《シンビオート》と融合して誕生したスパイダーバース最凶のアンチヒーロー?映画『ヴェノム』を徹底レビュー!

SF 『ヴェノム』2018年映画感想

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ヴェノム


監督:ルーベン・フレイシャー
出演:トム・ハーディ、リズ・アーメド、ミシェル・ウィリアムズ、ジェニー・スレイト、レイド・スコット、メローラ・ウォルターズ 他
言語:英語
リリース年:2018
評価★★★★☆☆☆☆☆☆




~”サム・ライミのスパイダーマン3の時より激しく、凶悪なアンチヒーローが大暴れ”~
~”グロくないけど演出が時折ダークで”最凶”らしい感じ、でも何だかこの筋書きは何度も観た気が…新鮮味は期待しない方がいい?”~

 もくじ


 あらすじ


ライフ財団の創設者、カールトン・ドレイク
表向きは若き天才、裏の顔は研究の為なら被験者を殺す事も厭わない金の亡者
地球資源の枯渇を受け、人類は宇宙に進むべきだと考えた彼は、
地球外生命体《シンビオート》を発見し地球に持ち帰り実験を始める
シンビオートとの共生で人類は宇宙でも生活できると踏んだが、被験者たちは融合するなり死んで行く
一方、やり手のジャーナリストのエディは人体実験に耐えかねたライフ財団の研究員に情報提供を受ける
そして財団の研究所に忍び込んだエディだったが、そこでシンビオートに襲われ…


 レビュー

ヴェノムと云えばサム・ライミ監督の『スパイダーマン3』(2007年)で実写作品へのデビューを果たしたヴィランとして印象的だ。1984年に原作コミックスに登場して以来、ファンの間でも根強い人気を誇るキャラクターでスパイダーマンに並ぶポップ・カルチャーのアイコンとしても知られている。

同作では、原作同様に初代ヴェノムとしてエディ・ブロック(演:トファー・グレイス)がスパイダーマン/ピーター・パーカーを翻弄したが、作品の評価は芳しくなかった。

登場する中心キャラクターの人数が単純に多過ぎた故に、作品全体のサブプロットが複雑となってしまったのが主要因と云うのが今のところの総意だ。ファン待望の登場を果たすも、ヴェノムは脇に追いやられて本来の魅力を持て余した印象だ。

そのヴェノムが全てのスポットライトを浴びる中心キャラクターとなって復刻を果たす事になったのは驚きと喜び混じりで受け取ったニュースだった。特にソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが関与する以上、良い予感はしなかった。それも、『アメイジング・スパイダーマン2』(2014年)の牙痕が今も深く脳裏に残っているからである。

『スパイダーマン3』の不評を受けて(裏舞台での事情は様々だった様だが)、トビー・マグワイア演じるスパイダーマンは打ち切りとなり、ライミも同シリーズのメガホンを置く事になる。そしてリブート作品としてスパイダーマンの名を冠したシリーズが『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)を第一作として新たに生まれ変わったのだ。


2018年の実写映画『ヴェノム』徹底レビュー
主演を務めるトム・ハーディとヴィランに扮するリズ・アーメッド

出典:”Venom(2018) ©Columbia Pictures”『参照:https://www.imdb.com

アンドリュー・ガーフィールドを主演に迎えた同作は賛否両論の声が挙がったものの、サム・ライミ監督のトリロジーとは異なるテイストが人気を博して続編の制作に繋がる。しかし、『アメイジング・スパイダーマン2』は『スパイダーマン3』の過ちをまたも繰り返す運命にあった。

『アメイジング・スパイダーマン2』もストーリーラインを細かく刻み過ぎて、全体的に中途半端な作品となったのだ。単純に見てもランタイムに収められる以上の主要キャラクターを登場させており、『スパイダーマン3』の二の轍を踏む形となってシリーズは幕となった。

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以来、一部ファンの間ではソニーが輩出するヒーロー映画の制作には一種のジンクスが掛けられた。扱い切れない量感のコンテンツを詰め込んで、自滅しかねないと云う不安が残ったのだ。

私も何処か不安が残る気持ちで劇場に足を運んだ記憶があるが、半ば予想が的中した感覚があった。主演トム・ハーディのプレゼンスに疑念を挟む余地こそないものの(エディ・ブロックとしては違和感のない演技と立ち回りだ)、薄氷を切り抜いた様なストーリーはオーバーロードを恐れての事なのか、新鮮味が一切無い。

昨今のハリウッドに珍しくない傾向だが、ネームバリューに肖って(それはそれでマーケティング戦略として結構なのだが)竜頭蛇尾となるパターンだ。ヴェノムはダークで如何にも凶悪なイメージが魅力的なキャラクターなので残念である。

オースティン・パワーズ x スーパーヒーロー?

フレイシャー監督の意図が気になるところだ。この作品ではヴェノムで何をどの様に描きたかったのかが、甚だ疑問である。

如何せんスーパーヒーロー映画である。原作コミックスを隅から隅まで読破したコアなファンを喜ばせる仕掛けやネタが派手なアクションと共に鏤められていれば、充分だろうと思われたら複雑な心境と言わざるを得ない。ファンサービスが有難い事は確かだが、それだけで2時間も暗闇に鎮座していたいとは思わない。それはハードなファンも同じだろう。

人間を食い尽くす(単に”食う”のではない、食い”尽くす”だ)為に飛来したと言うシンビオート(宿主と結合して一心同体となる架空の知的な寄生生物)であるヴェノムが、宿主エディ・ブロックと出会って人間を他のシンビオートを始めとする様々な脅威から護る立場に転じてヴェノムのアンチヒーロー生活が始まる。一文に纏めると実に極端で腑に落ちない印象があると思うが、本作を鑑賞したとて結論は同じだから驚きだ。

そう、腑に落ちないのだ。

ヴェノムが弾けるポップコーンにも負けぬ勢いで心変わりを果たすのは優しく言って雑だ。VOGUEのカバーを務められそうな婚約者と職を失った程度の”負け犬”シンパシーで人類の守護者になる決心がつくなら、滑って新品のiPhoneの画面を粉々にしてしまったばかりの孤児のティーンエイジャーが宿主でも話は概ね同じ方向に進みそうである。

ハーディ演じるエディとの微笑ましい(?)会話がコミック・リリーフとして入る他は、登場人物についてハイライトしたい事も差し当たって無い。


2018年の映画『ヴェノム』の主演トム・ハーディがヴェノムと会話している
悪くないバディ・コンビなのだが、笑いで乗り切れるほど他の要素は粒が揃っていない

出典:”Venom(2018) ©Columbia Pictures”『参照:https://www.imdb.com

フライシャー監督が、どの様にヴェノムのキャラクターを理解し、その上でどの様に描こうとしたのかが釈然としないまま、重要なシーンが流れ去って行くのを見て悪い予感が募る。

主人公のキャラクター・デベロップメントを蔑ろにしてしまう様では、残すところ期待できるのはプロットとアクションだろうか。

プロットと云えば悪役ドレイクのマッドサイエンティストな研究を通じて描かれるシンビオートとの融合までの流れも、何処か不自然だ。人間に寄生して超人的な身体能力を授けるアンドロメダ銀河製のスライムが負け犬に同情して共闘する映画に、不自然と指摘するのもおかしな話だが。

『ヴェノム』ではシンビオートと宿主となる人間の適性が論点だったはずだ。異なる生命体間の共生が可能なのは相互に適合した場合だけで(適合しないと宿主は絶命してしまう)、試してみない事には適性を正確に予測する事も不可能だ。だからこそ、ドレイクがシンビオートを使って秘密裏に行っていた無慈悲で理不尽な人体実験の悪質さが際立っていた。

しかし、マレーシアで消息を絶ってドレイクの研究所に格納されなかったシンビオート、ライオットに関してはどうだ。難なく次から次へと宿主の人間を変えてサン・フランシスコまでの遠路を移動すると云う快挙を成し遂げている。ドレイクも真っ青だろう。ところが易々とライオットに寄生されたドレイクは真っ青になる隙も無く、スーパーヴィランと化してエディの前に立ちはだかる。


2018年の映画『ヴェノム』の解説について
宿主の記憶も受け継ぐはずなのだが、エディに寄生しながらアニーの事を知らないなど説明のつかないシーンもある

出典:”Venom(2018) ©Columbia Pictures”『参照:https://www.imdb.com

延長線上の話にはなるが、ヴェノムもエディの元婚約者アニーと問題無く融合する事が出来るなどやはり前提が所々でぐにゃりと曲げられて行く。蛸壺にでも詰め込めそうである。

ジャンル問わず、ストーリーのニーズに応じてルールが二転三転する場当たり的なスタイルは駄作に顕著な特徴とも言える。『ヴェノム』のプロットは残念ながらその類だ。全体の流れも予想し難しいものではなく、驚きや注意を引き付けてくれる瞬間に乏しい。教科書的な筋書きの中でも王道と言って過言ではないだろう。

プロット、キャラクター・デベロップメントはいずれもドレイクの宇宙船と共にマレーシアで果てた様だ。

『ヴェノム』の残る観どころとして期待したいアクションの数々も、頭一つ抜けないアンイマジニティブな仕上がりとなっている。シンビオートのスライム・ライクな独特の物理的特性と云うポテンシャルがあっただけに、この点も上手く活かせなかった事が悔やまれる。

アンチクライマックスなラストまでの道中をバイクで駆け抜ける

ヴェノムとライオットのショーダウンが飾るラストは、何とも味気が無かった。その前の市中を駆け巡るカーチェイス(正確にはバイクチェイス、だろうか)にカメラワークとコレオグラフィの工夫が感じられただけに残念だ。

ヴェノムに寄生され、半ばパニック状態でバイクを走らせるエディを追うドレイクの刺客。新設な事に、悪役と分かる様に黒塗りのSUVに乗ってくれた手下グループが、次々と襲い来るスピーディな展開に目を奪われるシーンだ。エディ自身は暗夜の中バイクを疾走させるだけで精一杯な様子なのだが、ヴェノムが上手い具合にアシストして襲撃者たちを蹴散らして行く。

SUVが豪快に破壊されて行くだけでも爽快なのだが、人間体のエディから黒い触手の様にヴェノムが攻撃を繰り出す様子もバイクを使ったアクションと調和していて面白い。エディが攻撃の素振りや意思を全く見せずとも、不意を突く様に猛攻が放たれる感覚は素直に楽しめる。マイケル・ベイ監督ばりの派手な爆発の演出も夜闇に映えて観ものだ。

ヴェノムのアクションはSUVとの相性は良い様だが、シンビオート同士となると話は別らしい。


2018年の映画『ヴェノム』のヴィランであるリズ・アーメッドのドレイク
リッチ&バッドなドレイクを演じるリズ・アーメッドの幼い顔貌と秘められた冷徹で残虐なパーソナリティのギャップが印象的だ

出典:”Venom(2018) ©Columbia Pictures”『参照:https://www.imdb.com

ヴェノム曰く、ライオットは同種の中でも桁違いの殺傷能力を誇る、言わば上級格のシンビオートだ。ヴェノム自身も腰が引けている様子で慄いていたが、ラストでいよいよ戦闘が始まってみて感じたのは昂る興奮ではなかった。ナメクジの交尾をムーディな月明りで鑑賞していると錯覚させる微妙な気分だ。

決死の覚悟でライオットに挑むエディとヴェノムだが、戦闘と云うのは時折黒いスライムが月光を反射させながらスクリーンを行き交うばかりで何が起きているのか見当がつかない。状況を把握しようとする中、どちらが発したとも分からない”グァア”と云った呻き声をドルビー・アトモスが高音質で届けてくれていた。

ヴェノムの苦渋に満ちた表情が遮る瞬間があるので、負けているのだろうなと察しがつく程度だが手に汗握る演出とは程遠い。

そうしている内に決戦の行方がそもそも何に影響するのかが思い出せなくなってくる。シンビオートは酸素呼吸をする生命体と融合しないと生き延びられないはずだ。つまりは地球に飛来したとて、殺戮を繰り広げるとは思えないし、仮にそうだとしても生身の戦闘力以外には特に脅威となる知性も武器も持っていない。炎と一定周波数の音に弱い事が判明している以上、火力の高い武器を持ち合わせている人間としては対策にさして困る事も無さそうだ。そんな現実的で淡々とした理屈を脳裏に並べてしまう程、このラストは退屈である。

ライオットの戦闘能力も虚仮威しに終わり、シンビオートのブルータルで凶悪な印象はライオットを焼き尽くした炎と共に灰屑と化して散った。


2018年の映画『ヴェノム』のシンビオート
視覚的に優劣が全く把握できないシンビオート同士の戦いには、派手派手しさ以外に感じるところが無かった

出典:”Venom(2018) ©Columbia Pictures”『参照:https://www.imdb.com

『アメイジング・スパイダーマン2』や『スパイダーマン3』の反動で真逆の安全路線を行く事にしたのだろうか。スピード違反で注意された事に気を悪くして、時速15キロで走行している様なものである。時速170キロで飛ばすのも危険だが、時速15キロでお望みの安全運転だろうと思うのもどっちもどっちだ。

そして『ヴェノム』からはオリジナリティが感じられないまま幕は下りてしまった。

『スパイダーマン3』でヴェノムの実写化が発表された当時、私は小学校高学年だったのだが、あの時は心が高鳴ったものである。ストーリーが多少フラットでも、リアルなヴェノムがスクリーンで暴れる姿は童心に訴えるものがあった。CGが高度化し、普及した今では残念ながらその程度で感動し難いのが現実だが『ヴェノム』には、十数年前に感じたエキサイトメントの欠片だけでも呼び起こして欲しかった。

ポスト・クレジットでは続編である『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021年)に直結するティーザーを見せてみらえるが、『ヴェノム』だけで判断すれば期待し過ぎは禁物と云ったところだろう。


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 まとめ

グッド・ガイとバッド・ガイがスーパーパワーを使って火花を散らす、典型的なアメコミ映画だ。キャラクターの深堀りをする様子も無く、ハーディのパフォーマンスとコミック・リリーフの相乗効果で杜撰で味気ないプロットを誤魔化そうとした様だが、残念ながら勢い不足である。全く論外な作品とは言わないが、スーパーヒーロー作品を未体験のアーリー・ティーンに気に入られそうな作品だろう。

肝心のアクションも制作陣の力たエフォートが感じられず、特にラストで失速するところも頭をポリポリとしてしまう点だ。

期待し過ぎず、流し観る程度に鑑賞するには良いかも知れないが時を忘れる様な映画体験にはならないだろう。宣伝されていた程のグロテスクな描写も無く、ホラーやスプラッタ色も無いので良くも悪くも特徴に乏しい。ショック・バリュー目当ての血生臭い描写にも感心はしないが。

続編はフレイシャー監督とバトンタッチしてアンディ・サーキスがメガホンを握る様なので、巻き返せるかに注目したい。

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