ホアキン・フェニックス主演、映画『ジョーカー』の予告編を徹底解説!『ジョーカー』は狂気に堕ちて行く男を描いた奥行きのあるストーリーとして期待したい

ジョーカー


監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ビル・キャンプ、グレン・フレシュラー、シェー・ウィガム、ブレット・カレン、マーク・マロン 他
言語:英語
リリース年:2019

Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures『参照:https://www.imdb.com


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 もくじ


『ジョーカー』の主要登場人物

アーサー・フレック/ジョーカー
『ジョーカー』予告編の解説

精神疾患に苦しむ売れないゴッサム市のスタンドアップ・コメディアン。老齢で同じく精神疾患を患う母親の面倒を見ながら暮らしていたが社会的にも様々な苦難に苛まされ、次第に正気を失って”ジョーカー”となる。原作コミックスでも様々なエピソードで登場を果たしたジョーカーだが、元々は脱色作用のある化学薬品に浸ってしまった事で肌が異様に白くなったとされている。しかし『ジョーカー』では『ダークナイト』(2008年)で登場したヒース・レジャーのジョーカーと同じ様に、自身で化粧を施してピエロを思わせる風貌を再現しており、アメコミ映画の中でもリアリティのあるキャラクターだと言える。本作ではホアキン・フェニックスが演じる。

Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures『参照:https://www.ign.com

ソフィー・デュモン
『ジョーカー』予告編の解説

『デッドプール2』で異常な強運を誇るミュータントのドミノを演じたザジー・ビーツが演じるシングルマザー。少々シニカルな一面もあるが、アーサーとは懇意にしている。明確に恋愛関係にあるのか、或いは恋愛関係に発展するのかは定かでないが、『ジョーカー』のヒロインとも言える役側を担っている。

Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures『参照:https://collider.com

トーマス・ウェイン
『ジョーカー』予告編の解説

ブルース・ウェイン/バットマンの父で、ゴッサム市屈指の事業家。大富豪として名を馳せたウェインは『ジョーカー』でゴッサムの市の市長として立候補。原作コミックスとは異なって、アーサーがジョーカーに生まれ変わる原因の一端ともなり、また過去の映画やアニメーション作品での登場時と比べて鼻につく、冷血漢の様なキャラクターとなっている。

Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures『参照:https://collider.com

スカイ君
『ジョーカー』は凄く興味深い映画になりそうだ。キャラクターの誕生秘話にクローズアップするなら、ジョーカー程面白い対象はなかなか居ないし、これまで映画に於いてはチャレンジされなかった事だしな。ジョーカーにスポットライトを当てた作品は期待が高まるぜ!予告編から分かった事をオレらなりに惜しみ無く紹介しているから、是非読んで感想聞かせてくれ!

ゴッサムの狂人、ジョーカーの魅力

アイコニックなヴィランと言えば、ブルース/バットマンの宿敵としても知られるジョーカーは指折りの存在。不自然に白い肌、顔の端から端まで広がる笑み、狂気に血走った目と派手な服装と耳を劈く高笑い。超人的な能力は持ちませんが、ブルース/バットマンをも翻弄する犯罪界のプリンスとして畏怖されるジョーカーの素性や経歴は定説が無く、謎に包まれています。

ブルース/バットマンを殺害目前まで追い詰めた剣客でもあり、化学への造詣も深い知能犯であるジョーカー。その大きな魅力はミステリアスな正体とカオティックなマインドです。

驚愕を超越した、常人には理解出来ない異常な発想。『ダークナイト』でヒース・レジャーが体現したカオスの化身は他の追随を許さない。ゴッサム市のマフィアから資金を掠め盗り、数兆単位にも上る札束を積み上げたかと思えば一枚残らず燃やしてしまうシーンは、ジョーカーが一切人間らしい私欲を持たない純粋な悪である事を力強く喝破した印象的な場面です。究極的な目的が無く、世界中の札束を手中にするよりも世界を燃やす為に燃やすのがジョーカー。狂気の骨頂とも言えるその沙汰に絶句しつつ、何がジョーカーを狂乱の境地に至らせたのか不思議に思わずには居られませんが、その素性も藪の中

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『ジョーカー』の予告編開設
リメイクを重ねて来たジョーカーだが、ヴィランでありながら人を惹き付ける何かを持つ

出典:”Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://collider.com

それがジョーカーたる所以なのです。

ジョーカーは理を持つべきではない、意味が不明である事こそが存在意義のキャラクター。ストーリーのキャラクターは善人や悪人のいずれにしても、性格や挙動に共鳴する何かがあってこそ魅力を感じますが、ジョーカーはそれ以前にアイデンティティが無いにも関わらず強烈なインパクトを遺して興味を惹き付けて已みません。秩序とは紙一重のカオスの使徒としてジョーカーに先んじる人物は有り得ない。それが最大の魅力なのです。

だからこそ、これまでジョーカーの檻となったブルース/バットマンやゴッサム市の視点から解き放たれて、アイデンティティにフォーカスする事となるであろう『ジョーカー』は従来のアメコミ映画とは特色が異なる作品となるのでは無いかと期待しています。正確にはアイデンティティへのフォーカスと言うよりは、アイデンティティを失うまでの軌跡。オリジン・ストーリーとしてのハードルは高い。予告編で示唆されるストーリーの断片から予測するに、『ジョーカー』の成否は大仰はドラマに拘らず、如何にスクリーンを観ているオーディエンスの日常にリンクするかが大きなポイントとなると想定しています。

『ジョーカー』予告編の徹底解説

『ジョーカー』の予告編はコチラ。


出典:”Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://www.youtube.com

バットウーマンが存在する説

予告編はアーサー・フレックが医療施設でソーシャル・ワーカーのタグを付けた女性と面談しているシーンから幕を開けます。”話せば楽になる?”と問い掛けるソーシャル・ワーカー。この女性のタグを良く見ると、氏名欄に”Debra Kane(デボラ・ケイン)”と記載してある事が分かります。ゴッサム市のケイン家と言えば、バットウーマンとして活躍するキャサリン・”ケイト”・ケイン

ブルース・ウェイン同様に裕福な一家に生まれたケイト/バットウーマンは、バットマンにインスパイアされて富をゴッサム市を悪の手から守る事に遣おうと決意し、自ら仮面と防具を身に着けてバットウーマンとなります。2000年以降に描かれるモダンなバットウーマンは初代と性的趣向を含めて様々な面で改められていますが、『ジョーカー』の予告編ではケイト/バットウーマンの存在を仄めかしている様にも思えます。

孤独と狂気と闘うアーサー

ソーシャル・ワーカーの元を後にしたアーサーは、黒い塵袋が積み上げられた薄暗い路地を弱々しく通り越し、長い階段を独りで静かに昇ります。このシーンは、アーサーが感じている強い孤独感を表すと同時に狂気の化身であるジョーカーに堕ちる前の精神状態を体現しています。

予告編の後半でジョーカーと化したアーサーが意気揚々と楽しそうに跳ねながら、同じ階段を降りて行くシーンが映し出されますが、階段の上は正気を表しており、一方階段の下は狂気へと堕落して行く精神を表していると考えられます。チャップリンの演劇場から蹴り出されるシーンでも、アーサーは転がる様に階段を落ちて行き、いよいよジョーカーとなりつつあるタイミングである事が示唆されています。

覚束ない足取りで苦しそうに階段を昇るアーサーは、既に精神を蝕まれていて、辛うじて正気を保っている様子を描いています。

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『ジョーカー』予告編の解説
長い階段を独りで静かに上がるアーサーは日々の苦悩に押し潰されそうになっている哀れな男である事が分かる

出典:”Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://collider.com

自宅と思しき浴室では母親の世話をしている様子が描かれ、自然な笑顔をアーサーが見せたのも束の間、その直後に場面が変わって机に1人で向かい、ノートにスタンドアップ・コメディで遣うジョークを書き連ねている様子が映し出されます。書いているジョークの多くは面白く無く、スタンドアップ・コメディアンとして生計を立てるのが難しいであろう事も分かりますし、机の上にはピルケースと手紙の様な書類が積み上がっており、この時点で抗鬱剤や精神安定剤の様な薬品を処方されている可能性も疑われます。書類は未払いの家賃や光熱費の請求書にも見え、生活は決して楽ではなさそう。

しかし最もアーサーの精神状態を危惧させるのは、件のノートの最下部に書いてある一文。

“The worst part of having a mental illness is people expect you to behave as if you don’t”

精神病の最も辛いところは、恰も健常者の様に振る舞う事を社会から期待される事だ。

時代設定は1980年代

スタンドアップ・コメディの仕事では生活出来ない事を裏付ける様に、ピエロに扮して道端で看板を持ち、踊るアーサー。彼に付き纏う負や悲しみを強調する様に、手に持っている看板は閉業するレコード店のクリアランスを宣伝する内容。

映画『ジョーカー』予告編の解説
背景の景観は1980年代風

出典:”Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://collider.com

このシーンでは背景に注目すると概ね1980年代のセッティングである事が分かります。街灯や通行人の服装、そして大きく”STRIP SEARCH”と題された当時流行していたアダルト映画の広告が特に目立ちます。
(1960年代に米国の街中へ現れたアダルト・シアターは1980年代に大きなブームとなり、時代を象徴するアイコンの1つとなりました)

ゆっくりと狂気へ・・・

ピエロの恰好で看板を持つアーサーですが、若者の集団が彼の看板を面白半分に奪って逃走するシーンへと切り替わると、緊迫感が一気に増します。必死に看板を取り戻そうとするアーサーですが、件の看板で正面切って殴打され、倒れ込んでしまいます。割れた看板と共に悲し気な表情を湛え、路地に独り横たわるアーサー。

ここでナレーションに注目すると、如何に努力し、前向きに生きようとも世界がそうさせまいとしているとアーサー自身が感じている事が分かります。そして、このままでは耐えられないかも知れない事も。

『ゴッサム』のジェローム

ドラマとして知られる『ゴッサム』(2014年~)に登場したジェローム・ヴァレスカ/プロト・ジョーカー。バットマンやゴッサム市の長い歴史の中で生まれた、複数のジョーカーの1人。そのジェロームが、名だけ登場しているのがザジー・ビーツ演じるソフィー・デュモンとアーサーが寂れたカフェで会うシーン

『ジョーカー』の映画の予告編解説
DON’T WALKと表示された信号の上にある通り名には”Jerome Ave.”とある

出典:”Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://collider.com

クローズアップ前にカフェを外側から映したカットでは、積み上がった黒い塵袋の左上に通りの名称を彫った標識が辛うじて確認出来ますが、“Jerome Ave.”と表記されています。

道化師の”ポゴ”

アーサーが1人でコメディ・クラブを訪れ、ショーを観ているシーンですが、一瞬だけ”Pogo’s(ポゴ)”とクラブの名称が映り込みます。ポゴと言えば、1970年代に人気だった同名の風刺漫画を指しているとも考えられますが、ジョーカーがモチーフにしているピエロに関連する存在としてはジョン・ウェイン・ゲイシー

殺人道化師ジョン・ウェイン・ゲイシーとは

米国を震撼させた連続殺人者。

1942年生まれで、西部劇で人気を博した米国男子を象徴するとも言える名優ジョン・ウェインの名を授かるが、心臓疾患を持って生まれた為、父親から出生と同時に見限られる。以来、厳しい虐待的な扱いを受けて育ち、日常的に”クズ”や”オカマ野郎”などの罵声を父親から浴びた事で、ストレスから失神する事さえあった。

しかし、成長したゲイシーはビジネス専門学校へ進学。後に大手靴販売店のセールスマンとして大活躍し、抜群の営業成績を上げて昇進し人望も集めて行く。この頃、青年会議所の会員だったゲイシーは、知り合った会員の当時15歳の息子と性的関係を持ち、これが露呈して少年への性的虐待に咎められて服役。だが模範囚だったゲイシーは10年の懲役判決を覆して16ヶ月で出所する。

出所から程無くしてゲイシーは様々なパーティに出席し、少年漁りを始める。上手く”拾った”青少年と性行為を続けたが、ある青年と夜を共にした翌朝、ゲイシーの為にサンドイッチを調理していた青年がナイフを持ったままゲイシーを起こした事で、ナイフを見てパニックを起こしたゲイシーは青年を押さえ込んで刺殺してしまう。この事件を皮切りにゲイシーの殺人行為は習慣化して行く。

しかし暫くはその凶行が白日の下に晒される事無く、結婚して起業し、持ち前の勤勉さで事業を成功させて地域からも尊敬される様になる。果ては地元民主党のメンバーになり、ジミー・カーター元大統領の妻ロザリンと握手を交わした事もあった。ゲイシーはパーティに道化のポゴとして参加して少年たちを自宅に誘い込んで強姦に及んで絞殺し、死体を床下に埋葬していたが、離婚に至ってから犠牲者の数に拍車がかかる。

ゲイシーの悪行は麻薬不法所持の容疑で現行犯逮捕された事で全て暴かれる事になる。家宅捜索に入った警察官によると、床下から腐敗した29人の遺体が発見され、あまりの腐臭に衛生面での危険から全員が着用していた衣類は全て焼却処分された。床下の外にも川などへ遺棄した死体も数えると30人以上を殺害した事となり、ゲイシーは想像を絶する異常な凶悪犯として歴史に名を残す結果となった。1994年5月10日の深夜に薬物駐車による死刑に処された。パーティでの印象的な道化の仮装から、キラー・クラウン(殺人道化)の異名を与えられ、今も人々の記憶に刻まれている。

『ジョーカー』予告編の解説
コメディ・クラブの”Pogo”と思しき場所を訪れたアーサー

出典:”Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://collider.com

そしてこのシーンで初めて印象的なジョーカーの不気味な高笑いがスクリーンの中を響き渡りますが、アーサーの顔は一切笑っていません。人生の全てが無意味な喜劇で、笑い飛ばせば良い。ジョーカーのフィロソフィーが徐々に形作られつつあります。

初の殺人か

孤独なアーサーが広い控室らしき部屋で涙ながら口に指を突っ込み、口角を無理に吊り上げて己に笑顔を強いるシーン。しかし、指を徐に外した後の表情は自暴自棄になっている様な、微かな怒りさえ感じさせます。アーサーの精神は限界を来している事が分かります。

その直後、場面は荒廃した地下鉄に変わり、ジャケットこそ脱いでいますが、路上で看板を奪われた時と同じピエロのメイクと服装で大笑いするアーサーが同乗している暴漢の意に止まって殴られてしまいます。ジョーカーらしい高笑いはクライマックスに。しかし、その後は夜闇に包まれた路地を逃げる様に疾走するアーサーが移ります。暴漢に襲われた時と同じ服装、そしてチェック柄の鞄を持っていますが、殴打された瞬間に見えた鼻血がこのシーンでもアーサーの顔を痛々しく汚しています。

『ジョーカー』予告編の解説
暴漢に殴られて倒れ込んだアーサーの鼻から微かに伝う鼻血は次のシーンでも顔に付いている

出典:”Joker(2019) ©Warner Bros. Pictures”『参照:https://collider.com

そして血で汚れたまま、アーサーは洗面所の鏡を前に独りで静かに踊ります。ここまでの流れは、地下鉄で集団で暴行され、それまでならば泣き寝入りして笑顔を保とうとするであろうアーサーが激昂し、反撃して図らずも殺害、或いは重傷を負わせたと考えられます。血を付着させたまま、街灯に照らされた夜道を急ぐ様子は暴漢から逃げている可能性も捨てきれませんが、地下鉄で想定以上の危害を及ぼしてしまい警察から逃亡していると仮定した方が自然です。そして殺人の魅惑に触れてしまったアーサーが、ジョーカーとして生まれ変わる瞬間ではないかと思われます。

ブルース・ウェインを笑わせるジョーカー

邸宅の門と思しき格子を挟んで少年の口に指を押し込み、ジョーカーの様な笑みを強いるアーサー。この少年は『ジョーカー』のキャスト一覧を参照すると、幼きブルース・ウェインである事が確認出来ます。唯一ティム・バートン監督の『バットマン』(1989年)を除いて、従来バットマンの誕生にジョーカーは関係無かったのですが、『ジョーカー』ではジョーカーが間接的にでも引金になのかも知れませんし、続編やスピンオフのセットアップとも捉えられます

いかがでしたか?

アメコミ映画の歴史上、一際異彩を放つジョーカー。『ジョーカー』の予告編から分かる事は多くありませんが、主演ホアキン・フェニックスがジョーカーの人物・心理分析をテーマとする事に興味を持ったとの情報もある為、単なるアクションやCGiをメインとした映画では無い事が期待されます。

ジョーカーを演じた俳優はジャック・ニコルソンやヒース・レジャー、ジャレッド・レトなど複数挙げられますが、その独特なキャラクターへのアプローチは千差万別。2人として同じジョーカーは描かれていませんが、ホアキン・フェニックスのダークで人間味のありそうなジョーカーはラインナップに新風を吹き込んでくれそうです。

『ジョーカー』予告編徹底解説
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