『マックイーン:モードの反逆児』は世界を震撼させた鬼才、アレキサンダー・マックイーンの世界を惜しむ事なく体感出来るドキュメンタリー映画!美しくもダークなショーを堪能せよ

マックイーン:モードの反逆児


監督:イアン・ボノート&ピーター・エテッドギー
出演:リー・アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、フィリップ・トレイシー、サラ・バートン、ミラ・チャイ・ハイド、セバスチャン・ポンス、ケイティ・イングランド 他
言語:英語
リリース年:2018
評価★★★★★★★★☆☆



~”ファッショニスタでなくても、ジバンシーやグッチのデザインを手掛けた伝説のデザイナー、アレキサンダー・マックイーンの病的で美しい世界を楽しめるドキュメンタリー”~
~”マックイーンを知る人々の生の声が語る、彼のビジョンや舞台裏で広がるドラマが明かされる”~

 もくじ


 あらすじ


労働階級の子として生まれ育った一人の男
学校では服の絵ばかり描き、仕立屋に16歳で勤め始めた彼は後に世界を股にかけるデザイナーとなる
彼の名はリー・アレキサンダー・マックイーン
彼を知る知人や家族への密なインタビューや、当時の写真や映像で振り返る天才の一生
ビョーク、リアーナを始め、様々な著名人を顧客に持つマックイーンの素顔と苦悩とは
悪名高い”ハイランド・レイプ”などのショーも収録した鬼才のドキュメンタリー映画


 レビュー

暗闇に浮かび上がる乾いた質感の髑髏に群がる、華やかで毒々しい赤や黒や紫の蝶。オープニングから漂う強烈なイメージ。

労働階級の無学な少年から、ジバンシーやグッチのデザイナーにまで達したアレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリー映画、『マックイーン:モードの反逆児』は熱烈なファッショニスタから私の様な素人まで退屈させない作品でした。ファッション・ショーで果てしなく奇天烈な衣服を纏い、しかつめらしい表情でキャットウォークを颯爽と歩くモデルに苦笑を禁じ得ない私でも、『マックイーン:モードの反逆児』は堪能できる映画になっています。

ところでアレキサンダー・マックイーンって誰?

マックイーン

出典:”McQueen(2018) ©Misfits Entertainment”

1969年生まれのイギリスを代表するファッション・デザイナー。レディー・ガガやリアーナを始めとする顧客を受け持ち、衝撃的で型にはまらないデザインはファッション界でも瞬く間に注目される事になります。日本でも倖田來未や浜崎あゆみなどの著名なアーティストもマックイーンのデザインを着用していた程。16歳で高校を辞め、ロンドンのサヴィル・ロウでテーラーで修業を積み、その後イタリアのロメオ・ジリのアトリエに勤めるも、ロンドンへ戻ってセントラル・セント・マーチンズにてデザインの修士を取得。

雑誌『ヴォーグ』のエディター兼スタイリストとして知られるイザベラ・ブロウの目に留まり、まだ無名だったにも関わらず、マックイーンの修士卒業コレクションを5,000ポンドで買い取られます。その後はショーを重ね、ジバンシーやグッチのデザイナーとして抜擢されて、ファッション界にその名を轟かせました。

『マックイーン:モードの反逆児』はマックイーンの世界観を解説しているだけではなく、体現しているのも大きな魅力。

エキセントリックで病的、繊細で大胆、毳毳しくて優美。マックイーンのショーを初めて観て脳裏を過ったのはそんな言葉でした。卓越したアーティストへの手向けに、『マックイーン:モードの反逆児』を超える賛辞は思い浮かばない程です。


マックイーン:モードの反逆児映画
若き天才が手掛けた驚天動地なコンセプトとショーは度々物議を醸した


出典:”McQueen(2018) ©Misfits Entertainment”

縺れる足取りでキャットウォークのスポットライトを浴びる女性モデル。

悲痛な表情でライトを見返す彼女の黒いドレスは、左胸が切り裂かれて乳房が露わになっています。犯罪現場と間違えそうになる衝撃的なシーンですが、その後に続く女性も綺麗なドレスがあらぬ所を裂かれているなど、ショッキングな映像が次々と映し出されます。この異様なシーンはマックイーンのショー、”ハイランド・レイプ”(1995年)の映像。ファッション界に於いても、型破りなマックイーンのスタイルは話題となり、彼の名は瞬く間に広がっていきます。

マックイーンはショーの観客を“最高の気分か最悪の気分”のどちらかにさせる事を意識したと言います。ショーをフィーチャーしている事もあり、『マックイーン:モードの反逆児』は確かに両方味わう事が出来る作品でした。(特に先程の”ハイランド・レイプ”と題されたショーの一場面は猛烈な不快感を誘います)

最も印象的だったのは、1999年のスプリング・ショーで純白のドレスを纏った女性が回転する円卓の上に立ち、左右を車のアッセンブリに使用されるロボットにスプレーでペイントされて行くシーン。華奢なバレリーナの様に回り続けるモデルが穢されて行く様な感覚、しかし黒と黄のインクが滴り落ちる彼女はどこか誇らしげ。独創的なアイディアが生む奇妙で心を揺さぶるパフォーマンスには目が釘付けになりました。”最高”と”最悪”の共存を感じる、恍惚とする瞬間に見舞われ、目が離せない。

『マックイーン:モードの反逆児』はアレキサンダー・マックイーン自身のカリスマが伝わるだけでなく、スタイルの好き嫌いはあれど間違いなく引き込まれるドキュメンタリー映画です。

スカイ君
衝撃的だったな・・・映画自体がアートっぽいし、マックイーンのショーの裏側を覗いて感じ感慨深さと・・・上手く言えないが、勉強になるだけでなく、一貫した美しさに喚起される作品だ。ちなみにネタバレっていうネタバレは無いと思うが・・・もし、マックイーンがどんな生い立ちを経て、最後にどこへ行き着くのか映画を観て知りたい、ってんならこの先はある意味ネタバレありだ。でも文章だと本当に全然伝わらない良さがあるんで、ここから先は読み進めてもらって実際に劇場で観てもらうのが良いと思うぜ!ちなみに、一番デカいスクリーンで観る事をお勧めしたい映画だ。
マックイーンを知る人々の情が伝わるストーリーテリング

ドキュメンタリーの多くはストーリーに焦点をおく事は多いとは言えず、教科書の様に事実を映像交えて分かり易く解説される印象が強い。

興味のある題材でなければ、ドキュメンタリー映画は倦怠感が色濃くなっていきます。

しかし、『マックイーン:モードの反逆児』は時系列に章立てて構成されており、マックイーンの人生が一つの壮大なストーリーに仕上がっています。テーラーのアシスタントから世界を震撼させるアーティストになるまでのマックイーンの躍進を、彼の写真や映像に知人や家族のインタビューを交えながら解説して行きますが、垣間見えるマックイーンの人柄やキャラクターが温もりを持って伝わって来るのも万人にお勧めできる理由

予備知識も無く鑑賞するだけでは、白昼夢を彷徨いかねないファッション・ショーもマックイーンのビジョンを解説されると面白い。ルーブル美術館でモナ・リザを前に、ダ・ヴィンチ本人とは行かずともモナ・リザから描かれた時の様子など説明してもらう様なイメージ。

テーマやメッセージを表現する手段としてファッションを応用したショーは、“あんな馬鹿げた格好を、まさかファッションのプロが良いと思ってるんじゃなかろうな”と思いながら観るものでは無い事をひしひしと感じます。日常に溶け込んでいるシャツやパンツやジャケットが登場するあまり、”自分なら着たいと思うか”を起点に捉えがちですが『マックイーン:モードの反逆児』では、解説も手伝って芸術作品として観る事が出来ました。すると一気にファッション・ショーがエンターテインメントに昇華して行き、新たな世界が広がった感覚を体験。


マックイーン
真剣な表情でモデルの衣装を直すマックイーン


出典:”McQueen(2018) ©Misfits Entertainment”

唖然とするショーだけでなく、マックイーンなる人物にもしっかりクローズアップしている点もお勧めしたいポイント。

生前のマックイーンが愛犬と戯れる様子から、仕事場で見せる熱心な眼差しまでを写した映像も観られます。病的で毒々しい演出やドレスを創った男の原点から、若くして億万長者になり、名声が齎す重責に耐えきれずに自ら世を去るまでをしんみりと語ってくれるので、一見グロテスクな作品にも理解が及ぶ

“If you want to know me, look at my work”

“私の事を知りたければ、私の作品を見てくれ”

『マックイーン:モードの反逆児』のラストでマックイーンはそう語りかけます。その言葉通り、彼が世に送り出した様々な作品を通じてマックイーンと対談した気分になれるのも魅力。5本の”テープ”で構成された各章の合間に映る、色や形を変える金属で出来た髑髏に群がる蝶も、ただのスタイリッシュなモチーフではなく、マックイーンに取り憑いた内なる悪魔を美しく表現しており、葛藤する鬼才の心中を観て感じる事が出来ました。

スカイ君
髑髏だとかダークで派手な蝶とかゴシック調なのもあって、マックイーンってマリリン・マンソンみたいな感じの人かと思ったら至って普通の人だったのも驚いたな
モカ君
そうだよね、何か怖そーで、闇を抱えてそうなテーマとかデザインで先入観持っちゃったけど、本当に気の良い人って感じだった!
スカイ君
成功した事を笠に着ない感じもオレは好きだったぜ。ファッションへの情熱に燃えているのを感じるというか、金の亡者でもないし、名声が欲しくてって感じでもないし、天狗にならないタイプ
モカ君
でもお金持ちになって麻薬に溺れちゃったんだよね・・・ドキュメンタリーに含まれていないだけで、実際どうだったのかまではよく分からないかもね
スカイ君
まぁそーだな、そう考えると確かにマックイーンの事を1から10まで語ってはいないかもな
マックイーンのスタイルを体現しているとは言え、一人の人間としてのハイライトはミニマル

『マックイーン:モードの反逆児』のマイナス点に言及するならば、人物起点の描写が少ない事

姉のジャネットと彼女の夫との関係がマックイーンに齎した影響は語られますが、フォーカスは人物や人格の形成ではなくて作品への余波。マックイーンが陽気で快活な人物だった事はインタビューで示唆されますが、実際に映像を通じて感じる瞬間はミニマル。同様に整形やコカイン中毒に陥り、堕落のスパイラルへ巻き込まれたマックイーンと澆薄なファッション界の実情も伝え切れていませんでした。

当時の若きマックイーンの才能を見抜いた、イザベラ・ブロウとの決別と彼女の自殺について軽く触れてはいるものの、過酷なファッション界が来す人情の破綻やドラマは深く語られずにマックイーン自身に訪れる悲劇へと駆け抜けてしまいます


マックイーン映画
姉のジャネットを始め、マックイーンを良く知る人々が語る彼の素顔は、作品を理解する為にも大事な情報


出典:”McQueen(2018) ©Misfits Entertainment”

トム・フォードも注目した天才アレキサンダー・マックイーンを窮追したのは富みと名声なのか。渦中に居たマックイーンでなければ語れない想いもあったと思いますが、当時のデザインやショーへどの様な変化が見られたかなど考察を交えて深堀りすると、より良いドキュメンタリーになったのではないかと感じました。

マックイーンを利用した者、手を差し伸べられたのにそうしなかった者、その先に潜む闇はハイライトされず、如何に魅惑的なマインドとセンスを持ち合わせたかに焦点が置かれる。

そのカリスマが『マックイーン:モードの反逆児』の原動力で、その才器に興奮しつつも、その裏側は薄明るいだけで茫としてしまい、判然としないのは残念です。

しかし、総じて映像美や溢れんばかりの意外性とマックイーンのユニークでダークな世界観はそれだけで一見の価値があります。マイケル・ナイマンの身が入らないピアノ音を差し引けば、大スクリーンで鑑賞しなければ勿体ない映画でした。


 この映画を観られるサイト

『マックイーン:モードの反逆児』は2019年4月5日から劇場で上映しておりますので、興味がある方は是非映画館へ!

動画配信サービスでの取扱はかなり先になりそうですが、配信開始が確認出来次第こちらも更新致します。

 まとめ

全くファッション・ショーの良さが分からなかった私も楽しめた作品。『マックイーン:モードの反逆児』は寧ろファッションの事を何も知らない方が観た方がインパクトが強く、面白いのかも知れません。

リー・アレキサンダー・マックイーンが羽ばたき、頭角を現し始めてから成功に至るまでの軌跡を目に焼き付く映像や写真を交えてありありと伝えてくれます。

もう一歩人柄や人物像をハイライトしても良かったものの、マックイーンのショーから生まれる”最高”と”最悪”の異様なマリアージュを迫力の映像美で堪能出来る、素晴らしいドキュメンタリー映画です。摩訶不思議とも言える芸術作品に触れてみたい方には、是非お勧めしたい作品でした。

マックイーン:モードの反逆児
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