ティファニーで朝食を
監督:ブレイク・エドワーズ
出演:オードリー・ヘップバーン、ジョージ・ペパード、パトリシア・ニール 他
言語:英語
リリース年:1961
評価:★★★★★★★★☆☆
~”どんな話なの?と聞かれても説明出来る様で、出来ない。ストーリーよりもテーマとパフォーマンスに注目して欲しい、オードリー・ヘップバーンの代表作”~
~”ヘップバーンの映画に馴染みが無い人に、是非座ってコーヒー片手に観て欲しいのが『ティファニーで朝食を』”~
もくじ
あらすじ
華やかな世界に憧れるホリー・ゴライトリー
彼女は収監中のマフィアと面会し、弁護士に伝言を伝える事で報酬を受けていた
そんな彼女の近所に自称作家のポール・バージャックが引っ越して来る
何年も出版していない彼は裕福な女性の愛人として生計を立てていた
しかし無邪気で奔放なホリーにポールは魅かれ、ホリーはポールに弟フレッドの姿を重ねる
だがある日、ホリーの夫と名乗る男性がポールのもとを訪れるが・・・
レビュー
トルーマン・カポーテの小説、『ティファニーで朝食を(Breakfast At Tiffany’s)』を原作とするロマンス・コメディ映画。
誰もが知るハリウッド映画黄金期の名女優、オードリー・ヘップバーンが扮するのは自由奔放な若きホリー・ゴライトリー。ティファニーのウィンドウを覗き込む彼女は、優美な気品漂う美しさを際立たせるエレガントなドレスと、とらえ所の無いベールを纏います。
しかしホリーのベールは、自称作家ポール・バージャックが彼女のアパートに引っ越して来た事を機に少しずつ崩れていきます。ポールの愛人の夫が雇った探偵と思しき男がアパートの外に姿を現してから、事態は急転。この男はホリーの夫で、ホリーは不幸な生い立ちから僅か14歳の時に嫁いだ事が明るみになります。
出典:”Breakfast at Tiffany’s(1961) ©Paramount Pictures”
“ホリー”でさえ偽名で、本名はルラメイ・バーンズ。
とは言え、『ティファニーで朝食を』で着目すべきはホリーのエニグマティックな過去に隠された秘密や謎よりも、それが彼女を”どんな女性にしたか”であり、彼女の言う”フリー・スピリット”が何を意味するかです。
奔放で自由なキャラクター像はトム・ソーヤーでも有名な『ハックルベリー・フィンの冒険』を契機に1880年代のアメリカ社会にブームを齎しましたが、『ティファニーで朝食を』のホリーに感じる魅力は、”自由さ”への固定観念を覆す資性。ヘップバーンの描写には一切エロティズムを感じませんが、ホリーは性的欲求に素直で、望むライフスタイルを維持する為には男を利用する事も厭わず、凝り固まった”責任”の概念を嫌います。
時代背景に鑑みると、ヒロインとしては放胆な人物設定。加えて原作は、同性愛の男性作家がストーリーの語り手となっており、ホリーは彼を他者より優位にも劣等にも扱わないなど、当時としてはある種、革新的で反抗的な考え方を社会に取り入れようとしているのは新鮮でしたし、映画でもそのエッセンスを垣間見る事が出来たのは評価したいところ。
出典:”Breakfast at Tiffany’s(1961) ©Paramount Pictures”
『ティファニーで朝食を』はそうしたカポーテの意図を汲み取り、ヘップバーンが見事に脆くも強い複雑なヒロインを難なく演じています。それが『ティファニーで朝食を』最大の魅力であり、彼女という女性のストーリーとドラマを最後まで一緒に追いかけたくなる理由でもあります。
『ティファニーで朝食を』は率直に言ってしまうと、”オードリー・ヘップバーンの”映画です。共演者で(何とも羨ましい事に)ホリーに想いを寄せられるポール(ジョージ・ペパード)でさえ、ホリーとは対照的に興趣の薄いキャラクター。ハンサムで古典的な紳士像でありながら、恐らくホリーの飼い猫よりも個性に欠けています。
ホリーをしつこく追い掛ける男性の取り巻きは勿論の事、ポールの愛人女性もホリーの舞台に仕える支柱に過ぎません。画策して裕福な権力者と婚約に漕ぎ着けたり、収監中のマフィアと面会して報酬を受取ってたりとグレーなやり口で、上流なライフスタイルを追い掛けるホリーを正当化する小手先のプロップ。
サポーティング・キャストの役割を凌駕する重荷をヘップバーンが負い、『ティファニーで朝食を』はもう彼女が全てと言っても過言ではありません。
出典:”Breakfast at Tiffany’s(1961) ©Paramount Pictures”
ホリーのキャラクターに魅かれるのは、ヘップバーンが醸し出す確かなヒロイニズム。
その根源は、作品名であるティファニーで朝食を』が示唆する様に、作品として重要なコンセプトはホリーがティファニーを訪れている時にその顔を覗かせます。
“ティファニーで悪い事は絶対に起きないわ”
ホリーがあらゆる面で安寧を求め続る人生を裏返した、聖域とも言える場所がティファニー。普段は苦難に溺れ、耐えようとするホリーが戦の出陣化粧さながら(就寝中でさえも)メイクアップで臨戦態勢を保つ姿には勇ましさとヒロインとしての力強さを感じます。
現代的なフェミニズムの理論に拠ると様々な(特に批判的な)意見がある描写ですが、ホリーの様な美貌を兼ね備えていると重宝する強みである事は間違いないでしょう。寝ぼけ眼で男性用のシャツに包まれた彼女が、アリゲーター革の靴とタイトな黒いドレスで”武装”して行く様が描いている通り、ホリーの全ては着飾る事にあります。
出典:”Breakfast at Tiffany’s(1961) ©Paramount Pictures”
近年の『キャプテン・マーベル』よろしく真っ向から拳で男性と張り合うのではなく(勿論、それはそれでエンターテイニングですが)、ある面では本質的な女性としての特長を抑えたテーマ性でさえあるのではないでしょうか。
ヘップバーンは剣や鉄拳ではなくエレガンスと美貌を武器に闘う強い女性で、心境がどうであっても、波瀾に満ちた世界に自信を持って太刀打ち出来る憧れのヒロインを艶やかに演じています。
『ティファニーで朝食を』ではユーモラスなシーンやスマートなジョークが味わえる一方で、瞬間的なものに過ぎずジャンルとしてはドラマ、特に文学に起因する思想を主張している様に思います。
先述した通りホリーは自信に満ちた、しかし不幸が祟った傷付き易く、脆い側面を持った複雑な女性です。彼女が求める現実逃避による安寧へどの様に辿り着くかに着目すべきですし、実際に映画のフォーカスはそこにあります。
『ティファニーで朝食を』はストーリーを淡々と説明するだけでは、何が面白いのか全くと言って良い程伝わらない作品で、ポールとホリーのロマンスがどの様な結末を迎えるのかも簡単に想像がつきます。如何せん、ハリウッド映画。
出典:”Breakfast at Tiffany’s(1961) ©Paramount Pictures”
乱暴に言ってしまえばストーリーは恐ろしく単調なラブストーリー。ポールに愛人が居る事やホリーに夫が居た事実は感動にも、怒りにも、喜ばしさにも寄与しないし冒頭で述べた通りヘップバーンのスターダムに脚光を浴びせる為の出来事に過ぎません。
『ティファニーで朝食を』のラストを迎えても、物語がある様な無い様な中で思うところはあまりない。鳥かごを異常なまでに嫌悪し、”自由”の概念に憧れつつも”自由”が何なのか分かっていない、ホリーの人物としての進化に感動しない限りは意味が分からない映画になってしまうのです。
その点は原作読者なら良くご存知でしょうが、故にポールとホリーが降りしきる雨の中で情熱的に口付けを交わす典型的なハリウッド映画らしいエンディングには異論を唱える節が強い様です。
しかし、ホリーが捨てた飼い猫を探してポールと繋がるラストは、原作の語り手、そして作者であるカポーテが描こうとしたホリーと猫が居場所を見付け、”自由”の意味を受け入れた瞬間の様に考えています。
原作の『ティファニーで朝食を』と異なるラストに難色を示すよりも、原作と映画に共通した意義やホリーの行き着いた先を観てみると、一見ハリウッド映画でチープに思えるラストも原作の意図とマッチしている事が分かります。
『ティファニーで朝食を』は、ネイルしてポップコーン食べながら観るには適さない映画ですが、魅力的なヒロインと共に泣いて笑いたければ、誰にでもお勧めしたい名作映画です。
この映画を観られるサイト
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まとめ
ストーリーはしっかりとしたバックボーンを持ちませんが、注目すべきはオードリー・ヘップバーン演じるホリー・ゴライトリーのキャラクターとしてのドラマ。ヘップバーンは複雑なヒロインの役を見事にこなしているのも大きな見どころ。
原作を読んでいなくてもヘップバーンのキャラクターに見惚れる事は間違いなし、クラシカルな名作映画としてお勧めしたい一本です。