ドクター・ストレンジ
監督:スコット・デリクソン
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、レイチェル・マクアダムス、キウェテル・イジョフォー、ティルダ・スウィントン、マッツ・ミケルセン 他
言語:英語
リリース年:2016
評価:★★★★★★★☆☆☆
~”視覚効果のクォリティは抜群、思わず見入ってしまう圧巻のスペクタクル”~
~”魔術師でヒーロー、これが意外や意外にも楽しい新テイストのマーベル映画”~
もくじ
あらすじ
スティーヴン・ストレンジは著名な天才外科医
しかし不注意によって交通事故に合い、両手の神経を損傷する重症を負う
命は取り留めたが、一瞬で絶たれたキャリアを取り戻すべく全財産を治療に投じるも、彼に外科医の道は戻らなかった
藁にもすがる思いで辿り着いたのはカトマンズの修行場
そこの指導者エンシェント・ワンに未知の”魔術”を見せられ、弟子入り
苦難の修行を重ねて魔術師となったストレンジ
魔術で己の手を動かす為に弟子入りした彼だが、嘗て破門されたカエシリウスの陰謀に巻き込まれていくー
レビュー
アイアンマンやキャプテン・アメリカ、ハルクなどのクラシカルなマーベル映画に見られるSF寄りな世界から逸脱し、かなり大胆な方向に舵を切った作品です。”魔術”ともなると、SFよりはファンタシー映画。マイティ・ソーなどが最も系統としては近い事もあり、一作目のソーの様に微妙な仕上がりを心配していました。
その心配は杞憂に終わりました。
マイティ・ソーの様なダラダラとしたストーリーラインでもなく、絵本にインスパイアされたらしい武器名も無い。マーベル映画としては、大変新鮮な印象を受けた映画です。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
ストーリーの構造が良く整理されているので、内容が濃くても疲れないし飽きない。下手に”魔術”を正当化する試みも、都合の良い説明を並び立てる事もなく、”別次元からエネルギーを呼び出して纏う事が出来る術”とスーパーヒーロー映画という事を考えれば一旦納得する事ができる設定です。
そして一応はその設定の中で話が進むので、違和感が少ない。
ドクター・ストレンジを語るにあたって外せないのが、見事なビジュアル・エフェクツ。”インセプション”が先んじて映画に取り込んだ”街のランドスケープがねじれる”エフェクトなども含まれていますが、その他もオリジナリティある見どころが多い。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
ストーリーの根底にあるヴィランのイデオロギーや、主人公ストレンジの境遇には目新しいものはなく、既に使い古されたアイディアですがマーベル映画にこれまで無かったジャンル、スタイルでプレゼンテーションされているお陰か殆ど気になりません。
マーベル映画という確立されたイメージとファンベースが存在する中、実写化が非常に難しいキャラクターだったと思いますが、マーベルファンとしても大変楽しめる映画でした。
アイアンマンのトニー・スタークに匹敵する高慢ちきな金持ち男がスティーヴン・ストレンジ。スーパーヒーロー映画においては数えきれない程登場してきた典型的な人物像ですが、ドクター・ストレンジは異世界や神秘の力に纏わる物語。そのエッセンスを上手く利用して、彼の人間としての成長もBストーリーとして工夫すればより良かったと思います。
この点は監督も一応意識はしているらしく、エンシェント・ワンを病院に運び込んだシーンでは、冒頭でボロクソにけなしていた同僚のウェスト医師に執刀を任せる様子が描かれます。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
あたかも、ストレンジが傲慢な自分を改めた様に見えますが、単純に彼の手が動かせないからウェストに任せたに過ぎません。
と言うのも、エベレスト級のエゴを崩し得る出来事は一つもありませんでした。ドクター・ストレンジとして”挫折や苦悩を経験して、自分の事を考え直す”最大のチャンスは、彼が魔術師として弟子入りした事ですが、この絶好の機会はガムの包み紙の様な扱いを受けます。
見習いとして始めはちょっと苦労したかと思えば、後はコツを掴んだ様にどんどん上り詰めていきます。エンシェント・ワンとのファースト・レッスンでは何年もかかる、みたいな事が示唆されていたのに。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
何より、アガモットの眼(タイムストーン)を初見で容易に使いこなしてしまうストレンジに、モルド―が”お前は魔術の申し子だ”と一言で片付けた瞬間は、もう苦笑い。映画作りのチートコード、”選ばれし者”ね。
こんな調子で傲慢なストレンジが改心するきっかけもなく、未知の力に初めは狼狽するもあっさりとマスターして結局は大概は彼の思い通りに諸々進みます。唯一上手く行かなかったのは、クリスティーン・パーマーに振られた事くらいでしょうか。
ドクター・ストレンジについて巷でも評価が高いのが、その視覚効果のクォリティ。実際に観てみると、納得です。
ヒーロー映画にCGはなくてはならない存在ですが、ドクター・ストレンジではその技術力をフルパワーで活用。様々な色に輝く光は、花火でも観ているかの様で、ハリー・ポッターで観る様な”電撃”を遥かに凌駕する見栄え。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
こうした視覚に直接訴えるアーティスティックな側面に重要なディテールも良く出来ていて、結構な労力が割かれたんだろうなと素人でも想像がつきます。確かに”異世界から呼び出したエネルギー”ってこんな感じに見えるかも、と思ったり。
特に、日本語でいうところの幽体離脱に近いアストラル・フォームは技術者たちもかなり悩んだ模様。幽霊の様で、幽霊ではないという絶妙なラインをどうやって表現するか。不気味な印象は与えたくないが、実態は魂なので・・・確かに、お化け!と恐怖心を感じる様な描写ではないですよね。
ビジュアル面で高評を得ているだけあって、大変な工夫が凝らされているバックの皆さんの熱意は相当なものだったんですね。映画製作ってチームワークって感じで楽しそうだよなぁ・・・
ストレンジに扮するベネディクト・カンバーバッチを始め、実力派の俳優たちが揃っている、ドクター・ストレンジ。
ドクター・ストレンジ役としてカンバーバッチは確かに文句の無いキャスティングです。トニー・スターク役のロバート・ダウニーJr.しかり、このたった1本の映画で彼以外がストレンジ役を演じるのは、あり得ないと思うほど。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
一方で、エンシェント・ワンのキャスティングには本国側でも一部議論が起こった様ですね。原作のコミックスでは、チベット人というアジア系人種として描かれていましたが、映画ではケルト人という設定。
制作側としては、アジア人をキャストするとアジア系人種のステレオタイプとなるキャラクターを描く事となり、批判を危惧しての判断らしいです。ただ、これは言い訳に過ぎない印象を受けます。ステレオタイプな描写を避ければ良いだけで、クリエイターたちの本領発揮を期待して良いものだと思いますが、完全に人種を変えるというイージーな手法に出たのかなと。少しだけ残念。
悪意がないのは承知ですが、ハリウッドによくあるパターンには変わりないなと。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
レイチェル・マクアダムスも、(映画全体が微妙だったとは言え)”ゲーム・ナイト”で見せたエネルギッシュでチャーミングな彼女を見る事なく出番を終えます。彼女の脚本もあまり力を入れた様ではなく、勿体なさを感じました。マクアダムスを以てすれば、ドクター・ストレンジにもっと”味”を与えられたんじゃないかと。
そして、特に勿体無いのはマッツ・ミケルセン。”007 カジノ・ロワイヤル”の怪演は今も印象深いミケルセンですし、ヴィランには適した俳優です。彼の凍る様な目付きとオーラはまさに闇に堕ちた魔術師を演じるのにピッタリです。ですが、彼には狡猾そうな知性を感じさせるオーラも持っています。ドクター・ストレンジでは、彼が演じるカエシリウスの理想と動機はハッキリしない、と言うか短絡的で釈然としない。
結果的にドクター・ストレンジとカエシリウスの闘争も、対立らしい対立ではなくなっています。マーベル映画だけあって、必然的にドクター・ストレンジがヒーローになりますが、この作品ではストレンジの意志というよりも成り行きに近い。
マーベル映画では陰と陽を用いた描写が多く、だからこそ敵対する者同士、同じ力を使って闘います。同じ能力を手にしても、向かう方向は真逆。つまりは真逆の思想や考え方をする者同士だという事を強気意識させる為の演出ですが、ドクター・ストレンジではその描写をカムフラージュに使っている様に感じます。
出典:”Doctor Strange(2016) ©Marvel Studios”
ストレンジ自身がタイムストーンを手にし、”魔術の申し子”と言われた直後にハッキリと言っている様に彼の目的は手を動かせる様になること。魔術師大戦や世界の救世主になる気などさらさらないのですが、たまたまカエシリウスとの紛争に巻き込まれる事になります。
要は、ヒーローとヴィランの関係が成り立っていない作品です。若干、キャスティングの話題からはズレますが、この曖昧な関係性のせいもあってミケルセンは印象深いヴィランにはなれませんでした。ポテンシャルは非常に高いのに。
こうしたストーリーライン全体への影響もさる事ながら、魅力的な俳優たちの良さを引き出しきれていない点は残念です。
しかし諸々の残念ポインツを積み上げても、新しい試みが光るマーベル映画ですし充分に楽しめます。実写化とても難しい原作を良くここまで仕上げたと思いますし、間違いなくクリエイターや携わった人々の熱意を感じるドクター・ストレンジは、続編にも大変期待が持てる作品です。
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まとめ
マーベル映画の中でも新鮮な試みとなるドクター・ストレンジ。難易度が高かっただけあって、(それとは関係ないものもありつつも)気になる点は多くある作品ですが総合的にはとても楽しい映画です。
素晴らしいビジュアル効果の事もあって、映画館での鑑賞がお勧めですが・・・是非ご自宅に大型のテレビがあれば、そちらで観てください!
マーベルの前提知識などがなくてもエンジョイできますので、魔術のスペクタクルと豪華キャストたちの贅沢なパフォーマンスを楽しみたい方は是非。