パーフェクト・ルーム
監督:エリク・ヴァン・ローイ
出演:カール・アーバン、ジェームズ・マースデン、ウェントワース・ミラー、エリック・ストーンストリート、マティアス・スーナールツ、ローナ・ミトラ、レイチェル・テイラー、イザベル・ルーカス 他
言語:英語
リリース年:2014
評価:★★☆☆☆☆☆☆☆☆
The Loft(2014) ©Open Road Films『参照:https://www.imdb.com』
~”お、どうなる?どうなる?・・・え、終わり?くだらな!そんな体験をしたくないなら避けた方が賢明な『パーフェクト・ルーム』”~
~”2008年公開のベルギー映画をリメイクした『パーフェクト・ルーム』は登場人物多いのに誰一人として印象に残らず、ストーリーも非現実的でどこかアンチクライマクティックなノンスリリング・ミステリー”~
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もくじ
あらすじ
クリス、ルーク、マーティとフィリップは既婚だったが各々結婚生活に不満を抱いていた
そんな折、親友で建築家のビンセントからある提案をもらった4人
ビンセントが設計した高級ロフトを不倫の為に共有するというものだった
提案に乗り、夜な夜な情事に耽る5人だったがある朝・・・
手首を切られて死んでいる全裸の美女がロフトで見付かる
パニックに陥る5人だっだが、ロフトの鍵は5人しか所持していない
疑心暗鬼で犯人探しを始める5人
死体はビンセントがロフトに連れ込んだサラ・ディーキンスだと判明するが真相は・・・
レビュー
ドライでノワールな雰囲気は、『パーフェクト・ルーム』のシネマトグラフィを担当したニコラス・カラカトサニスのセンスが光ります。洗練された色合いで描かれるロフトは高級タワーマンションをも彷彿とさせますが、問題は『パーフェクト・ルーム』についてこれ以上語ると残るは苦情だけが募る事になってしまう事。
洗練されたモダンなインテリアが広がる高級ロフトの室内で、鮮血滴るベッドシーツに横たわる死体が齎す強烈なコントラストは、視覚的にもストーリーのオープニングとしても興味を惹き付けるには確かに充分でした。
数ある問題の一つは、掴んだ興味を握り続けるグリップ力もオープニングで与えた衝撃に見合うラストも描けていない点。2008年にベルギーでヒットを叩き出した作品のリメイクだとは到底考えられない完成度です。
言葉巧みな建築家ビンセント、スマートな精神科医クリス、引っ込み思案で意気地の無いルーク、品性を感じさせないアルコール依存者マーティと血気盛んなフィリップ。『パーフェクト・ルーム』は何とも蕭殺たる事に、揃いも揃って結婚生活に不満を抱く5人の男に端緒を開きます。実に薄倖な日々から抜け出すべく、各々の妻に晒される事無く恣に愛人を連れ込めるロフトの購入に踏み込む5人。現実的には即座に利点よりもリスクの方が脳裏を過りますが、『パーフェクト・ルーム』では各々改めて考える事無くロフトを共有し始めます。暫くは奔放なワンナイト・スタンドを愉しむ生活が続きますが、美女が無残な姿で発見されてからは全てが一変。誰が何故、彼女を殺害したのか、そもそも死体の女性は本当に誰かの愛人に過ぎなかったのか。畳み掛け合うミステリーが5人の首を締め始めます。
序幕に謎が投じられてからは物語は全て回想シーンで語られ、少しずつ5人の秘密や思惑が明かされます。
出典:”The Loft(2014) ©Open Road Films”『参照:https://www.imdb.com』
退屈で味気ない回想シーンのストーリーに踏み込む前に、キャストのパフォーマンスと、その一端を支配する脚本の品質にも言及したい。
初見では途端に投げ込まれたショッキングなシーンに惹き込まれて細かい事は気にせず、5人の会話から状況を把握するヒントを探す事に注力しますが、改めて鑑賞すると杜漏とも言える描写が浮き上がります。サラの死体を発見したルークの反応がその一例。買い物から戻ったルークはエントランスからベッドを一瞥するなり、衝撃の余りボトルが入った袋を落としてしまいます。直後、ルークが見たであろうアングルと距離からベッドが映りますが、
ドラマティックな効果に踊らされて、ディテールへの配慮が失われた映画である事が俄に明白になります。『パーフェクト・ルーム』からにじみ出るスタンスは『レプリカズ』(2018)に通ずるものがありました。
クレバーなシノプシスを思い付いた気になって取り澄ましていますが、中身が見合っていない。
出典:”The Loft(2014) ©Open Road Films”『参照:https://www.imdb.com』
ミステリーに期待したい新鮮な驚嘆やスリルも無く、緊張感も弛んだ弦の様にだらしないままでラストを迎えます。その締まり切らないムードに侵されてか、キャストも終始水泳の後に数学の授業を受けている様な、脱力感を隠そうともしないパフォーマンスを披露。唯一、対極的な意味で評価出来ないのがマーティに扮するエリック・ストーンストリートで、オーバーな程気持ちが入っている様子が良く分かる。
主演を務める5人を除けば『パーフェクト・ルーム』に残るのは妻や愛人を演じる女性陣。しかし、イザベル・ルーカスを始めいずれも尻軽か小姑の様に口喧しいキャラクターに過ぎずアイデンティティの欠片も感じません。
『パーフェクト・ルーム』は不倫を犯す男性心理や愛人となる女性の心境をテーマとして探究する事も無く、スリラーとしても面白みはなく、非現実的で失笑を誘うラストは、空気が抜けたラブドールよりも薄っぺらい。2008年にヒットとしたオリジナルを忠実に再現したのかは定かではありませんが、仮に忠実だとしたらベルギー人は想像を絶する程寛な人々なのだろうと思います。
好い加減な脚本に毒された耳を疑う台詞が飛び交う事も珍しくない『パーフェクト・ルーム』。
“ミミがこっちに歩いてくるぞ、君の妻だ”
豊富な回想シーンを活用するのではなく、鼻で笑いたくなる無理な会話を通じて、観る者に補足情報を頬張らせる演出は残念なポイント。そんな台詞を真顔で語らざるを得ない5人の気持ちは分からなくも無いのですが、各々のキャラクターに特徴が九分通り無くて退屈極まりないです。暫くすると、死体を前に右往左往する様子を白い眼で観始めては、溜息を漏らしてしまう。
寧ろ、警察の尋問や回想で次第に5人の思惑や虚妄が明るみにると、退屈な輩だった冒頭30分が懐かしくなる程、嫌悪感しか感じなくなります。誠意の切れ端も感じさせない淫乱な猿の様で、同情や共感など程遠い。その上、少なくとも一人は殺人犯の可能性があるとすれば心理的抵抗はピークに。然りとて妻子に背いた連中に天誅が下るかと言えばそんな事も無く、エンドクレジットが流れる中、煮え切らないストーリーへの苛立ちと併せて5人への不快感と静かに闘わねばなりませんでした。
ちなみに『パーフェクト・ルーム』のネタバレありストーリー
死体で発見された美女は、ビンセントと関係のあったサラ・ディーキンス。
彼女はビンセントに熱を入れていたが、妻を捨てる事が出来ないビンセントは肉体関係以上を彼女から望む事は無かった。他方、ルークはサラに惹かれるが、ビンセントに好意を寄せるサラからは突き放されてしまう。ビンセントと結ばれない事を悟ったサラは自殺を図り、意識を失った所を遺書と共にルークに発見される。
サラが死んだと勘違いしたルークはビンセントを除く3人を呼びつけ、彼らにあるDVDを見せる事にした。それはロフトの様子を盗撮したビデオの映像で、ビンセントがマーティの妻やフィリップの妹を含む複数の女性とセックスをしている姿が映っており、憤慨した3人はビンセントをサラの殺人犯に仕立て上げる事を決める。フィリップはサラの手首を割いて血で現場を偽装し、残りはアリバイ工作に勤しんだ。
そして恰もサラの遺体を初めて見付けたかの様に振る舞ってビンセントを呼び付け、薬を飲ませて服を剥ぎ取り、サラの隣に寝かせた後で警察に発見させた。ビンセントは偽装だと言い張るがフィリップがナイフにビンセントの指紋を付けるなど周到に用意した為、警察は信用しない。ビンセントは殺人犯として逮捕されてしまう。
一方で事情聴取を終えたクリスは警察から、サラは睡眠薬で死んだのでは無く、手首の傷から失血死したと聞かされて疑問を抱く。ビンセントはあくまでもサラの自殺を引き起こした参考人となる程度と思いきや、殺人犯として送検される事態に驚くクリス。ロフトに戻ってルークを問い詰めた結果、始めからビンセントを殺人犯に仕立て上げる事を目論んでいた事を告白。全て警察に話したとクリスが言うと、ルークは観念し、ロフトから飛び降り自殺。これによって事件は幕を閉じた。
出典:”The Loft(2014) ©Open Road Film”『参照:https://www.imdb.com』
ストーリーの構成も雑然としていて、不必要にミスリーディングな回想の重ね合いと時系列の乱れは『ドニー・ダーコ』(2001年)の様に意図された結果では無く、単なるケアレスな失敗の様にしか見えません。
エリック・ストーンストリートのオーバーな演技は既に言及した通りですが、才気溢れる女優たちも、翼を羽撃かせられない檻に閉じ込められた様に息苦しそう。クリス(ジェームズ・マースデン)の妻を演じるローナ・ミトラはヴァン・ローイ監督にスフィンクス役を指示された様な面持ちでマースデンの隣に立つだけ。『パーフェクト・ルーム』にキャスティングされて残る思い出と言えば、恐らく撮影地のブリュッセルを満喫した程度。
契約金を支払ってもらってブリュッセルへ旅行が出来るとは、羨ましい限りですが。
生熟な脚本と言えば、ミステリーの要となるロジックも蔑ろにしている感覚も強い。アンチクライマクティックなラストも、抜かりの多さに起因していると感じています。例えば、クリスが自殺した元患者の姉、アン・モリスと不倫関係にあった事が一切言及されておらず、スリルを際立たせるスパイスを忘れてしまっている面はマイナス。寧ろ、活用余地が無いのであれば、アンを登場させる事もクリスとの関係を描く事も大筋のストーリーとしては蛇足。
結末が予想の斜め上を行く点は確かに抑えていますが、それと満足の行く謎の解を導く事とは似て非なるものです。前者に執着する余り、『パーフェクト・ルーム』は後者を広いロフトの何処かに失くしてしまったらしい。
『アイズ ワイド シャット』(1999年)や『危険な情事』(1987年)に限らず、エロティカル・スリラーは時を超えて様々な形で作品化され、人間の情に纏わる生々しさと映画ならではのスリルを併せ持つトリッキーなジャンル。屡々、スリルかエロティズムのどちらかが他方を上回り、アンバランス加減が議論になりますが『パーフェクト・ルーム』は、パーフェクトにどちらの要素も取り逃しています。
エロティックでもスリリングでもない。
不必要にセックスシーンを織り込む必要はありませんが、『パーフェクト・ルーム』は恰も、誤って子供と観てしまったモンスター・ペアレントの抗議でも恐れている様子。毎度丁寧にもシーツや毛布に包まってセックスに及ぶのも、実に不自然でステージングされた感覚が強い。『ゲーム・オブ・スローンズ』を見習えとは言いませんが、性的な表現を抑えるなら単にスリルのビルドアップに集中すれば良いものの、それもしない。
情熱的でも無ければ、嫌悪感を誘うのでも無く、滑稽でも無い。ルークが仕掛けた盗撮カメラも、ピンポイントでビンセントがセックスに及ぶポジションに向けられており、必ずベッドの上で、しかも特定の位置で行う事を分かっていたかの様な角度で撮影されています。ルークに未来予知能力があったなら、ラストで飛び降り自殺せずに済んだはず。
出典:”The Loft(2014) ©Open Road Film”『参照:https://www.imdb.com』
『ロー&オーダー』を観た事が無いのか、殺人の嫌疑を課せられているのに誰一人として弁護士を要求しない様子も不自然で気が散るポイント。
捻りのあるストーリーには違いありませんが、時折積み上がりかけたスリルも、度重なる稚拙な台詞がやはり容赦なく擦り減らします。『パーフェクト・ルーム』は『アパートの鍵貸します』(1960年)と『レザボア・ドッグス』(1992年)をブレンドしてウィットと刺激的なキャラクターを抜いて捨てた様な作品。その点、2008年のオリジナルも果たして『パーフェクト・ルーム』と類をなす凡作だったのかが気になります。
リメイクにあたって何か大きなエッセンスが失われたか、意図的に変えられたかとしか思えませんが、いずれにしてもミステリー特有の緊張感やエニグマが奇想天外な方法で解きほぐされて行く快感を味わう事は期待出来ない映画。薄味で中途半端、雰囲気スリラーに過ぎない『パーフェクト・ルーム』をどうしても観てみたいのであれば、2008年のオリジナルを鑑賞した方が愉しめる可能性が高いのではないかと思います。
『パーフェクト・ルーム』を越える落胆は中々簡単に与えられるものではないはずだから。
この映画を観られるサイト
『パーフェクト・ルーム』はこちらの動画配信サイトで配信中ですが、ストーリーは諦めてせめてムーディな映像を愉しめる様に高画質なテレビで観る事をお勧めします。
さて、Film Talesとしては相変わらず洋画がとにかく充実しているU-NEXT一択です。今回はAmazonを除けばU-NEXTでしかそもそも配信していない様なので、どのみち一択ですが・・・
U-NEXTの場合月額、2,000円で洋画6,500本が見放題!2日に一本缶コーヒー買うのと同じ程度の出費、しかも毎月1,200ポイント付与されるから課金しないと観られない最新映画も実質、月2本まで無料で観られるのは有り難いし案外それで満足出来るもの。
まとめ
退屈、アンチクライマクティック、薄味。
雰囲気に騙されて付き合ってみたら実は超退屈で2回目のデートで飽きた経験があるなら、『パーフェクト・ルーム』は実際に観なくても言いたい事は分かるはず。取り敢えず辞めておいた方が良い。2シーン程観れば、電源オフボタンを押してもらって良いです。
何の為に、誰の為に創られたのか分からない映画の一例です。