超大作ファンタジーの先駆者トールキンの半生を描いた映画『トールキン 旅のはじまり』をネタバレありで評価!この映画で本当にトールキンの魅力を堪能出来るかと言うと・・・

トールキン 旅のはじまり


監督:ドメ・カルコスキ
出演:ニコラス・ホルト、リリー・コリンズ、コルム・ミーニイ、デレク・ジャコビ 他
言語:英語
リリース年:2019
評価★★★★☆☆☆☆☆☆

Tolkien(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures『参照:https://joblo.com


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~”天才的な想像力の持ち主トールキンの生涯を追うのでも無く、『ロード・オブ・ザ・リング』が何故生まれたのかを明確に語る訳でもなく・・・可も無く不可も無くな伝記映画”~
~”言語やファンタシーについても興味深いヒントは鏤めつつも、何の変哲も無いイギリス人の男が、友情を育み、恋に落ち、戦争を経るだけの映画”~

もくじ


あらすじ


幼くして孤児となったジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン
幸いにも後見人のモーガン神父の働きかけで名門高校へと入学
そこで不朽の友情を結ぶ事になる友人と、
後に妻となる女性エディス・ブラットと知り合う
青年期になって大地次世界大戦が勃発し、トールキンも戦場へ
戦場で命を落として行く友人や仲間
その壮絶な体験が後に世界を魅了する『指輪物語』へと繋がる
『ロード・オブ・ザ・リング』誕生の秘話が今、明かされる


レビュー

ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)に端緒を開く、大作ファンタジー映画シリーズの名は誰しも聞き覚えがあるはず。闇の冥王サウロンが創り出した強大な魔力を宿す指輪を巡るエルフや魔法使いの物語。壮大な世界観やストーリーの奥深さや個性的なキャラクターが人気を博し、数多くの熱烈なファンを生み出した作品です。

その原作者が『トールキン 旅のはじまり』のスポットライトを浴びる、ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン。

『トールキン 旅のはじまり』は幼少時代のトールキンと1916年にソンムの戦いに従軍していた青年時代のトールキンを行き来しながら物語を進めます。幼少時代は1900年代のイギリスが主な舞台となり、寒色と雲が覆う冷やかな空気感が漂います。母子家庭で育ったトールキンですが、12歳の時に母は病に屈し、弟のヒラリーと共に孤児となってしまいます。他方で、1916年のトールキンはイギリス軍の兵士として戦場で地獄を目の当たりにし、銃声と混沌に踠く男たちの咆哮が飛び交う中、泥に塗れて必死に行方が分からない友人を捜します。旧き良き日々を思わせるトールキンの少年時代と、カオスと絶望が支配する戦陣が減り張りを齎す様な構成となり、歯車の如く一体となってストーリーを描こうとしています。

ハリー・ギルビー演じる幼いトールキンは母のメイベルに引けを取らない伝説や空想好きで、メイベルにドラゴンや勇敢な騎士の物語を夜な夜な聞かされては騎士の雄姿に想像を巡らせますが、母亡き後は孤児院で例の如く新参者が避けて通れない爪弾き者の試練に課せられます。講義初日のシーンでは講師にトールカインと呼び間違えられ、訂正した事で早速睨まれてしまう上、分が悪いトールキンを揶揄わずに居られない同級生が講師の目を盗んで教科書を素早く取り上げてしまう。戸惑うトールキンですが、教科書を取り戻す間も無く本文を朗読する様に指名されてしまいます。『トールキン 旅のはじまり』では残念ながら多いとは言えない爽快なパンチがあるシーンですが、トールキンは毅然とした面持ちで立ち上がり、教科書を見る事無く、内容を流れる様に暗唱してしまいます。困り果てる新入生が講師に叱咤されるのを待ち望んでいた同級生も目を見開いてトールキンを見上げて狐に化かされた様な顔を見合わせます。

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オーディエンスにもトールキンの並大抵では無い才能と文学や詩への熱意がシンプルに伝わるシーンとして印象的です。


映画『トールキン 旅のはじまり』のネタバレ評価
変わらぬ友情と芸術の力で世界を変える事を誓う4人の少年たち

出典:”Tolkien(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://imdb.com

次第に明晰な頭脳と才覚を認められ、同級生からも一目置かれる様になったトールキンはクリストファー・ワイズマン、ジェフリー・バッチ・スミス、ロバート・Q・ギルソンと打ち解けてT.C.B.S.(Tea Club, Barrovian Society)を名乗る4人の秘密結社を創り上げるまで絆を深めます。

トールキンは言語や文学に強い関心を寄せますが、T.C.B.S.のメンバーも各々音楽や絵画など芸術に興味を持っており、4人は変わらぬ友情と芸術の力でいつしか世界を変える事を誓うのでした。

『ロード・オブ・ザ・リング』に顕著な仲間との絆に纏わるテーマが、トールキンの少年時代に根差している事が分かる事で情緒的な重みを付加している構成やシーンは良かった反面、トールキンを除いた3人のキャラクターはスクリーンタイムを相応に与えられていながらスポットライトの縁に片脚だけ踏み入れている様な、印象に残らない描き方をされている点は勿体無く、映画が終わると後ろ髪を引かれる思いに。私に至っては顔と名前が最後まで一致しない程、存在感が薄かったと感じてしまい、然りとてトールキンのキャラクターが極めてユニークとも言えず物足り無い感情を捨て切れませんでした。

そして殆どのバイオグラフィ映画とセットで用意されるラブストーリーですが、『トールキン 旅のはじまり』にも漏れなく付いて来ます。

初恋の女性として描かれ、後に妻となるエディス・ブラットも孤児院で生活する3歳年上の孤児。エディスに扮するリリー・コリンズとトールキンを演じるニコラス・ホルトのロマンスはチャーミングで、観ていて微笑ましく、エディスの奔放とも言える性格がキャラクターとしての魅力を引き立てています。


映画の評価
洒落たティー・ハウスで女性客の帽子目掛けて面白半分に角砂糖を投げ、笑うエディスとトールキン

出典:”Tolkien(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://imdb.com

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しかし、『トールキン 旅のはじまり』は流れの予想が付き易い在り来たりな構成である事や、何よりトールキンが如何にして『ロード・オブ・ザ・リング』なる豪壮な世界に辿り着いたかを全く語り切れておらず、その点が最大のマイナスです。戦場を経験した事でドラゴンや騎士、冥王サウロンを創造したとは思えませんが、『トールキン 旅のはじまり』は恰もそれを示唆している様で『ロード・オブ・ザ・リング』のファンでは無い私でも疑問を禁じ得ませんでした。

真のジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンの魅力を描けたのか、そのクリエイティブなマインドを探索仕切れたのか。残念ながら納得は出来ない作品でした。

映画『トールキン 旅のはじまり』のネタバレ評価
スカイ君
雰囲気も明るかったり楽しげではないのに、戦争の胸打つ重みや意義を語れてもいないし、トールキンの魅力も良く分からない作品だったかな
モカ君
ニコラス・ホルトの演技は凄く良かったなと思うけどね!
映画『トールキン 旅のはじまり』のネタバレ評価
スカイ君
そうなーでもそれだけじゃ良作と言えるエッセンスとして充分とは言えないぜ。驚く様などんでん返しとかは無いんでネタバレと言って良いのか微妙だけど、この先は中身ついても触れてくので、観る前にあまり知りたく無いよって人はネタバレ注意だ!
『トールキン 旅のはじまり』に欠けたトールキンの想像力と世界の”深さ”

『トールキン 旅のはじまり』が面白く無かった最大の理由として、トールキンの発想力や着想に全くと言って良い程フォーカスしていない点を挙げましたが、これはトールキンなる人物の特徴を概ね無視している事と同義では無いかと思います。

成長したトールキンとエディスがシックなレストランで紅茶を嗜み、言語について論じ合うシーンが最たる例です。トールキンは席に着くなりエディスの関心を引こうと、単語や文法、アルファベットまで独自で編み出した言語で物語を聞かせますが、その言語の不思議な響きやルールをトールキンが語る事はありません。トールキンが考えた言語は、例えばどの様な国のどの様な人々に使われるのか、その世界は何処に存在するのか。言語の裏に隠された物語、未知なる文明に想像を巡らせる事無く、トールキンの迸る熱意とクリエイティビティをアピールするだけに留まります。抜きん出た想像力と才能がある事は充分に分かりますが、その想像力と才能の中身を観せてくれない。

トールキンが何故、言語に強い想いを寄せる事になったのかも終始釈然としません。

一方、このシーンではトールキンで無く、意外にもエディスがスクリーンを攫います。トールキンの偉大な才能に気圧される事無く、言葉の発音が齎す響きと言葉が持つ意味のマリアージュがあってこそ言語に美しさが宿ると諭すエディス。この解釈の例として、2人が”セラー・ドア(Cellar Door)”と言い合う場面では、”セラー・ドア”の何処か神秘的な響きを意識しつつ、実際の意味である”貯蔵庫のドア”とのギャップを考えながら口遊んでみると、奇妙な感覚に陥り、言語の概念的な興味深さが垣間見えます。エディスとトールキンが心を通わせ合う一面と、エディスのキャラクターにも深みを与える一面を備えているし、無理にストーリーへ捩じ込まれた感覚を受けないワンシーン。


映画『トールキン 旅のはじまり』のネタバレ評価
トールキンに匹敵する魅力を放つエディス・ブラットの知性も興味深い

出典:”Tolkien(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://imdb.com

然りとて特筆出来るのは如何せんその程度。

驚嘆する様なインパクトがあるとは言えず、印象には残るもののトールキンのファンタスティックな世界やマインドを探求する事を期待していた身としては不完全燃焼でした。

捩じ込まれたと言えば、ソンムの戦いでトールキンが幻視する『ロード・オブ・ザ・リング』のインスピレーションとなる世界。トールキンは新たな世界を創り上げている途中である事が伺い知れますが、短絡的で非現実的な描写の為か、エンドレスで退屈です。火炎放射器で襲い来る敵軍、火達磨になって悲鳴を上げる同士が悶える地獄絵図の最中、如何に発想力に富んだ頭脳を持ち合わせているとは言え、トールキンが炎を吹くドラゴンを連想する余裕があるとは思えない。第一次世界大戦の壮絶な経験が、『ロード・オブ・ザ・リング』の執筆に繋がったと伝えたいのであれば、終戦後にトールキンが戦場での体験や想いを回想し、より丁寧にその幻想的な世界が創り上げられて行く様子を描いて欲しかったと言わざるを得ません。

重苦しく、炎に焼かれ、身を切り裂かれ、凶弾に倒れ、泥梨に喘ぐ男たちを傍目に騎士やドラゴンをスクリーンに映し出して、後に一世を風靡する超大作ファンタジーの誕生秘話の如く語られても納得性が無い。戦争を軽んじているとまで批判すると大袈裟ですが、幾らか惨い戦争も壮大な『ロード・オブ・ザ・リング』も、その威光と重要性を失っている様に思えてしまう事は素直に明記しておきたい。

或いは映し出されている映像も、正当性を多少なりとも欠いた評価を受けざるを得ない点もマイナスです。


映画『トールキン 旅のはじまり』のネタバレ評価
アポカリプティックな世界で雌雄を決する騎士は何処か実際の戦争を描いたシーンの重々しさとはミスマッチ

出典:”Tolkien(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://imdb.com

『ロード・オブ・ザ・リング』で描かれ指輪の幽鬼やサウロンの目と『トールキン 旅のはじまり』の描写とで比較をせずには居られない。『ロード・オブ・ザ・リング』の世界を創造している途中だとは思えない明瞭な姿で炎を放つドラゴンや禍々しい鎧を纏った黒い騎士を描かれても、そこへ辿り着くまでの一連の工程や、その後如何にして魔法の指輪に纏わる物語を完成させたかが歯脱けになっている為、最も知りたかった事や観せて欲しかった事が隠されてしまった様な落胆を覚えました。

『トールキン 旅のはじまり』はトールキンが十全に備えていた想像力とマジカルな才能に蓋をしてしまい、頭脳明晰だが冴えない男が戦争を生き抜いて幼馴染と結婚するだけの平凡なストーリーを観せられた気分になる点が余りにも惜しい。

オックスフォード大学で学ぶ青年となったトールキンがジョセフ・ライト教授に、己が懸案した架空の言語を披露していると、ファンタスティックな言語に魂を辿らせるには、ファンタスティックな歴史と世界が無ければならないと助言したシーンが『ロード・オブ・ザ・リング』の原案に繋がったと解釈する事は出来るものの、飛躍は否めない。『トールキン 旅のはじまり』はパン屑を要所で鏤めつつも、求めていたパンは食べさせてくれない映画。唸らせてくれる様な作品ではありませんでした。

ホルトとコリンズのパフォーマンスからは想いや共感、協調性が際立つ

ホルトとコリンズの相性に関しては上述した通りですが、トールキンが『ロード・オブ・ザ・リング』の父となるまでの軌跡は大きく歪曲し、輪郭が霞んでしまっていますがエディスとの関係には相応のスクリーンタイムを要しており、『トールキン 旅のはじまり』のフォーカスは寧ろこちらでは無いかと睨んでいます。

平々凡々な私の様な人間には到底理解に及ばない発想力と、クリエイターとしての着眼点や天才の思考回路を覗き見る事の方が愉快なオーディエンスとしては『トールキン 旅のはじまり』に対する意見は変わりませんが、一方で観るに値しない作品として一蹴する事が出来ないとも思うポイントとして視点を変えれば大きく捉え方が変わりそうな映画でもある事が挙げられます。

最大にして世界で最も知られている功績が一般に『ロード・オブ・ザ・リング』である以上はスマートな判断とは思えませんが、カルコスキ監督がトールキンの人生から見出したのは孤独の苦痛と絆の重みでは無かったかと感じたのが正直なところです。

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映画『トールキン 旅のはじまり』のネタバレ評価
成長した後も多くの時間を共にし、夢を語らい合った4人を戦争が引き裂いてしまう

出典:”Tolkien(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://imdb.com

トールキンを敬仰する作品として、その功績よりも1人の人間としての生き様に共感した事を表現したかったのかも知れません。

言葉少なに語られるトールキンとエディス、そしてT.C.B.S.の面々との関係を築き上げて行く様子は、同級生から虐められていたと語るカルコスキ監督の少年時代と重ねられ、カルコスキ監督が求めていた友情や人間関係への想いに惹き付けられた結果とも言えます。しかし、カルコスキ監督個人の体験と過去は如何せんトールキンの威光とは残念なから見合わないと言わざるを得ない側面として、『トールキン 旅のはじまり』が帯びるべきだった魔法を覆い隠す理由にはならない。

トールキンの不可思議な世界や着想のヒントは感じられても長続きしない『トールキン 旅のはじまり』は、言語や文化への愛と飽く無き想像力と探究心に突き動かされた男の魅力を捉え切れておらず、人々を魅了したエルフや冥王や魔法使いに満ちた中つ国の輝きを失った映画。過度な期待はせず、実在したとある人物のとある人生を描いた作品程度に捉えて鑑賞した方が無難です。


この映画を観られるサイト

『トールキン 旅のはじまり』は全国の劇場で8月30日より公開!

強くお勧め出来る作品ではありませんが、殊に『ロード・オブ・ザ・リング』のファンであれば一見してみる価値はあるかも知れません。

まとめ

異彩を放つ伝説的な作家では無く、平々凡々な人物の伝記に思えてしまう『トールキン 旅のはじまり』はキャストのパフォーマンスを持て余してしまう残念な作品でした。カルコスキ監督の過去への思い入れの方がトールキンの魅力よりも強く出てしまった様に感じられてしまい、トールキンと同様に両親を失ったり、慣れない環境で虐げられていた人々に共感を得られたとしても、本質的とは言えない描写が多かったです。

『ロード・オブ・ザ・リング』を描く事になるヒントは伺い知れるものの、全容を捉えるには程遠く、故に未知の世界を思考し続けたトールキンのユニークな探求者としての姿を逃しています。

『トールキン 旅のはじまり』は最も語るべきストーリーを隅に置いてしまった事が最も残念な映画で、いつしかのリメイクで改めてトールキンの魅力を捉えた作品が観られる日が来る事を願うばかりです。

トールキン映画 ネタバレ 評価
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