僕のワンダフル・ジャーニー
監督:ゲイル・マンキューソ
出演:ジョシュ・ギャッド、デニス・クエイド、マーグ・ヘルゲンバーガー、キャスリン・プレスコット、アビー・ライダー・フォートソン、ヘンリー・ラウ、ジェイク・マンリー 他
言語:英語
リリース年:2019
評価:★★★★★☆☆☆☆☆
A Dog’s Journey(2019) ©Universal Pictures『参照:https://www.imdb.com』
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~”モーカワイー!なモーメントはふんだんに鏤められた癒されたい人の為の映画!ストーリーの濃さやレベルにはあまり期待はせずに、取り敢えず可愛い犬たちの冒険を楽しみたい人向け”~
~”ジョークのレベルもちょっと沸点低めな人にお勧めな感じ!泣くは泣くけど、犬が死んだらそりゃ誰でも泣くよねっていう涙”~
もくじ
あらすじ
老犬ベイリーはイーサンとハンナ夫妻と幸せに過ごしていた
ベイリーは夫妻の孫娘クラリティ・ジューン/CJと遊ぶ事が大好き
しかし母親グロリアは犬嫌いでベイリーを疎んじていた
グロリアはCJの世話もせず、義理の親である夫妻との関係も悪化
最終的に、グロリアはCJを連れて夫妻の家を出てしまう
夫妻は悲しみに暮れたが追い打ちをかける様に、
ベイリーの胃に大きな腫瘍が見つかる
ベテランの獣医でも手の施しようが無く、
ベイリーは安楽死させられる事になった
別れ際、イーサンはCJのことを見守る様にベイリーに語り掛ける
ベイリーは愛する飼い主の願いを聞き入れ、生まれ変わるのだった
レビュー
名犬ラッシーも顔面蒼白な忠誠心を見せるベイリーの物語は『僕のワンダフル・ライフ』(2017年)が幕を閉じたシーンに端緒を開きます。
長閑なカントリーサイドを絵に描いた様な農場に昇る太陽が木々や広大な牧草地を照らす中、バーニーズ・マウンテン・ドッグのベイリーは絵に描いた様に心優しい老夫婦イーサンとハンナ、その義理の娘グロリア、孫娘のCJと共に幸せな日々を送ります。しかしベイリーは年老いてしまい、腫瘍が原因で早くもスクリーン・アウト。その後は新たに雌のビーグル、モリーとして生まれ変わり、アルコール中毒のグロリアと11歳のCJと奇跡的に再会し、ベイリーとしてイーサンに命じられた通りCJに寄り添います。
シャルドネと男遊びに現を抜かし、お金に慣れていない小娘の如くこれ見よがしにブランド品を買い漁るグロリア。11歳のCJは恵まれぬ母親からの愛情をモリーと過ごす事で満たすも、モリーは事故で死んでしまい、その後も次々と転生を繰り返します。
ベイリーはモリー、ビッグ・ドッグ、マックスと生まれ変わり、CJの人生の転機となる場面で幼馴染のトレントとの再会を含めて、ストーリーを推し進める推進役として犬の目線からCJの人生をナレーションします。その点、観衆から女子高校生を彷彿とさせる”カワイー”を大量発生させる仕掛けは充分に凝らされており、肛門の臭いを嗅いで互いに挨拶をする様子や半永久的に食べ物を嗅ぎ回る様子など、犬にありがちな習性をコミカルにコメントしてくれるスタイルも素直に楽しめます。
出典:”A Dog’s Journey(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com』
『僕のワンダフル・ジャーニー』で少々居心地が悪いと感じてしまったのは、ベイリーに訪れる死に重きを置いている様にも思えるストーリーの流れ。
マンキューソ監督がジョン・ウィックに追い回されないと良いのですが、忠誠や運命を強調する為か異様とも思える程、繰り返しベイリーの死が描かれます。
『僕のワンダフル・ジャーニー』のストーリーに目新しさも無く、ティーン向けのメロドラマを辞書で紐解いたら書いてありそうな陳腐な内容に満ちていて、退屈と言わざるを得ません。ブレイクスルーを夢見つつも踠くシンガーソングライター志望で男運が悪い可愛らしい女性、幼馴染との遠からず、近からずな青い恋愛模様とベイリーが次の”犬”生へと旅立つシーンを除けば不思議と晴れ晴れしい街並み。原作では自殺未遂を図るCJやアルツハイマーに苦しむグロリアですが、そこまでダークな側面はベイリーの存在を以てしても中和出来ないと踏んだ為か、『僕のワンダフル・ジャーニー』ではCJの低劣なボーイフレンドの面々が主なアンタゴニストとして登場するものの、充分にキャラクターとして確立される事が無くて面白く無い。
ジョシュ・ギャッドがユーモラスに届けてくれるベイリーの戯言や間の抜けた犬らしい視点は相応にエンターテイニングですが、ストーリーに感情的な重みを与える事は無く、主点を置くべきキャラクターを間違えている様な印象を受けました。
出典:”A Dog’s Journey(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com』
これはベイリーでは無く、CJのジャーニー。
ベイリーがビッグ・ドッグとしてその一生をコンビニエンス・ストアで過ごしているシーンに至っては全くの蛇足としか言えず、実際に作中でもビッグ・ドッグのシーンは最もスクリーンタイムが少なく、殆ど早送りされます。その間、CJがどの様な人生を歩んだのかを観る事は無く、いつしか残念な男運を発揮して理解無き高飛車な男と同棲している場面へと物語が飛びますが、CJの身の上の話の方がビッグ・ドッグの無意味なスクリーンタイムよりは幾分か面白いサイドストーリーとなったのでは無いか。
『僕のワンダフル・ジャーニー』は浅いストーリーを犬の愛らしさで包み込んだ作品なので、前作で楽しめなかった方や可愛らしさだけで2時間座って耐える事が適わない方にはお勧め出来ない映画でした。
ビーグルを飼っている身として、犬と共に過ごす日々の魅力や様々なエピソードを語り尽くす事は簡単ですが、『僕のワンダフル・ジャーニー』の観どころを語るなら、この一点に尽きます。
唯、私としては可愛い犬を観たい欲求を満たすなら『僕のワンダフル・ジャーニー』を観るよりもドッグランやペットショップに足を運ぶ事をお勧めしたいところです。
もう一点捻り出すとしたら、CJ演じるキャスリン・プレスコットと幼馴染のトレントに扮するヘンリー・ラウがカップルとして微笑ましいシナジーを放っている事です。CJに想いを寄せるも口に出来ず、トレントの気持ちに気付いていながら素直に受け入れる心の準備が出来ていないCJのもどかしさが伝わる相性の良いキャスティングとパフォーマンスは、キャラクターとして親しみ易く、『僕のワンダフル・ジャーニー』の救いにもなっています。
如何せん勿体無いのはベイリーの視点でストーリーを語る設定を活用出来ていない事です。
無条件に可愛らしく、別れの時は涙腺を容易に緩めてしまう犬の存在は確かにチャーミングで、ギャッドのナレーションは程良く緊張やダークな空気感に満ちたシーンを緩和してくれますが、一歩想像力を膨らませて欲しかった。
出典:”A Dog’s Journey(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com』
ベイリーの頭の中は、人間が犬の頭に潜り込んでみた様な印象が強く、犬が犬の頭を語っている感じがありません。然りとて私に具体的な妙案は無いので強く批判して良いかと言えば自信はありませんが、如何せんティーンがほくそ笑みそうな内容である事は否めない。
以前、星新一の短編集にエイリアンが地球の知的生命体を調査すべく、無作為に選んだ家屋で偶然会った飼い猫に地球での生活についてインタビューする物語があって、そこで猫の視点で人間の行動を面白おかしく書いていた事を思い出し、『僕のワンダフル・ジャーニー』にもそうした独創的なユーモアを期待していました。その猫が、人間は毎日餌を献上する召使だとエイリアンに語る様子を読んで当時苦笑したものです。
そして、イーサンとハンナ夫妻とは対照的なグロリア。犬が好きか嫌いかが『僕のワンダフル・ジャーニー』の善と悪の境目となります。その単調なキャラクター描写や感情表現が祟って、ラストでベイリーが度々生まれ変わってモリー、ビッグ・ドッグ、マックスとしてCJを見守っていた事をCJ自身が気付くシーンも、感動を催すはずが何処か空虚で浅い喜に留まります。ベイリーの忠誠心は痛切に感じますが、再三ベイリーを安易に殺してしまうストーリーに、ベイリーの苦労は感じ辛い。
ベイリーの身に危険が迫って最悪の結果に繋がっても結局リセットされ、CJに辿り着く事が保証されている以上、一切緊張感も無い。
出典:”A Dog’s Journey(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com』
『僕のワンダフル・ジャーニー』はベイリーの度重なる転生を通じて、人生の困難が心に空ける穴や傷を癒してくれる犬の特別な存在を語ってくれますし、そのメッセージに異論はありませんが、単調且つキッズ・フレンドリーな描写に縛られている以上、CJが追う傷の数々は表面的で心打つ重みに欠けます。少し心が揺れ動いたのは唯一、グロリアが己の生き様を反省して初めてベイリーを涙ながらに抱いたシーンですが、グロリアもベイリーが書いた脚本の被害者として紙切れの様に薄く、特徴が無いキャラクターに仕上がっているので揺れたのは一瞬でした。
しかし繰り返し同じメッセージが流される事もあって、ギャッドの声に頼り切るのでは無く、犬は人間の日常を観て何を思うのかを考え抜いて欲しかった気持ちは変わりません。
『ペット』(2016年)に先を越されてしまった為かも知れませんが、犬を通じて度々人間の一生を追う必要性は強く感じなかった上、キッズ・フレンドリーなエンターテインメントとして人生の複雑なドラマを捉え切れていない様なので、キャラクターを全て犬として描いても良かったのでは無いかと思ったのが素直なところ。
単に優しい老夫婦であるとしか形容出来ないイーサンとハンナも然る事なでがら、物語の悪役となるグロリアと金銭目当てでトレントと交際するリースルは殆どストーリーの観点から存在する意義がありません。事実、リースルに至ってはトレントが癌に冒された事が発覚してから、即刻トレントと別れて二度とスクリーンへ姿を現しませんが、初めから存在しなかったとしても物語へのインパクトは皆無です。
紙切れの様だと評したグロリアも同様です。
ニューヨークへ移ってシンガーソングライターを目指そうと考えるCJの唯一の頼みの綱だった亡き父の遺産をも、車やブランド品に使い果たしたグロリアと腹の内を曝け出すシーンはキャラクター・ビルディングに一縷の望みを与えてくれる瞬間でしたが、その希望も満たされる事無く、グロリアの存在は殆ど不要となってしまいます。
出典:”A Dog’s Journey(2019) ©Universal Pictures”『参照:https://www.imdb.com』
グロリアを最低の母だと怒りで罵るCJに、悲哀と忸怩たる想いを噛み締める様な表情で、最低なのは自分の母だったと一言放ったグロリア。一元的で20代の欲求を抱えたまま三十路へと進んでしまった憐れで惨めな女性である瞬間を脱する最高のチャンスだったのに、その一言はそれ以上発展する事無く、最早言及する必要性さえ無い様な発言に留まります。
何故その話を膨らませないのか。
改心してCJと再会するシーンも、アルコールと男遊びに疲弊しただけなのか、CJを心底愛して会いに来たのか捉え方にも困りますし、グロリアを拒絶するCJにも共感すべきか否か分からず、全く映画に入り込む余地が無くなっています。ベイリーの犬としての愛らしさを際立たせるのであれば、冒頭で言及した様な犬特有のユーモアを徹底して欲しいし、ストーリーやキャラクターに重点を置くのであれば無用なシーンや奥行きの無いキャラクターは削ぎ落して鑑賞直後の刹那だけでも心を動かすコンテンツにして欲しい。無論、両方描ければベストですし、描ければユニークな作品になったのでは無いかと思います。
『僕のワンダフル・ジャーニー』はお座なりなストーリー、粗末に扱われたキャラクターが重なり合って鑑賞後に映画としての満足感や観応えを与えてくれませんが、動物好きや犬好きな方、映像に癒されたい方にはお勧めしたい作品でした。
この映画を観られるサイト
『僕のワンダフル・ジャーニー』は全国の映画館で9月13日から上映予定!
大スクリーンで可愛い仔犬が走り回る姿を堪能したい方は是非劇場へ!
まとめ
『僕のワンダフル・ライフ』の続編、『僕のワンダフル・ジャーニー』は幸いにも一人のキャラクターを中心に物語が展開されるので引き込まれ易いですが、今一つ引力が足りない。
ストーリーは如何せん単調で容易にハッピーエンドの予想が付いてしまう陳腐な内容だし、グロリアやリースルなど一部のキャラクターには全く魅力が感じられない扱いとなっています。
犬好きで、その美しく手触りの良さと温もりが伝わる毛並みを観て映画として楽しむ事が出来るなら観て後悔はしないと思いますが、コメディにしろ感動やにしろ、観応えや物語としての満足感を求めるなら、『僕のワンダフル・ジャーニー』は何処かへ埋めてしまった方が良いかも知れません。