”モダン仕立てのインディ映画、やっぱりディズニープラスとかに繋げたいのね…とにかくハリソン・フォードお疲れ様”~
~”華金に若いカップルがデートに行って観るのに丁度良い温度感の娯楽映画、特にオーパーツ好きならその後の会話も盛り上がるだろうけどインディ映画としては何とも言えない”~

もくじ


あらすじ

1944年、ナチスが略奪した秘宝『ロンギヌスの槍』を奪還すべく
インディは友人の考古学者バジル・ショーと共にドイツ軍の拠点に忍び込む
しかし問題の槍はレプリカである事が分かり、敵地から脱走を試みる2人
その道中、インディはもう1つの秘宝『アンティキティラのダイヤル』を手にする
そして1969年、家庭は崩壊しつつあり、退屈そうな学生相手に考古学の講義を行う
そんな日々を送るインディの前に、バジルの娘ヘレナが現れる
嘗て手に入れたアンティキティラのダイヤルに関するを調査を持ち掛けられ
渋々承知するインディだが、ダイヤルを狙うナチスの残党の奇襲に合ってしまう
歴史を決定付ける大きな陰謀が動き出そうとしていた…


レビュー

ハリソン・フォード演じるインディアナ・ジョーンズは、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で5作目。傘寿を超えたフォードが、またもアクション映画をと云うのは想像し難いところもありますが、ファンの中にはインディのアイコニックなハットと鞭を纏った彼が再び銀幕に姿を現すだけでも歓喜した方も居た事でしょう。

私も本作の公開が発表されて以来、(過去の作品の二番煎じ、否、三番煎じがハリウッドは昨今多い事に目を瞑り)大画面に古き良き冒険物語が復刻する事を心待ちにしていました。しかし、公開までの舞台裏の紆余曲折や様々な情報が浮上するにつれて萎んだ期待を吹き返す程のインパクトの無い映画だった事は残念です。

『イエスタデイ』のテクノ・リミックスを聴いている感覚。ビートルズであってビートルズでは無い。インディであって、インディではない。シンセサイザーとドラムンベースが鳴り響き、アリアナ・グランデとのマッシュアップまでミックスされて行く。若きインディが活躍する冒頭10分間を超えて1969年に突入すると古き良きは何処吹く風か、インディが霞みました。

時は冷たい大戦の空が広がる1944年、ドイツ。

ナチスが略奪したロンギヌスの槍(磔刑に処されたイエス・キリストが絶命した事を確認すべく、その横腹を刺す為に使われた聖槍)を手中にと敵陣へ乗り込んだインディと考古学者仲間のバジル・ショーでしたが、問題の聖槍はコピー品である事が分かり、2人は脱走を試みます。その途中で偶然、ナチスの物理学者ユルゲン・フォラーが所持していたアンティキティラのダイヤルを手にするのでした。
(因みにアンティキティラのダイヤルの元となった、『アンティキティラ島の機械』は歴史的な遺物として実在するのでご興味のある方は是非調べてみてください)


映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の評価とネタバレあり感想
最後にもう一度だけスクリーンに蘇ったハリソン・フォード扮するインディアナ・ジョーンズ

出典:”Indiana Jones and the Dial of Destiny(2023) ©Walt Disney Pictures/Lucasfilm Ltd.”『参照:https://www.imdb.com

そして20年以上もの時が過ぎた1969年、インディは小さなアパートの一室に暮らす孤独な老人に。

近隣の若者が音楽を鳴らしてパーティをする様子には怒鳴り、アポロ計画成功の祝杯パレードを不満げな顰め面で見やるインディ。顔は疲れ、目は覇気を欠き、何処か心もとない足取りで歩く引退前の老教授。担当する考古学の講義に集う学生たちは、一縷の熱意も無く頬杖を突いてインディに耳を傾けません。挙句には一人息子を失い、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年)で結婚した妻マリオンとも離婚協議中。このシーンは何処かフレームが全体的にセピアで、愛するヒーローが褪せて行く様子を表している様でした。

しかし、そこへ旧友バジルの実娘でインディの名付け子であるヘレナ・ショーが現れます

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考古学を学び、博士号の取得を目指すと熱を帯びた様子で語るヘレナは、その関係でインディにアンティキティラのダイヤルに関する調査を持ち掛けます。渋々了承したインディですが、ヘレナが偽りを述べていた事が発覚。しかし、彼女を問い詰める間も無く突如として追手が現れてしまう。1944年に元々ダイヤルを所持していたフォラーと、彼が従えるナチスの残党でした。

フォラーは第二次世界大戦でのドイツの敗退を強く悔い、その過ちを正す為にダイヤルに秘められた仕掛けを使う事を目論み、奪還に乗り出したのです。

しかし、ヘレナはインディを捨ててダイヤルと共に逃亡。インディ、フォラーはそれぞれダイヤルを取り返すべく動き出し、世界を股に掛けた熾烈な逃走劇の火蓋が切って落とされるのでした。


映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』でナチスに扮するマッツ・ミケルセン
マッツ・ミケルセン演じる悪役にはいつもながら知的な冷血漢然とした空気が漂う

出典:”Indiana Jones and the Dial of Destiny(2023) ©Walt Disney Pictures/Lucasfilm Ltd.”『参照:https://www.imdb.com

謎めいた古代の秘宝と、ワールドワイドな冒険(そして忘れてはならないナチス)。インディの映画に必要な要素は揃ったものの、それ以前に何とも単調な上に長い。

落ち着く間も無く、コミカルな演出やジョークを楽しむ間も無く、畳み込む様に続く目まぐるしいアクション。劇場で映画を堪能すると云うよりも、ディスニーランドの最新アトラクションに乗った様な気分でスクリーンを後にしました。テーマパークのアトラクションに申し訳程度に付いている、単純で浅いストーリーと設定が、そのまま150分間引き延ばされた様な感覚を味わった作品です。

要は、全く面白味に欠ける退屈な映画とは言えない一方で、手に汗握って食い入る様に観るアクション映画でも無く、ストーリーにもパンチが無い。モダンな娯楽映画の教科書的な手本に、インディアナ・ジョーンズの背景とエッセンスを振り撒いたのが関の山と云うのが単刀直入な感想です。

ただ、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年)から15年ぶりの新作となる本作は、公開が発表されて以来、映画ファンの間ではマンゴールド監督の言動や、エンディングの度重なるリシュートが物議を醸すなど公開前から不穏な空気に満ちていたせいか、興行収入面でも製作費の回収が限界である可能性を囁かれるなど先行きも怪しい。作品としてのレビューから脱線してしまうので詳しくは触れませんが、裏舞台の問題が表面化した結果の様にも思えました。

映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の評価とネタバレあり感想
スカイ君
まぁイマドキって感じの映画だな。公開前に色々と良からぬ話が飛び交っていたから全く期待していなかったんだが、思ったより面白いと感じたんで逆に良かったのかも。ワクテカしないくらい気軽に観たら良いんじゃないかな
映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の評価とネタバレあり感想
モカ君
コアなインディのファンたちはどんな反応するか分からないけど、ボクは派手なアクションがとっても楽しかったよ!
映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の評価とネタバレあり感想
スカイ君
インディ作品ってレイダースまで戻ると結構昔だから、そもそも2023年にもなってハリソン・フォードのインディに馴染みある!って若年層が少ないのも、ヒットに届かない理由の1つなんだろうな…それに、幾ら何でも80歳のインディって聞いてテンション上がる人はほぼ居ないだろうし
映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の評価とネタバレあり感想
モカ君
80歳とは思えないくらいカクシャクとした感じで、相変わらずのカリスマはあったけど、確かに歳には勝てないかもね…あ、ココからはネタバレもあるからこれから観るキミは気を付けて!ここまで読んでくれてありがと!
ドンガラガッシャンで誤魔化せ!ちょっと雑でも大丈夫

ナチスに気持ちの良い右フック。インディ映画の外せない醍醐味の1つです。

それなら『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』にも充分に鏤められています。ただ、1つの映画作品として目を凝らして観ると、片眉が上がる瞬間も無視出来ない程にちらつきます。特に目立ったのはCGの粗さでしょうか。

とは云え、昨今の映画作品でCGの品質が疑問視されるのは『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』だけではない事をインディの名誉の為に前置きしましょう。

11月に公開予定の『マーベルズ』(2023年)も、予告編が解禁されてからCGの品質の低さが一部では嘲笑の的になっていた様です。ほぼ同時期にディズニー傘下のマーベル・スタジオで視覚効果のトップであり、同スタジオの古株でもあったヴィクトリア・アロンソが急遽解任され、内部でも粗末なCGが深刻な問題として見られていた可能性が指摘されています。

殊にディズニーでは、従来はセットやロケーションで対応するシーンも現在は通称『ザ・ボリューム(The Volume)』と呼ばれる360度がグリーンスクリーンで囲われた巨大な円形のステージで撮影される事が多く、過度との意見もあるCGのヘビーユースが目立ちます。如何に技術が進化したとは言え、人間の感覚は微細なリアルとヴァーチャルの違いを感知出来てしまうのでしょう。


映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』でインディに扮するハリソン・フォード
ディエイジングで若返ったハリソン・フォード、まさに昔のインディ

出典:”Indiana Jones and the Dial of Destiny(2023) ©Walt Disney Pictures/Lucasfilm Ltd.”『参照:https://www.imdb.com

その点は『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』も例外ではありません。

冒頭シーンのディエイジング(顔の若年化効果)されたハリソン・フォードは見逃す事こそ出来ますが(瞬間的に光の当たり方に違和感はあったものの)、目に付いた数あるシーンの中でも夥しいムカデや蜘蛛に遭遇する場面のCGは頂けなかった。細かな点かも知れませんが、あからさまにデジタルな物体がスクリーンに紛れ込むと、それまでの没入感が突如として無くなる感覚に苛まれる事があります。映画館の巨大スクリーンで鑑賞している故の弊害と云うと逆説的ですが、小さな事が大きな落胆を生むものなので実に残念です。

ただ、本作に関して言えば中心に居るハリソン・フォードがしっかりとリード。この名優が聞き慣れたテーマソング(ジョン・ウィリアムズには脱帽)と共に鞭を振り、馬に乗って雄々しく駆け巡るシーンには、思わず口角が上がるのを自分でも感じました。ナチスにお見舞いするパンチの数々も、言わずもがな。

インディアナ・ジョーンズ全盛期の頃を彷彿とさせるフォードと変わらない様に思える瞬間もあって、,b>これぞと感じさせてくれた演出もあり、ちらつく問題も中和してくれたと言えます。今なお燃え盛る炎の様なエネルギーを発する様に鋭く輝く瞬間も垣間見られて、その点は満足出来た映画です。

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そんなインディが駆け抜けて行くストーリー。そこが残念な事に骨格が余りにも広く、浅く、何処かで繰り返し見た様な流れと光景に、焦点が合わなくなる事も。

過去のインディ作品では、ストーリーの中核を成すテーマに強くスポットライトが当たっていた様に思います。即ち狭く、深く、と云う方向性が1つの作品を味わい深くしている感覚があったのです。本作で言えばアンティキティラのダイヤルとアルキメデスの謎を深掘って行くと興味深いだけで無く、オーディエンスとしてもストーリーに入り込み易い大きな切っ掛けとも成り得たでしょう。

Wikipediaで得た蘊蓄を披露したがっている雑学好きがストーリーの舵を取ってしまった様に感じるのは、それとは対照的に詰め込み過ぎているから。薄まったワインの様な、可もなく不可もなくで、細かい事が御座なりになっている(その上、それが気に掛かる)様子が際立ってしまった為と感じます。


映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で登場するインディのアイテム
インディと言えば外せないアイテムにも笑顔と興奮を隠せない

出典:”Indiana Jones and the Dial of Destiny(2023) ©Walt Disney Pictures/Lucasfilm Ltd.”『参照:https://www.imdb.com

マジックショーの衣装替えよろしく場面が目まぐるしく変わって行くのも、『メン・イン・ブラック : インターナショナル』(2019年)を彷彿とさせるものがあり、表層的な映像美やワンダー・ファクターで本質に見え隠れするひび割れを誤魔化しているのではと勘ぐってしまう。

他にもフォラーと手を組んでいたCIAの一派も事情の背景説明が無く、手を組んでいた理由も利害関係も分からぬままに主任のCIA捜査官メイソンの殺害によって呆気無く片付けられている事も納得が行かない(捜査官との連絡が急に途絶え、行方不明になったらCIAやFBIが血眼になってフォラーを追うはずですが、それではストーリーが複雑になり過ぎるせいか全くそうした描写も無い)。無論、それでストーリーの前提が覆る程ではありませんが、急いで脚本を仕上げたのか途中で何度も変えたのか、随所から雑な印象は拭い切れません。

しかし、最も私が疑問に思ったのが『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で新たに登場したフィービー・ウォーラー=ブリッジ演じるヘレナとイーサン・イシドール扮するテディでした。

苦労とチームワークはもう古い?今時なモダンヒーローは何が魅力なのか

映画作品に於いて(否、ストーリーが伴う作品に於いて)、好感が持てないヒーロー程致命的な存在は中々無いでしょう。

ヘレナとテディは(可愛らしい名前とは裏腹に)、キャラクターとしての魅力が殆ど感じられない描かれ方をされていてプロダクション側の意図が不明確でした。明らかに『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、インディのレガシーを生かし続けるべく(無論、実態は減り続けるディズニープラスのサブスクリプション数を回生する事を目論むディズニーの仕掛けですが)ヘレナが次期インディを名乗る為の布石です。テディに至っては『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2023年)でカムバックを果たし、映画界の注目を浴びたキー・ホイ・クァンが演じたショート・ラウンドの座に尻を載せ掛かっているところでしょう。

ヘレナ・ショー。盗品捌きを生業とした正真正銘の犯罪者で、己の利益の為に結婚詐欺をも厭わない自他共に認める狡猾な金の亡者。それをどうやら現代では、才気煥発で頭の良い自立した女性、と褒め称えて好感を寄せたり憧れたりする人物像になる様です。援助交際(所謂パパ活)が活発で、顰蹙を買うどころか”賢い商売”との見方が珍しくない国内の実態だけを見ても、恐らく世界的にも共感する若年層が多いと見切っての描写かも知れません。
(余談ですが、Jean-Noel Kapferer/Vincent Bastien著『The Luxury Strategy: Break the Rules of Marketing to Build Luxury Brands』にて、日本人女性がパパ活を手段としてまでハイブランド品を求める荒唐無稽な実態に言及しており、日本のそうした現状が世界にも広く知れ渡っている事には驚きました)

後半に掛けてはピンチのインディを救う為に画策するものの、客観的に考えあぐねても具体的な魅力は掴み切れ無かったです。フォラーが持っているダイヤルの方が目当てだと言ってくれた方が、それまでの彼女の動機としては納得が行くので、寧ろいっその事そのキャラクター像を貫いて欲しい。


映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』でヘレナに扮するフィービー・ウォーラー=ブリッジ
インディは退場、これからはヘレナの時代…なのだろうか?

出典:”Indiana Jones and the Dial of Destiny(2023) ©Walt Disney Pictures/Lucasfilm Ltd.”『参照:https://www.imdb.com

そしてモダンなヒロインの典型症状である、パーフェクト症候群にも罹患している様子。つまりは、一切の努力も苦労も無く何でも出来ると云う現代のハリウッドに蔓延るファンタシーがここにも触手を伸ばしているのです。

ストーリーには起承転結がある様に、キャラクターも注意を払って設計し、描く事が重要になります。例えば、『アイアンマン』(2008年)のトニー・スタークは裕福な家庭に生まれ、天才的な知能を持ち、容姿にも恵まれ、世界的な軍事事業会社を営む傲慢ば人物です。一見、好感を到底持てる様には思えませんが、作中では彼が直面した苦悩や、人間として成長する為に周囲に頼ったり、弱みを湛えた素顔が見えたりしたからこそMCUきっての人気のキャラクターとなりました。失敗を重ね、成長して行く様子がその後の作品でも描かれ、彼のストーリーが完成して行く旅路を共に歩く事がスクリーンを超えた共感や好感を呼んだのです。

要は、アイコニックで愛され続けるキャラクターは、いずれも始めから何でも出来ない失敗知らずの何者にも頼らないパーフェクト・ヒューマンではありません。

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』のヘレナを始め、昨今のハリウッド作品で描かれる多くの女性ヒロインは、そうしたキャラクターとは対照的に登場からパーフェクト・ヒューマンで無ければ社会的なタブーとでも言わんばかりの人物で溢れ返っています。『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022年)で初登場を果たしながらアイアンマンのアーマーを単独で組み直して自ら実戦投入するに飽き足らず、誰も成し遂げなかったヴィブラニウム(作中に登場する希少な貴金属)を探知する機器を開発するなどしたリリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)も好例でしょう。オールラウンダーで苦悩も成長も必要の無い人間。

恰も超高度なA.I.を搭載した最先端のロボットの様な、何をやっても簡単に熟してしまう。そんな人間ほど見ていて退屈なものがあるでしょうか。盗品捌きを余儀なくされたヘレナの過去や、彼女を人物として深く知る事が出来る糸口は何も無く、フェイスバリューで捉える他無いオーディエンスとしては肩を竦めるしかありません。

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その相棒であるテディにも同様の事が言えます。察するに貧しい家庭の出身である事を除いて、スリである事以外は何も分かりません。2人で老いたインディを嘲っている様な描写が目立ち、それだけでは単に性格に難があるキャラクターとしての印象しか残らない。


映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』のヘレナとインディ・ジョーンズ
スクリーンプレゼンスは確かな俳優だが、キャラクターとしては魅力が薄いヘレナ

出典:”Indiana Jones and the Dial of Destiny(2023) ©Walt Disney Pictures/Lucasfilm Ltd.”『参照:https://www.imdb.com

これがインディのファンに向けた映画なら、折角スクリーンに蘇ったヒーローに泥を塗る様な言動を面白く思うオーディエンスが居ると考えての事でしょうか。解せない部分です。

2人の何にオーディエンスが惹かれる事を想定しているのか。

先述した通りの劇場公開に於ける『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の思わしくない興行収入が、こうしたオーディエンスの感情を如実に反映しているのでは無いでしょうか。

ヘレナを二代目インディアナ・ジョーンズとするドラマ・シリーズの制作が囁かれていますが、本作での描かれ方を観てなお次作へ期待を寄せるファンがどの程度居るのか甚だ疑問です。

ヘレナに扮するフィービー・ウォーラー=ブリッジのスクリーン・プレゼンスは確かなものの、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』に限らず、昨今のハリウッド映画はキャラクターの描き方に改めて思考を集中させた方が良いのではなかろうかと強く感じさせる作品でした。ルールは破る為にあると考えがちなホルモン溢れる反抗期の安直な思考回路の様に、レガシーは壊す為にあると考えている様子の昨今の流れが止まる事を切に願うばかりです。


この映画を観られるサイト

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は2023年6月30日より全国の劇場で公開しておりますので、映画館へ足を運んでみてください。ストーリーやキャラクターよりもアクションが観どころの本作は、それこそ大画面で堪能してこそ真価を発揮すると言えるでしょう。

まとめ

さらばインディアナ・ジョーンズ。

老体に鞭打つ様にしてスクリーンに再び姿を現したハリソン・フォードの吸い込まれる様なカリスマと、そんな彼が置いてけぼりの様になって行く様子がちらつく『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、実に複雑な気持ちで観る事になった作品。声高に面白いとも絶賛出来ず、一方でスマートウォッチを何度も見やる程でも無い。

撮影技術や先端テクノロジーを具備したオモチャを振りかざし、安定路線のテンプレートな脚本が基盤になったであろうストーリーには派手さを感じても、真摯さを感じない。純金のフェラーリが爆走している様な、目立つ事には間違い無いのだが、単に煩いから目立つのであって感心や感動がある訳では無い。そんな絶妙なラインを綱渡りしている様な映画でした。

モダンなヒロインとその相棒への選手交代に集中するよりも、誰もが知るアイコニックなヒーローをどの様に送り出すかを丁寧に、深く考えて欲しかった。息が止まる様なアクションに没頭して自分を誤魔化しつつも、やはり残ってしまった消化不良な気分はきっとオールラウンドなヘレナにも治せないでしょう。

Indiana Jones and the Dial of Destiny
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