『鑑定士と顔のない依頼人』はラストにしか考察の余地がない!ストーリーは面白味に欠けて評価出来ないし、台詞が全て解説そのものだけどルネサンスな映像美は印象的

鑑定士と顔のない依頼人


監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・フークス、ドナルド・サザーランド 他
言語:英語
リリース年:2013
評価★★★★☆☆☆☆☆☆

The Best Offer(2013) ©Warner Bros. Pictures『参照:https://www.imdb.com


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~”女性経験が無い奇妙な老人と容姿端麗で孤独な乙女の恋愛は成就するのか?美しいセットデザインの中で繰り広げられる真と偽の物語”~
~”解説付きの文学小説を読み進める様な煩わしさと倦怠感を誘う作品で、ストーリーには意外性も目新しさも感じないがキャストのパフォーマンスには惹き付けられる、何とも全体の良し悪しが散らかっている映画”~

もくじ


あらすじ

ヴァージル・オールドマンは著名な美術鑑定士
しかし女性を前にすると気分が悪くなる程女性が苦手
その為、隠し部屋で大量の女性の肖像画を鑑賞する奇妙な人物だった
ある日、謎の女性から電話で競売の依頼を受けるオールドマン
親族が遺した屋敷と美術品を売り払いたいと言う
しかし依頼人は事あるごとに姿を現さず、広い邸宅の一室に籠り切り
姿無き依頼人など前代未聞の依頼だった
だがオールドマンは依頼人の姿が気になり依頼を引き受ける
そしてある日、オールドマンは依頼人の姿を盗み見る事に
その正体は意外にも美しく、若い女性だった
次第に依頼人に夢中になっていくオールドマンだったが・・・


レビュー

女郎の千枚起請とは良く言ったもので、男性など年老いてしまえば財布の扉を開く暗証番号に勝る魅力は残らない。『鑑定士と顔のない依頼人』のプロットは、そうしたドライな芝の上に独り取り残された様なシニシズムを喚起させる御伽噺です。

ジェフリー・ラッシュ演じるヴァージル・オールドマンは並々ならぬ手腕を誇る美術鑑定士。如何なる贋造の痕跡を見逃さない慧眼を誇る、絵画のスペシャリストとして名声を馳せます。そのオールドマンの豪奢な邸宅の奥には、長い歳月を重ねて収集した若い女性の絵画が隠された部屋が。その部屋への暗証番号が、月並みな老男が守る暗証番号の数十倍以上の価値を持つとなると男性を弄ぶ事に長けたハイエナには垂涎の的。

しかし、オールドマンの変質ぶりも相当なもので一筋縄には行かない。

極度な女性嫌いで、女性と接すると生理的に気分が悪くなり、その上食事の時でさえ革の手袋を着用する奇癖の持ち主。贅沢な邸宅には1人で住み、収集した女性の絵画も、オークションで敢えて贋作と批評して安価で仕入れられる様にビリー・ホイッスラーと共謀して得ていた曲者。友人と呼べるのはホイッスラーの他には機械職人のロバート。手慣れたハイエナとしても寄り付き難い人物です。

『鑑定士と顔のない依頼人』のストーリーはオールドマンに負けず劣らずの奇人との出会いに端緒を開きます。


『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
やり手の美術鑑定士だが、考えてみれば作中でオールドマンに異を唱える人物も無く、彼が絶対権力を握っている事も不思議


出典:”The Best Offer(2013) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

亡くなった両親が遺した邸宅と美術品の鑑定を依頼する、クレア・イベットソンと名乗る女性から電話を受けるオールドマン。気乗り薄なオールドマンでしたが、イベットソンの声に言い知れない魅惑を感じて不承不承依頼を受け入れます。その後は約束した顔合わせに度々姿を現す事無く、初めは激怒するオールドマンですが好奇心に抗えず姿無き依頼人の素顔を知るべくしてイベットソンの邸宅へ。

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邸宅でも頑なに自室から出る事を拒むイベットソン。身辺の世話をしている管理人ですら、雇い主のイベットソンの姿は見ていないと聞いてオールドマンの興味は執念とも言える情へと強まり、遂には邸宅を立ち去った様に装って物陰からミステリアスな依頼人を待ち構えます。自室から現れたイベットソンは、不健全な生活を送っているとは思えない程に美しく、若い女性でオールドマンは汗ばむ額を拭い、息を殺して見続けます。

表面的にはオーディエンスもアルカイックで妖しげなイベットソンの正体に惹き込まれ、オールドマンに資産の鑑定を依頼した思惑も気になるところ。

しかし、『鑑定士と顔のない依頼人』は著者の解説が随所に挿入された文学小説を読み進める様な、小賢しさに辟易する脚本がマイナス。ストーリーのリアリズムに主軸を置いた作品で無い事は明らかですが、ストーリーの裏に鏤められたシンボリズムを過剰に主張していて全体的にバランスが悪い。煩わしい解説が無く、考察の余地が残るのはラストのワンシーンのみです。


『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
妖しげで凛とした美貌を隠し切れないクレア・イベットソンの思惑とは


出典:”The Best Offer(2013) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

キャストのパフォーマンス、殊に難題を突き付けられているラッシュの実力は確かな観どころであるだけに脚本の仕上がりは悔やまれます。

ストーリーラインとテーマの絡み合いも必要以上に難解で、トルナトーレ監督が作中に解説を散らした主要因とも言え、本末転倒と言わざるを得ません。

オールドマンがイベットソンに燃える様な恋をしてしまうのも違和感の極致です。年の差恋愛に対する私見は控えますが、明らかに60歳前後の歳を重ねるまで親密な女性を持つ事が叶わなかったオールドマンが美しく、若い女性に惹かれる理由が理解出来ない。イベットソンは広場恐怖症でオールドマンに匹敵する偏屈者ですが、強烈な女性嫌いが盲目的な恋に陥ってしまうなど首を傾げざるを得ず。

『鑑定士と顔のない依頼人』は雑な筆遣いで描かれた構図にアンバランスなディテールを加えられた歪な作品です。興味深い側面と倦怠感を誘う側面が綯い交ぜになっていますが、深く考えずに観てもエンターテイニングとは言えない単調で不自然なストーリーが腑に落ちず、強くお勧めする事は出来ない作品です。

『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
スカイ君
ラストは予想出来なかった!なんて人がいても不思議では無いけど、いやぁ、正直・・・あのエンディングしか逆に有り得ないっしょと思うがな。アーティスティックな仕上がりは良いんだけど、考えてみれば間抜けなプロットだし、ぶきっちょな感じでキャラのセリフを介した解説も白けたかな
『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
モカ君
雰囲気はちょっと暗めだったかな?ボクもあんまりコメントは出てこないかなぁ、演技は凄く説得力あって有り得ないストーリーに少しだけリアルな印象を与えられていたかも!
『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
スカイ君
そうだな、ただ全体としては期待して観るとちょっと挫かれると思うぜ。ここからはネタバレありで感想と評価を書いてってるから、まだ観ていない人は注意だ!
本物と偽物の境界線を探りつつ、人間不信を引き起こすプロットは奥深いと同時に浅い

『鑑定士と顔のない依頼人』では様々な事が並行して進むので、流れを掴んで点と点を繋ぐのが難しい事は確か。

しかし、誰かが口を開く度にシンボリズムや映画のテーマを解説されるのも、度が過ぎていて興覚めです。陳腐な事に、オールドマンに仕掛けられた姦計が1歩ずつ進むと同時にオートマトンのピースが1つずつ繋がり、完成に近付きます。御伽の森に鏤められたパン屑の様に、オールドマンを罠へと誘う。

“Everything can be faked, Virgil. Joy, pain, hate… illness, recovery. Even love”

喜び、哀しみ、憎しみ、病、そして愛ですら偽れると宣言されては狭まる網の正体は全く想像に難く無い。そこに絡む真と偽のテーマも、物質主義的なオールドマンの視点で語られてしまうので、一元的なビューしか得られません。

全ての贋作には、作者の微かな痕跡が必ず残る。目を凝らせば原作とは異なる、白壁の微瑕が存在する。それが真と偽の違いであり、贋作が贋作たる所以です。しかし、その微瑕こそが作品に唯一無二の芸術としての価値を与える。芸術と贋作、真と偽に何故違いがあるのか。『トスカーナの贋作』(2010年)を観た事が無いオーディエンスには興味深い問い掛けかも知れませんが、『鑑定士と顔のない依頼人』では印象深いメッセージには達さず。


『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
千差万別で1つたりとも同じ作品は無いのに、真の芸術と偽の芸術の境界線は?時代背景や経緯も大事なはずだが

出典:”The Best Offer(2013) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

皮相的で使い古された演出として使われるのはオートマトンのピースに扮したパン屑だけではありません。例えばジム・スタージェスのロバート。敏腕美術鑑定士と機械職人が懇ろにする理由も無ければ、接点を持ちそうな瞬間さえ思い浮かばない。物質主義的で、利己的なオールドマンがロバートと親しくしているのは、この不自然なペアの会話を通じてオールドマンの心境をオーディエンスに伝える為に他なりません。

序でにオートマトンを完成させる便利なツールとして仕立て上げられたキャラクターです。

その点、型に嵌められていて実に窮屈で退屈な映画ですが、全てを失ったオールドマンがイベットソンを待つラストシーンは幸いにも唯一差し出がましい解説も無く、絶望の淵に残された一縷の希望とも更なる絶望とも思えるアンビバレンスを残してくれます。

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イベットソンが気に入っていたと話していたプラハのレストランを訪れ、大小様々な時計と歯車に囲まれて誰かを待つ様にテーブルへ1人腰掛けるオールドマン。『鑑定士と顔のない依頼人』では少なく無い美しいショットの1つですが、このシーンのはそれまで脚本が再三繰り返した贋作に残る微瑕にオールドマンが賭けている事が窺えます。イベットソン、ロバート、ホイッスラーが創り上げた壮大で精巧な虚構に見えた綻び。イベットソンがオールドマンに漏らしたレストランの名。

イベットソンが戻って来てオールドマンと再び邂逅する事を示唆しているシーンです。


『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
独特の雰囲気を漂わせるレストランで1人、静かに待つオールドマンが恰も時計の機構を全て操っているかの様なショット


出典:”The Best Offer(2013) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

ロマンティックな見方をすれば、結果的にイベットソンがナイーヴなオールドマンを籠絡したとは言え、欺瞞に満ちた演技の中に僅かな真実が隠されていて兎と狼では無く、男と女として再び会おうとしているとも捉えられます。しかし、脚本が再三繰り返す真と偽のテーマは精巧な贋作にも必ずオリジナリティ、即ち真の芸術に値する痕跡が残されていると主張するもの。

その上、レストランを所狭しと埋め尽くす時計は、恰も正確でシステマティックなオールドマンの世界を象徴している様です。煎じ詰めると、ラストシーンは欺かれたオールドマンが己のルールでイベットソンに報復する機会を狙っていると考えるのが自然ですが、こうした考察の余地が作品全体で見られていれば実に良い作品となり得たはずです。

観どころはジェフリー・ラッシュのパフォーマンスと眼が潤む美しいショットの数々

ラッシュに手渡されたヴァージル・オールドマンなる人物は、ベテランの俳優とは言えども難問。奇人である事に加え、初老を殆ど超えた齢にも関わらず女性経験が一切無く、剰え美術品を贋作と偽って買い叩く狡猾な男でありながら、詐欺に見舞われた不遇な主人公としてある程度の好感が持てるキャラクターを演じる事が求められます。

その厄介な役柄をラッシュは鮮やかに熟してしまうので、その手腕には脱帽。キャラクターの独特な個性に潰される事無く、一元的な変人に留まらない緻密な人物像を再現しています。

一方でイベットソンは薄味。ランタイムの殆どを壁越しのミスティカルな声として過ごしますが、姿を現した後は化粧とドレスを与えられて錦上添花となる瞬間以外は特筆すべき事が無い。シルヴィア・フークスは息を呑む様な美貌を兼ね備えているものの、キャラクターのディテールと演技よりもルックスに対するコメントを際立たせざるを得ないのは残念です。オールドマンを惚れた病に薬無しな状態へ陥らせる魅力に乏しく、悪寒が走る生々しいセックスシーンの説得力が無い主たる原因でもあります。

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ジム・スタージェスのロバートに関しては言わずもがな。


『鑑定士と顔のない依頼人』の評価とネタバレあり感想
イベットソン邸には様々な美術品が並べ立てられ、セットデザインの素晴らしさが光るレイアウトに


出典:”The Best Offer(2013) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

しかしシネマトグラフィは、イタリア生まれのファビオ・ザマリオンの卓越した表現力がルネサンス美術を想起させる柔和で色彩豊かなシーンで紡がれ、印象的です。ディテールに富んでいる為、鑑賞後に都度鮮明に思い浮かべる事は出来ませんが、『鑑定士と顔のない依頼人』と言えばストーリーよりも実は映像美が脳裏に焼き付いています。

特にイベットソン邸のメゾンは、ファンタジー映画のワンシーンと言っても過言では無い妖艶な美しさに見惚れてしまう程です。個人的にはオールドマンのモダンな邸宅に住みたいと願って止みませんが。

撮影のロケーションとなったイタリアの様々な都市や、プラハの褪せた煉瓦と石畳が香って来そうな場面の数々も映画の本質的なメッセージとは関係が無いものの、一見の価値はあります。

プロットは不器用に扱われ、ストーリーも驚きを与える様なインパクトに欠けている点は総じてマイナス。ロマンティストなら(少々気味が悪い)オールドマンと閉月羞花のイベットソンが奇跡的に純愛の虜になった事に期待するかも知れませんが、差し詰め全てが欺瞞である事は予想に難く無い。オールドマンの世界は機械的で、価値は全て金銭で売買出来るもの。その物質主義的な価値観を一貫したビューで表現出来ていれば、オールドマンにとってイベットソンとの恋、その気持ちが如何に純粋で嘘偽り無きものだったかがオーディエンスにも伝わったと思います。

要のストーリー、視点の描き方とメッセージの扱い方に工夫を凝らせばユニークで無くとも、味わい深い作品に仕上げられただけに残念な映画でした。


この映画を観られるサイト

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まとめ

ぎこちない筆遣いで描かれるストーリーと作品のテーマ。斬新な要素が少ないだけに難易度は高いであろうものの、難役を熟している主演キャストとのシナジーを見据えて熟慮した脚本と構成に仕上げて欲しかった気持ちは抑えられません。

信憑性が無いストーリーでも、価値の意義を問うメッセージを取り込む以上はオーディエンスを多少は唸らせる様な示唆も織り込めていれば良かった。その分アーティスティックでヨーロピアンな雰囲気と、美術品をふんだんに使ったセットやシネマトグラフィが大きな観どころと言えます。

考察を巡らすスペースが少ない作品でリアリティも薄く、高い評価には窮する映画でした。

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