ゲーム
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:マイケル・ダグラス、ショーン・ペン、デボラ・カーラ・アンガー 他
言語:英語
リリース年:1997
評価:★★★★★★★☆☆☆
~”どんでん返しのどんでん返し・・・のどんでん返し・・・の・・・”~
~”ラストで好き嫌いが分かれる映画!ラストに至るまでのスリルを愉しめれば良いのか、綺麗にロジカルな説明が欲しいのか次第”~
もくじ
あらすじ
裕福な投資銀行経営者、ニコラス・ヴァン・オートン
妻と別れ、豪邸に住まう彼は48歳の誕生日を迎えた
弟のコンラッドに呼び出され、レストランで渡されたのは一枚のカード
コンラッドは”人生を楽しくしてくれる贈り物”だと言う
不承不承、カードに書いてある電話番号に連絡してみるニコラス
それが全ての始まりだった・・・
レビュー
『ウォール街』(1987年)で権力者を確かな威厳で演じたマイケル・ダグラス。そして『フォーリング・ダウン』(1993年)で窮追されて逃げ惑う男を演じたマイケル・ダグラス。
『ゲーム』では冷徹で毒のあるウィットを纏うアントレプレナーから、混迷して余裕を失った初老の男まで演じるマイケル・ダグラス。彼が扮するニコラス・ヴァン・オートンをそこまで追い詰める起爆剤となったのは、ある提案でした。
“そのカードに書いてある番号に電話してみろ。人生が・・・楽しくなるぞ”
ニコラス・ヴァン・オートンは離婚し、裕福な独り身の投資銀行経営者。父親が自殺したのと同じ48歳の誕生日を迎えた日、長らく疎遠だった弟のコンラッドから受け取った奇妙な贈り物はCRS(Consumer Recreational Services)と名乗る会社のビジネスカードでした。記載してある電話番号に架ければ、人生を楽しくしてくれる”ゲーム”が始まると言います。ニコラスは渋々承知するも、これがリミットレスな欺瞞の嵐を呼ぶ事になるのでした。
出典:”The Game(1997) ©PolyGram Filmed Entertainment”
審査の上、最適なゲームを設計する為に様々な精神的、身体的なテストを課せられるニコラス。しかし審査の結果、申し込みは受理されず、憤慨するニコラスですが不気味な出来事が次々と彼に降りかかります。
帰宅すると、飛び降り自殺した父親と全く同じ格好でエントランスで倒れていたのは、等身大のピエロ人形。口から飛び出た、鮮血を思わせる赤いハンカチを引き出すと“CSR”のロゴが刻まれた小さな鍵が結ばれていました。ニュース番組を点け、ソファーに座って鍵を弄び、怪訝な表情を浮かべるニコラス。部屋にはニュースキャスターの明朗な声だけが響きます。
“国内の失業率は下がり、強い経済への確立に向けて必要な一歩との見解に議会は・・・共和党はこれを受けて、鼻につくニコラス・ヴァン・オートンの存在への影響は計り知れないと・・・”
動きを止め、ニュース番組を一瞥するも空耳だと思い直すニコラス。しかし、ピエロ人形を調べようとするニコラスの耳に再びキャスターの言葉が飛び込みます。
“ゲームのルールを説明してるんだ、少しはちゃんと聴いてくれないか?”
出典:”The Game(1997) ©PolyGram Filmed Entertainment”
俄に信じられない事態の数々に、狼藉を禁じ得ないニコラス。
『ゲーム』はニコラスを見舞う奇怪な現象が、次第にカオスを増して行く楽しさが大きな見どころです。悪趣味な冗談が、緩やかに薄気味悪さと突拍子の無さを強めて行く。
苛立ちを感じながらも泰然自若な態度でCRSが仕掛ける厭わしい姦計の先を越そうとするニコラスですが、毎度意表を疲れて困憊して行きます。”そう来るか”とばかりに歯ぎしりする彼の憤懣やるかたない気持に拍車をかける様に、仕事仲間や知り合いでさえCRSに一枚噛んでいる疑いも浮上。一体、誰を信用したら良いのか。
“有り得ない”の連続に、ニコラスと共に唖然とするスリリングな体験が続く『ゲーム』は、ラストまで次の展開にハラハラさせてくれます。一方でエスカレートする混沌としたシチュエーションにどう収拾をつけるのか、心配になるのも事実。実際、万人が納得する地に足がついた結末が待っているとは言えないので、一環したストーリーとしてラストに腹落ちしないと映画全体が楽しくなくなってしまうタイプの方にはお勧めできません。
デヴィッド・フィンチャー監督と言えば、『ファイト・クラブ』(1999年)や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)など様々な有名作品を手掛け、ゴールデン・グローブ賞に輝いた事もある名監督。
『ゲーム』はブラッド・ピットとモーガン・フリーマンがタッグを組んだサイコ・サスペンス映画、『セブン』(1995年)のダークで乱脈な世界観を想起させます。姿無き首謀者に翻弄される主人公。
しかし『ゲーム』にはもう一段の謎がつき纏います。紛れもない悪意を持った猟奇殺人と違い、『ゲーム』は最後まで手に負えなくなった茶番劇なのか詐欺集団の謀略なのかが分かりません。時間が経てば誰かが惨たらしい殺戮の犠牲になる殺人ミステリーとは違って、一寸先の展望が読めない。そのスリリングなエッセンスに加え、ダグラス扮するニコラス・ヴァン・オートンの斬りつける様な舌鋒が彩るブラックなユーモアがかった脚本も秀逸です。
“素敵な誕生日を過ごせたかしら?”と電話越しに問う元妻を、冷たく”ローズ・ケネディは黒いドレスなんて持ってたかな”と皮肉るニコラス。マイケル・ダグラスが演じてこそシャープさを感じます。
出典:”The Game(1997) ©PolyGram Filmed Entertainment”
『セブン』に似通ったアンビエンスに留まらず、『セブン』の次にフィンチャー監督が放った作品が『ゲーム』となるからこそ、比較され易いのだと考えていますが、ストーリーとエンディングまで横並びで優劣をつけるべき映画ではありません。
キリスト教に於ける”七つの大罪”をモチーフにした連続殺人が喚起する興味は犯人の正体と七つの殺人を成し遂げる前に暴く事が出来るかどうか。“人生が楽しくなる”と言う『ゲーム』の趣旨と混同すべきではない。
クライマックスに向けて現実を逸し、失速する事は確かですが、『ゲーム』の蜜は理路整然とした種明かしではなくて、溢れんばかりの狂気に翻弄される感覚。蓋を開ける度に予想だにしなかった出来事が降りかかる心臓の高鳴りが、『ゲーム』の真髄です。
耳目と思考の空隙を許さない『ゲーム』の奇をてらった展開は、奇々としたダークな雰囲気と絡み合って、観る者を離さない魅力がありました。
奇想天外な仕掛けの数々に驚嘆する一方で、マイケル・ダグラスを味わい切れなかったのは不満です。『ゲーム』のニコラス・ヴァン・オートンなる人物に関しては、ダグラスに限らず誰が演じても同じ様な空虚感に見舞われたでしょう。
ニコラスは異様なシナリオをハイライトする為の駒に過ぎない。必要な人物ですが、物語に深みを与える事のないオブジェの様な存在です。
全てを手にした男が少しずつ綻んで行く様子を難なく演じられるのがマイケル・ダグラスですが、人間味を感じる『危険な情事』(1987年)で演じた様な役柄は『ゲーム』では観られません。
出典:”The Game(1997) ©PolyGram Filmed Entertainment”
74歳になった2019年でも失われていないチャーミングで爽やかな笑みと、『アントマン』(2015年)でも現役である事を証明したパフォーマンスを思うと尚一層、『ゲーム』での役柄は勿体無い。口座残高を覗いただけで卒倒しかねない程庶民離れした投資銀行経営者となると、ただでさえ距離感を感じる中で、人間的な味の薄い人物なると一人のキャラクターとして観る事は難しくなります。
棘のあるニコラスのエスプリは今一つ、生身の人間よりも棒人間に近い。スリルへのフォーカスも抑えつつ、キャラクターにも旨味を与えてくれたら、『ゲーム』はより良い一本になっただろうと思います。
この映画を観られるサイト
『ゲーム』は残念ながら(不思議な事に)いつもご紹介している動画配信サービスにはありません。U-NEXTにも無いのが不思議ですね・・・1939年のもっと古い映画はあるのに・・・
ご興味のある方は、TSUTAYAのレンタルなどで是非!
まとめ
少し背筋が冷たくなる謎が続き、ゆっくりとバイオレンスに繋がっていくサスペンス。クライマックスには賛否両論が認められますが、注意すべきはゲームの内容と進むにつれて感じる驚きとスリル。
理屈やリアルな説明を求めるべき映画ではありません。
その場その場の出来事に驚愕し、思いもよらない展開に絶句する楽しさを求めている方にお勧めしたい作品ですし、マイケル・ダグラスがお好きの方なら尚の事!
不気味なゲーム、貴方も体験してみませんか?