観どころはテクノロジーと中国マーシャルアーツの融合!マーベル新時代を切り拓く『シャン・チー/テン・リングスの伝説』をレビュー

シャン・チー/テン・リングスの伝説


監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:シム・リウ、オークワフィナ、メンガー・チャン、ファラ・チャン、フロリアン・ムンテアヌ、トニー・レオン、ミシェル・ヨー 他
言語:英語
リリース年:2021
評価★★★★★★☆☆☆☆

Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(2021) ©Marvel Studios『参照:https://www.imdb.com


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~”安定したマーベルらしい作品で派手で発想力に富んだスタントも多く、非日常なエンタメを楽しむにはパーフェクト”~
~”アジア系の俳優陣を揃えてもカルチャー的な解釈は深堀感があんまり感じられないのは残念だけど、悪役トニー・レオンの魅力が大爆発しているから気にしない!”~

もくじ


あらすじ

サンフランシスコでホテルの駐車係として日々を送るショーン
平凡な好青年の様に思えるショーンだが彼には秘密があった
父は国際的な巨大な組織『テン・リングス』のリーダーで母はその因果で死亡
幼い頃から暗殺術を叩きこまれ、本名はシュー・シャン・チー
母の死後、父と妹、そして過去から逃れるべく渡米したが、
10年の時を経て遂に過去、そして自分自身と対峙する事を余儀なくされる


レビュー

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のビッグバン現象と称される『アイアンマン』(2008年)に端緒を開いたインフィニティ・サーガが『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)で幕を閉じて2年。MCU新時代の火蓋は『シャン・チー/テン・リングスの伝説』で切って落とされました。

主演のシム・リウはデロイト・トウシュ・トーマツに会計士として勤めるも、短期間で解雇されてしまった事を契機にスタントマンや俳優の道にキャリアを切り替えた異色とも言える経歴の持ち主。ギレルモ・デル・トロ監督の『パシフィック・リム』(2013年)のエキストラで映画デビューを果たし、見事本作では大役を掴んだ俳優で今後の動向にも注目したいところ。

リウに加え、オークワフィナやメンガー・チャン、そしてハリウッド界隈では言わずと知れたミシェル・ヨーらを揃えた『シャン・チー/テン・リングスの伝説』はダイバーシティが様々な業界横断で叫ばれる現代らしく、MCU初のアジア系の俳優陣を総動員した作品としても公開前から熱い視線が向けられていました。

しかし、その真骨頂は映画館の巨大スクリーンで興じるに相応しいアクションとキャラクターを取り巻くドラマの数々。そしてMCUのフェーズ4作品群のキーとなるファンタジーや魔法のエッセンスが鏤められており、従来の作品とは一味違う仕上がりになっています。


シャン・チー/テン・リングスの伝説
平凡な日々を親友のケイティと送るシャン・チーだが、捨てたはずの因果が忍び寄る

出典:”Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(2021) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com

以前の日常を取り戻しつつある『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)後の世界を舞台に、シュー・シャン・チーはショーンと名乗り、サンフランシスコでホテルの駐車係として細々と暮らしていましたが、幼い頃に生き別れとなった妹から届いた一通の手紙が捨てたはずの過去を呼び戻す事になります。

シャン・チーの父、シュー・ウェンウーは10個の腕輪からなる伝説の武器、通称テン・リングスを有する世界的な犯罪組織『テン・リングス』のリーダー。テン・リングスが秘めた強大な力で1,000年の時をも生き、莫大な富と地位を得て世界の覇者となる事を目論み続けて歴史上のあらゆる王国や政府を己のほしいままにした男。そして神獣が棲むと伝えられている秘境の村ター・ローに狙いを定めたウェンウーでしたが、期せずして村の番人を務めるイン・リーと恋に落ち、二児の父に。

家族と共に老いて行く事を受け入れてテン・リングスを腕から外して生きようと決めたのも束の間。過去の因果でイン・リーを殺されてしまったウェンウーは、再び腕輪の力を手に息子のシャン・チーに暗殺術を叩き込んで組織のリーダーとしての活動も再開してしまう。

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14歳にして暗殺術を体得したシャン・チーは父に命じられてイン・リーの仇討の為に家族の元を去るものの、そのまま組織から逃亡。しかし、10年の時を経てまたもやター・ローを狙う父に協力を仰がれたシャン・チーは逃れられない過去の因縁と向き合う事になります。


『シャン・チー/テン・リングスの伝説』2021年の評価と感想
香港の恋愛ドラマを彷彿とさせるスローモーションを多用したシーンは中国版ボリウッドの様な印象も

出典:”Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(2021) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com

悲劇と哀しみ、暴かれる過去の亡霊、引き裂かれた家族の絆。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のストーリー構成には特筆すべき目新しさは無く、MCUにありがちな展開と言っても差し支え無いのは確かです。しかし随所で観られるリングを使った独特のアクションは一見に値する今作最大の観どころ。やはり、胸に秘めた不思議な力やスーパーパワーに憧れる少年少女の心が思わず躍ってしまう様なスペクタクルを魅せられると歓喜せずには居られません。

過去作品の例に漏れず、CG駆使して表現した原作の世界観やコスチューム・デザインも現代的な芸術作品としての魅力溢れる内容になっています。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』2021年の評価と感想
スカイ君
待望のMCU作品!今回はアジア人が主演ってことで、テイストが大きく違うかと思ったけどいつものMCU作品な感じだったかな(別に悪い意味じゃなくてね)。もうちょっとストーリーとしては捻りが欲しかったかなぁ、凄く淡々と事務的に進んじゃっている様にオレは感じちゃったな
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』2021年の評価と感想
モカ君
でもアクションのクォリティは凄かったよ!もっとアクションあっても良かったくらい!今後のアベンジャーズでもリング使って凄いアクションを観たいなー
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』2021年の評価と感想
スカイ君
原作だとシャン・チーがスパイディにマーシャル・アーツを教え込むエピソードもあるんで、そういう絡みも楽しみだな!パーフェクトではないけど、良いスタートなんじゃないかなとは思うな。ここからはネタバレも触れるんで、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』をまだ観ていない人は自己責任で頼むぜ
主演シム・リウの存在感をも凌駕する悪役トニー・レオンが放つリング・アクションは見逃せない

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』の生き血とも言えるのがウェンウーに扮する香港の映画スター、トニー・レオン。不思議とスクリーンに登場していなくとも、常にその存在を感じさせる圧倒的なカリスマが漂う俳優で素晴らしいキャスティングだと思いました。

レオンは共演者の撮影も食い入る様に観察してウェンウーの演じ方を常に考えていたとも報じられていたので、その存在感は熱心に作品に息を吹き込もうとした絶えない努力の賜物とも言えるかも知れません。ベテランでありながらもプロとしてのスタンスとレオン自身の性格が垣間見える、個人的には好きなエピソードです。

恋愛ロマンスやドラマ作品で一世を風靡したボーイッシュで柔らかなルックスが、知的ながら情にも厚い複雑な今作の悪役をリアリティある人間らしい存在にしていて、その眼差しだけで難なく登場シーンをコントロールしているパフォーマンスには脱帽しました。

レオンのウェンウーには、単発の使い捨てには勿体ないヴィランとして名高い『ブラックパンサー』(2018年)のキルモンガーに匹敵する魅力があり、従来のヒーロー映画よりも洗練されたドラマ性を巧みに引き出しています。

そして腕輪を使ったアクションに触れずして『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は語れない。


『シャン・チー/テン・リングスの伝説』2021年の評価と感想
原作の指輪と異なって腕輪が武器となっている本作では、その設定のお陰でアクションの幅も広がった印象

出典:”Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(2021) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com

腕輪が使われる度に、その金属的な重みを感じる様な振動が腹の底に響く。リングを纏うウェンウーやシャン・チーのアクションに合わせてアカンパニーする動きも魔術を使った武闘演舞を観ている様で、綿密に練られたコレオグラフィの躍動感が非常に印象的でした。

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母のイン・リーは太極拳の使い手で、父のウェンウーは詠春拳の使い手。暗殺者としての業を父に教え込まれたシャン・チーは戦闘的なスタイルの詠春拳を使う場面が多く観られたものの、ラストで両親から受け継いだ2つの武術を駆使してウェンウーに立ち向かう決闘は特に圧巻。スピード感もさることながら、リングを大剣に見立てたり、しなる鞭の様に使ったり、ブーメランの様に投げ回したり、防具にしたりと存分にクリエイターの想像力を尽くしたアクションになっていて、戦闘シーンが多い歴代のMCU作品の中でも一線を画しています。

瞬間的な動きにはスピード感を持たせつつも、昨今多用されるカットの多い混沌としたシーケンスとは違ってフレームがアクション全体の動きに合わせて緩やかに動き、ダイナミックなスタントを惜しみ無く楽しませてくれる点も良い。

シャン・チーがリングを手にした今、将来的にMCU作品で一層驚く様な独特のアクションが期待できそうです。

リングが登場しないアクションも豊富に織り込まれた『シャン・チー/テン・リングスの伝説』ですが、香港のアクション映画に顕著な軽やかながらスピーディな手技が際立ちます。ただ、リングのアクションと対比してしまっている事もあってか、何処か物足りなさを感じてしまうところ。


『シャン・チー/テン・リングスの伝説』2021年の評価と感想
バスの車内外を駆使した激しい戦闘も見もの。クレットン監督もサンフランシスコ市内の下り坂をバス一台猛スピードで走らせるスタントは初の試みだそう

出典:”Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(2021) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)や『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)でメガホンを取ったルッソ兄弟が得意とするグリッティで臨場感あるアクションの方が個人的には好みで、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』の香港映画を彷彿とさせるスタイルは少々肌に合わず。

唯一、シャーリンが運営するクラブのゴールデン・ダガーで繰り広げられる、ビルの足場を駆使した格闘は巧妙なカメラワークも相まって手に汗握るシーンでした。サイケデリックな光や、ロケーションの高低差を応用してリッチな没入体験を実現している点は見事です。

エンディングにかけて物語がター・ローの神秘的な世界に踏み込んだ後も同じ様にマジカルな没入感を維持出来てさえいれば素晴らしかったのですが、大きく失速した印象が拭い切れない点が心残りでした。何を何処まで許容するかは人それぞれ明白な根拠のないボーダーラインが存在している様に思いますが、私はどうやら魔獣や魔術に対して比較的厳しめに評価してしまう様です。

後半にかけて変化する作品のトーンと展開の早さには少し混乱も

魔法の腕輪が存在する以上は九尾の狐や人間の魂を食らう闇のドラゴンの登場に然程違和感を持つべきではないのかも知れませんが、それまで『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を前のめりに観ていた私の気持ちも少し冷め気味に。広大な宇宙に北欧神話の元となったエイリアンが潜んでいる可能性や、天才的な知能の持ち主が卓越した技術でアイアンマンを作り出してしまう事はフィクションの範疇で筋が通っている感覚があるものの、地球上の異次元空間に麒麟や獅子が棲んでいると藪から棒に言われても腹落ちしないところ。

従来のMCU作品に比べて低予算で制作されてしまった皺寄せか、CGのクォリティが到底高いとは言えないのも惜しい。

ター・ローの大戦に登場した魔獣は、いずれも『名探偵ピカチュウ』(2019年)を想起させるばかりの質感で途端にストーリーを真に受け難い雰囲気を感じずには居られませんでした。家族をテーマにしたシリアスなトーンと、ポケットモンスターが漂わせるコメディックで可愛いイメージがどうにもミスマッチで首を傾げずには居られない。それまでビルドアップした緊張が尚早に崩れて萎んで行くのを感じてしまったのが残念です。

そして主役のシャン・チーよりも親友のケイティの方がキャラクターとして濃厚でパーソナリティ溢れる面も、私の心境としては何とも複雑でした。

ケイティのコミック・リリーフ効果は過去のMCU作品に比べると脚本自体が陳腐故に弱いと言わざるを得ないものの( 余談ですが『エターナルズ』(2021年)の予告編も観る限り、売れないコメディアンに書いてもらった様なジョークが散見されたので元の切れ味を是非取り戻して欲しい)、演じるオークワフィナ持前の愛嬌で懐に入って来る感じが否めない人物。ありがちな単なるヒーローのサイドキック以上の存在で、何処と無く放っておけない。
(触れた事も無い弓矢を数時間程度の鍛錬で、ター・ローの決戦にて使えるまでになった事をも許してしまいそうになります)

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『シャン・チー/テン・リングスの伝説』2021年の評価と感想
シャーリンも強いプレゼンスを放つものの、作品の余白を埋める事に必死で持て余していた印象

出典:”Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(2021) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com

一方でシャン・チーは両肩に家族との過去や因縁を抱えた青年ですが、キャラクターとしての持ち味は薄く、勿体無い印象を受けてしまいます。鋭いアクションを放つ鍛え上げられた身体と、意外にもピュアな少年の様な性格にギャップを感じさせるリウのパフォーマンスは称賛したいものの、パーソナリティ不足の空虚感は埋め切れずでした。

その点はアベンジャーズのメンバーとなった今、次なるサーガを通して長い目でキャラクターの成長と成熟を期待すべきなのかも知れません。

ハリウッド映画に於いて、アジアと言えば(殊に、日本と言えば)富士山をバックにヤクザと忍者と侍が日本刀を片手に跋扈する大陸と認識され続けて久しいのですが、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』に期待した異なる文化的な解釈が不発に終わった事も悔やまれます。実態にそぐわないとしても、突飛な発想だとしても、制作陣ならではの捉え方がもっとあったはず。コスチュームや龍の登場には全く文句はありませんが、古来からの武術とテクノロジーを融合させた様に今一歩クリエイティビティを割いて欲しかったと願わずには居られませんでした。(他にカルチュラルな側面と言えばシャン・チーが名前の正しい発音をケイティに教え込むシーンで、移民が日常的に晒される小さな気苦労の1つとしてそれとなく触れられていますが)

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』はMCU作品らしい安定したエンターテインメント性、テーマ性と斬新なアクションが織り込まれた映画で、大画面のスペクタクルを楽しむには打ってつけ。芸術作品として深く考えてみると(そして、フィクションとは言え一定のリアリティとロジックを求める個人的なボーダーラインに鑑みると)、割り切れない疑問符が頭を周遊してしまいますがMCUの新時代が狼煙を上げて動き始めたばかりの今、1つの映画作品を超えたサーガとして何を魅せてくれるのかもう少し気を長くして待ってみたいと思います。


この映画を観られるサイト

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は9月3日から全国の劇場で公開中!Disney Plusでの配信も待たれるので、ご自宅で鑑賞したい方は是非動画配信サービスで!

まとめ

テクノロジーに重きが置かれたMCU初期の作品とは大きく異なり、今後のMCUを切り拓く魔術やファンタジー要素が色濃い作品で受け付け易いかどうかはオーディエンスによって分かれそうな作品。ただ、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』最大の特徴である(題名にもそのまま書いてある)、リングを駆使したユニークなアクションは非常にエンターテイニングで、まさにクールな観どころ。想像以上の迫力で、それだけ観る為に再度鑑賞したい程でした。

ヒーローよりも作品の魅力を掻っ攫いかねないパワフルな悪役も是非堪能して欲しい映画。ポケットモンスター然とした、映画よりもゲームを思わせる様なCGは唯一頂けなかったので残念ですが。

オーバーオールで言えば続編を始め、今後のMCU作品とどの様にタイ・インして行くのか注目したくなる作品なので、一見の価値ある映画だと思います。

シャン・チー/テン・リングスの伝説
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