ノット・ファンタスティック!『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』はハリポタのブランドを笠に着たCG動物のショーケースであって、映画ではない

 

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅


監督:デーヴィッド・イェーツ
出演:エディ・レドメイン、ダン・フォーグラー、コリン・ファレル、キャサリン・ウォーターストーン、エズラ・ミラー、アリソン・スドル 他
言語:英語
リリース年:2016
評価★★☆☆☆☆☆☆☆☆

Fantastic Beasts and Where to Find Them(2016) © Warner Bros. Pictures『参照:https://www.imdb.com


~”完成度に難がある、ハリー・ポッターのスピンオフ作品”~

~”単に空想の魔法動物を並べ立てただけだ。ストーリーのヴィランと闘うにあたって何も関係は無いし、逃げ出した事を言い訳に展示会を開いているに過ぎない”~

 もくじ


 あらすじ


1926年にイギリスの魔法使いで魔法動物学者であるニュート・スキャマンダーが、
アメリカ合衆国のアリゾナ州へ向かう途中でニューヨークに船で到着する
ニュートのスーツケースには魔法で拡張された別世界が広がっており、
彼が世話をする魔法動物たちが暮らしていた
ひょんな事から非魔法使い(ノー・マジ)のジェイコブ・コワルスキーと
スーツケースを取り違えてしまう
ニューヨークに魔法動物たちが飛び出し、大事件になる前にニュートは
スーツケースから逃げ出した動物たちを捕まえなければならないが、
そんな中で魔法動物一危険なオブスキュラスが放たれ・・・
ニューヨークの街で繰り広げられる魔法使いと不思議な動物たちのアドベンチャー物語


 レビュー

歴史的なヒットを見たJ.K.ローリングによるシリーズ初のスピンオフ、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』には多くの期待が寄せられていた。『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(2011年)や『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009年)を指揮したイェーツ監督が再びメガホンを握り、新シリーズとして累計5作にも上る映画の制作が企図されていた、大々的なプロジェクトだ。

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』で完結したシリーズは幕を閉じ、新たなキャラクター、時代、ストーリーを迎えた本作は世界的に興行的な成功を収め、『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018年)や『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022年)の制作へと繋がる。

しかし、シリーズは『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』から失速の兆しを見せ始め、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』も評価は芳しくなく、以降の4作目及び5作目の制作は事実上保留となっている。

『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)に始まるハリー・ポッターの冒険を描いたシリーズは、ファンタシー作品として珍しくない魔法を題材としつつも、考え抜かれたストーリーや緻密に設計された独特の世界観が実に特徴的だ。それによって多くのファンを生み、聖地とも言われるエディンバラ(ローリングが原作を執筆する際に頻繁に訪れていたカフェや、作中の人物名に縁のある墓地がある)やロンドン、ヨークに同シリーズの専門ショップができたりマグルクィディッチなるスポーツの誕生に繋がるなど、社会現象にまでなった。


『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』映画の感想と評価
不思議で可愛い魔法動物に溢れた作品ではあるのだが、これと云って登場させる意味を感じない。グッズ販売狙いだろう

出典:”Fantastic Beasts and Where to Find Them(2016) © Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

ローリングの素晴らしい想像力と創造力が実った超大作だ。私自身もそうだが『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』には、そんな世界観を引き継ぎつつも新たな展開や、これまでになかった魔法界のストーリーの始まりを望んでいた。

一方で、単なる強大なネームバリューに頼ったクイック&イージー戦法も充分に疑われたので(如何せん『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』以降は原作に基づいた映画化は見込まれない上、誰もが知るブランドにもなった以上は可能性として高いだろう)、少々嫌な予感はしていた。悪趣味なプリント加工がしてあるバッグでも、Louis VuittonやGUCCIのロゴを大きく貼ってしまえば数百万円で自慢げに買う人間が掃いて捨てる程いる世の中である。

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ローリングによる魔法界を描いた新作と銘打つだけでも、濡れ手に粟だろう。だが、それはファンを大きく裏切る行為に他ならない事だと理解して欲しかったが願いは通じなかった様だ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は前シリーズの最大の魅力だった壮大なスケールのストーリーと、大なり小なりと鏤められていた魔法界でしか見られない人々の生き方や独特のアイディアが皆無だ。申し訳程度に、それまで『マグル』と呼称していた非魔法使いの人間を『ノー・マジ』と言い換えた程度の目新しさだ。

新たな試みに手を伸ばすでもなく、前シリーズにあったミステリーや時にはダークな色が滲み出す事もない幼児向けと言える内容には腹立たしささえも覚えた。


『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のニュート・スキャマンダー
魔法動物学者のニュート・スキャマンダーは、図らずも魔法動物が引き起こした騒動から闇の魔法使いの陰謀に巻き込まれて行く

出典:”Fantastic Beasts and Where to Find Them(2016) © Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』が公開当時、興行的な成功と批評家の間で概ね好意的な評価を付されたのは前シリーズのモメンタムが最も大きな要因だろうと私は感じている。全体的にはバロックな雰囲気漂うセッティングで、ある点では新鮮味があったが、やはり単に時代と場所を変えたに過ぎない。

シネマトグラフィや演出と云ったものは重要なパーツでありつつ、エンジンには匹敵しないのだ。

殊に強い不満を感じるのは、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のオープニングから15分と経たずに悪役の正体が分かってしまったのと、拭い切れない疑問とが併発した事にも起因しているだろう。一見、重箱の隅を突いている様にも思えたのだが、どうしても納得が行かないのだ。

それも精巧な構想が印象的だったこれまでの作品と比べて、強烈でネガティヴなギャップとして目に焼き付いてしまっての評価になったのかも知れない事は予め述べておこう。

物語がツギハギで要所は苦し紛れなのが最大の問題

本シリーズのヴィランとなるゲラート・グリンデルバルドの登場と共に幕が開ける。一瞬ではあるのだが、禍々しさ漂う風貌を背面から映したショットが印象的だ。

その後は姿を晦ましてしまい、場面はニューヨークへと渡ったニュート・スキャマンダー(演:エディ・レッドメイン)へと切り替わる。

だがアメリカ合衆国魔法議会 (MACUSA) で魔法保安局長官を務めるパーシバル・グレイブスの登場と共に冒頭のミステリーは早々に風の中へと消えて行く。グリンデルバルドの登場カットと同じ背面からのショットである上に髪型や衣服と云った出で立ちまで全く同じなのである。

灰色の脳細胞を持たずともグリンデルバルドとグレイブスが関連しているか、同一人物である可能性は察しがつくだろう。

如何にも分かり易いショットでミスリードを誘って、グレイブスの正体や目論見に意外性を持たせようとした試みかとも考えたが、やはりラストではグレイブスがグリンデルバルドである事が明かされる。恰も驚愕の事実であるかの様に描かれるが、別段驚きは無く、寧ろシンプル過ぎる筋書きに歯痒い気持ちが込み上げるばかりだった。


『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のグリンデルバルド
こうにも分かり易いヴィランの登場と云うのも中々珍しいのでは

出典:”Fantastic Beasts and Where to Find Them(2016) © Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

出鼻を挫かれた感覚は残ったものの、気を取り直して本筋であるファンタスティックなビーストの活躍にも注目を向けたが惨憺たるものだった。

魔法生物学者であるニュートはサンダーバードをアリゾナ州の砂漠へと逃がすべく、所有しているスーツケースに収めて(ケース内は魔法によって異次元の広大な空間が広がっている)一先ずニューヨークに降り立ったが、全ての発端はこの時にケースから逃げ出した魔法動物が騒動を起こした事にある。ニフラーと云う魔法動物なのだが、それがすばしっこく逃げ回り、ノー・マジに気付かれぬ様にニュートが捕まえようと四苦八苦するシーンが続く。

その様子を見た闇祓いのポーペンティナ・ゴールドスタイン、そして騒動に巻き込まれたノー・マジのジェイコブ・コワルスキーと出会うニュートだが、彼のスーツケースには『マグル用モード』が備わっている事が忘れられている様で呆れるばかりだった。港での入国審査にてノー・マジの保安官にスーツケースを開けられたニュートだが、マグル用モードに切り替えると魔法動物を格納した空間との繋がりが閉じて、綺麗に畳まれたシャツや時計と云った荷物が現れるのだ。

つまり、魔法動物が勝手に逃げ出す心配は一切ない。

ニュートが何故、常時マグル用モードに切り替えて持ち運ばないのかは明確に説明されず、都合が良い時に魔法の不思議を演出する為に使われたに過ぎない。最早、理屈ではないのだ。しかし理屈に適わないストーリーに何の魅力があろうか。


『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
問題のスーツケースの中は広々とした魔法動物の世界で、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』で最も夢が溢れるシーンと言えるだろう

出典:”Fantastic Beasts and Where to Find Them(2016) © Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

ラストでは市内を縦横無尽に駆け巡った魔法動物たちの暴動に懲りたのか、問題のスーツケースを紐で縛っている様子が描かれるが魔法界の学者にしては原始的な対策だ。こうした粗が目立つ描写やカットに遭遇する度に映像を一時停止したい衝動に駆られてしまう。隣に脚本担当者と監督に座って頂いて、都度説明を求めたいものだ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の全てはニュートのスーツケースをコワルスキーが取り違えた事で、魔法動物が放たれてしまう事に端緒を開くが、ニュートにプロ意識の欠片さえあればこのストーリー展開にはなり得なかったと思うと再び呆れるばかりだ。スーツケースに棲むボウトラックルが解錠の名手である事が作中で触れられているが、魔法で麻痺させる事も結界を講じる事もできる世界観では全く弁明にはならない。

ストーリーに関して肯定的な事を述べるならば、思考を殆ど停止させる事ができれば楽しめるだろうと云う苦し紛れの評価しか捻出できない。

魔法動物の逃亡に狼狽えている物語と云うのは、至るところに瞬間移動ができる者が手洗い所に間に合わずに漏らしてしまったと云う様なものだ。主に気になった点に言及してみたが、他にも触れるならば渡米した理由を問い質されたニュートが著名な魔法動物学者に面会する為と嘘を言う理由も不明だ。隠し事をしていると仄めかす事で好奇心を刺激したいのかも知れないが、お粗末が過ぎる。やはり前シリーズとは比較にならない出来だ。

折角の興味深いテーマはそっちのけで魔法動物と戯れる

危険な魔法動物でもあり、本作で重要な位置付けを占めるオブスキュラスに関する描写も実に中途半端だ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』では、エズラ・ミラー演じる少年クリーデンス・ベアボーンが魔力を抑圧した事によって生まれ、思春期特有の混乱や怒り、混沌とした不安を具現化した、掴みどころの無い姿で現れる。しかし、オブスキュラスに関しては獰猛で危うい存在である事以上に情報が明かされる事も無ければ、その本質を探る様子も無い。

その危険性も曖昧なままで、CGの波に溺れるラストで斃されてしまうだけだ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は逃げ出した魔法動物とニュートに焦点を絞り過ぎている。『名探偵ピカチュウ』(2019年)よろしく血が通ったリアリティ無きCGでレンダリングされた架空の生物と、ニュートの追跡劇よりもオブスキュラスにスポットライトを当てた方が面白い作品になっただろう。無論、シリーズとして続編にも繋がる様にストーリーをデザインする必要はあるが、ミステリアスで強力な存在を深堀った方がアカデミー主演男優賞受賞者のエディ・レッドメインにエルンペントの求愛ダンスとやらを踊らせるよりも価値あるランタイムの使い方となっただろう。


『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の映画レビューと感想
男らしさよりも、可愛らしさを好む日本の女性にはウケそうな好青年のニュート

出典:”Fantastic Beasts and Where to Find Them(2016) © Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

物語に寄与しない上に後々の伏線にすらならない空想の生物が走り回る様子を長々と観たとて、何を感じたら良いのか戸惑ってしまうばかりだ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の唯一の救いは主演キャスト陣にある。

レッドメインの気弱そうでありながらチャーミングなニュートと、ダン・フォーグラ―扮するコワルスキーには(杜撰なストーリーに翻弄されるにも関わらず)憎めない魅力に溢れているのだ。飄々としたニュートも好感が持てるジェントルマンライクな振舞が印象的だが、柔らかな物腰から一転して激しい決闘に果敢に望む姿も見せてくれるなど様々な面を持ち合わせていて奥行があるキャラクターだ。

突如始まったコワルスキーとクイニーの恋物語には違和感を禁じ得なかったが、コワルスキーはコメディの名手フォーグラーのカリスマティックなパフォーマンスが功を奏して一元的なサイドキックに留まらない存在感を放つ。豊かな感情表現力とコミカルな言動には、その体躯からは想像し得なかった愛らしさが漂う。

そんなコワルスキーの夢がパン屋を開く事と云うのも、彼のイメージに不思議と合っていて微笑ましい。

ただ、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の魅力は残念ながらそこまでだ。浅薄で作品との親和性も無いオブスキュラスが示唆するテーマと、広がり過ぎた風呂敷を見渡すと纏まりも深い考えも見えない空虚な景色が続くだけで、映画作品としての面白さに欠ける。


『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の魔法動物エルンペント
こんなズングリした子供の落書きの様な魔法動物も登場するが、魔法と云うよりもアポカリプスを迎えた後の生物を観ている様だ

出典:”Fantastic Beasts and Where to Find Them(2016) © Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.imdb.com

総じて遊園施設の冒険型アトラクションの筋書きには良いかも知れないと云った程度の質だ。

魔法界の世界観を継承しながら、ローリングが原作では触れ切れずにいた全く新しいストーリーを期待していたが物足りない形でスタートを切る事になってしまった。前シリーズと同じ土俵で語るのは酷だ。ハリー・ポッターとヴォルデモート卿の因縁の様な深い繋がりはニュートとグリンデルバルドの間には無く、ニュートとコワルスキーには特筆すべきダイナミクスも感じられない。

前シリーズの二番煎じを構想せよと主張しているのではない。横並びで語れる様な、アイコニックなキャラクターと印象深いストーリーを丁寧に練って欲しいと言っているのだ。

肝心の魔法動物もチープなCGの産物で、恐竜の様子を再現した博物館のCGとさして変わらない様にも思えたのが残念だ。ユニークで特徴的な能力や(習性の説明ばかりだったが)、それを物語に活かす様子が観られれば良かったのだがそれも一切無い。世間的な評価は比較的高い様だが、アイディアが散らかった状態で制作に臨んだ様に思われて到底評価できるとは思えない作品だった。


 この映画を観られるサイト


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 まとめ

中心キャラクターを除けば、何をどの様な角度から眺めても生温く、肯定できる点が見当たらない作品だが魔法界のファンならば多少なりとも満足はできるだろう。飽くまでも映画と云う観点から言えば、エンジン部とも云えるストーリーが全く仕上がっておらず評価はできない。

魔法の杖から、何の呪文を表すとも分からない電光が四方八方に放たれる様子に高揚を覚える程度ならば、それなりに楽しめるはずだ。

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』や『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』が続いて制作されているので、シリーズ作品としては一定全体を見渡して評価をしたいとも思うが、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は決して良いスタートとは言えない。

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