スパイダーマン:スパイダーバース
監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
出演:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、マハーシャラ・アリ、ジェイク・ジョンソン、リーヴ・シュレイバー、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ローレン・ヴェレス、リリー・トムリン、ニコラス・ケイジ 他
言語:英語
リリース年:2018
評価:★★★★★★★★☆☆
~”アップリフティングな活気が実写版とは雲泥の差!『スパイダーマン:スパイダーバース』はあらゆる世代が純粋に楽しめるコミックスの本来的な良さを詰め込んだ作品”~
~”捻りやサプライズがあるクレバーなストーリーも見逃せない!スパイダーマンはお腹いっぱいだ思っている人にこそ観て欲しい新鮮なスパイダーマン映画”~
もくじ
あらすじ
ブルックリンの高校生マイルス・モラレス
叔父のアーロンとグラフィティをしている時、突然変異した蜘蛛に噛まれて特殊能力を得る
突如手にした力に戸惑うマイルス
そんな折、キングピンが加速器を使って異次元の扉を開く実験に居合わせる
阻止すべく闘うスパイダーマンだが、加速器の誤作動で重症を負う
マイルスに加速器を止める為のメモリースティックを託し、息絶えるスパイダーマン
次期スパイダーマンになる為、訓練するマイルスだが彼のもとに別のスパイダーマンが現れ・・・
レビュー
さて、ポップコーンとコーラを用意して一緒に座りましょう。
『スパイダーマン:スパイダーバース』はエネルギッシュで独創性に満ちた発想力の賜物で、アメコミに息を吹き込むには不可欠なインスピレーションの真髄に溢れています。
2002年来の17年間、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランドにスパイダーマンのマスクが譲られてきました。アニメやコミックスを含めると、既に世界はスパイダーマン・オーバーロード状態。しかし”うるせぇ”とばかりに、6人のスパイダーマンを新たにぶっ込み、飽和したスパイダーマン映画に新風を吹き込んだのが『スパイダーマン:スパイダーバース』です。
最も顕著で新鮮なのは、『スパイダーマン:スパイダーバース』が”動くコミックス”であること。2008年に爆誕したMCUシリーズが紡いで来た歴代のスーパーヒーロー映画は、コミックス感を捨てて如何にリアルなヒーローの世界を作り上げるかに全力を注いでいる様でしたが、『スパイダーマン:スパイダーバース』は違います。飽くまでもコミックスである事を全面に活かした演出が今までに無いスパイダーマンを銀幕に連れて来てくれます。
(尚、既に鑑賞された方は本編・エンドクレジットのネタバレ解説も是非ご一読ください)
出典:”Spider-Man: Into the Spider-Verse(2018) ©Columbia Pictures”
そして今回のスパイダーマンがラテン系アフリカン・アメリカンの高校生、マイルス・モラレスであることも大きな見どころ。
論無く連想するのが、黒人キャストで制作された『ブラックパンサー』。これまで主要キャラクター(特にアメコミのスーパーヒーロー作品)を演じる事が叶わなかった黒人にもその座を与えた事が、文明社会としての進歩を象徴する事例として讃えられました。2011年刊行のコミックスで生まれたマイルスを観て、同じだけの意義を感じる事もポイントの一つですが、スパイダーマン映画で”ピーター・パーカー”が主人公でない事の方がインパクトとしては大きい。
従来の様な実写作品ではありませんが、大スクリーンで生きて動くマイルスを観られるのは『スパイダーマン:スパイダーバース』っぽく言うと、WOWに尽きます。
出典:”Spider-Man: Into the Spider-Verse(2018) ©Columbia Pictures”
DCのバットマン同様、スパイダーマンの誕生秘話は最早”秘話”ではない程、度々語られてきていますが、『スパイダーマン:スパイダーバース』は過去の過ちもスマートに回避。『スパイダーマン:スパイダーバース』はマイルスがスパイダーマンになるまでの軌跡を描いた映画でもあり、不思議な蜘蛛に噛まれ、謎の能力に四苦八苦する様子も描かれますが、目が行くのはそんな事よりも映像美です。路面のタイルや地下鉄の質感まで凝ったディテールが妙にリアリティを放ちつつもコミックスを彷彿とさせるカラフルなシーンが、とにかく活気に溢れており素晴らしい。
スパイダーマンの映画と聞いて”またか”と思う大きな理由は間違いなく、際限なく語られてきたヒーロー誕生までの経緯ですが、先述の通り『スパイダーマン:スパイダーバース』ではスルー。
聞き慣れた”ピーター・パーカー”の名よりもマイルス・モラレスにフォーカスが当たる事は勿論、同じスクリーンで2人ならず6人ものスパイダーマンが登場する大作映画は前代未聞でこれまでの作品には無い新鮮なフィーチャーです。ここまで来ると、これまで実写化されたスパイダーマン映画とは一線画す作品。
今回6人ものスパイダーマンが集結したのは、コミックスでもよく知られるキングピンことウィルソン・フィスクが亡き妻子を別の次元から呼び戻そうと、超大型加速器で時空間を歪めた事に端を発します。コミックス感ムンムンな設定ですが、それこそが『スパイダーマン:スパイダーバース』の持ち味。とは言え、時空間を取り敢えず歪めて『ロジャー・ラビット』にインスパイアされたスパイダー”ハム”まで登場させるぶっ飛び感もあれば、泣けるシーンもあるし、熱くなるアクションもある。老若男女問わない”皆”の為の映画です。
出典:”Spider-Man: Into the Spider-Verse(2018) ©Columbia Pictures”
ありそうでない様な科学実験の末に世界が終焉の危機を迎えるパターンではないし、大いなる力に伴う大いなる責任の様な細かい話は、一旦クローゼットの奥にしまってくれたからこそ楽しい作品。
重苦しく、アンチクライマックスになりがちなラストの(実写版でもお約束の)大決戦にさえ、鮮やかな黄色や青や赤が跳ねるポップでサイケな愉快さがあります。21世紀のデジタル技術を忘れて、懐かしいコミックスの美しさに立ち返った『スパイダーマン:スパイダーバース』は、色合いも演出も閃きに満ちた独創性に溢れる映画。
身に危険が迫っている事を知らせるスパイダーセンスも、『スパイダーマン:スパイダーバース』では電磁波を思わせる”カミナリマーク”で表現している様にアニメーションならではの演出がとにかく新鮮です。
もう一つは『デッドプール』を思わせる”第4の壁破り”なストーリーテリング。
『スパイダーマン:スパイダーバース』ではスパイダーマン自身が過去のスパイダーマン映画に纏わる自虐ネタやウィットが利いたジョークで笑わせてくれます。
異次元のピーターとグウェンの登場によって3人のスパイダーマン/スパイダーウーマンを目にして”一体、何人のスパイダーマンが居るんだ”と漏らすマイルズにピーターが一言。
“そいつはコミコンまでのお楽しみだ”
こうした分かる人には分かるジョークが満載です。
出典:”Spider-Man: Into the Spider-Verse(2018) ©Columbia Pictures”
『スパイダーマン:スパイダーバース』がこれまでの映画と比べてライトで笑い易いコミックス調である事も、こうしたジョークのトーンにマッチしていて違和感なく楽しむ事が出来る大きなポイント。ヒーロー映画に最も求められるWow!とHaHa!をしっかり届けてくれます。
コミックスのカラフルで眩ゆいアートが活きたアクション・パックなスパイダーマン映画である事も秀逸な点ですが、注目に値するのはそれだけではありません。
蜘蛛に噛まれて突如不思議な力を手にするのは殆ど同じ事の様に描かれて来たのが、これまでのスパイダーマン映画。しかし、『スパイダーマン:スパイダーバース』からは、勇敢である事と諦めず立ち上がり続ける事のインスピレーションを貰う事が出来るのも心から評価したいところ。
既に”ベテラン”である異次元から来た5人のスパイダーマンと、右も左も分からない”噛まれたて”のマイルスの葛藤を描いた成長劇でもあるのです。
出典:”Spider-Man: Into the Spider-Verse(2018) ©Columbia Pictures”
壁に張り付く事も、スパイダーウェブで縦横無尽に飛び交う事もおぼつかない中、何をどうすればスパイダーマンとして闘えるのか。いつ、スパイダーマンとして闘う準備が出来るのか分からない。異次元では長く存在し続けられない5人のスパイダーマンたちを救うタイムリミットが迫る中、元凶のキングピンに立ち向かうには中々至らず、悔しさに拳をほどけないマイルス。
そんなマイルスにはピーターから厳しい答えが。
“いつスパイダーマンになれたかなんて分からないさ。そう信じて飛んでみるしかない、それだけだ”
蜘蛛に噛まれ、超人的な能力を手にすれば誰でもヒーローになれる訳ではない事を痛感するストーリーでした。そして、マイルスがスパイダーマンへの壁を突破出来たのは息子想いの父の言葉があったから。
“お前には素晴らしい可能性を感じる。何とも言えない、きらめきと才覚だ。だからお前に多くを求めてしまうんだ”
自信は内なるものではなく、寄り添って信じてくれる誰かが与えてくれるものと心から感じた瞬間がしっかりある映画でした。スーパーヒーローを題材とする映画では度々描かれてきたテーマですが、どこかしら異世界的でファンタスティックな”スパイダーマン”。『スパイダーマン:スパイダーバース』は映画館で隣に座っている誰かに起こっている事だとしても不思議ではない様な、人間らしいディテールに富んだエピソードがペース良く描かれます。
出典:”Spider-Man: Into the Spider-Verse(2018) ©Columbia Pictures”
映像美やライトなテンポでコミックスを読むかの様に楽しむ事が出来ると同時に(だからこそimaxでの鑑賞が最もお勧めです)、全ての人間に向けた大切なメッセージがある『スパイダーマン:スパイダーバース』。
誰しも勇気とちょっとした後押しを必要としている人生。『スパイダーマン:スパイダーバース』はきっとマイルスと自分を重ね、支えてくれる誰かが居る事に感謝し、日々をもう少しだけ幸せで楽しくしてくれる映画ではないでしょうか。
この映画を観られるサイト
『スパイダーマン:スパイダーバース』は2019年3月8日に日本の劇場で公開予定!是非、imaxシネマで最高の映像体験をお楽しみください!
動画配信サービスでの取扱はかなり先になりそうですが、配信開始が確認出来次第こちらも更新致します。
まとめ
幾多のスパイダーマン映画の中でも斬新なストーリーに、コミックスならではのカラフルで独創的な演出が活気を持たせてくれる作品。目眩がしそうな映像美も『スパイダーマン:スパイダーバース』の面白さの一つ。これを巨大なimaxスクリーンで楽しまないのは勿体ない。
いつもながらファンは勿論の事、久々に笑って驚いて感動する映画体験をしたい方には是非お勧めしたい映画です。