ANON アノンは雰囲気とアイディアで勝り、ストーリーで負ける

SF

ANON アノン


監督:アンドリュー・ニコル
出演:クライヴ・オーウェン、アマンダ・サイフリード、コルム・フィオール 他
言語:英語
リリース年:2018
評価★★★★☆☆☆☆☆☆




~”フィルム・ノワール?重くモノトーンな雰囲気と意味が無さそうなシーンの連続”~
~”面白そうなコンセプト・・・だけどストーリーも典型的で、そこまで楽しくもない作品”~

 もくじ


 あらすじ


プライバシーの無い近未来
人々はインプラントを仕込まれ、”マインズ・アイ”と呼ばれる情報網からあらゆる個人や物体の情報を得る事ができる時代を生きていた
警察機関は”エーテル”と名付けられた膨大なデータベースからすぐに個人の見たものをデータとして特定し、犯罪を検知・検挙していた
しかし、ある一連の殺人事件は犯人が分からず難航
サル・フリーランド捜査官が捜査に乗り出すが、次第に”マインズ・アイ”が何者かにハックされている事に気付く・・・


 レビュー

個人情報やプライベートの露呈に対する抵抗感の異常な低さに毒されている現代人。FacebookやInstagramの登場により、消費者が個人を簡単に”売る”事が出来る時代が21世紀です。

家族アルバムや日記にしか載せないものを、承認欲の為に大っぴらに友達にひけらかす無神経さ。ならその麻痺した感覚を活用しよう!それがANON アノンの世界です。


次世代インターネットとも言えるエーテルは全ての人間が見た物とその人生をデータとしてストアし、再現できる

出典:”ANON(2018) ©Road Pictures”

SF映画とは言え、ANON アノンは、怖いくらい私たちの行く末を的確に暗示している様に思いました。

個人情報やプライバシーを”いいね”の為に売り飛ばす事を厭わない現代人ならANON アノンの世界に行き着きそうですよね。個人の“見せたくない”想いの象徴、アマンダ・サイフリード演じるANONが悪役になっている時点で割とホラー。


エーテルをハッキングできる謎の少女ANON

出典:”ANON(2018) ©Road Pictures”

全体がモノトーンでひたすら暗く、冷たい雰囲気ですし笑い声など一切聞こえてこない映画なので、観ていて憂鬱な気分になりました。1回鑑賞すれば充分かな。

スカイ君
ちょっと残念なラストのネタバレありだ!まだ観ていない人は、注意してくれ!
映画ではなくてコンセプトの青写真

今のSNSに毒された世界が行き着く先としては面白いのですが、肝心のストーリーはありがちな展開にありがちなエンディングを迎えます。

マインズ・アイを介して見た世界のヴィジュアルは興味深いし、細かく見ると非常に良く出来ています。かなりディテールの部分まで気を配った印象を受けますし、結構考えているデザインには感心。

だからこそ勿体無い。


被害者は全員、殺害直前に”犯人”の目線から自分を見せられていた

出典:”ANON(2018) ©Road Pictures”

また、サルや被害者たちはマインズ・アイをハッキングされて犯人の目を通して自分を見る事になりますが、この描写はクレバー。個人にアクセスする事さえ出来れば、その人間の見るものや目線を自由に変えられてしまう恐怖を表しています。

ラストがドンデン返しを演じたがっているのは重々伝わりましたが、ドンデンしきれていないのがANON アノン。犯人が分かっても”ふぅん・・・誰だっけ?”に近いし、別に推理や捜査して驚愕の事実が分かったわけでもない。

尺があと10分しかない、ここで犯人出しとくか、ホレ!って感じ。
・・・あざす、って感じ。

折角、アイディアに富んだ、細かいところまで良く出来ている世界なのにフォーカスしている物語の適当さとのギャップに拍子抜けしてしまい、本当に残念。

要らないセックスシーンも薄っぺらさに一役買っている

フィルム・ノワールを意識したからなのかも知れませんが、無駄に多いセックスシーンも目立ちました。えっと、褒めてないです。

キャラクターたちの感情や関係性を発展させる意義あるシーンであれば勿論文句はないのですが、過度な描写は単純に居心地悪くなるだけでした。超美人なレズビアンカップルが、よりにもよってトップレスでセックスに臨んでいるタイミングで殺したりする必要ないでしょ。

サルのプライベートにも中途半端にフォーカスされていて、結局彼に感情移入する事にも彼の行動の理由付けにもならない、ステレオティピカルなお涙頂戴物語にしか見えませんでした。ストーリーとあまり関係無いし、彼のプライベートの悲惨さを描くのに言い訳がましく入っているのが、またセックスシーン。

恋人らしい女性とベッドインしている中、街で見かけた個人情報にアクセスできない女性の事を思い返し、記憶データを見てしまったサルに詰め寄る女性。何故、私との時間に集中しないの、と。そのまま怒り心頭で女性はサルの元を去りますが、このシーンは要らないです。


ストーリーと関係ないソフトポルノシーンが多く、サスペンスを観に来たのに主張が強すぎる

出典:”ANON(2018) ©Road Pictures”

何よりANONとのセックスも長ったらしいし、急過ぎて混乱します。何かを表したいというよりは、単純に観ている男性陣の妄想を満足させてあげたいだけにしか見えません。アマンダ・サイフリードのセクシーな場面を撮りたかっただけですね。

スカイ君
あんまり必要だとは思わなかったな、一緒に時間を過ごした事で次の展開には繋がったが・・・
モカ君
ボクは見ちゃだめって言われた・・・

パッとしない映画なのに、下手に刺激的なシーンを放り込まれたりしたせいでANON アノンが一体どんな作品になりたいのか、更に混乱してしまいました。

ゲームをプレイするよりもルール説明が好きな人向け

モノポリーでも何でも良いですけど、初めてプレイする時に細かい字で気が狂いそうな説明書を隅から隅まで読み上げてもらう感じ。ANON アノンを観ているのはそんな気分になります。

プレイしたいのにいつまでも始まらない。

その割にエーテルのセキュリティがどの程度強固で、何故ハッキングできたのかも満足の行く説明が無い。一方的にルール説明して質疑応答は一切ないし、アッサリと矢の様に過ぎる適当なラストは地蔵みたいな顔で観てました。


ただ、キャスティングは悪くなく、クライヴ・オーウェンのパフォーマンスは特に良かった

出典:”ANON(2018) ©Road Pictures”

オーウェンは作品の暗いトーンに合う疲れ切った初老の刑事を演じますが、彼にピッタリ。

でもキャストだけでは映画としては救いきれないパターン。終わった瞬間に話の筋書きも印象に残っていないし、大した考察も出来ず、スッキリしない違和感を感じるだけでした。


 この映画を観られるサイト

NETFLIXオリジナルですので、2019年1月4日の公開日を待てない方はNETFLIXへ登録してご鑑賞ください!

初回であれば、1ヶ月間は無料で見放題ですので是非お試しください。

 まとめ

サスペンスを期待しているにしろ、SFミステリーを期待しているにしろお勧めできない作品です。

世界観は怖いくらい細かく検討されていて、よく出来ていますし興味深いコンセプトなのですが、それで高まった期待を裏切られてしまいます。

是非、ストーリーを再考してリメイクして欲しいとは思っています。

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