ドラゴンクエスト ユア・ストーリー
監督:山崎貴
出演:佐藤健、有村架純、波瑠、坂口健太郎、山田孝之、ケンドーコバヤシ、安田顕、古田新太、松尾スズキ、山寺宏一、井浦新、賀来千香子、吉田鋼太郎 他
言語:英語
リリース年:2019
評価:★★★☆☆☆☆☆☆☆
ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(2019) ©東宝『参照:https://eiga.com』
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~”冒頭はちょっと退屈、だけど次第にストーリーが濃くなってきて・・・盛り上がった挙げ句、クライマックスではキツネにつままれた様な気分になるラストが待っている”~
~”声優陣のパフォーマンスは悪くないけど、映画が全体的に残念なので抜きん出た演技も水の泡に”~
もくじ
あらすじ
ゲマ率いる魔物たちに連れ去られた母を取り戻すべく、
少年リュカは父パパスと旅を続けていた
旅の道中、遂にゲマと遭遇して魔物たちと激闘を繰り広げるパパス
しかしリュカが人質にとられてしまい、パパスは魔物に嬲られても弱っていく
そしてパパスはリュカの目の前で無念の死を遂げてしまい、リュカもゲマの奴隷として囚われの身となってしまう
そして10年の歳月が流れ、ゲマの元を脱するリュカ
リュカは父の遺志を継ぎ、再び冒険に出るのだった
レビュー
『ドラゴンクエスト』をプレイした事は無いので、原作やゲームのストーリーも知らず、先入観も思い入れも無く『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を評価しても傑作とは言い難い。
その最大の要因は映画として、ビルドアップを一瞬にして済し崩しにするエンディング。
大筋のストーリーは至って単純明快。異世界に封印された暗黒の帝王ミルドラースを復活させようと目論むゲマとその一味が、封印を解く呪文を知る人物、マーサを攫いますが、その息子リュカと父パパスがマーサを救う旅に出ます。しかしゲマとの闘いに敗北し、パパスは非業の死を遂げ、幼いリュカはゲマの奴隷として10年囚われの身となってしまう。辛うじてゲマの手中を脱し、故郷に戻ったリュカは生前にパパスが書き留めた日記を見付け、天空人の血筋を引く勇者だけが引き抜けると言い伝えられている天空の剣を使えばゲマとミルドラースを滅ぼせる事を知ります。パパスはリュカが勇者と確信していた様でしたが、天空の剣を手にしてもリュカには振るう事が出来ず。
そして道中、幼馴染のビアンカと再会を果たしたリュカは、ビアンカと結ばれて息子のアルスをもうけ、勇者を探す冒険に出ようとした矢先、ゲマに襲撃されてビアンカ共々石化されてしまいます。しかし8年後、成長したアルスが石化を解き、リュカとビアンカは再びゲマに立ち向かいます。
そして天空の剣を纏える勇者はアルスである事が明らかになり、一縷の望みを手にミルドラース復活の野望を打ち砕くべく最後の決戦へ。
出典:”ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(2019) ©東宝”『参照:https://eiga.com』
選ばれし者に纏わる伝説や、天下無双の剣。そして闇の帝王が中核を成す物語だと考えると、初めはリュカが勇者だと疑って已まなかったのですが、アルスが勇者だったのは素直に良いサプライズでした。原作を知るオーディエンスからは常識だから何ら驚きも無いと伺ったので、特筆するポイントでは無いかも知れませんが。
前提知識が殆ど無いと、ストーリーの予測が付くのは冒頭30分程度でビアンカとの婚姻も驚きではあったし(リュカを勇者と信じていた以上、如何にも美しい王女様のイメージを体現したフローラが結婚相手に適任と思い込んでいました)、冒険に伴うアクションも楽しめたのでラストに向けては『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の世界に浸る事が出来て愉快でした。シンプルなアドベンチャーとしての爽快なアクションは良く出来ていた観どころだと思います。
しかし、そのマジカルでエンターテイニングだった『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の世界は、あろう事にクライマックスでオーディエンスに平手打ちを見舞います。
ゲマの神殿で『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)の最終決戦さながら魔物とリュカ、アルス、ビアンカとヘンリーの軍が激突するシーンは、もう一歩闘いの様子にクローズアップして欲しかったが、その点はどうしてもハリウッドの技術とスケールに引けを取らざるを得なかったものの、然りとて迫力と臨場感は確かに楽しめたにも関わらず、そこまで高まった感情を嘲る様に挿し込まれたシーンには興醒めでした。ゲームをプレイした事があるオーディエンスにしか伝わらないメッセージが込められていた様ですが、それではプレイしていない者は観るなと言われた気分で不愉快ですらありました。
出典:”ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(2019) ©東宝”『参照:https://eiga.com』
その点、原作を知らないオーディエンスへの配慮もミニマムだったと感じました。国民的な人気を博したゲームである事を考えると、強く責められる気持ちにはならないものの、例えば石化したリュカとビアンカを救う為に突如現れた杖が原作にも登場するストロスの杖である事は鑑賞後に知りましたが、ご都合主義的にストーリーへ割り込まれたので少々残念でした。絶望的な状況を打破する為の奮闘劇も無く、いとも簡単に敗北の淵から下剋上を果たしてしまうので馬鹿らしくなる。
観ているオーディエンスを楽しませる事よりも、監督や制作陣の想いが全てだと言わんばかりの一方的な作品。アメコミ映画や、ハリー・ポッターのシリーズに匹敵するポテンシャルを備えたアイディアになり得たかも知れないのに、日本の映画界は考え抜いてエンターテイニングな作品を作ろうとする意気込みなのか力量なのか、何かが足りない。
世界へ羽撃きたいなどと、そもそも考えていないのかも知れませんが。
稚拙な印象を受けかねないスローモーションを多用しないアクションは、フルCGiの映画に期待したい現実離れした動きを再現しており、良く出来ていました。複雑な擬斗は無かったものの、カメラワークも流れる様にシーンを捉えていて無駄なカットも無く、退屈しない。実際にゲームをプレイしている様な感覚に陥り、その点は楽しかったが、一方でそれならばゲームをプレイすれば良く、映画化する以上は映画として楽しませて欲しいと思う部分もありました。
登場するキャラクターの声を担当した声優陣は、俗に言う豪華キャスト。しかし、度々ハリウッド映画の吹替キャストでも物議を醸す上辺だけのネームバリューを重視して選抜された事を疑われるキャスティングが、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』にも見られたのは残念。殊に坂口健太郎が務めたヘンリーは、話す度に鼻が若干詰まっているのかと思ってしまう口調が気に掛かり、発言内容に集中出来ませんでした。原作にも登場するキャラクターとして、語尾に”なのだ”を付けざるを得ない中、余りにも言い慣れていない事を露呈する蕪雑で不自然なイントネーションが心地悪い。ヘンリーが声を発すると、収録当日に配役を伝えられて必死に台本を読み上げる坂口健太郎の姿しか浮かばず、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の世界から現実に引き戻されてしまいました。
他方で、驚きだったのは有村架純のパフォーマンス。
出典:”ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(2019) ©東宝”『参照:https://eiga.com』
日本の女優やアイドルには疎いので誤ったイメージを持っている可能性は大いにありますが、力強い女性像を演じる類では無く、強いて言えば幼さの中にお淑やかな乙女を秘めた女性が似合う印象でした。ビアンカに扮した有村架純は、リュカにプロポーズされたシーンで可愛らしい乙女の一面を確かに滲ませつつ、ゲマとの闘いではウォーリアーらしいエネルギーを溢れさせる演技を果たしていて素直に楽しめました。
しかし最もインパクトを感じたのはゲマ。
『劇場版ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』(2019年)で暁を演じた吉田鋼太郎が声を務めますが、吉田鋼太郎に魔界から響き渡る邪悪な声が出せようものとは想像もしておらず、エンドクレジットで驚嘆。ゲマの存在は胸に重みを感じさせ、登場シーンも脅威を感じさせるキャラクターで吉田鋼太郎の自然で余裕のあるゲマの声色がその一助となっています。ゲマの台詞は聞き入ってしまうし、一言一言がCGiで再現された表情や動きとタイトにユニゾンしており、吉田鋼太郎の才覚を改めて感じました。
そのパフォーマンスに加え、ゲマのルックスも強烈で身に纏っている装飾も細かくデザインされており、その点でもインパクトフル。
但し欲を言えば、ゲマに限らず、各キャラクターのバックストーリーを彩って欲しかったと感じました。既に述べた通り、映画であってゲームでは無いので何十時間とゲーム機に向き合って冒険を共にするよりも、登場するキャラクターと過ごす時間は極端に短い。時間的な制約がある中で、キャラクターに深みを与えるとすればバックストーリーを与える事ですが、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は善悪が火を見るよりも明らかで、そこに疑念の余地は無い。如何せん原作はゲームなので、原作通りかも知れませんが、ゲマの思惑にも人間として共感出来るポイントを与えても良かったのでは無いかと思ってしまったのでが正直なところ。悪に理由が無ければ、相対する善も空虚で闘う為に闘っている事に他ならない。リュカやビアンカも途端に、根拠無き単なる善の使者に留まり、キャラクターとしての輪郭が霞んでしまいます。
しかし、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』はキャラクターを論ずる以前にストーリーへの不満が大きい。
全般的には詰め込みが過ぎます。
原案のゲームに関して調べてみると、一言で言えば壮大なファンタジー物語。様々な王国や種族が存在し、その世界に特有な能力やアイテム、独特の世界観がある様ですし、ストーリーも到底2時間以内に語り尽くせる内容では無いとの印象を受けましたが、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は欲を張り過ぎている。
何を焦っているのか、ファンの脳裏に焼き付いている設定を改変してまで一編の映画作品に全てのストーリーを押し込もうとしており、先程述べた様なバックストーリーや前提の説明、セッティングにランタイムを割く腹積もりなど毛頭無い事が伺えます。次から次へとテンポ良く進む流れは必ずしも問題とは思いませんが、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』では各シーンの重みが薄れてしまっています。フローラとビアンカのいずれを選ぶか迷う場面では、大して迷っている様でも無く、率直に言ってしまえばフローラが化けていた老婆に与えられた聖水が面倒な判断を肩代わりしてしまう。リュカの人間的な感情を溢れ出させる事が出来た貴重なシーンだったのですが、張り裂けんばかりに膨れ上がったコンテンツをフォアグラ農場のガチョウさながらオーディエンスの喉に押し込む為には、イージーモードで進めざるを得なかった結果です。
出典:”ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(2019) ©東宝”『参照:https://eiga.com』
その果てに辿り着いたラスト。
死闘の末、ゲマを打倒したアルスとリュカ。恐るべき強さを誇ったゲマをも超越するミルドラースなる暗黒の帝王は、どれ程悍ましく、脅威的な姿と能力を有しているのか。そして天空の剣を纏ったとは言え、リュカやアルスは如何にして最大の敵を打ち砕くのか、緊張、好奇心、そして期待は絶頂を迎えていました。
魔界への門から遂に姿を現したのは『オペラ座の怪人』(2004年)のアイコニックな仮面と『名探偵コナン』(1996年~)の犯人を融合させた様な風貌の、人を模した存在。ミルドラースはゲームの世界に送り込まれたウィルスである事を説明された刹那、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』に対する私の熱量は瞬時に液体窒素と化しました。滑稽な展開に失笑したくなるユーモラスな感情、大戦とアクションを期待してしまった己への馬鹿馬鹿しさ、プレイ途中でラストボスとの決戦前に掃除機を掛けようとする母親に電源を抜かれた様な怒りと落胆、それに続く脱力感。把握し切れない、様々な感情が胸中を渦巻きました。
ミルドラースとの最終決戦を一蹴してでも伝えたいメッセージを、ゲームに馴染みの無い私が汲み取り切れた自信こそありませんが、結局ゲームは虚構であって、ヴァーチャルとリアルを混同してはならないと警告していた様に見受けられました。仮にそうだとすると、メッセージに異論こそ無いもののストーリー上、このタイミングに挿し込む理由が皆目理解出来ない。押し寄せるアクションとバトルの波を断ち切って、不自然な形で投げ込む意図は解せない。そして、その警告に抗う様にゲームの世界が人々のもう1つの現実として、大切なリアルの一部だと切り返すリュカは、ゲームに熱中していたオーディエンスへのオマージュと感謝の表れだと捉えたものの、繰り返しになりますがタイミングが悪い。
乱暴に言ってしまえば、センスが無い。
そのミルドラース、元いウィルスも言いたい事だけ言った末にスライムを象ったアンチウィルス・プログラムに掃討されて消滅。ゲームをプレイしていた人々の想いとは一切関係無く、実に無味な理由で敗れ去ってしまい、混乱する私の思考回路はそれ以上考えない事に帰着しました。好い加減で杜撰なメッセージの伝え方には呆れ返るばかり。そして怪しんだ通り、ウィルスを排除した後は恰もゲームをクリアしたかの様な流れが待ち受けており、恐らくオーディエンスの期待に応えられる決戦の筋書きとアクション・シーケンスをデザインする自信が制作陣には無かったのだろうと確信しました。
出典:”ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(2019) ©東宝”『参照:https://eiga.com』
長く人々に愛されたクラシカルな物語や世界に対する思い入れや敬意を、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』から感じる事は出来ませんでした。プレイした事が無い身として、制作陣の熱い想いに突き動かされてゲームを手に取る気持ちになるのではなく、如何に原作と異なるのかを知りたくてプレイに踏み切るかも知れません。
その点、杜撰脱漏なラストに毒されて捻くれてしまった故の戯言かも知れませんが、盆休み前のタイミングに公開している事や、シリーズの新作発売が迫っている事も考えると、初めから巨大な広告塔として創り出され、マーケティングが第一の目的だったのでは無いかとさえ疑ってしまいます。マーケティングの目的で映画を活用する事に問題があるのではなく、それが最大にして最優先の目的となったが為にストーリーを蔑ろにする姿勢が露見したとしか考えられない事を是としたくない。
ファンの意見はまた異なるかも知れませんが、フラットに鑑賞した結果としては、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を楽しめるオーディエンスのペルソナが全く想像出来なかったのでお勧め出来ないと言わざるを得ません。ポテンシャルが高く、様々な可能性の宝庫だっただけに、残念な印象が残る映画でした。
この映画を観られるサイト
『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は全国の劇場で8月2日に公開!殆どの劇場では小さいスクリーンで上映されている様なので、座席の確保はお早めに。
まとめ
ラストボスを倒し、ハッピー・エンドを迎えられるかと思いきや、その満足感さえ与えてくれない作品。違和感しか感じないタイミングで制作陣のメッセージが込められ、混乱を禁じ得なかった映画でした。
メインのステーキを堪能している最中に、バースデー・ケーキが運ばれてくる様な興醒め感が凄まじい。ステーキを食べ切らせてくれないのが『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』です。
アクションも満腹感はありませんが、随所で楽しませてくれましたし、世界観も相応に確立出来ていただけに、大変口惜しい。原作が壮大なだけに、何の因果で2時間足らずの映画に全てを収めようと考えたのか皆目検討がつかない、お勧め出来ない映画です。