名探偵ピカチュウ
監督:ロブ・レターマン
出演:ライアン・レイノルズ、ジャスティス・スミス、キャスリン・ニュートン、スキ・ウォーターハウス、オマール・チャパーロ、クリス・ギア、渡辺謙、ビル・ナイ 他
言語:英語
リリース年:2019
評価:★★★★★★☆☆☆☆
Pokémon Detective Pikachu(2019) ©Warner Bros. Entertainment『参照:https://www.imdb.com』
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~”ストーリーやミステリー重視ならガッカリするけど、言うてもポケモン映画!『名探偵ピカチュウ』の観どころはやっぱり、そう、ピカチュウ!”~
~”ポケモンがゲームから飛び出してくれて本当に居る世界だったらなぁ・・・そんな妄想をした事がある人を楽しませる為にある映画”~
もくじ
あらすじ
ティム・グッドマンはポケモン嫌いの21歳
ある日、父ハリーが事故で亡くなった連絡を受ける
ティムはハリーが住んでいた人間とポケモンが共存する街”ライムシティ”を訪れた
探偵業を営んでいたハリーの部屋で、ティムは1匹のピカチュウと出会う
何故かティムにだけピカチュウの声が聞こえ、会話も理解することができた
ピカチュウは自らが記憶喪失で、ハリーのパートナーだった事を明かす
そして自分が生きているからハリーも生きているはずとティムに訴える
2人は新米記者ルーシーの協力で、ハリーが事故の前に追っていた謎の薬品を巡る事件について調べ始める
レビュー
『名探偵ピカチュウ』最大の特徴と言えば、ピカチュウに扮するのは事もあろうに日本刀でギャングをケバブに仕立ててしまう『デッドプール』(2016年)のライアン・レイノルズ。
愛らしい硝子の様な瞳と鮮やかでふっくりとした黄色い毛をを纏ったピカチュウから、日本語版では吹き替えを担当した西島秀俊の声が聞こえて来る様子は実にシュール。可愛いだけでない、声質と台詞の中年男性臭のギャップが魅力的で鑑賞後も飽き足らない。
キュートな笑いを誘った『ボス・ベイビー』(2017年)に近い感覚かも知れません。
『名探偵ピカチュウ』は単なる映画好きや、ポケットモンスターのゲームやトレーディングカードに親しんだ世代に限らず、幅広いオーディエンスに好感を持たせる面白みのある映画で、テーマが飽く迄もポケットモンスターである事を考えると革新的と言っても過言ではありません。『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』(1998年)に端緒を開くポケットモンスターのアニメーション映画は、眠気と闘う親とは対照的に興奮の余り漏らしそうな子供たちに数々の夢を与えて来ましたが、『名探偵ピカチュウ』は全く観どころが異なります。19作にも上るポケモン映画、特に第1作目の『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』は子供向けエンターテインメントの中に深い情緒的なメッセージを込めた名作ですが、『名探偵ピカチュウ』は、ポケモンの世界を土台に愉しむ事へのフォーカスが強い作品。
“もし本当にポケモンが存在したら?”
人間社会にポケモンが存在するのではなく、人間とポケモンの社会を描いているのが『名探偵ピカチュウ』だからこそ西島秀俊の声をした中年ピカチュウが登場しても違和感なく、笑いが込み上げる。
出典:”Pokémon Detective Pikachu(2019) ©Warner Bros. Entertainment”『参照:https://www.imdb.com』
アニメーションとして馴染みが深いポケモン映画ではありませんが、ポケモンの世界をこれまでと異なるアプローチで描いた『名探偵ピカチュウ』は映像としても観どころに溢れています。
ポケモンをカフェやオフィスで見掛けても、誰も驚かない世界。言葉で語ると単純で、寧ろファンタスティックなゲームの世界を想像しがちですが、実際に映像で観てみるとやはり、何処か胸が高鳴ってゲームとは違う感銘を受けます。ドットで描かれたスクリーンでは無い、日常の中にポケモンが溢れ返った世界は実にマジカルで、直ぐに浸ってしまう。
そんな『名探偵ピカチュウ』の世界でどの様なストーリーを描くか。その点は、残念ながらウィークポイント。興味深いエニグマには程遠く、ミステリーにしては冒頭の20分程度でラストが概ね予想出来てしまいます。子供やティーン向けである事を考えると、致し方ないのですが。ストーリー構成はクラシカルな推理小説に倣っていますが、違いはファム・ファタールがセクシーで憂いを帯びた美女では無く、喋る黄色い電気ネズミな事。そのネズミが『名探偵ピカチュウ』の笑いや面白味の殆どを掻っ攫います。
飽き足らないと述べた通り、『名探偵ピカチュウ』最大の魅力はやはりこのピカチュウ。
出典:”Pokémon Detective Pikachu(2019) ©Warner Bros. Entertainment”『参照:https://www.imdb.com』
一般公開されている予告編でも、前面に推し出されているピカチュウのキャラクターが最も活かされている作品です。日常に溶け込んだポケモンを、背景の一部やバトルの駒ではなく、人と共に生活するキャラクターとして描く事にフォーカスしているからこそレイノルズ、日本の場合は西島秀俊を起用する事の意義が引き出されます。ゲームを楽しんだ事が無いオーディエンスにとっては、多くのポケモン映画で”ゴーストタイプ”やら、”水タイプ攻撃がリザードンの急所に当たった”理由は良く分からなかったものですが、『名探偵ピカチュウ』ではニッチなポケモンの知識は必要無く、チャーミングなレイノルズらしさに没頭出来る様になっているのは評価したい。
世界観やキャラクターの様なベースは相応に魅力的なので、ストーリーやミステリー要素にもっと力を注いでいれば、是非高得点としたかったです。
レイノルズや西島秀俊のキャラクターだけを活かすのであれば、ミステリーでは無く、単に『シュレック』(2001年)の様なアドベンチャー映画にしても良かったのではないかと思いました。ミステリーとなると、少なからず、如何に単純でも納得の行く合理的な解説をラストに期待してしまう。それが無いと、ゲームの世界を脱している様で、結果的には高画質なポケモンのゲームをプレイしている様な感触からは抜け出せません。ティーンはそれで満足出来るかも知れませんが、ゲームから離れた大人層のオーディエンスとしてはもう一歩、上手く練って欲しかったところです。
レビューで映画を駄作と評する事は少なくありませんが、多くの場合、詰まるところキャラクターの味気無さや描写不足になる事が多い。
観客を仰天させるストーリーに執着するあまり、キャラクターがいつしか蔑ろにされてしまった作品も多々あります。
乱暴に言えばチープなストーリーも、映画のフィクションな世界と観る者が生きる現実の橋渡しを忘れない事で、下水管に流したくなる愚策の栄冠を免れる事は少なくなく、『名探偵ピカチュウ』もそれに属すると言えます。ただ、『名探偵ピカチュウ』の世界でもポケモンと人は言語を通じた意思疎通が出来ない様で、ハリーの精神が乗り移ったピカチュウだけティムと会話する事が出来る為、ポケモンたちのキャラクターが個々で際立つかと言えばニアミス。カメオの様なシーンで一瞬だけパーソナリティが光るバリヤードを除けば、少々勿体無い扱いを受けているポケモンが多いです。
その点、折角の世界観についても、もう少しルールを語って欲しいとは思いました。
既にストーリー性に欠けているポイントは欠点だと述べましたが、ポケモンが喋れるか喋れないかに限らず、人とポケモンが共存する世界がスクリーン外の世界に比べてどの様に違うのかや、出来る事や出来ない事も大きく違うはずなのに言及されないのはもう一つの欠点。何処か曖昧な物足りなさを感じるのは夢の様な世界が素晴らしくワンダフルな一方で少々薄っぺらく感じてしまうから。『ハリー・ポッター』シリーズで顕著な、緻密で考え抜かれたワールド・ビルディングが『名探偵ピカチュウ』には無く、それが浅いストーリーにならざるを得ない理由でもあるのでしょう。
出典:”Pokémon Detective Pikachu(2019) ©Warner Bros. Entertainment”『参照:https://www.imdb.com』
それ故か、20分置きにティムかピカチュウが次のシーンの流れを一人芝居しながらオーディエンスの為に説明し始めますが、反面ティムとピカチュウのバディ・コメディとしては素直に楽しい。
『名探偵ピカチュウ』はポップカルチャーの代表格にもなったポケモンの絶対的な人気を上手く利用し、R18指定のヒーロー、デッドプールがピカチュウに扮して可愛いネズミらしからぬ台詞をパロディチックに面白おかしく語らせても、イメージダウンには到底ならない事を前提にしています。
世代を超えた不動の人気に肖ったクレバーなキャラクターの使い方とも言えます。
そして全身CGiされたキャラクターをメインに活用する場合は、映画としての品質がパフォーマンスに強く依存してしまうのでキャスティングが要。その点、レイノルズが『名探偵ピカチュウ』のリーサル・ウェポンなのは明らかですが、デッドプールを演じた時と同様、冗談みたいなコンセプトを心底真面目に演じつつも、喋る電気ネズミの役を愉しむ事が出来る、彼の稀有な持ち味を改めて痛感。そんなレイノルズの熱意と愉快な気持ちが伝わってくるから、こちらもピカチュウを観ていて楽しい。
一方でティムを演じるジャスティス・スミスとルーシーに扮するキャスリン・ニュートンは、主役でありながらレイノルズ程の大役を与えられておらず、少々退屈でいずれも懐に入ってくる感じはしません。然りとて『名探偵ピカチュウ』はポケモンがスポットライトに包まれているから、実は何処にでも居そうな冴えない男女を横に置いても然程気にならない。ピカチュウの存在を際立たせるサポート役としては充分な存在感とパフォーマンスを届けてくれます。
従来はトレーナーを主としたポケモン映画やゲームの世界と大きく異なる『名探偵ピカチュウ』のキャラクター構成は実にエンターテイニングでした。
レイノルズの好演はラストまで安定して続きますが、残念がらCGiのクォリティに目を向けるとそうは行かない。
特に巨大化したドダイトスが地響きと共に姿を現すシーンは、映画が期待している様なドラマティックで壮観な映像体験とは裏腹にただ地鳴りが喧しく、余りにも非現実的で少々呆れてしまう。プアなCGiも手伝って、『名探偵ピカチュウ』はこの瞬間から大きく失速し、苦笑を禁じ得ない悪役の稚拙な計略のダブルパンチもあって前半に比べて真面目に取り合う事は難しくなってしまいます。
この口惜しいシーンの予兆は、ハワード・クリフォードのオフィスのシーンで滲み出ていました。ゼウスも開いた口が塞がらない万能なホログラム映像が投影された場面。登場させれば、脚本作家の悩みを帳消しに出来る代物。
キャラクターの動きやストーリーを考えて綿密に練らなくても、謎を解く為に必要な情報がイージー・プラッターに載せられて口元まで運ばれて来る様子には言葉を失いました。
出典:”Pokémon Detective Pikachu(2019) ©Warner Bros. Entertainment”『参照:https://www.imdb.com』
如何せん、ゲームを映画用に脚色した作品なので厳しく評価し過ぎかも知れませんが、映画である以上は素直に評価したい。
『名探偵ピカチュウ』のギャップはキュートなルックスに低い中年男性の声を湛えたピカチュウだけでなく、デザインとストーリーにも及びます。ウィークポイントがストーリーである事は既に述べましたが、ピカチュウを始めとするポケモンや舞台となるライム・シティの美しく、繊細で凝ったデザインが、一層その浅薄さを如実にしています。視覚的な印象は、隠れたテーマや複雑なストーリーを期待させますが、鑑賞後は飽く迄も子供を喜ばせる為だったのかも知れないと感じ、落胆にも似た気持ちが込み上げました。
総じて様々な欠点を持つ『名探偵ピカチュウ』は1本の映画としてオールタイム・ベストに達する作品ではないし、原作となったゲームへのオマージュやイースターエッグを除けば考察に値する作品でもありません。ただ、ポケモンを中心にした確かな世界観、圧倒的なデザイン美とレイノルズが授けてくれた魅力的なピカチュウは今後、MCUと同様にシリーズとして広がりを見せる大きな可能性を感じさせてくれる映画でした。
続編やスピンオフには期待したいと思います。
この映画を観られるサイト
『名探偵ピカチュウ』は全国の映画館で絶賛上映中!
気になる方は是非、劇場へ足を運んでみてください!
まとめ
ピカチュウが全てを持って行く『名探偵ピカチュウ』。
ミステリー要素はどうしても子供向けゲームの域を出ず、ストーリーについても過度な期待をすると肩を落として劇場を後にする事になります。ライアン・レイノルズのピカチュウが全てのライフラインになっていて、デザインと同じくらい内容にも力を入れていれば非常に良い作品になったのではないかと思いました。
残念な点も多いですが、『名探偵ピカチュウ』ならではのチャーミングな魅力も見逃せないポイントですので、一見するだけの価値と言っても良いのではないでしょうか。