2019年イチオシのホラー映画『アス』をネタバレありで評価!絶妙にリアルで想像を掻き立てるホラーが夏を涼しくしてくれる!

アス


監督:ジョーダン・ピール
出演:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカー 他
言語:英語
リリース年:2019
評価★★★★★★★★☆☆

Us(2019) ©Universal Pictures『参照:https://www.imdb.com


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~”最も怖れるべき化物は自分自身?金のハサミを持った自分が突如街中を跋扈しては襲い来るホラー映画『アス』!もう1人の自分、その目的は・・・”~
~”グロい描写はあまり無いけど、軽い血飛沫はちょくちょく飛ぶ!『アス』はホラーとスリルの中にもグリッピングな謎と驚きのラストが待つも、曖昧で混乱させる描写が多いのが難点でもあり・・・惹き付けて已まない魅力の秘訣?!”~

もくじ


あらすじ


1986年、サンタクルーズの行楽施設にて
両親と逸れてビーチのミラーハウスに迷い込んだアデレード・トーマス
鏡面に映る無数の自分の中に、自分とそっくりな本物の少女が居た
ミラーハウスから戻るも、トラウマから失語症となってしまう
数十年後、失語症を克服して夫と2人の子供に恵まれたアデレード
一家は反対するアデレードを説得してサンタクルーズに旅行へ
しかし、幼少時の恐怖体験を忘れられないアデレードは夫ゲイブに事の顛末を打ち明ける
彼女を宥めるゲイブだったが、その刹那停電が起こり一家はある異変に気付く
街灯だけが照らす暗夜、赤い作業着を着た家族らしき不審者が一家の玄関先に立っていた
訝しがる一家だが、これは想像を絶する陰謀と悪夢の序章に過ぎなかった・・・


レビュー

2018年のオスカーでも話題になった『ゲット・アウト』(2017年)のジョーダン・ピール監督が手掛けたホラー映画、『アス』はおどろおどろしい幽霊やホッケー・マスクを被ったサイコパスの殺戮カーニバルを2時間観続ける様な映画ではありません。『アス』はその両方を齧った様な作品で、表面的にはドッペルゲンガーが襲い来るオリジナリティに欠けた印象を与えますが、ストーリーや随所に隠れたメタファーから伝わる何とも言い難い寒気は真正のホラー映画特有のもの。

称賛の嵐で迎えられた『ゲット・アウト』に続くピール監督の作品としてシビアに評価されがちな『アス』ですが、本作の様に現実と空想の狭間を絶妙に描いたホラー映画は容易く手に取れるものでは無いので見逃すのは勿体無い。

劈くヒロインの断末魔と決壊したダムを思わせる血の海が催す心地の悪さ、肌の表面が粟立つ生理的な恐怖でオーディエンスを怖がらせる事に全力を注ぐホラー映画とは違い、『アス』は精神的な逼迫感と目にしている現象の謎と秘密に重点を置きます。

少なくとも前半部分は。

『ザ・トンネル』(2001年)を一瞬連想させるオープニングを迎えた後、『アス』は夜の遊園地を楽しむトーマス一家から始まります。景品でマイケル・ジャクソンの『スリラー』シャツを当てたアデレードはリンゴ飴を片手に、もぐら叩きに熱中する父から離れ、『ジョーズ』(1975年)を思わせるビーチまで流離って薄気味悪いミラーハウスに辿り着きます。暗い鏡面だらけの部屋で、鏡像では無い瓜二つの自分と出会い、両親に見付かるも言葉を喋れなくなったアデレード。直後のオープニング・クレジットは実にクレバーです。純白の兎にクローズアップしたカメラが、静かにズームアウトして壁一面に積み上げられた白い兎だけが入った檻を映し出します。繁殖力の象徴でもあり、ある意味でドッペルゲンガーを大量生産する兎がスクリーン全面に敷き詰められた様子は『アス』の序章としてパーフェクト。


映画『アス』のネタバレあり評価
ミラーハウスに迷い込んだアデレードがそこで出会ってしまったモノとは


出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

このグリッピングな『アス』のオープニングで瞬く間に昂まった恐怖の鼓動は、大人になったアデレードとその家族が旅行に向かう様子を追い始めてから若干失速。ミラーハウスでの出来事は恐怖心に煽られた子供の妄想だったのか、幽霊の仕業だったのか、或いは説明のつかない事にアデレードのドッペルゲンガーがミラーハウスに棲んでいたのか。『アス』は、その謎と真実を餌にオーディエンスを一家の旅行に引き込みますが、退屈な中流階級のアメリカンな家族の戯言に暫く付き合わざるを得ない点は少々残念。

お座なりでストーリーや映画のテーマとも大きくは関係の無さそうな、ウィルソン家と付き合いのあるタイラー家の静かな小金持ちアピールは脚本の中でも熱が無いパート。

キャラクターとしてもタイラー家に馴染む前に、地下からドッペルゲンガーが現れてしまい、注意と興味は赤いツナギを纏った狂人たちに向いてしまう。”テザード(Tethered)”と呼ばれるこのドッペルゲンガーの集団は、地上に存在する分身と同じ姿をしており、深層心理とも言える魂を共有している存在である事が次第に明らかになります。テザードに扮するキャスト陣のパフォーマンスは拍手喝采に値し、殊にアデレードとそのテザードである”レッド”の2役を演じるルピタ・ニョンゴには感嘆せざるを得ません。レッドに扮したニョンゴのマネキンの様に生気の無い表情は、申し分無く薄気味が悪く、一方でテザードに恐れ慄くアデレードを演じている彼女とのギャップは、彼女の役者として抜きん出た才気を感じさせます。

テザードを演じるパフォーマンスとしては、『17歳のカルテ』(1999年)や『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017年~)のエリザベス・モスも忘れてはいけない。レッドを除いて言葉を発する事が出来ないテザードは挙動と表情の演技に重きが置かれますが、夫のテザードが殺されるシーンで見せた悲嘆と快楽が交わった表情は、余りに異様で身震いします。

こうしたキャストが送るパフォーマンスは『アス』の納得出来る成功を支える大きな要因の1つです。


映画『アス』のネタバレあり評価
口裂け女を思わせるエリザベス・モスの悍ましい笑みは脳裏にこびり付いて中々取れない


出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

ストーリーの流れとしては概ね深く考えなくても楽しめる構成になっており、『ウォーキング・デッド』(2010年~)のゾンビ・アポカリプスに近いパニック映画の様な混沌とした後半も、単調で高くは評価出来ないものの悪くは無い。ラストで明かされる驚愕の事実も、確かにパンチのある意外性に一瞬は怯むものの、漠然と点在する様々な疑問を繋いでくれるアンサーでは無く、寧ろより多くの疑問を撒き散らします。謎に包まれた予想だにしない真実に対する靄を、クライマックスで痛快に解消してくれる映画ではなく、『アス』が描く悪夢に対してオーディエンスが個々の解釈や結末を当て嵌める必要がある作品なので好悪は分かれ易い映画と言えます。

ピール監督としては『ゲット・アウト』よりも野心的でリスキーとも言える作品である事は間違い無く、物語のセットアップからテザードの登場まで大きく変わってしまうアンバランスなトーン・シフトを考えると、監督自身も細部まで設計しきった作品では無い事が伝わります。しかし杜撰と形容するには程遠く、今世紀に溢れ返る陳腐なスラッシャーに近いスリラーの影は垣間見えるものの、『アス』は汗が止まらない夏に毛穴を引き締めるには充分な恐怖を与えてくれる作品です。

映画『アス』のネタバレあり評価
スカイ君
印象的で強烈なシーンが多かったな、監督からキャストまで才能が一体となって生まれたホラー映画と言える出来だったと思うぜ!幽霊なんてのは登場しないんだが、ソーシャルな要素も備えた作品として凄く良かったし、正直もう一度観ても良いと思ったよ
モカ君
・・・この間ボクも自分のテザード見ちゃったんだけど、どうしよう・・・
映画『アス』のネタバレあり評価
スカイ君
お前それお隣のピースだろ、あいつもビーグル犬だし。『アス』に関しては、ネタバレに厳重注意だ!ラストが”マジ?”って感じになる人が多いと思うし、折角なんで素で観て欲しいと思うんだ!てな事で繰り返しだが・・・ここから先はネタバレ注意だぜ!いやもう観たけど良く分かんなかったんだよって人はコチラの解説記事をクリック
キャスト、特にニョンゴの人間離れした演技力と優秀なクルーが織り成す『アス』の凄さ

ホラー映画は多様化し、昨今では単にホーンテッド・ハウスを彷徨う幽霊が悍ましい効果音と共に襲って来るばかりとは限りません。

然りとて『アス』の幽霊に匹敵するテザードは多様なホラー映画の化物リストに新たな化物を加えるのでは無く、ピール監督がオマージュした『チャド』(1984年)の様に地下に棲む得体の知れない何かを使い回していますが、目覚ましいのはその妙々たる演出と描写。

平凡な母親から地下世界で育まれた悪へ。

二重人格だと、人格によって顔が違って見えると言われますがルピタ・ニョンゴの演技は人格を自由に切り替えられる能力を目の当たりにしている様です。聞いた者の肝を冷やす錆びた金属音が擦れ合う様な声は、人間が演じて出せるとも思えません。恐怖に慄く母親を演じている時は眼に光が宿り、表情豊かですがテザードを演じる彼女の眼は大きく見開かれ、ウィルソン一家を脅かす何かを常に求める邪悪な闇を抱えています。

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ニョンゴの驚くべき演技力はレッドに留まりません。


映画『アス』のネタバレあり評価
ルピタ・ニョンゴの存在感は圧倒的で、『アス』の臨場感やリアリティにも一役買っている

出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

ジェイソンがテザードのプルートを操り、燃え盛る炎の中に追いやるシーンでは、息子の分身とも言えるプルートが死に行く様子に絶望的な表情を見せた後、瞳の輝きが抜ける様子には開いた顎が暫くそのままに。『アス』は『ゲット・アウト』の様にオスカーで話題になる様な映画ではないかも知れませんが、ルピタ・ニョンゴ自身に何らかの褒賞が無いと納得が行かない程です。

無論、テザードを演じるのはニョンゴだけでなく、夫のゲイブや子供たちも同様ですしパフォーマンスは十二分に良い。

ゲイブ・ウィルソンに扮するウィンストン・デュークが『ブラックパンサー』(2018年)や『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年)でカリズマティックなジャバリ族のリーダー、猿神ハヌマンの仮面を纏った戦士エムバクを演じた事は記憶に新しい。野性的で力強く、しかしコメディック、そして憎めない少年の様な可愛らしささえ感じるデュークは、ゲイブとして間の抜けた父親を演じ、テザードとしては2メートル近い身体を活かし、ただ黙って立っているだけで冷や汗が出る様な圧を感じさせます。

化粧台の前で静かにルージュを唇に塗るエリザベス・モスのテザードも、唯々気味が悪い。

そうしたキャスト陣を生かすも殺すもクルーの手に掛かっていると言えますが、『アス』は幸いにもクルーに恵まれた作品。


映画『アス』のネタバレあり評価
細やかながらも心理的な不協和を導くには充分な効果を発揮する工夫が随所に凝らされている点も観どころ


出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

『アス』のシネマトグラフィを手掛けたマイケル・ジオラキスは、失笑しかねない陳腐な演出も、創意工夫を凝らして確かに恐怖心を沸き立たせるワンシーンに仕立て上げています。テザードがウィルソン家を襲撃する前に、手を繋いで玄関先に佇んでいるシーンが良い例で、演出によってはただ気が変な不審者の様にしか見えず、気持ちは悪くても『アス』で感じる様な強い恐怖と警戒心は生じない。このシーンでは周囲が暗く、逆光で顔が見えない様にステージングされている事もありますが、互いに寄り添うウィルソン家の4人よりも目線が高い位置にテザードが立っている事に注目。シンプルながら、これだけで一家に降り掛かる災難と悪を暗示している様な印象を受け、無意識に身構えてしまいます。

テザードがユニフォームの様に着ている不吉な赤い作業着をデザインしたキム・バレット、そして緊張感を煽る不協和音の様な音楽を手掛けたマイケル・アベルスも『アス』のホラーを増幅させるシナジー。ピール監督の手腕もさる事ながら、映画を創り上げた人々の力量が良く活かされた観どころが多い作品です。

考察の余地を大きく残した『アス』に散りばめられた謎は観どころでもあり、難点でもある

『アス』で凍て付いた背筋を解凍したら、ラストの謎に首を傾げつつ殆どの人がスマホのブラウザを開くはず。

プロローグで映し出されるチャリティー・イベントや、聖書のエレミヤ書との関連を仄めかすシーンはミステリアス。鋭いオーディエンスなら、背景に紛れたイースターエッグにも気付いたかも知れません。
(興味がある方向けに、解説と考察を記載した記事はコチラ

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しかし、レビューではそうしたピール監督の遊び心やオマージュの分析ではなく、飽く迄も『アス』のストーリーを取り巻く謎に注目したい(『アス』の解説記事は別途公開予定)。そのグリップ力は既に述べた通りで、アデレードが迷い込んだミラーハウスで何が起こったのかが強力なマグネットとなり、『アス』のストーリーが進む程、微かなヒントや情報をも見逃さない様に耳目を凝らして観入る。追い討ちをかける様に、ウィルソン家のドッペルゲンガーが夜闇に紛れて不気味な姿を見せると興味は倍増。

その点で『アス』が鏤めた衝撃と怪奇は、素直にスリリングなホラーとして充分楽しめるポイントです。


映画『アス』のネタバレあり評価
じわじわと迫りくる怖さの裏返しかも知れないが、ラストに辿り着くまで気が散るシーンも屡々


出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

一方でラストで明白になるテザードの秘密は突飛な失笑ストーリーではないものの、『アス』の物語に痛快な満足感を齎してくれるものでもありません。

冒頭で受けた衝撃に見合う様なパンチ力が無い。

驚愕の真実が明らかになった後も、副次的に疑問を生むパターンで、エンディングは『インセプション』(2010年)に近い印象を受けました。ミステリアスな終幕を迎え、映画館を後にしながら考えたり、何が起こるか推察する事が好きなら『アス』のエンディングはパーフェクトですが全てに答えが無いと落ち着かないタイプなら、判然としない不完全燃焼な感覚を抱える続ける事になります。『アス』に関して言うならば、私はどちらかと言えば後者。

『ゲット・アウト』に比べるとテーマ性、それに伴うメッセージも明瞭では無く、トーンのコントロールも然程タイトではありませんが、ピール監督としてはホラー映画を通して米国の歴史に疑問を呈する大きなチャレンジを試みたユニークな作品になると感じました。幾度か観ても飽きない映画ですので、ピール監督の意図と『アス』の意義を探り、考えてみる楽しみ方をする為にも少なくとも2回は鑑賞すべき作品です。


この映画を観られるサイト

『アス』は全国の映画館で9月6日から上映予定!

シネマトグラフィや映像の色合いにも工夫が凝らされている作品ですので、気になる方は是非、大画面が待つ劇場へ足を運んでみる事をお勧めします。

まとめ

モチーフとしては目新しく無いドッペルゲンガーによるホラーを描く作品ですが、ピール監督を始め、シネマトフラフィやコスチューム・デザインに携わるクルー全体のセンスが垣間見える『アス』はホラー映画やサスペンス映画が好きな方に是非堪能して頂きたい。

難解な文学小説の様に考察に考察を重ねなくとも、ある程度は感覚的にテーマやメッセージも『アス』を楽しむ1つのポイント。

一口にドッペルゲンガーと言っても、テザードのコンセプトはシンプルながら興味深いですし、キャストのパフォーマンスも大きな観どころ。脅威に慄く己と、脅威そのものを違和感無く、同時に演じる事が出来るルピタ・ニョンゴのポテンシャルを改めて感じさせてくれる、2019年の夏に楽しんで欲しい逸品です。

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