遂に実写化!映画『ライオン・キング』で褒められるのはビジュアルだけで、ストーリーは25年前と隅から隅まで同じ

ライオン・キング


監督:ジョン・ファヴロー
出演:ドナルド・グローヴァー、セス・ローゲン、キウェテル・イジョフォー、アルフレ・ウッダード、ジョン・オリバー、ビヨンセ・ノウルズ=カーター、ジェームズ・アール・ジョーンズ 他
言語:英語
リリース年:2019
評価★★★★☆☆☆☆☆☆

The Lion King(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures『参照:https://www.imdb.com


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~”CGiでモナリザの姿をリアルに再現出来るとして、ダ・ヴィンチが描いたモナリザに勝るはずがないけど、ディズニーはそう思わないらしいと感じた映画が『ライオン・キング』”~
~”薄気味悪いくらいリアル!シンバもディズニー女子から”カワイー”の弾幕を浴びせられる事だろうけど、正直、映画よりも科学館のプロモーション映像に相応しい作品・・・コレに2時間は長過ぎる”~

もくじ


あらすじ


命溢れるサバンナの王国プライドランド
その王であるライオンのムファサに、息子のシンバが誕生する
だがシンバはある悲劇で父ムファサを失い、王国を追放されてしまう
彼は新たな仲間と出会い、“自分が生まれてきた意味、使命とは何か”を知っていく
王となる自らの運命に立ち向かうために
ディズニーの名作『ライオン・キング』待望の実写版リメイク!


レビュー

アラジン』(2019年)に続いて公開された『ライオン・キング』は、ディズニーがアイディアに枯渇し、リアリティが無ければ作品として認めまいとしている意図を改めて痛感した浅く、薄味な映画でした。カメラと出会ってしまったダ・ヴィンチが、描いた作品を燃やして全て写真で撮り直してしまったかの様な虚しさに近しい感覚。筆が醸し出す味わいや、映画の芸術としてのあらゆる側面は否定され、実物を模さなければ価値が無いと吐き捨てられた様な違和感

然りとてリメイクを批判する腹積もりも無ければ、写実的である事の重要性も否定しません。腑に落ちないのは、画だけ最先端のCGiで塗り替えて恰もそれが『ライオン・キング』であるかの様に銘打つ意図です。『ライオン・キング』は事実上、25年前のアニメーションが届けてくれた名作を上から塗り潰した作品。文字通り、CGiでトレースしたに過ぎません。その試みに価値を見出すとすれば、上塗りしたCGiのクォリティしか無いので、『ライオン・キング』の観どころはシンプルに映像美に限ります

最先端の技術をこれ見よがしとばかりに『ライオン・キング』に託けて披露するなら、サバンナの動物の生態をリアルに再現した教育コンテンツの方が観たいと率直に思いました。

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しかし一方でディズニーが、映画館に足を運ぶ多くのオーディエンスが求めている作品を世に送り出している点も否めない。『アラジン』のヒットこそ、新たなストーリーやアイディアでは無く、過去に愛した作品を最先端技術でコーティングしただけの映画をファンが求めている事を如実に物語っています。目に映る表面的なエッセンスが焼き直されただけで多くの人々が満足するのであれば、それが正当な評価とされ、ディズニーは的を射た作品を創り出した事になります。映画業界はこの10年程度で、リアリズムこそ創造性に於ける最高の価値だと鑑賞者に植え付け続け、ストーリーは飽く迄も実写映画を通じて語る事こそ最も貴く、意義がある事と感覚的に捉えている人々がチケットを買う様になっている事は明らかです。

その好悪は様々な意見や考え方がありますし、私見で全てを語る事は出来ませんが、『ライオン・キング』は映像美への一点集中型ではある反面でその拘りには脱帽です。


実写映画『ライオン・キング』の映画評価レビュー
良く観ると実物には及ばないものの、その質感は限りなくリアル


出典:”The Lion King(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://www.imdb.com

『ジャングル・ブック』(2016年)で辣腕を振るったファヴロー監督らしく、映像のカメラワークやシーケンスは見応えがあります。

アンディ・サーキスの『モーグリ: ジャングルの伝説』(2018年)でモーションキャプチャーによって再現された動物の顔貌は奇々怪々で、悪名高いエリア51からリークした人間と獣のキメラを観ている様な不気味な印象を受けましたが、『ライオン・キング』は同じく喋る動物が登場するとは言え、比較的薄気味の悪さは低く、表情や動きが自然なのは流石ファヴロー監督です。CGiへの造詣は深くありませんが、想像を超える労力を要したであろう事が容易に想像出来る仕上がり。

引き換えに、犠牲になってしまったのは視覚的なファンタジー。

1994年にスカーやシンバと共に踊った名曲をアカンパニーしたビジュアルは多くのファンを魅了したはず。ハイエナとサイケデリックな緑の背景が印象的なスカーの『ビー・プリペアード』や煉獄を想起させるラストのドラマティックな炎の描写はアニメーションの世界にしか収まらず、リアリティを追求した『ライオン・キング』では楽しません。物理法則から動物の筋肉の動きや毛皮の細部まで克明に再現する事がセールス・ポイントである以上、馴染みのある曲が響いていてもスクリーンに映し出されているのはナショナル・ジオグラフィックで観た様なミスマッチを否めない映像。

アフリカの広野を支配する百獣の王。その一挙手一投足に細やかな注意を払い、額に汗した努力と熱意の賜物である『ライオン・キング』は2019年に人類が到達した最高峰の映像テクノロジーを誇る作品ですが、それだけの為に2時間劇場でコーラを啜り続けるのは辛い。ファヴロー監督はドキュメンタリーに近い感触を目指した事を公言していますが、如何せんコンテンツが全くドキュメンタリーでは無いので、そもそも目指す理由が解せない。映像美に感嘆し、現代の技術力に感心はしますが、エンターテインはされない。


映画の評価
鮮やかな青色が印象的なザズーも写実的に落ち着いたナチュラルなカラーリングに

出典:”The Lion King(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://www.imdb.com

『ライオン・キング』の問題は、視覚的にリアルでも感情的にリアルで無い事に尽きます。

紙とインクで描かれた色彩豊かな動物やアフリカの大地に喚起された感動や悲しみ、温かい感情の数々は『ライオン・キング』では重要では無くなっています。無論、ムファサがスカーの裏切りによってヌーの群れに落とされ、死んでしまうシーンは涙腺が緩みましたが、それも25年前に幼い子供心ながらに悲しかった事を思い出したからに過ぎず、『ライオン・キング』の描写が素晴らしいからでも、映像がフォトリアリスティックだからでもありません。その悲しい気持ちには、何かが足りない。

カメラで忠実に再現されたモナ・リザのモデルを観てその美貌を目の当たりにしても、ダ・ヴィンチが描いた絵画で感じた神秘や温かみには及ばない、機械的で人工的な冷たさが後を引く。映像美を楽しむ余地はありつつも、総じて『ライオン・キング』は25年前のオリジナルに比して魅力に乏しい、ディズニーらしからぬ映画でした。

実写映画『ライオン・キング』の映画評価レビュー
スカイ君
いやもう、言いたい事は殆ど『アラジン』の時と一緒だな・・・だってやってる事がほぼ一緒だからな。こっちの方がさリアルかどうかに重きを置いてるけど、それって映画作品の中身としてどうなんだろ
モカ君
シンバ可愛いし歌も結構楽しめたけどなー 確かにストーリーとか一緒だけど、ビジュアルが違うと新鮮で、新しい物語を観た気にならない?
実写映画『ライオン・キング』の映画評価レビュー
スカイ君
何かなー、それって騙されてる様な気もすんだよな。まぁ、人それぞれだから良いけど。ぶっちゃけタイトルでほぼネタバレしてる様なものだが、もし25年前のストーリーを知らないか忘れた、って人はこっからネタバレ注意だ!
唯一褒められる『ライオン・キング』の映像美を掘り下げよう

『ライオン・キング』に対するファヴロー監督の執念は映画の至る所に散見されます。

『ライオン・キング』はオリジナルに比べて長めのランタイムが特徴的ですが、その理由はオーディエンスに映像美を楽しむだけの余裕を持たせる工夫を凝らしている事にあります。優美な景色も落ち着いて一望し、深呼吸をして視界を支配する造形や色彩を取り込んで噛み締めたいと思いますが、『ライオン・キング』はそうした瞬間を多く与えてくれています。時折、音楽や台詞が無く、草が擦れ合う音や昆虫が歩く微かな足音、動物の呼吸音を明媚な景色や、恐ろしくリアルな動物と共に楽しめる様になっている点は素晴らしい。

人間特有の多様な表情や顔付きを動物で再現しようと試みて失敗したとしか言えない、『モーグリ: ジャングルの伝説』については既に述べた通りですが、『ライオン・キング』は表情では無く全身で各キャラクターの特徴を表現している事もクレバー。スカーとムファサの体格や、動き方にも各々の性格や内面性が反映されており、感服しました。

ムファサを前に毛繕いに勤しむスカーの動きは、野生のライオンとして違和感が全く無いのですが、同時にムファサへの軽蔑や厭悪が伝わります。これはアニメーションを活用したオリジナルには無かった妙々たる演出で、『ライオン・キング』で最も評価に値するポイントだと感じています。


実写映画『ライオン・キング』の映画評価レビュー
あらゆる場面に登場する生き物の質感や挙動が怖いくらいリアルで、デジタル映像だとは到底思えないほど


出典:”The Lion King(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://www.imdb.com

『ライオン・キング』に強力なオリジナリティこそありませんが、リアリティの追求を極めたが故に独自の美質を備えている事は否定し切れない。

プンバァは残念ながら写実性を追求した結果、アニメーションで描かれた可愛らしい愛想の良さが完全に失われ、半笑いで正面を向いている公式ポスターを観るとホラー映画の化け物の様にも見えてしまいますが、ムファサやシンバは美しい仕上がりになっています。ムファサの鬣に至っては、観ているだけでシルキーな質感が手に取る様に分かります。プンバァにしてもムファサにしても0と1で構成されている事を殆ど意識させないので、その技術の高さには畏怖さえ禁じ得ません。

サバンナのランドスケープも登場する動物に劣らず美しく、観どころです。

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『ライオン・キング』はアイコニックな昇る太陽のシーンを除けば全てCGiですが、そこに宿る制作陣の情熱も凄まじい。ヴァーチャルの世界を創り上げ、コンピューター・ゲームをプレイしている様な感覚でヴァーチャルのカメラでデジタルのサバンナを撮影しています。これによって計算し尽くされたデジタルの世界には無い、実写映画特有の微妙な狂いをも再現しており、実際のカメラが物理的に成し得る範囲のアングルに限定し、厳密にはCGiでありながら実写映像と錯覚する出来栄えを実現している点には絶句。

最大にして唯一の観どころには、観る者を唸らせる熟練の職人の手業を思わせる究極の拘りが燃え、暫し圧倒される事は確かです。

超リアルなネイチャー・ドキュメンタリーとしては凄いけど、それを求めてたんでしたっけ?

コミックス調の可愛らしい仔ライオンが歌うのと、サバンナのライブ中継映像としか思えないスクリーンの動物が途端に流暢な英語で喋って歌うのは違和感のレベルが格段に違う。個人的にはジャパンな要素が一切無い風貌のハリー・ポッターから、流暢な日本語が飛び出した異常な違和感が少々トラウマに近い思い出となって吹替版を可能な限り避けているのですが、『ライオン・キング』でも似た感覚を覚えました。

その点、吹替映画を見慣れている日本人の大半は『ライオン・キング』のリアルと空想の無理なマリアージュに対する気持ちの悪さは、大して感じないかも知れません。

しかし実際に大草原を駆け回るライオンを撮影して、所謂”おもしろ動画”の要領でアフレコした様な感じに時折笑える様な気がしなくもない。『ライオン・キング』ではディズニーの映画を構成する音楽や映像、全体的なスタイルのバランスが齎す独特で愉快なムードが済し崩しにされてしまい、誕生したばかりのシンバがプライドロックで高く持ち上げられるシーンも、オリジナルで感じたマジェスティックで感動的な威光を失っています。アニメーションが最も巧みに表現した人間の表情を与えられた動物たちは、空想の世界だからこそ楽しめた魔法の煌めきを奪われてしまっていました。


実写映画『ライオン・キング』のネタバレあり評価
威厳と感動を感じる王子の生誕というよりも、トロフィーの様な・・・


出典:”The Lion King(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://www.imdb.com

それ故に声優たちのパフォーマンスに対する印象も、キャラクター毎に大きく乖離してしまった事も『ライオン・キング』の難点です。

スカーに扮するのは『ドクター・ストレンジ』(2017年)のモルド役や『オデッセイ』(2015年)のビンセント・カプーア役としても馴染みのあるキウェテル・イジョフォー。イジョフォーの声色や演技には『ライオン・キング』のストーリーそのものである『ハムレット』の舞台を想像してしまう、シェイクスピアリアンでドラマティックなエネルギーを感じます。スカーがスクリーンに映し出されると、『ライオン・キング』には活気が溢れて楽しい。

しかし、成長したシンバ、特にビヨンセ・ノウルズ=カーターが演じるナラには声優によるアフレコよりも、『ダーウィンが来た』のナレーターが時折、面白半分に動物の代わりに喋っている様な印象が強く、映画の台詞としては捉えづらかったのが正直なところ。ナラが喋ると、映像で観ているシーンよりもビヨンセがスタジオで台本を片手に台詞をレコーディングしている風景の方が脳裏を過ります。そしてシンバとナラのデュエットも、ビヨンセの歌声は流石ですが、シンバを演じるドナルド・グローヴァーとの相性を感じる事も難しく、少々冷めた面持ちでスクリーンを見つめてしまいました。


実写映画『ライオン・キング』のネタバレあり評価
最も興味深く、『ライオン・キング』の救いとなるキャラクターは意外にも悪役のスカー


出典:”The Lion King(2019) ©Walt Disney Studios Motion Pictures”『参照:https://www.imdb.com

二人の『キャン・ユー・フィール・ザ・ラブ・トゥナイト』が美しい音色を奏でていないと言いたいのでは無く、シンバもナラもスカーに勝る活気を醸し出せていない、感情移入もし難いキャラクターとなっている事がオリジナルの名シーンに宿ったインパクトを吸い取ってしまっている事が口惜しかったです。

『ライオン・キング』は世界中の秀でた才能と最高峰のテクノロジーが生み出すシナジーの凄まじさを証明する映画として人々の記憶に残る一方で、そのエネルギーを向ける先を統べるビジョンは、単に”リアルに拘る”だけでは事足りない事実を物語る後世への警告でもある作品でした。


この映画を観られるサイト

『ライオン・キング』は全国の劇場で8月7日に公開!『アラジン』の時と同じく、全国のディズニー・フリークが映画館に殺到する事が予想されるので、鑑賞される方は予めネット予約をお早めに!

まとめ

『ライオン・キング』はリアルを極限まで追求する一方で、リアルとは程遠いアニメーションの内容にくっつき過ぎて、『アラジン』と全く同じ様に火傷している作品。

結局は何を伝えたくて、何を見せたくて何千人の何百時間もの労働が費やされたのか明確に分からない映画でした。

新しいエンターテインメントへの可能性を秘めてはいますが、『ライオン・キング』は非常に中途半端な作品で、デジタルが齎す息を呑む様な、しかし人工的なビジュアルを楽しむ以外に観どころがありません。人類が得た最高峰の映像技術を体感する為には格好の機会ですが、2時間もの映画に仕立て上げる程の価値は感じない。

登場する動物も、最早動物の一方で人間の様な個性を半端に持ち合わせているのでキャラクターとしての側面に集中するよりも、言い表し難い違和感が感情をリードしてしまう。大スクリーンで観た方が映像は確かに映えますが、後から安価にブルーレイで鑑賞しても大して損はしていない様に思います。

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