エルトン・ジョンの半生を描く映画『ロケットマン』をレビュー!最大の評価ポイントはタロン・エジャトンのパフォーマンス、でも演出とストーリーは・・・

ロケットマン


監督:デクスター・フレッチャー
出演:タロン・エガートン、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデン、チャーリー・ロウ、ジェマ・ジョーンズ 他
言語:英語
リリース年:2019
評価★★★★★★☆☆☆☆

Rocketman(2019) ©Paramount Pictures『参照:https://imdb.com


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~”観ている感覚としては映画と言うよりもブロードウェイのミュージカル!『ボヘミアン・ラプソディ』よりも『グレイテスト・ショーマン』に近いテイストのバイオグラフィ映画”~
~”表現や描写の起伏が激しく、ある意味エルトン・ジョンらしいが、個人的には気が散るだけ・・・大袈裟に言えばバラードが途端にヘビメタになったと思えばサビ辺りで尺八のソロが入る様な感覚で集中し切れない瞬間も少なくないし、ストーリーも苦悩の面に偏っていて飽きて来る”~

もくじ


あらすじ


音楽界の最高峰グラミー賞を5度受賞した伝説的なミュージシャン
全世界で売上3億枚以上を誇るエルトン・ハーキュリーズ・ジョン
幼い頃から才能の頭角を現し、弱冠25歳にして著名な億万長者になったが
その半生は決して甘いものでは無かった
冷徹な父親との関係、同性愛者としての苦悩、麻薬やセックスに依存する日々
天才ミュージシャンは如何にして世界へと羽撃いたのか
そして心に巣食う悪魔とどの様に闘ったのか
キャッチーなナンバーを交えて描くミュージカル超大作


レビュー

エルトン・ハーキュリーズ・ジョン。

1970年代に最も活躍した天才的なメロディ・メーカーとして世界に名を馳せ、奇抜で煌びやかな衣装(そしてアイコニックなサングラス)がトレードマークのイギリスを代表するミュージシャン。『キングスマン』(2014年)、『キングスマン: ゴールデン・サークル』(2017年)で知られるタロン・エジャトンを主演に迎え、『ロケットマン』はエルトン・ジョンの波瀾に満ちた人生の影を描きます。映画のストーリー構成に新鮮味は無く、バイオグラフィ映画に良く見られる流れで進みますが、オープニングのインパクトはグリッピングです。

華やかなオレンジが際立つタイトなスーツ、極彩色の羽が靡く翼に悪魔の角を模したキャップ。エルトン・ジョンは身に纏った絢爛な衣装とは対照的に、窶れを感じさせる面持ちでAA(アルコホーリクス・アノニマス)ミーティングの会場に姿を現します。『ロケットマン』はエルトン・ジョンが人生で最も苦しみ、麻薬とアルコールとセックスに溺れ、心身共に疲労困憊していた時期に端緒を開きます。虚ろで悲哀に満ちた眼光を下に向け、オーディエンスと共にエルトン・ジョンの人生が如何にして崩壊の一途を辿る事になったのか、その軌跡を幼少時代の回想シーンを中心に語り始めます。エルトン・ハーキュリーズ・ジョンと名乗る前の少年の名はレジナルド・ケネス・ドワイト。幼くしてピアノの才能を現し、夫婦仲が冷め切った冷徹で無感情な父親とシニカルで気紛れな母親に囲まれて育ちます。『ロケットマン』はレジナルドの音楽への熱意と執着は冷淡な両親の愛情を勝ち取りたいが為だと示唆しますが、この描写に意外性は無く、少々締まりが無いムードを漂わせながらストーリーが進みます。信憑性に関しても天才的な音楽の才能を持った少年を世界的なメガスターに駆り立てのは、それだけでは無いはずですが、『ロケットマン』を観る限りはそう信じざるを得ない。

記憶にも新しく、世界的なヒットとなった『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)と比較せざるを得ない『ロケットマン』ですが、好悪はありつつもエンターテインメントとしては『ロケットマン』のエルトン・ジョンに似つかわしい演出がエッジを効かせています

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しかし容易に予想出来てしまうストーリーの展開は先述した意外性に欠けており、落ち着かないトーンも残念。


映画『ロケットマン』の評価記事
奇抜な格好とは裏腹に疲れ切った表情で登場するエルトン・ジョン

出典:”Rocketman(2019) ©Paramount Pictures”『参照:https://imdb.com

『ロケットマン』のエンターテイニングな側面は幾つかありますが、スクリーンを彩るエルトン・ジョンの音楽は言及に値するポイント。

『ボヘミアン・ラプソディ』とは異なり、『ロケットマン』ではエルトン・ジョンが舞台に立っていなくとも、人生の転機や分岐点となるシーンで途端にキャッチーなナンバーが鳴り始め、『グレイテスト・ショーマン』(2017年)を思わせるミュージカルなテイストでスクリーンに活気が宿ります。踊り出したくなる衝動を抑えて手拍子で我慢するシーンが全体を通して堪能出来るので、殊にエルトン・ジョンのファンであれば楽しめる工夫が凝らされています。幼いレジナルドがパブで演奏を始めると、間髪を入れずにオートパイロットで伴奏が奏でられ、何処からとも無く現れたダンサーが機敏な動きで軽快に踊り始めるシーンは唐突感があってライブリーな雰囲気に呑み込まれる事は叶いませんでしたが、成長したレジナルドがエジャトン扮するエルトン・ジョンに成長した後は吸い込まれる様にエルトン・ジョンの世界に浸れるシーンもありました。

エルトン・ジョンの楽曲の歌詞を多く手掛けたバーニー・トーピンとの出会いも運命的で、2人の固い友情がビルドアップして行くシーンも美しく、トーピンが書いた『ユア・ソング』の詞と鍵盤を前に、メロディを付けてエルトン・ジョンが歌うシーンが最も印象的でした。ピアノが奏でる調だけで無く、歌詞も深みを増してエルトン・ジョンとトーピンの間にある、千古不易の絆を誓う様に心へ響く音色が最高なワンシーン

そして後に2人の間に亀裂が生じたシーンでトーピンがエルトン・ジョンへ別れを告げるシーンでも、呼応する様にここではトーピンが『イエロー・ブリック・ロード』を静かに歌う様もエモーショナルな場面としてジャブを放ちます。


映画の評価
エルトン・ジョンの同性愛についてもオープンな『ロケットマン』では男性同士の性的な描写も相当に多い

出典:”Rocketman(2019) ©Paramount Pictures”『参照:https://imdb.com

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尚、LGBTに纏わる問題が話題となっている昨今、同性愛者のエルトン・ジョンのバイオグラフィ映画でテーマとして取り扱わないはずがありませんが、『ロケットマン』での描写が極端に生々しい事は心得て鑑賞した方が良いと思います。男性同士が唇に留まらず、肌を重ねるシーンも克明に描かれ、私としては少々オーバーで居心地の悪い思いを禁じ得ませんでした。同性愛の自由を否定する感情では無く、本能的で反射的に気持ちが悪いと感じたまでですが、一歩トーンダウンして欲しかった。

幸いにも1分程度のシーンのみだったので、耐え切りましたが演じたエジャトンとリチャード・マッデンには感嘆するばかりです。

映画『ロケットマン』の評価記事
スカイ君
エルトン・ジョンの音楽は流石で『ロケットマン』に活力を与えているし、明るくしてくれてはいるんだが・・・内容は良く良く考えると暗いわけよ、何なら自殺未遂までしてるしさ。その割にはエルトン・ジョンっぽい演出は正直ミスマッチというか・・・分かるんだけど、違うなぁって感じだった。色々な要素が上手く混ざってないと言うか
モカ君
そうだねぇ、少し映画から注意が逸れちゃう場面もあったけど、ノリノリなミュージカルは楽しいじゃない!
映画『ロケットマン』の評価記事
スカイ君
そこなんだけど・・・そんなにミュージカルって感じだったか?『グレイテスト・ショーマン』はしっかり振り付けがされててダンスもエネルギッシュなものが多くて、良かったんだけど、『ロケットマン』は冒頭を除いてあんまりダンスも無かったし、印象的と言えるダンスは無いな。でもタロン・エジャトンはマジで凄い事だけは確信出来るパフォーマンスで、それだけでも一見の価値はありってトコだな!
『ロケットマン』で至高のパフォーマンスを披露したタロン・エジャトンには空いた口が塞がらない

『キングスマン』とは全く違う一面を見せたエジャトン。

フレディ・マーキュリーを忠実に再現したと評されるラミ・マレックの『ボヘミアン・ラプソディ』との大きな相違点として、エジャトンのアプローチが挙げられます。

マレックはマーキュリーの生き写しの様な風貌と演技に熱を注ぎ、それが功を奏した事もあって『ボヘミアン・ラプソディ』は一世を風靡しましたが、エジャトンは意外にも『ロケットマン』で無欠のエルトン・ジョンに扮してもいなければ、扮する事に執着している様子も無い。カメラが回っている間、エジャトンは満身の力とエネルギーを漲らせたパフォーマンスを披露している事に疑念の余地はありませんが、エルトン・ジョンの口調や振る舞いを一挙手一投足模していませんし、エルトン・ジョンよりもエジャトンを意識させる演技が目立ちます。エジャトンが演じているのは愛情に飢えたエルトン・ジョンの様な才覚溢れる人物が抱える羨望、闇と希望。

『ロケットマン』の本質を捉えたパフォーマンスを届けてくれていると言えます。


映画『ロケットマン』の評価記事
タロン・エジャトンが美声を披露する『ロケットマン』は演奏シーンが主な観どころ

出典:”Rocketman(2019) ©Paramount Pictures”『参照:https://imdb.com

既に様々なインタビュー記事でも取り上げられていますが、エジャトンのパフォーマンスで特筆すべき事の1つが音楽的な才能

ラミ・マレックの口合わせを非難する腹積もりは全くありませんし、的確にフレディ・マーキュリーを演じていたと評される以上、手段は問題ではありませんが、エジャトンは『ロケットマン』でエルトン・ジョンを演じるにあたって数々の曲を披露しますがエジャトン自身が全て歌っています。絶妙なニュアンスや声質はエルトン・ジョン似ているとは言えませんが、エジャトンの歌声は聴いていて快く、エルトン・ジョンの音楽が醸し出すアップリフティングなアンビエンスは損なわず、恰もライブ演奏を鑑賞しに来た観客の様な気分になります。

ただ『ロケットマン』は差し詰め麻薬とアルコールを頬張るシーンが少々必要以上に多い自己憐憫に浸り切った作品ですが、エジャトンの突出したパフォーマンスを差し置いて登場するキャラクターの深みは皮一重。エルトン・ジョンのバイオグラフィ映画である以上は、オーバーな演出や描写が散見されても不思議ではありませんが、気移りを禁じ得ない瞬間が多々あって心底没頭する事は出来無かった点はマイナス。唐突感を感じた『サタデー・ナイツ・オーライト・フォー・ファイティング』のダンスに限らず、ロザンゼルスのトルバドゥールでエジャトンが演奏した『クロコダイル・ロック』も軽快でキャッチーな曲調に身を揺らしていると、途端にエルトン・ジョンと観客が宙に浮くシーンがあり、急ブレーキを踏まれた感覚に襲われました。


映画『ロケットマン』の評価記事
一瞬だけ派手なパフォーマンスで飛び跳ねた・・・のでは無くてこのシーンはこのまま暫く続いたり

出典:”Rocketman(2019) ©Paramount Pictures”『参照:https://imdb.com

『ボヘミアン・ラプソディ』もキャラクターに重みを与えられていたとは言い難かったのですが、フレディ・マーキュリーが己の才能で聴く者の魂を震わせ、身体を浮き上がらせる様な音楽を届ける事に全てを捧げる姿を描こうとした事が全体を通じて伝わる作品です。しかし、『ロケットマン』にはその熱意を感じるよりも、苦悩する様子に最もスポットライトが当てられ、映画を通じてでは無く、人々を沸き立たせ、浮き上がらせる事を敢えて見せなければオーディエンスにエルトン・ジョンの才能と熱意を伝え切れない様な浅ましさを感じてしまいます

不自然で違和感があるタイミングと演出でした。映画が一時停止されたのかと、一瞬眉間に皺を寄せた程です。

エルトン・ジョンが演奏中に脚から炎を吹き出し、天高くロケットの如く飛び上がって花火となる演出も視覚的にエンターテイニングと称されるよりは、滑稽でシーンのムードを一歩ステップアップさせ過ぎていて鼻白んでしまいました。

もっと観たかったエルトン・ジョンの山と谷、だけど『ロケットマン』は殆どが谷で飽きて来る

『ロケットマン』で描くまでも無くエルトン・ジョンと言えば薬物濫用やセックス依存症に苦しんだ事でも有名ですが、キャッチーな音楽と綺羅びやかな衣装で陰鬱な雰囲気を薙ぎ払うものの、総じて高揚する瞬間は皆無に等しい。

エンディングは概ね記憶に残らない程に軽薄で、そこに至るまでエルトン・ジョンの様々な苦境を目の当たりにしますが、いずれも感情を揺さぶる様なインパクトはありませんでした。音楽好きにも関わらず息子と一切繋がり合う事が無かった父親の愛を勝ち取るべく、弱冠25歳にして富豪の域へ達したエルトン・ジョンが数百万円は下らないであろうショパールの腕時計を嬉々として贈るも、その後冷ややかに追い返されるシーンはエルトン・ジョンの哀しみが良く分かる場面ですが、二人の関係は淡々と語られてしまうので涙を要する程でも無い。父親がエルトン・ジョンをどの様に捉えていたのか、冷ややかな仮面の下に父親としての苦悩は本当に無かったのか

表も裏も、家族を顧みず、愛情の片鱗さえも感じさせない人間としか描かれないのでエルトン・ジョンの眼を通して冷然とした一面しか観られません。母親のシェイラに関しても同様で、唯一エルトン・ジョンの音楽的な才能に着眼し、開花させる後押しをした祖母でさえもキャラクターとして薄弱で記憶に残らない。


映画『ロケットマン』の評価記事
エルトン・ジョンを取り囲む様々な人物も一面的で愛着が湧かない

出典:”Rocketman(2019) ©Paramount Pictures”『参照:https://imdb.com

トーピンや、狡猾で非情なエルトン・ジョンのマネージャー、ジョン・リードも単にストーリー上の相棒とヴィランに近い人物として描かれ、いずれの人物像に関して語ろうと思っても数秒程度で言葉に行き詰まってしまいます

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『ボヘミアン・ラプソディ』の様にバンドでは無く、エルトン・ジョンにフォーカスした作品である以上は当然かも知れませんが、如何せんエルトン・ジョンに焦点を当て過ぎていましたし、『ロケットマン』のストーリーがドラッグに溺れ、有り余る財産で物欲のままにブランド品を買い漁っても手に入らない愛に植える男を描く事に全力を注ぐのでは無く、エンドクレジット前に文章で端的に紹介されたエルトン・ジョンのその後についても描いて欲しいと感じました。

エルトン・ジョンはその後28年間アルコールを口にせず、愛する男性に恵まれて結婚しましたが、それまでの活動や、音楽にどの様に向き合う様になったのかを何故語らないのか。エルトン・ジョンとしては思い出深く、振り返ると自殺未遂をも犯した波乱のある半生として印象的だったのかも知れませんが、オーディエンスとしては首を傾げかねませんでした。

エルトン・ジョンのセクシュアリティについてもオープンで、アップリフティングな音楽と奇矯とも言える演出にはエンターテイニングな瞬間もありましたが、バイオグラフィとして興味深く、感化されるエネルギーが宿っていたとは言えません。『ロケットマン』で最大の救いは紛う事無く、エジャトン。しかしエジャトンでさえも、フレッチャー監督の気が散る過度な演出や、バイオグラフィとは乖離した雰囲気を醸し出すファンタスティックな世界に充分な人情味と温かみを吹き込め無かった『ロケットマン』に、私からはスタンディング・オベーションを贈る事は出来ませんでした。


この映画を観られるサイト

『ロケットマン』は全国の劇場で8月23日に公開!

浮世離れした感覚は否めませんが、綺羅びやかなエルトン・ジョンらしいネオンや花火、派手な演出は劇場の大画面で楽しむ事をお勧めします。

まとめ

『キングスマン』で演じたキャラクターとは全く異なる役柄を演じたタロン・エジャトン。『ロケットマン』ではエジャトンの実力が眩く輝き、今後の出演作にも期待を高めさせてくれるパフォーマンスを堪能出来ます。高い歌唱力も意外なサプライズとして楽しめる事もポイント。

しかし、薬物と財力に溺れた暗澹たる半生にフォーカスしたストーリーは奇をてらった演出も相まって、金で買える程度の幸せと同様に、一見リッチな印象を持ちつつも空虚で心の奥底に届くインパクトを与えてくれません。

バーニー・トーピンとの熱い友情物語もサブ・ストーリーとして語られますが、溢れる自己憐憫の情に覆われて背景に溶け込んでしまい、特に印象に残りづらい。『ロケットマン』はストーリー、演出、演技、音楽など映画を構成するパーツ毎の優劣が著しく、総じて悪くは無いがタロン・エジャトンのファン以外に勧める事は無いであろう映画でした。

『ロケットマン』映画感想
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