デッドプール
監督:ティム・ミラー
出演:ライアン・レイノルズ、モリーナ・バッカリン、エド・スクライン、T・J・ミラー、ジーナ・カラーノ、レスリー・アガムズ、ブリアナ・ヒルデブランド 他
言語:英語
リリース年:2016
評価:★★★★★★★★☆☆
Deadpool(2016) ©20th Century Fox『参照:http://www.imdb.com』
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~”マーベルを代表する無責任で破天荒なぶっ飛びヒーロー!これまでの常識を覆すむちゃくちゃなヒーロー、『デッドプール』は最高に楽しいアクション・コメディ”~
~”大いなる力には大いなる責任が・・・伴わない?マーベルがキッズ世代に伝え続けてきたメッセージをクソ食らえと言わんばかりにやりたい放題するデッドプールが観られます”~
もくじ
あらすじ
トラブルシューターをしながら日銭を稼ぐ元傭兵のウェイド・ウィルソン
ウェイドは高級娼婦のヴァネッサと出会い交際し始める
愛し合い結婚の約束をしたウェイドだったが、末期癌を患っている事が判明
絶望するウェイドだが、あるリクルーターに接触される
癌治療と引き換えに人体実験の被験者にならないかと怪しいオファーを受けるウェイド
迷った結果オファーを引き受けるもそこは地獄の様な場所だった・・・
レビュー
『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』(2009年)で酷評されたイメージが色濃かったライアン・レイノルズ演じるウェイド・ウィルソン/デッドプールですが、再起を図った『デッドプール』は飽和状態のアメコミ映画の数々とは一線を画す存在。原作コミックスの愛読者からは賛否両論ある作品ですが、映画としては充分に楽しめました。アメコミ映画には欠かせないアクションは、R18指定を受けて首輪を外された犬の様な勢いで過激且つリアル。コメディもダークで中学時代を思い出させる卑猥なスラングに溢れており、キッズ・フレンドリーだったアメコミ映画が初めて殻を破った感覚に惑わされているのかも知れませんが、秀逸なセンスに込み上げる笑いを抑え切れない場面も屡々。
原作コミックスでは、よりグロテスクな描写が際立ち、ユーモアのベクトルも異なる様ですが充分アクションとコメディを楽しめる内容でした。
『デッドプール』はオープニング、それもクレジットで心底笑わせて興味を惹き付けてくれる数少ない映画の1つ。秀逸に捩られたパロディの不意打ちが続きますが、一方で元になったテーマやトピックを知らないと面白さが分からない難点もあり、全体的に観る人を選ぶ映画とも言えます。アメコミ映画ではありますが、『アイアンマン』(2008年)や『X-メン』(2000年)の様に超人的な能力やヴィランを真剣に取り合う様な映画では無いので、無防備に観てしまうと良くも悪くも驚かされます。冒頭10分程度のトーンやスタイルは概ね変わらずラストまで突き進むので、『デッドプール』を楽しめるか否か把握するのは難しくありません。
しかし、映画としてはキャラクターのバリエーションに著しく欠如している点は認めざるを得ません。ウェイド・ウィルソン/デッドプールを演じるレイノルズは幸いにも一人でストーリーを語れるエンターテイナーですが、キャストの事を考えると宝の持ち腐れとも言えます。同様にレイノルズにスポットライトが集中し過ぎて、キャラクターとしてウェイド/デッドプールのシニカルなパーソナリティを引き出し切れていない様にも感じたので、詰めは少々甘い。
Deadpool(2016) ©20th Century Fox『参照:http://www.imdb.com』
原作コミックスではドクター・ストレンジ、スパイダーマン、ハルクを始めアベンジャーズを単独で嬲り殺す程危険で掴みどころの無いウェイド/デッドプールですが、そうした本来的な個性の片鱗は感じられないアンチヒーローに留まる点も厳しく言うと残念とは言え、これは期待値の問題。新たに銀幕へとデビューを果たした赤い傭兵を素直に迎え入れるるなら、レイノルズが発揮する魅力はオーディエンスから笑いを充分引き出してくれます。
レイノルズはアイコニックな赤いコスチュームに身を包み、タクシーに乗って登場。マスクの下から覗く、サッカーボール代わりにされた茹でたアボガドを日焼けサロンに置いてきた様な顔にした男を追っている事が明かされます。ストーリーは程無くしてエンターテイニングなジョーク混じりのアクションと、回想シーンを行き来してウェイド/デッドプールのオリジンを語り始めますが、実に良く考えられた構成に感心しました。オリジンを描いた作品の殆どは、前半1時間程はヒーローになるまでの一歩一歩を追う為、観るに値するアクションは少なく退屈になりがちですが、『デッドプール』は必要なストーリーを並行して語る様に設計されているのでバランス良く楽しめる事がポイント。
全体を通して、アクション、回想シーン問わずペースが落ちないウェイド/デッドプールのユーモアも魅力的。反面、ダーティなウェイド/デッドプールのジョークで笑えない方は興覚めする内容になってしまいます。
Deadpool(2016) ©20th Century Fox『参照:http://www.imdb.com』
同様にセックスの描写も比較的過激ですが、ポルノ作品の様にオーバーなので私としてはそれさえもコメディでした。然りとて家族と鑑賞する事はお勧め出来ませんが、生々しさのあるセックスでは無く、過剰な反応や挙動が滑稽。
『デッドプール』の下世話なユーモアは、暫く経つと聞き飽きる面もありますが、世界の終焉を律儀に救う在り来たりなアメコミ映画に嫌気がさしているのであれば、『デッドプール』は一見の余地があるヒーロー映画です。
『デッドプール』はコメディとオリジン・ストーリーを同時に楽しめる作品と述べましたが、厳密にはコメディ色に偏っている印象。私としては全く気になりませんでしたが、ストーリーのエッセンスが弱めである事は否めない。
ストーリーは実にシンプルな復讐劇。
最愛の女性ヴァネッサと出会い、プロポーズした夜に突然意識を失ったウェイド/デッドプールドは不幸にも末期癌を患っている事が分かり、途方に暮れます。そんなウェイド/デッドプールの状況を誰から聞きつけたのか、癌を治療する代わりに人体実験の話を持ち掛ける謎の男。猜疑心を隠せないウェイド/デッドプールですが、仕舞には取引に応じて男に案内された施設を訪れます。しかし、そこはミュータント遺伝子を覚醒させる為に、被験者を様々な拷問に処する地獄の様な場所で、ウェイド/デッドプールは驚異的な回復能力を手に入れ、その過程で全身の皮膚が爛れた様な風貌になってしまいます。ウェイド/デッドプールは施設を抜け出しますが、運営者だったフランシス・フリーマンは行方を晦ましてしまう。ウェイドはデッドプールと名乗り、元の姿に戻るべくフランシスを探し回ります。
ラストも良く出来たショーダウンで、アクションは満載ですがストーリーとしての捻りは無く、結末の予想は容易に付いてしまいます。
Deadpool(2016) ©20th Century Fox『参照:http://www.imdb.com』
その点、アクションと回想シーンを交互に切り替える構成が在り来たりなオリジン・ストーリーをマスキングしてくれますが、考えてみればストーリーのコンテンツも多少の工夫を凝らして欲しかったと言うのは正直あります。
その余波として、『デッドプール』は軽薄な作品で斬新なキャラクターにスポットライトが当てられていても、新たな示唆や考察は生みません。悪く表現するならば、ミラー監督も脚本も際限無く放たれる皮肉や冗談に夢中の様で、それに満足している様子。しかし、『デッドプール』のコメディは原作コミックスでも顕著なセルフ・アウェアネスを上手く活用しており、以前からキャラクターのファンであれば、求めていた演出そのもの。オーバーでない程度にオーディエンスに直接ジョークを飛ばしたり、他の映画を捩ったりと、これまでのアメコミ映画では有り得なかったユーモアが何よりも新鮮。『デッドプール』の制作予算が比較的タイトだった事も劇中でジョークに変えられてしまうので、抜けのある部分も憎めない。
日本では無責任ヒーローとして知られる様になったウェイド/デッドプール。自他共に認める”くそ野郎”ですが、何処か憎めないのと同じで『デッドプール』もエッジが利いており、嫌いになれません。
そして遣い古されたオリジン・ストーリーと言っても、ラストでフランシスと死闘を繰り広げるシーンが救い。世界の終焉を阻止するのではなく、飽く迄も己の為に闘う点が実にデッドプールらしく、クレバーな脚本が活きたと感じられるパート。原作が存在する映画を創ると、限られた時間とリソースを踏まえて取捨選択を常に迫られますが、下衆なコメディに溢れた『デッドプール』はウェイド/デッドプールのキャラクターを描く事に力点を置くスマートな選択をした様に思います。
ウェイドデッドプールが岩塩を振りかけた烏賊の塩辛にも劣らない主張の強さを誇るキャラクターなので、張り合う様なキャラクターを登場させるとオーディエンスとしては疲れてしまうかも知れませんが、『デッドプール』に関しては全体的にバランスが悪い。
モリーナ・バッカリン演じるヴァネッサは過激なセックス・シーンを通じてウェイドと共にエロティックな笑いを集中的に放ち、ウェイド/デッドプールに近いユーモアの持ち主としてそれなりに存在感を輝かせますが、その他のキャラクターは割り箸に引けを取らない使い切り具合。Xメンのメンバーとして登場するコロッサスは、ウェイド/デッドプールとは対極的な性格を持つ正義漢としてもっとインタラクションが欲しい。自由奔放なウェイド/デッドプールと保護者の様なコロッサスは、スクリーンタイムを増やして非言語的なコメディも描けたはず。
ウェイド/デッドプールが一方的にマシンガンの如く撃ち込むジョークの数々が唯一、コントの様な楽しさに変化するのは同居人のブラインド・アルが登場するシーン。
盲目の老婆にしてコカイン常用者、しかも何故なのか拳銃も隠し持っている事がシュールで面白い。強烈なキャラクターとして、サポーティング・キャストの中で続編にも出演して欲しいと感じた人物です。イケアの組み立て式家具でさえ1人で組み立てられないブラインド・アルが、戦場で意外にも大活躍しようものなら包腹絶倒してしまいそう。
Deadpool(2016) ©20th Century Fox『参照:http://www.imdb.com』
しかしフランシス一味を掃討するシーンへ、デッドプールと同行するのはコロッサスとネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドの2人だけ。
ネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドは名前に劣らず印象的な能力を持っており、強大なエネルギー波を全方位に放つ事が出来ますが、不思議と戦闘には積極的に参加せず。その能力の全貌を堪能するには至らず、コロッサスとエンジェル・ダストのプロレスの様な投げ合いと殴り合いは何処となく地味でした。いずれも結局、爆発音やら銃声やら叫び声やらに包まれて背景に溶け込んでしまう。
『デッドプール』の悪役、フランシスに扮するエド・スクラインも例外無く面白く無いキャラクターに留まります。ウェイド/デッドプールを始め、様々な被験者に凄まじい拷問を加え続ける卑劣でサディスティックな男ですが、それ以外にフランシスを形容する文言が思い当たらない。然りとて『ダークナイト』(2008年)で脚光を浴びたヒース・レジャー演じるジョーカーの様に純粋な悪とも言えるキャラクターでもありません。何かしらの味があってこそキャラクターですが、フランシスはアメコミ映画に不可欠な悪役を致し方無く用意されただけの様な印象を受けました
Deadpool(2016) ©20th Century Fox『参照:http://www.imdb.com』
総じて『デッドプール』は『グリーン・ランタン』(2011年)や『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』で失敗を重ねたレイノルズが下剋上を果たして、遂に演じるべきキャラクターを手にした事を記念するかの様に、スポットライトはレイノルズに全てフォーカスされた作品。ジョークの嵐に取り込まれれば笑いが止まらないアクション映画ですが、客観的に観れば既に述べた様な失点ポイントは少なくありません。ロバート・ダウニー・Jrがトニー・スターク/アイアンマン、ヒュー・ジャックマンがローガン/ウルヴァリンを演じた様に、代替者は他に考えられない程ウェイド/デッドプールを見事に演じるレイノルズが『デッドプール』最大の救いです。
続編となる『デッドプール2』(2018年)も公開されましたが、キャスト全体をバランス良く使ってレイノルズのワンマンショーにならなければ、より良いニューカマーとして迎え入れられるのではないかと思います。
この映画を観られるサイト
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まとめ
『デッドプール』は下衆なコメディで笑える人にピッタリなアメコミ映画。アクションと笑いを同時に味わえる美味しい作品ですが、ストーリーの内容や奥深しさを気にしてしまうなら、あまり期待しない方が良いでしょう。キャラクターもウェイド/デッドプールが全てを持って行くので、サポーティング・キャストは少し勿体ない。
痛快なアクションとシンプルなストーリーが好みな人や、元々ウェイド/デッドプールを原作コミックスから知っている人は一見の価値がある映画だと思います。