ヒヤっとしたい人へお勧めのホラー映画『アス』の解説と考察!結末もネタバレありで解説します

アス


監督:ジョーダン・ピール
出演:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカー 他
言語:英語
リリース年:2019
評価★★★★★★★★☆☆

Us(2019) ©Universal Pictures『参照:https://www.imdb.com


 もくじ


『アス』の主な登場人物

アデレード・トーマス/ウィルソン(ルピタ・ニョンゴ)
『アス』解説と考察

幼少期に家族で遊びに来たサンタクルーズの行楽施設でドッペルゲンガーに出会ってしまった女性。そのトラウマから失語症を患うも克服し、ガブリエル・ウィルソンと結婚して家族を築く。勇敢な女性でテザードを迎え討ち、家族を護る事に全力を尽くしますが彼女はある大きな秘密を抱えていて・・・

Us(2019) ©Universal Pictures『参照:https://www.imdb.com

ガブリエル・ウィルソン(ウィンストン・デューク)
『アス』解説と考察

アデレードの夫で、ジェイソンとゾーラの父親。愛称はゲイブで、家族で付き合いのあるタイラー家には密かに闘志を燃やしており、バカンス中にボートを借りて自慢しようとするなど小金持ち特有の見栄っ張りな面がある。テザードが出現した時も比較的冷静で、家族を守るべくアデレードドと共にテザードへ立ち向かう。

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ジェイソン・ウィルソン(エヴァン・アレックス)
『アス』解説と考察

アデレードとガブリエルの息子でウィルソン家の長男。まだ幼いが年齢の割にはしっかりしており、落ち着きのある雰囲気を持っていて、テザードと自分の行動が一定の繋がりを持っていて操る事が出来る事を見抜いた。ジェイソンのテザードはパイロマニアのプルートと名乗る男の子で顔に酷い火傷の跡がある。

Us(2019) ©Universal Pictures『参照:https://www.imdb.com

ゾーラ・ウィルソン(シャハディ・ライト=ジョセフ)
『アス』解説と考察

アデレードとガブリエルの娘でウィルソン家の長女。良く音楽を聴いており、大勢の友達と遊ぶ社交的なタイプでは無いが特段シャイと言うのでも無い女の子。テザードはアンブラと名乗り、不気味な笑みを常に湛えていて、相手が恐怖する様子を楽しむ残忍性が垣間見える性格。

Us(2019) ©Universal Pictures『参照:https://www.imdb.com

『アス』解説と考察
スカイ君
分かっているとは思うが、ココから先はネタバレありで解説を語って行くぞ!レビュー記事を読みたいって人はこっちをクリックしてくれな!前半はネタバレなしだ!この記事は映画を観ても、良く分かんなかった人向けだぜ
モカ君
この記事読んでからもう一回観たら発見があったり、違う意味で楽しめるかも!コメントもくれると嬉しいなぁ

『アス』の結末解説


ストーリーとどんでん返しの振り返り

1986年。

アデレード・トーマスは両親と共にサンタクルーズの行楽施設を訪れ、父親がモグラ叩きに熱中した隙に海岸沿いに迷い込んでしまいます。夜の浜辺は団欒する若者で賑わいますが、傍らに佇む不気味なミラーハウスは閑散としていました。

惹き付けられる様にミラーハウスへ入って行くアデレード。

四方八方を埋め尽くす鏡面に映る自分を見回すと、1人だけアデレードに背を向けたままの鏡像が。それは同じ服装と髪型をしたもう1人の自分で、驚愕したその刹那、もう1人の自分に首を絞められて気絶してしまう。アデレードは両親の下に戻りますが、ミラーハウスでの強烈なトラウマの為か言葉を発せなくなってしまいます。

30年程経った今、アデレードは失語症を克服し、ゲイブ・ウィルソンと結婚して2人の子供に恵まれた幸せな日々を送っていましたが、あるバカンスが全てを変えてしまう。ゲイブの提案でサンタクルーズの別荘へ向かう事になったウィルソン一家。アデレードは過去のトラウマから提案に否定的でしたがゲイブは聞き入れず、裕福な友人一家と張り合うべくアデレードを押し切ります。しかしアデレードの悪い予感は的中し、その夜に惨劇の火蓋が切って落とされます。

その惨劇の裏舞台と衝撃の真実とは・・・

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『アス』解説と考察
テザードの不気味な人の鎖が成す意味とは

出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

米国全土をパンデミックの如く“テザード”と名乗るドッペルゲンガーの集団が襲撃し、混乱と恐怖が広がってしまう。テザードは米国政府が極秘に実行し、放棄したクローン計画の産物で長年、アデレードが迷い込んだミラーハウスに通じる地下通路で地上と隔離されて生きて来た人間である事が明かされます。テザードは地上の人間と精神が繋がっており、地上の行動を真似て生きて来たが忘却の世界で生きる事に耐えかね、地上を乗っ取るべくして出現したのでした。

ウィルソン一家は辛うじて対になるテザードを殺して窮地を免れますが、アデレードは30年前にミラーハウスで本物と入れ替わったテザードである事が衝撃の事実として明らかになります。アデレードのテザードとして登場した”レッド”は、30年前に両親と逸れてミラーハウスに迷い込んだアデレードで、アデレードはトラウマで失語症になったのでは無く、テザードだった為に言語能力がそもそも備わっていなったから言葉を発さなかったのです。

一方でテザードになってしまったアデレードは、地下で暮らし、唯一言葉を話せるテザードとしてリーダー格となって地上への報復計画を練っていたのでした。


エンディングの解説と考察

次々と姿を現したテザードによって酸鼻を極める惨劇が米国を襲いましたが、テザードの目的とは。

地上で生活する、謂わばオリジナルの自分を殺したテザードは地下の世界で抑圧され続けた自由を謳歌するかと思えば、生気の無い眼で一列に並び、手を繋ぎ始めます。鎖の如く繋がったテザードの堵列を以て『アス』は曖昧なエンディングを迎えます。

テザードの目的を理解するには、テザードのアイデンティティから考える必要があります。

ウィルソン家を襲ったテザードに対し、困惑するゲイブが何者かと問うとレッドは不気味な笑みを浮かべ、次の様に答えます。

“We’re Americans”

端的ながら、ミステリアスな返答です。しかし、これがテザードの全てであり、襲撃の目的にも繋がります。テザードはアメリカ人になる事が目的なのです。


『アス』解説と考察
地上の人間のクローンとして存在するテザードとその目的を説明するレッド

出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

しかし、あの堵列の何がアメリカンなのか。

『アス』のオープニングで映し出されたニュース番組の中継に注目すると、その内容は米国史上前代未聞の大イベント『Hands Across America』の宣伝。1986年に開催された、大西洋から太平洋まで国民が15分間手を繋ぐという趣旨のチャリティー・イベントでした。幼少期のアデレードが父親に景品で当ててもらったシャツにも描いてある、『スリラー』でも有名なマイケル・ジャクソンも参加した程の一大イベントで当時、アメリカ人である事の誇りと愛国心を謳った活動として650万人近くが手を繋いだそうです。

しかしこの活動の映像を観て、愛国心よりも気味の悪さを感じたピール監督。

愛国心の名の下であれば何も考えず、にこやかに従う国民の異様な姿がホラー映画の様だと言われると確かに不気味。しかし、それが米国民であり、同じ様に無知でアメリカンとしてのアイデンティティを自負するテザードの目的は同じ様に異様とも言える愛国心に満ちた地上の一員になる事。ピール監督はその愛国家を屍の様なテザードと並べる事で風刺する意図も隠されているエンディングにもなっています。

そして邦題では一見、結び付け難いのですが『アス』は英字で『US』と綴ります。この字面だと、米国を意味する『U.S.』とも解釈出来て、『アス』は現代社会に蔓延る社会問題の中でも、最もアメリカンな悪夢を具現化した作品なのです。

現実に存在する怪物テザード

陽光が届かない暗い地下で過ごし、兎の生臭い肉を食らって生きるしかなかったテザード。彼らはホラー映画の悍ましい幽霊の様な存在を超えて、何を表すのか。

テザードが抑圧され、想像を絶する環境下で過ごして居る間、地上の人間は温かい食事に舌鼓を打ち、物質的な富と格差の頂点を目指す。『アス』では摩訶不思議な得体の知れない存在の様に描かれますが、レッドの話に耳を傾けるとテザードも同じ血肉で出来た人間である事が分かります。しかし、その苦悩は隠蔽され、密かに、そして永久に抑圧された社会で生きて行く事を強いられていて地上の人間は手を差し伸べることはおろか、存在さえも認識する事無く、淡々と利己的な日々を送る。

その結果、テザードは反逆に走るに至りますが、これこそが現代社会の縮図です。


『アス』解説と考察
恐れられ、忌み嫌われる移民とアメリカの現代社会の関係性を示唆する『アス』

出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

テザードは得体の知れない、何処からとも無く表れる移民と、そしてその脅威として社会的な優位性を貪り、様々な幸福を独占するアメリカ人に牙を向け、アメリカ人は移民を極端に恐れて手中の特権を守るべく抗う政治的な構図が『アス』に隠されています。そして襲い来る怪物のテザードは同じ人間であるだけで無く、顔形まで瓜二つ。地上へ這い出たテザードの薄気味悪い風貌には顔を顰めざるを得ませんが、その怪物は”アス”、アメリカ人自身である事を如実に表しています。

レッドが”We’re Americans”と発言した裏の意図も、不可解な化け物こそアメリカ人である事を示唆しています。

そしてもう1つ。

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地上のアデレードとテザードのアデレードが1986年に入れ替わっていた事が驚愕の事実として最後に明かされますが、ホラー映画のサスペンスにクライマックスを与える効果に加えて『アス』が描く政治や社会的な側面にもメッセージを与えている様に捉えられます。

ミラーハウスで入れ替わった後、発話出来ない事で暫くは地上の生活に馴染めなかったもののアデレードのテザードは言葉を通じてコミュニケーションを図るだけで無く、社会適応能力を問題無く身に着けて新たな環境に溶け込めている。即ち、異国から来たとしても人間である以上、如何なる人間社会にも時間を掛けて馴染む事が出来ると証明する様な描かれ方をしています。ピール監督はアメリカが極度に恐れ、迫害する移民を受け入れたら国益や国民の個々の存在が脅かされるとされる固定観念に疑問を投じているとも考えられるのです。

迫害されて魂を持てなかったテザードも、チャンスを与えられれば意思と魂を持つ事が出来た様に。

『アス』のイースターエッグとシンボリズム


11:11の意味

『アス』では数字の11:11が時計の時刻やテレビで放映しているスポーツ試合のスコアなど随所で見られますが、それが意味する事とは。

初めて11:11が登場するのは1986年にアデレードがミラーハウスに迷い込む直前、若いヒッピー風の男が抱えた小さな看板に書いてある文句。

“Jeremiah 11:11”

これは旧約聖書、エレミヤ書の11章11節の内容を指しており、本文の記載内容は省略しますが、そこには神との契りを破ったユダとエルサレムの人々に甚大な災いが訪れ、苦悶の声に手を差し伸べる事は無いであろう事が警告されています。神による天誅の様に、ミラーハウスで己と入れ替わったテザードが齎した地上と地下の秩序を破ったアデレードに報いを受けさせるべく、粛正を率いるレッドとも重なります。

そして視覚的にも『アス』に蔓延する双対性の概念にも通じる事もポイント。テザードが地上の人間と対になる様に、11:11は1の対が並んでおり、しかも回文の様に前後から読んでも鏡に映した様に同じです。

テザードが鋏を使う理由

殺人に使える武器と言えば素手から拳銃まで考えられますが、テザードは揃いも揃って金の鋏を使って相手の首元を切り裂いて殺す事を好みます。鈍器は効率が悪いとしても、鋏よりも包丁や拳銃の方が武器としても現実的には致命傷を与え易いはずです。


『アス』解説と考察
テザードが好む武器である鋏にも象徴的な意味が込められている

出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

テザードはその名の通り、地上の謂わばオリジナルの人間とテザーされてしまっている人間です。鋏を使う理由は2つのシンボリックな意味合いが考えられて、1つはテザリングされている状態を”断ち切る”事を想起させるツールとして鋏が最適であること。

もう1つは11:11に隠されたテーマと同様、刃が対となって存在意義を持つ鋏が双対性を表していることです。

白兎が象徴するもの

テザードの食糧として兎が屡々登場しますが、兎は驚異的な繁殖力を持つ事で良く知られ、謂わば己のクローンを数多く生み出します。オープニングで差異が殆ど分からない夥しい数の白兎が映し出されますが、これはテザードが地上へと放たれた後に檻から兎が出ている様子が観られるシーンからも分かる様に、クローンであるテザードを表します。

アンブラとプルート

アデレードの娘、ゾーラの名はスラブ語で夜明けを意味し、希望や光を象徴しますが、アンブラはラテン語で影を意味します。光と影、ここにもピール監督が意図した『アス』の双対性が隠れています。

弟のジェイソンは特に興味深く、『13日の金曜日』(1980年)でアイコニックなホッケー・マスクを被ったジェイソン・ボーヒーズに因んでチューバッカの仮面を常に身に着けていますが、ジェイソンもアデレードと同じくテザードなのでは無いかと思わせる節があります。

車でサンタクルーズへ向かう道中、アデレードは車中の音楽に指を鳴らしながらビートを刻みますが、音楽に馴染み切れていない為かテンポが微妙に合っていません。しかし、この時後部座席に座っていたジェイソンもアデレードの外れたテンポに身体を揺らし、アデレードと同様に微妙に合わないビートを刻みます。著しくリズム感覚が無いとも考えられますが、アデレードがテザードだった以上、ジェイソンにも疑いの目を向けざるを得ません。


『アス』解説と考察
見るに堪えない火傷の後を持つプルートと対になるジェイソンの関係性、どちらが本物なのかを考える事も面白い

出典:”Us(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com

確証を得られる言動までは見受けられないものの、テザードに襲撃された際も、恰もその状況を予期していた様に怯える様子も無かった事から怪しさは増すばかりです。

そしてジェイソンのテザード、プルートの名はローマ神話で冥界に君臨する神プルートーに由来していると考えられ、地下から脅威を齎す存在の呼び名としては最適とも言えます。そしてテザードの中でも唯一4足歩行を行うシーンが見られる事から、ディズニーのコミックスやアニメーション映画に登場するミッキーマウスのペット、プルートとも関連していると見ても不自然ではありません。

1935年に放映された『プルートの化け猫裁判』(1935年)は、仔猫を追い回してミッキーマウスに叱責されたプルートが、暖炉で寝てしまい、化け猫による裁判で火刑に処される悪夢を見てしまうディズニーらしからぬ内容が特徴的な作品で、『アス』のプルートが放火を好み、炎で炙られた様な顔貌も『プルートの化け猫裁判』をオマージュした設定と言えそうです。

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いかがでしたか?

『アス』は9月6日から全国に公開予定!

私もまだ1回しか鑑賞していないので、多分見逃しているポイントも多いはず。是非、感想や皆様の解釈もコメントでお聞かせください!

『アス』ホラー映画のネタバレ解説
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