ワイルド・スピード/スーパーコンボ
監督:デヴィッド・リーチ
出演:ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、イドリス・エルバ、ヴァネッサ・カービー、ヘレン・ミレン 他
言語:英語
リリース年:2019
評価:★★★★★☆☆☆☆☆
Hobbs & Shaw(2019) ©Universal Pictures『参照:https://imdb.com』
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~”まさにスーパーコンボ!ステイサムとジョンソンのマッスル・アクション?イジり合い?ド派手なカーチェイス?アクションが似合う美女?オールクリアで取り揃えた真夏のエンタメ”~
~”迫力のアクションがぶっ込まれるけど、ラストはちょっとトゥーマッチ!ハチャメチャ過ぎて次第にストーリーはどうでも良くなってしまう”~
もくじ
あらすじ
イギリス、ロンドン市街に銃声が鳴り響く
テロ組織から殺人ウイルス《スノーフレーク》の奪還を試みたMI6
そこへブリクストン率いる科学テロ組織エティオンが襲来
MI6の部隊を一掃するも、部隊の1人ハッティ・ショウは、
ウィルスを体内へ注入して現場から逃走
ブリクストンはハッティを炙り出そうと情報操作を試みる
そしてテロリストとして指名手配されてしまったハッティ
エティオンより先にハッティを見つけ出すべく、
世界の運命は2人の男に託されるのだった・・・
レビュー
燃える様なアクションと視界が霞むスピードで展開される激動のカーチェイス。
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』に期待したい最大の観どころは、歯が浮く様な家族の繋がりや、辛気臭い仲間の絆に纏わる説教やスピーチの前に、派手に爆ぜて倒壊するビルや、炎上しながらスカイダイビングするマクラーレン。『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年)以来、シリーズを追う毎にランボルギーニやポルシェが疾駆する世界では物理法則が次第に成立しなくなりますが、突拍子も無いテストステロン溢れるアクションが観られるのであれば憂慮する必要は無い。
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』はアイザック・ニュートンに堂々と中指を立てながら、スーパーカーやバイクを型破りなムーブで期待通り大量殺戮に至らしめる。そしてオーディエンスの期待を見越した様に、リーチ監督はオープニングをMI6とイドリス・エルバ扮するブリクストン・ロアに飾らせます。
『ジョン・ウィック』(2014年)でキアヌ・リーヴスが内に秘めた亡霊の様なアサシンを銀幕に彫り込み、『アトミック・ブロンド』(2017年)ではシャーリーズ・セロンに眠る殺戮マシンを覚醒させたリーチ監督だけあって、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のアクションはその手腕を誇る様に殺気にも近いエネルギーを感じさせます。ハッティの靭やかなファイティング・スタイルと、身体が一部機械化されたブリクストンのマシニックなアクションの特徴を捉えたカメラワークが素晴らしい。エティオンとMI6の闘乱の後、ドウェイン・ジョンソン演じるルーク・ホブスとジェイソン・ステイサム演じるデッカード・ショウがスプリット・スクリーンで各々登場しますが、この演出も2人の違いを効果的に描くスマートでユーモラスな手法。
ショウは優雅なシステムキッチンでオムレツを調理する一方で、ホブスは生卵を牛乳の様に飲み込み、スリムな流線型が美しいマクラーレン720Sに乗り込むショウとは対照的に重厚感が際立つバイクを愛用するホブス。そして2人が別々の場所で乱闘するシーンも、横並びで同時に楽しめます。
出典:”Hobbs & Shaw(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://imdb.com』
ホブスはワイルドでショウはスピーディ。
シリーズのファンが愛して已まないアイコニックな2人のベストな瞬間を、惜しむ事無く幕開けと同時に堪能させてくれるので、オーディエンスのイグニッション・キーも回されます。ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサム。見慣れた2人の見慣れた華のあるアクションに、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』への期待が募ります。悪者をノックダウンする姿が浮かび、拳に力が入る。
そして、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』その期待に応えてくれます。
ホブスやショウが拳を交えるシーンは緻密で巧妙に設計され、あるシーンではショウがトースターのスリットを使ってナイフの襲撃を防御し、トースターを捻ってナイフを奪い取るなど、単なるパワー・プレイに頼らないスタイルも観どころです。俊敏で精密とも表現出来るショウの動きは、カメラが素早くステイサムに追従する事で、目まぐるしいムーブメントが齎すスピード感に拍車を掛ける様な効果を生み出していますが、一方でホブスのアクションはジョンソンの巨躯が醸し出す威圧的なパワーを強調する様に遠目から全体を捉える様に撮影されています。シリーズ初登場を果たしたヴァネッサ・カービー扮するハッティ・ショウも特徴的なファイティング・スタイルを持ち、婉麗で流れる様に滑らか且つ繊細な動きで対象を叩き伏せますが、リーチ監督は抜かり無くその様子をスローモーションでスクリーンに収めています。
昨今の風潮を踏まえて忌避される様になった、所謂”捕らわれの姫君”になりかね無かったカービーのハッティですが、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』ではホブスとショウが絶え間無く放ち続けるエネルギーの波にオーディエンスが辟易しない様に熱気を中和する重要な役割を担っており、流行りの強い女性像に倣った印象的なパフォーマンスも多い。
出典:”Hobbs & Shaw(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://imdb.com』
然りとて女性が男性に金的を食らわせる事はコメディックな瞬間として扱われるものの、男性が女性に手を挙げる事は御法度とされる昨今の風潮は甚だ疑問と言わざるを得ず、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』でもハッティは殆ど男性から素手を使った物理的な攻撃を受ける事が無い様に配慮されています。片やハッティがCIAの取調室で男性の分析官をパイプ椅子でグリル前のステーキ肉の如く殴打するシーンは滑稽である事を示唆。
コミカルである事に異論はありませんが、現下のメディアが過敏になっている以上はオーディエンスとしてもこれまで一切気に留まらなかった事を意識してしまい、嫌気が差してしまうのも事実です。
しかし全体的にはホブスとショウ、ハッティが連携してエティオンに迫るシナリオは充分に楽しめますし、エイザ・ゴンザレス演じるマルガリータ/マダムMをショウが頼るシーンも各キャラクターが協力して悪に立ち向かう感覚があって刺激的です。
壮快なアクション映画は音楽と同じ様に、絶妙なリズムを刻みます。汗ばむアクションが続くと疲弊するのはスタントマンだけでは無い。
余分な脂身を削いだステーキ肉の様に、赤身の風味に飽きた頃に霜降りのマイルドな旨味が躍り出る。銃声と拳が飛び交い、小休止を挟んで罵詈雑言の軽いジャブを堪能した後、爆炎が舞うカーチェイスでワイルドなスピード感を楽しんだ後に再びファイティング・シーンへ突入する小気味良いテンポが『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』の冒頭1時間に活気を与えています。言葉遊びの様な罵声のグレネードが投じられるシーンも、ジョンソンとステイサムのバディ・コメディが輝き、滑稽でクリエイティブな暴言に不思議な荘重感を含ませてくれるあたりは、このタッグ独特の魅力を痛感させてくれます。
ステイサムの声を聞くと”ガラスの上でタマを引き摺っている気分”だと眉間に皺を寄せて罵るだけで、表現の荒唐無稽な印象をトーンダウンして重々しい発言に着せ替えてしまうジョンソン。そしてジョンソンの巨体を揶揄するステイサム。シリーズ9作目となるスピンオフにして衰えを知らぬポピュラリティーにも納得。
そのジョンソンとステイサムにハンドルを握らせれば『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』はハイスピードで爽快にスクリーンを駆け抜けますが、退屈した頃にシフト・チェンジしてくれるのがイドリス・エルバとヴァネッサ・カービー。
出典:”Hobbs & Shaw(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://imdb.com』
殊にエルバはジョンソンとステイサムに匹敵する存在感を示し、”黒いスーパーマン”の名にし負う威圧感とカリスマを放ちます。
しかし、錚々たるキャストが暴れ回るバックで跡形も無く車やビルが吹き飛び、高校物理の教科書に火を点ける勢いで炎上するシーンが生き存えるのは蛇足なラストまで。『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のムードが一変し、竜頭蛇尾に終わってしまうホブスの故郷サモア島での決戦。『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のエンディングはエティオン本部へ侵入し、《スノーフレーク》を摘出する装置を盗み出す場面にすべきでした。ブリクストンを仆す事無く終えたクライマックスは続編への伏線かと思えば、ランタイムの残り30分への序章でした。
エキストラも交えた大乱戦はビジュアルのインパクトと揺れるカメラワークに頼り過ぎて、シャープなファイティング・スタイルへの関心が薄まってしまった印象を受けます。巧みにデザインされた擬斗は観られず、特にクライマックスで期待したかったパフォーマンスが得られなかった事が『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』で最も残念なポイントです。
出典:”Hobbs & Shaw(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://imdb.com』
アクションからスポットライトを奪ったのはホブス一家が登場するまで下火だった、家族に纏わるテーマ。余りにも急なトーンの転換に、映画から引き出されて再び入り込む事は叶わず、意識は腕時計へ。軋むタイヤと拳が顎へクリーンヒットするシーンを次々と満喫した後に全く期待していない、家族愛と絆のメロドラマを叩き込まれても狼藉せざるを得ませんし、ジョナとの抱擁は感涙に値するはずのシーンですが『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のパワフルなエネルギーと不釣り合いな脱力感が漂って、決まりが悪い。
無理に捩じ込まれた印象が強く、その点は水面下でアクションを並行してビルドアップする配慮が足りていない。カメオ出演しているヘレン・ミレンがショウとハッティの母親、マグダレーン・ショウとして登場しており、折角ならばショウ家を通じて家族愛や縁の奥深さを語れば良かったのですが、そのオポチュニティも棒に振ってしまう。
半端に感動を誘おうと試みる事に踏み切るならば、潔くラストまで最大速度で突き進んで欲しかったです。
然りとてオープニングの勢いでラストまで矢の如く猛進されても、虚しく感じてしまうのが正直なところ。
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』に感動や奥妙な意義を求める時点で見当違いと言われかねませんが、如何に破天荒なアクションを最前線に押し出した映画でも、感情に響く何かは必要です。バンパーを接触させるだけで容易に連結する車や、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)に憧れたのかホブスが飛行中の軍用ヘリコプターと驀進する車を1人で繋ぎ止めるなどアクションもストールした上、アンニュイなメッセージを投げ込まれてしまうと『ワイルド・スピード MEGA MAX』や『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)に比べて見劣りするスピンオフである事は否めない。
『ターミネーター』(1984年)を彷彿とさせる金属の背骨と拳を持つブリクストンに目を向けると、人間とマシンの調和や対立に纏わるテーマも見えますが、差し詰め輪郭は曖昧で『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のメインを飾るには至らない。デジタル化が進み、オンラインとオフラインの境界線が霞みつつある情報社会の中で、人類はマシンと一体になり、それこそが自然を超越した文明的で新たな進化の道筋と解釈すると多少は議論の輪が広がりそうですが、リーチ監督の意図を正しく汲み取れた考察になるのか、如何せん疑問です。
出典:”Hobbs & Shaw(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://imdb.com』
そしてホブスが家族と再び繋がるシーケンスのもう1つの問題は、口惜しい事にショウの影が薄まってしまっている点。サモアの伝統的な戦争舞踏マヌ・シヴァ・タウを以て決戦の火蓋が切って落とされ、半裸で闘う男たちの雄姿は新鮮でしたが、そこまでの追い立てられた様なストーリー進行の急流に飲まれて、ショウは憎悪とヴェンデッタに満ちた男からアンチヒーローへの変貌を中断してしまいます。ブリクストンを討った後はストーリーを振り返る猶予も無く、マグダレーンを兄妹で再訪して続編を予期させるシーンを挟むものの、エンドクレジットへ進んでしまうのでショウのストーリーは未完に終わった感触が拭い切れない。
上記に関しては残念ながら作品として大きなマイナスです。
しかし、鑑賞後こそ不完全燃焼したポイントを批判しがちですが、斯く言う私も改めて鑑賞してみたら然程気に留めないポイントかも知れません。観る前からアクションにフォーカスし、それ以外のポイントに期待を寄せ無ければ充分楽しめる作品である事は間違い無い。カリスマティックな主演キャストを揃えた『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』は夏のブロックバスターに誂え向きです。映画よりもマーケティングや関連商品の販売促進に繋がる広告塔の制作が主力ビジネスになりつつある現代の映画界に於いて、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』はマインドレスでホットな至高の広告塔として堪能するならば満点で評価しても差し支えない作品でした。
この映画を観られるサイト
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』は全国の劇場で上映中!
スピード感溢れるアクションは是非、劇場のワイドスクリーンでお楽しみ頂く事をお勧めします。
まとめ
シリーズへの期待を裏切らないアクションは健在。カリスマ溢れるキャストが結集し、相性が抜群なジョンソンとステイサムのコミカルな遣り取りには、意外にも抱腹絶倒しそうなシーンもあります。『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』の倦怠感を誘いかね無いシーンをも救ってしまうチャーミングなタッグ。
イドリス・エルバとヴァネッサ・カービーも初登場とは思えない程、2人のビッグスターと馴染み、存在感を光らせていました。
余計だった最終決戦のシーンを除けば、苛立ちが募る夏の熱気を爽快に吹き飛ばすブロックバスター。大きいスクリーンで観る事をお勧めしたくなる、リーチ監督の巧妙なアクションの数々が鏤められた作品です。