ベイビー・ドライバー
監督:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、リリー・ジェームズ、エイザ・ゴンザレス、ジョン・ハム、ジェイミー・フォックス、ジョン・バーンサル 他
言語:英語
リリース年:2017
評価:★★★★★★★★★☆
Baby Driver(2017) ©Sony Pictures Releasing『参照:https://www.imdb.com』
~”こんなにリズミカルでメロディカルなクライム映画があって良いのか?爽快なだけじゃない、魅力的なキャラクターを演じるキャストも観どころ”~
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もくじ
あらすじ
3人組の男女が銀行に押し入り、外で待っていた青年の車で逃走
青年は華麗なドライビングテクニックで警察を翻弄し、逃げ果せる
サングラスとイヤホンがトレードマークの青年の名は”ベイビー”
暗黒街の大物”ドク”の車を盗難したが腕を買われ、代償としてドクの仕事を手伝っていた
ドクへの穴埋めが終わりかけたある日、ベイビーはデボラと出会う
音楽好きで可愛らしい笑みを湛えたデボラと仲を深めるベイビー
ドクへの穴埋めを終えて平穏な暮らしを手にしたかの様に見えたのも束の間
凄腕のベイビーを手放したくないドクは、彼に再び声を掛ける
断ればデボラと養父ジョセフの身の危険を匂わせながら・・・
レビュー
『ドライヴ』(2011年)のネオ・ノワールな雰囲気に惚れ込めなかった方々には、『ベイビー・ドライバー』の方が響くかも知れません。
元い、『ベイビー・ドライバー』はある種、万人受けし易い映画です。
しかし、それは凡庸なアクションと格好の良い映像美を切り貼りした作品だからではなく、”映画”だからこそ愉しめる作品。エドガー・ライト監督は『ベイビー・ドライバー』を通じて、ウィットに富んだ台詞、鳴動するエンジン音とロマンティックな逃避行が誘う胸の高鳴りを呼び起こす、古き良き映画の絵姿を思い出させてくれます。然りとて、妙に古風を気取って『007 ゴールドフィンガー』(1964年)の背を濫りに追い回したのではなく、レトロな風趣に富んだフィールは素晴らしいし、一方でベイビーが常に流しているポップな音楽とも良く合う様にチューニングされているのは特筆すべきポイント。レトロとポップの融合が上手く噛み合っていて斬新。
ベイビーは幼い頃に交通事故で患った耳鳴症から少しでも解放される為、耳とイヤホンは一心同体。何者も寄せ付けないドライビングテクでアトランタ市内を掻い潜る時もそれは変わりません。ジョン・スペンサーの『Bellbottoms』が鳴らすギターの音が一度響き渡れば、『ベイビー・ドライバー』の世界は音楽のビートを中心に回り始める。
ミュージカルではありませんが、『ラ・ラ・ランド』(2016年)も驚く音楽の力が『ベイビー・ドライバー』で脈打ちます。言葉通りに。ベイビーがiPodの再生ボタンをタップした後は、マシンガンも軽快なドラムのリズムに合わせて銃声を上げ、シンバルのアクセントと共にドアがバタンと閉まる。
出典:”Baby Driver(2017) ©Sony Pictures Releasing”『参照:https://www.imdb.com』
『キングスマン』(2014年)や『タキシード』(2002年)の印象的なオープニングを飾るドライビング・シーンに限らず、映画でカーチェイスが入ればロックやダブステップが自ずと聴こえてくるもの。しかし、音楽とユニゾンしたアクションを観られる作品は中々ない。
『ベイビー・ドライバー』の観どころはダンスの様なアクション・シーンだけではなく、ベイビーの生活の一部も音楽で溢れている事。映画全体がリズミカルで、クライム・アクション映画なのに心地良く観られます。良い曲を一通り聴いた後にリピートしたくなる様に、『ベイビー・ドライバー』はもうワンラウンド始めから鑑賞したくなります。
そして『ベイビー・ドライバー』の魅力はスタイルに留まらず、映画としてエッジが利いたストーリーやオリジナリティ。そのスリリングでエンターテイニングなこと。
出典:”Baby Driver(2017) ©Sony Pictures Releasing”『参照:https://www.imdb.com』
オリジナリティと言っても『ベイビー・ドライバー』の爪先から毛先まで鋭い発想の賜物かと言えばそうではありません。『シンデレラ』(2015年)でシンデレラを演じたリリー・ジェームズ扮するウェトレスのデボラとベイビーのほろ苦い恋模様は、50年代のラブロマンス映画で充分観た光景だし、『LOGAN/ローガン』(2017年)以前にも度々遣い倒された”ヒーロー、最後のミッション”が齎す物語へのドラマティックな効力にも肖ります。
それにも関わらず、欠伸と呆れを誘う既視感が無いのは、飛び交うシャープで気の利いたジョークと同じくシャープで無駄なく聢りと構築されたシーケンス、そして中毒性のあるパフォーマンスを届けてくれるキャストの力。
キャストと言えば、主役のベイビー演じるベイビーフェイス、アンセル・エルゴート以外にも、カリスマティックな美貌を放つエイザ・ゴンザレスと親しみ易くもサイコな演技で楽しませてくれるジョン・ハムは準主役には勿体無い程です。犯罪者さえ時折慄くバッツを演じるジェイミー・フォックスも見逃せない。ゴンザレスとハムのキャラクターに纏わる前日譚を語っただけの映画でも良作が出来そうな程、刺激的で高い求心力を持ったペア。『ベイビー・ドライバー』は様々な側面で魅力に溢れている良作と言って間違いありません。
絶妙にデザインされたカーチェイスはやはり眼を離せない。
金切り音と共に白煙を上げる真紅のスバル。呆気に取られる程シームレスに、車道を撫ぜる様にターンを熟してパトカーに切り返す猶予を与えず、目を見開く警官を一瞥して疾走。サングラスに覆われた瞳は三歩先を見越して追手を翻弄します。ベイビーが繰り出す大胆、しかし凝ったアクションは驚く事にCGiが活用されていないスタントによるもので、ライト監督の拘りに近い意図を感じます。軋むタイヤ音と乾いた質感はスクリーン越しでも手に取る様に伝って思わず観ていて歯軋りしてしまう。
強盗団が車に急いで駆け込み、即座に前進かと思えば後ろへ急発進したり、激しいドリフトを噛ませたかと思えば、真逆の方向を進んでいる。『シュガー・ラッシュ:オンライン』のシャンク(ガル・ガドット)も開いた口が塞がらないスタントは観ているだけで高笑いが止まりません。
鳴り響くサイレンから、耳障りなはずのクラクションまでがベイビーのファンファーレ。
出典:”Baby Driver(2017) ©Sony Pictures Releasing”『参照:https://www.imdb.com』
カメラワークとカットの編集も歯切れが良い。
スタントのシーケンスだけではなく、見せ方にも創意工夫が凝らされています。車内のリアクションと、外から観た車の動きを絶妙なタイミングで切り替える事でベイビーがどこへどう動いているのかが良く分かるし、クレイジーなドライブに揺られて時折叫び声を挙げるベイビーの同乗者とシンクロ出来て実に愉快です。
踊りたくなるナンバーとユニゾンする銃声や爆音に限らず、ライト監督の炯眼はフレームに映り込む映像、ビル街のグラフィティや電柱に貼り付けられた広告をも逃しません。音楽に合わせ、一見混沌とした意味の無い文字の中に歌詞が書かれているだけでなく、ベイビーが喫茶店でコーヒーを待つ間に店外を颯爽と横切るデボラに釘付けになった瞬間、赤いハートのグラフィティがフレームに映り込みます。曲調、キャラクターの心境だけでなく、映像の洗練された相乗効果が煌めく『ベイビー・ドライバー』。
そのシナジーに唯一、不足があるとすれば『ドライヴ』が一瞬たりとも損なわなかったアーティスティックなシーナリー。広告や看板や人の様な”パーツ”に絞らず、フレームが与えてくれるカンバス全体を彩る街並みや風景、そしてその色味に意味を見出した『ドライヴ』と違って、『ベイビー・ドライバー』にはアトランタ市の景観が印象に残らない。
しかし、『ベイビー・ドライバー』に関してはそれも枝葉末節。赤の他人が犇々と詰め込まれた映画館の良さは、同じ映画を観ている人々のリアルな熱気を感じられる事(最近はエンドロールが終わる高々2時間程度もSNSを手放せずに非常識のラインが分からない依存者が多く、心底残念ですが)。良い映画を観ていて心から愉しんで居る時は、大概映画館全体も筆舌に尽くしがたいエネルギーに満ち溢れています。車が唸りを上げて急カーブを切った瞬間、隣の観客も少し目を剥いて仰け反っていたり、雰囲気に飲まれて粗い駄洒落程度に爆笑したり。『ベイビー・ドライバー』にはその瞬間しか会う事は無いであろう、何十人もの他人同士を2時間だけ繋げる映画館の魔法を一段開花させる力があります。
ボニーとクライドも羨むデボラとベイビー(ダーリンと違ってデボラは犯罪者ではありませんが)。
可愛らしく、いつでも笑みを湛えるデボラはベイビーと良く似合います。ストーリーが進んでベイビーに魔の手が迫ると、二人の恋が実を結ぶ様に切に願わずには居られません。ベイビーの不確実でカオティックな人生の中で、唯一確実なのは日に日に募るデボラへの想い。急展開の様に感じても不思議ではない二人の関係に違和感や忌々しさを覚えないのは、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のコワルスキーとクイニーと違って惹かれ合う理由が良く分かるのが一つ、そしてキャストの自然な相性がもう一つ。
デボラのフレンドリーで誰とでも仲良く出来そうなキャラクター、音楽好きな性格、ミステリアスでチャーミングなiPod中毒のベイビーは惹かれ合うべくして惹かれ合ったペアリング。落雷の様に訪れたこの恋模様は観ていて微笑ましい。
そしてジェームスとエルゴートの肌が合うのは疑い様もありません。
出典:”Baby Driver(2017) ©Sony Pictures Releasing”『参照:https://www.imdb.com』
一方でデボラは、犯罪界に封じ込められたベイビーが夢見る”解放”の象徴に過ぎないのは『ベイビー・ドライバー』の欠点です。ベイビーの亡き母親(スカイ・フェレイラ)がセピア掛かった回想シーンで登場しますが、時折デボラを当て無きロードトリップに連れ出す願望を思い描いたシーンも似たスタイルで撮られており、優しかった母親とデボラを重ねている様子が良く分かります。デボラ自身、魅力的なキャラクターですが、その魅力は表面的なものでオリジナリティに乏しいと言えます。ベイビーと共存する事で初めて意義のあるキャラクターとなる点は惜しい。
他方、ケヴィン・スペイシー演じる暗黒街の支配者、ドクは言葉少なげに異様な脅迫的オーラを放ちつつも、ベイビーの事をただの卓越したゲッタウェイ・ドライバー以上に気遣う人間的な面も持ち合わせる複雑な人物。フラットな表情で淡々と相手を萎縮させるトーンと読めない目つきは流石と言ったところ。
ジェイミー・フォックスはバッツとして適役ですし、既に述べた通りバディーとダーリンを演じたハムとゴンザレスは、再びスクリーンで観たい程です。心底軽蔑したくなる極悪人のはずが、憎めないキャラクターに仕上がっているのは『ベイビー・ドライバー』の軽視出来ないポイントです。キャスト総掛かりで迫真の演技を熟しているのに、自然で肩に力が入り過ぎていない様子も良く分かる。
出典:”Baby Driver(2017) ©Sony Pictures Releasing”『参照:https://www.imdb.com』
サイドを務めたキャラクターの前日譚は無論、『ベイビー・ドライバー』の続編も検討の余地があるのではないかと感じています。犯罪に長らく手を染めていたとは言え、人が傷付く事を強く嫌がるベイビーの正義感が垣間見える作品でしたが、例えば出所後にデボラとのロードトリップで放って置けない事態に見舞われて再び鮫が泳ぐ犯罪界へ引き込まれるベイビー。素人的な発想ですが、様々なストーリーを生み出せるポテンシャルがある作品です。
キャッチーな音楽、パフォーマンス、ストーリーの紆余曲折、驚きの決断、全てが見事に嵌った歯車の様に上手く働き合う『ベイビー・ドライバー』は映画に求める、あらゆるエンジョイメントを与えてくれます。CGiにオーバーなアクションも時には必要なアドレナリン・ラッシュを催す絶好のエンターテインメントですが、もっとシンプルな良作を観たい方、『ベイビー・ドライバー』は鑑賞して後悔しない事を保証します。
この映画を観られるサイト
『ベイビー・ドライバー』はこちらの動画配信サイトで配信中!借りに行くの面倒だし、そもそも移動時間を使ってスマホやタブレットで観たい人にお勧め!
私は洋画好きなので、相変わらずU-NEXT一択です。Huluはドラマやシリーズ系が多く、洋画は充実していませんので、洋画を沢山観たい人はU-NEXTで後悔しないハズ。勿論、『Game of Thrones』等の人気ドラマが気になる方ならHuluで無料体験を是非!
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まとめ
衝撃、笑い、緊迫感を与えてくれるストーリーとすぐに惚れ込んでしまうキャラクター。
数ある2017年リリース作品の中でも、これだけ与えてくれる良作は『ベイビー・ドライバー』以外に無いと言っても過言ではありません。音楽好きなら特にお勧め。
ハイスピードで展開されるクライム・アクションを心底楽しみたい方には今すぐにでも観て頂きたい作品でした。