『ナイトクローラー』と言えば身が震えるラスト!メディア界とアメリカ社会を風刺した映画が描く社会病質者に戦慄

ナイトクローラー


監督:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ジレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストン 他
言語:英語
リリース年:2014
評価★★★★★★★☆☆☆



~”夜闇に紛れて血と死の匂いを追い、その様子を映像に収めるナイトクローラーは想像以上にブラック”~
~”アンハッピーなハッピーエンドにきっと戦慄する、社会の闇の深さが見えてしまう映画”~

 もくじ


 あらすじ


学歴も人脈もなく、仕事にありつけないルイス・”ルー”・ブルーム
窃盗で日銭を稼く彼は、偶然にも自動車の事故現場に遭遇
そこで過激な映像を撮ってマスコミに売る報道パパラッチの存在を知る
後日、ビデオカメラと警察無線受信機を入手したルー
早速車強盗襲撃後の現場を撮影して意気揚々とテレビ局へ
そこで知り合ったニュース番組プロデューサーのニーナ
彼女はルーに裕福な白人が被害者となる暴行事件が一番売れると助言
過激な映像ネタ集める為、次第にルーの行動は常軌を逸していく・・・


 レビュー

端整なルックスに人を惹き付ける眼差しを持つルイス・”ルー”・ブルーム。しかし、その整斉たるマスクには常軌を逸した冷たさと翳りが見え隠れします。

ダン・ギルロイ監督が放つスリラー映画、『ナイトクローラー』は売る為なら手段を選ばない、社会病質者のアマチュア・カメラマンを描いたストーリー。視聴率に踊らされるメディアを風刺した『ネットワーク』(1976年)の世界に、闇を抱えた孤独な男にハンディカムを持たせて放り込んでみた様な映画でした。ダークでネオ・ノワールな雰囲気を纏いつつ(『ナイトクローラー』の文字通り、夜闇の中を駆けずり回る描写が多い)、淡々としたブラックな結末に失笑しかねない一種のコメディ

“If it bleeds, it leads”

“流れる血がニュースを呼ぶ”

盗んだ鉄クズで小金を稼ごうとするルーが深夜に運転していると、事故現場に遭遇し、その様子を熱心に撮影しているフリーランスのカメラマングループを目に留める。撮影したショッキングな映像を最も高値で買い叩いた者に売り捌くビジネスは、鉄クズよりもオイシイ話。ルーは早速カメラは買い、犯罪と死が蔓延る夜の世界へ飛び込みます。


ナイトクローラー映画
流れる血が人の怖いもの見たさを刺激し、引き寄せるのがメディアの本質であると思い知らされる

出典:”Nightcrawler(2014) ©Open Road Films”

ルーにとっては幸いな事に、地元テレビ局で首の皮一枚繋がったまま必死にバズるニュースを探すニーナと出会ってからは、彼の血に飢えたカメラマン魂に歯止めが利かなくなります

チャーミングなスマイルに隠された病的な人格を見抜く事が出来ず、寧ろ人を惹き付ける映像を追い求めるメディアパーソンの精神に縁を感じてしまうニーナ。彼女は駆け出しのルーに、貧困層が住まう地域の取るに足らない事件ではなく、著名者や白人富裕層を巻き込んだ犯罪ネタを嗅ぎ付ける様にアドバイスまでしてしまいます。

相棒のリックを率いて越えてはならない一線を超えるルー


ナイトクローラー映画
見境なくあらゆる現場にカメラを潜り込ませるルーの行動は、次第に犯罪の域へ

出典:”Nightcrawler(2014) ©Open Road Films”

犯行現場の”立入禁止”テープを悠々と越えて、血みどろのシーンを次々と手中にして行きます。次第には捏造にまで手を染めてしまい、ニーナが喉から手が出る程欲しい映像を、セックスと引き換えに提供する事を交渉するなど本性を表し始めます。

しかしルーの理不尽で自己中心的な行為が悪と見做され、挙げ句に罰されるかと言えばそんな事はありません。戦慄する様な現実の不条理に則り、彼のナイトクローラー・ビジネスは右肩上がりの成長を続けるのです。

スカイ君
ココからはネタバレありのレビューだ!スリラーとしてのどんでん返しは無いが、ショッキングなポイントは結構ある映画だから興味があるならU-NEXTで体験登録すれば無料で観られるぜ!
モカ君
ルーは悪役の様で主人公の様で、何だか・・・スッキリする後味は無い映画だったけど、考えさせられたよ!
社会病質者の特質をフラットに現す『ナイトクローラー』

ただ、悪質で卑劣なルーに天誅が下らないエンディングを迎えるからと言って、ストーリーがルーの目線を通した正当性に固執する内容かと言えばそうではありません

ルー本人に関して考えれば、恐らく善悪の議論以前に己の行為には何も感じていないのでしょう。

『ナイトクローラー』はルーの毒牙にかかったニーナやリックの悲惨な末路や苦悶を捉えている事からも、ルーの行動の如何に関わらず“ありのまま”の結果を描いていると言えます。その現実的で淡々とした流れに、あからさまに創作された監督の意思や意図を感じず、裏を返せばリアル故にパワフルなメッセージ性を抱いている事をラストで悟りました。


スパイダーマン:スパイダーバース
一見信頼できそうな笑みを浮かべるルーだが、その下には無情なソシオパスが潜んでいる

出典:”Nightcrawler(2014) ©Open Road Films”

ルーの様な社会病質者が確実に存在する社会で、ギルロイ監督は巧みに彼を厭忌すると同時に共感出来る人間として描いている事も『ナイトクローラー』の特筆すべきポイントです。

蔑むべき汚らわしい出来損ないではなく、人間であれば誰にでも存在する深い溝の奥底を覗き込む様な感覚を覚えたのが正直なところです。人生の幸福を追求する”好きな事をして夢を追いかけろ”的な美しい呼び掛けが、ルーを含めた全ての人間を突き動かしている中、彼の遣り方は単に半ば強引な程度とも考えられます。彼自身が金の為に人を殺す事はありませんし、とは言え、複雑。

病的な手段とは言っても、ルーが持ち込む映像は怖いもの見たさと言う矛盾した人間のニーズを確かに刺激するし、例えば同じ様に風刺をメッセージとしている『アメリカン・サイコ』(2000年)のパトリックよりは余程共感出来てしまいます。それが『ナイトクローラー』の魅力で、目が離せないグリップ力の根源です。

次から次へとルーの過激な行動がエスカレートして行く様子が、不謹慎ながらもエキサイティングで、まさにメディアが酸鼻を極める死や血に迫る理由そのものです。鑑賞しながら、心拍数をスリーテンポ程上げるスリルへの欲求を満たされていきます

実はメディアだけではない、”夢を追い続ける”メンタリティへの警笛

ルーを社会病質者として描き立てる『ナイトクローラー』は、冒頭で触れた通り『ネットワーク』(1976年)の様に視聴率に翻弄されるメディア界を揶揄するだけでなく、映画を含む近代のポップカルチャーを通じて流布している人生の捉え方についても風刺している様に思えます。

ルーは若く、有能でやる気に満ちた感じが良いキャラクターですが、そんな特長を兼ね備えた人物が必ずしも明るく、正しい道を進むとは限らない事を表しています。映画として『ナイトクローラー』が発するスリルを楽しくエンターテイニングと感じてしまう事が、ルーの様な人物に周りが、この場合は鑑賞者である我々が、いとも簡単に惹き付けられてしまう危険性を皮肉っているとも感じます。


ナイトクローラー映画
相棒のリックも社会病質者のルーにとってはただの”道具”だったが、その死もナイトクローラーの糧に

出典:”Nightcrawler(2014) ©Open Road Films”

この映画に見入ってしまうのは、作中のテレビ局と同様、ルーが次にどのくらいショッキングな動画をどの様に持ってきてくれるのかをハラハラしつつも期待するから。『ナイトクローラー』では、引き下がらない不屈の精神や力強さが誤った結果を導くケースを痛感させてくれます。

そしてラストで映像撮影の一環で殺される様に図ったリックを早々に忘れ、ルーは街中の売れる映像を集める小さなビジネスオーナーになっています。正義も悪も無い結末に何を思うべきか。

私は際限なく狂気の域に踏み込んでいくルーの暗躍を駆け抜ける様に楽しんでしまい、彼の思い通りに進んでしまったエンディングを観て、否めない高揚を感じてしまった罪悪感が入り混じる捉えどころが無い感情に見舞われました。決して後味は良くないけど、全体を通してスリルを楽しめる秀作だったのではないでしょうか。


 この映画を観られるサイト

『ナイトクローラー』はこちらの動画配信サービスで観られます。

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 まとめ

昨今、巷に流布している”やる気”と”信念”を持てば、自分の人生を思う様に彩る事も出来るしそうすべきだという考えを改めて考えさせられる作品。

非常に上手く社会病質者とその被害者を描いた少しだけゾッとする様な『ナイトクローラー』は、いつの間にか次の展開が気になっているテンポ良いスリラーです。ジェイク・ジレンホールの名演もさる事ながら、ギルロイ監督の描き方も特筆すべき一本です。

ナイトクローラー映画
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