アベンジャーズ/エンドゲーム
監督:ジョー&アンソニー・ルッソ
出演:ロバート・ダウニー・Jr、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ドン・チードル、ポール・ラッド、ブリー・ラーソン、ブラッドリー・クーパー、カレン・ギラン、ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ホランド 他
言語:英語
リリース年:2019
評価:★★★★★★★★★☆
Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios『参照:https://www.imdb.com』
~”『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を超越する感動、エキサイトメント、恐怖、そして哀哭の先に待つ穏やかで暖かい陽光”~
~”『アベンジャーズ/エンドゲーム』を越える傑作スーパーヒーロー映画が現れる可能性は、1/14,000,605″~
もくじ
あらすじ
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編にして、11年に亘るインフィニティ・サーガ完結編
インフィニティ・ストーンを全て手中にし、全宇宙の生命を半滅させたサノス
サノスの野望を阻止出来なかったアベンジャーズは失意の中、次の行動を模索していた
遺されたアベンジャーズのメンバーはサノスの居場所を突き止め、追撃に向かった
インフィニティ・ストーンを奪還し、数知れない死を帳消しにする事を狙う
キャプテン・マーベルの協力もあってサノスへの奇襲は成功するがインフィニティ・ストーンは・・・
失われた仲間と全宇宙の人々の為、アベンジャーズは最後の逆襲〈アベンジ〉へ
レビュー
敗北。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で熾烈な激闘を繰り広げるも、サノスの勝利に終わり、世界は生きる意味を暗中模索していました。遺ったブラック・ウィドウ/ナターシャやアイアンマン/トニーも悲嘆に暮れつつ、各々の人生を歩もうとします。しかし、爪跡はいつまでも憑き纏い、アベンジャーズは忸怩たる思いで俯く日々を過ごさずには居られない。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』は憂鬱な世界を舞台に幕を開けますが、そこは暖かい気持ちにさせたり、腹の底から笑わせてくれるシーンも盛り込まれ、3時間にも及ぶランタイムを全く感じさせない程です。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではヒーローの見せ場が主たるエッセンスでしたが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』はアベンジャーズの面々が11年もの歳月で培った複雑なキャラクター像やバックストーリーにスポットライトを当てた作品です。その点、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の様にスペクタキュラーで、アクションを空前のスケールで描いた映像体験を期待すると少々拍子抜けします。
ラストに待ち受けるサノスとの大戦は確かに11年の歴史上、類を見ない緊迫感と感動に包まれた名場面ですが、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で魅了されたワカンダの激闘やタイタン星での接戦とは宿る想いが違う為、必然的に異なる印象を受けます。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は絶対に敗戦を許すまいとする圧倒的な勇ましさを感じましたが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』では“既に敗北した”アベンジャーズがサノスに立ち向かう恐怖が戦場の一端を支配します。全身全霊で闘い、敗れたアベンジャーズを既に目の当たりにした観客も骨の髄までサノスの脅威を知っている。トニーが憂虞した通り、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』以上に無惨な結末を招く可能性は大いにある中で、再び挑むアベンジャーズは爪を齧らずに観ていられるものではありません。
身命を賭して戦場に立つのは、幾度となく銀幕の中へ声援を送り続けた憧れの人々。スクリーンで仲間の為に一心で闘うアベンジャーズと全く同じ想いで決戦を見守る様に創られた作品で、ファンであれば一世一代の体験と言っても過言ではありません。11年間に亘るサーガを追っていなくても、凶音を思わせる腹の底に響く様な音でサノスが一人、また一人と打ち負かす様子はアドレナリン・ラッシュのオンパレードを引き起こして止みません。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、或いは初めて文字通り超人と称される人々をスクリーンの向こうで半券を握りしめている観客との繋がりを持たせた映画かも知れません。アベンジャーズは、誰もが人生で経験する様に、”失敗してはいけないのに失敗した”のです。
悲嘆に暮れるソーへ掛けられた厳しくも暖かい言葉。“馬鹿ではない。出来損ない?そうね。でも、それは他の皆と一緒”
誰もが理想と現実の狭間に困惑し、苦しんで悩みます。雷を纏い、海内無双でも雷神ソーの心の内はコーラを啜って半券を握りしめる観客と同じ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』は作品を観に来た人々の物語だから温もりを持った、奮い立たせるパワフルな映画だと感じます。出来損ないで失敗して、自暴自棄になる瞬間は架空の最強ヒーローにだってあるし、当たり前だと思わせてくれる。現実と乖離した幻想的、しかし憧れる世界に通じるパーソナルな橋を架けてくれるからこそ、洋画史上最も多くの人々を深い感動と悲しみの渦に巻き込んだのも納得です。
一方で、完璧とは言い切れない粗もあります。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
取り分け『アベンジャーズ/エンドゲーム』の前半で顕著だったのが不自然なトーンのシフト。大量虐殺の余韻が残る中、コミカルな台詞が挿し込まれたり和むシーンが挿し込まれたり、或いは再び重苦しい雰囲気が過ったりと落ち着かない印象があり、没頭するまで少々時間を要します。クライマックスに向けては次第に統一感ある描写に収束したので、ストーリー、パフォーマンスや演出に集中する事が出来ました。しかし、コミカルなシーンは確かに笑えますし、パーツとしては全て楽しめるのでタイミングとシーンの繋ぎ方に工夫が欲しかったところ。3時間もの間、常に重苦しくシリアスな空気だと想定以上に疲労困憊して観続けるのは苦だった事と思います。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で遺ったメンバーにスポットライトが当たる為、比較的タイトなキャストに集中出来るのも大きなポイントですが、不思議とトニーとスティーヴを除けばキャラクターを持て余している所感は拭えません。
しかし、『アベンジャーズ/エンドゲーム』はハリウッド史上最大規模の試みと言えるサーガの集大成。最強の逆襲〈アベンジ〉を描いた作品の魅力と不満点を交えてレビューします。
単なるブロックバスター映画としては十二分の価値がある『アベンジャーズ/エンドゲーム』。
ストーリーの中心となるタイムトラベルに関しては、鷹の目で重箱の隅を突く事も出来ますが如何せん、超人をフィーチャーしたSFアクション映画。寧ろタイムトラベルの難点や、ストーリーに齎しかねない矛盾点を認識し、『LOOPER/ルーパー』(2013年)や名作との呼び声高い『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)よりも考え抜いてデザインされた構想である点は評価に値します。
最も印象的で不満だったのはソーの扱い方でした。
『マイティ・ソー』(2011年)で初登場を果たした雷神ソーは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)で名誉挽回するまでのキャプテン・アメリカ同様、カリスマ性に欠けたアベンジャーズの一人でしたが、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)ではコミカルな一面が強く押し出されて特色が如実になりました。『マイティ・ソー バトルロイヤル』の比較的ポップな映像の色遣いや雰囲気では然程違和感なく、アベンジャーらしいアクションも描かれた為に魅力は損なわず。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
しかし『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、ソーに与えられたコミカルな一面をワンプッシュし過ぎた印象です。ビール漬けで太りきり、タイムトラベル後も暫く腹を括れない情けなさが際立って『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2010年)のアランを連想させるキャラクターとなっている点は一線を越えていました。特に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でワカンダへ降臨したソーに鳥肌を催したのは、私だけではないはず。
そのソーをスコットランドのパブで見付けられそうなジューサーにしてしまったのは残念。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』よりも少人数のキャストで物語が進行しますが、不思議と全体的に薄味な印象を受ける点も前述した通り勿体無い。恐らく最大の相違点は、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではサノスを中心にストーリーを描く事が出来た事。アベンジャーズではなく、ストーリーの構造上サノスを主役に置く事で数多く登場するヒーローを散り散りにせず、一つの映画作品として成立させる事に成功しています。『アベンジャーズ/エンドゲーム』が失敗したとは言いませんが、纏まりを見せ始める後半までサノス、或いはサノスに相当するキャラクターが登場しない事で無味に感じてしまう点は否めません。
スティーヴ・ロジャーズとトニー・スタークのストーリーを完結させる方向に舵を切った為か、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と比べると折角の豪華キャストもエキストラ手前の存在となってしまい、焦点はアンバランスな印象。無論、アベンジャーズの中枢となるスティーヴ・ロジャーズとトニー・スタークにフォーカスする事への異論はありませんが、それであれば『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で明確にその滲み出しが必要だったのではないかと感じました。
総じて不服なポイントは少なくありませんが、帳消しには至らないものの、一方で相殺しかける程の素晴らしさを兼ね備えた映画です。
11年前、『アイアンマン』(2008年)のラストでS.H.I.E.L.D.長官ニコラス・フューリーが登場し、その先にアベンジャーズの世界が広がっている可能性を示唆した時の衝撃は鮮明に憶えています。サム・ライミ監督の『スパイダーマン』(2002年)に始まるトリロジーに倣ってアイアンマンの物語も精々3作品で完結するかと予想していた私にとっては頬を張たかれた様な想いです。
“正義の味方”が持つ、半ば幼稚な響きをMCU映画と捉える方々は数多く居ますし、意見としては否定しませんが『アベンジャーズ/エンドゲーム』鑑賞後は、22作品で構成されたインフィニティ・サーガを全て鑑賞してから評価しなければ、正当ではないと強く感じました。
無論、単一の作品として良作や駄作は存在しますが『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、より大きなスケールでこれまでのMCU映画に意味を与えるので、作品単位の評価は映画の前半だけ観て総評を下す様な行為。
世代を挙げての壮大でイノベーティヴな文化的イベントと言うべきかも知れません。その集大成となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』は2008年からシリーズを追って来た人々への愛情で溢れています。最大の観どころはクライマックスを飾る大戦よりも、スティーヴとトニーの素晴らしいエンディング。前章で述べた通り、二人の終焉を予示する描写は足りませんでしたが、実際のアークはそうした欠陥を些末にしてしまう、魂を震わせる程インパクトを齎します。
名作と言われる映画の多くに共通するキャラクター・ビルディングが、何よりも奥深く、感慨深く『アベンジャーズ/エンドゲーム』の心髄で鼓動するからこそ傑出した作品です。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
並大抵ではないエモーショナルなシーンの連続。トニー・スタークはアイアンマンでなくてもチャーミングで高層ビルの1つや2つなら即金で支払った所で痛くも痒くもない天才発明家で実業家。天狗として降臨し続けたトニーは傲慢で多くの人々を敵に回してしまい、『アイアンマン3』(2013年)では如実に竹篦返しを食らう様子が描かれます。極端なナルシストで、自己犠牲によって誰かを救う発想は毛頭ない男でしたが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』はそんなトニーの成長の極地を最も報いあるシーンで表現してくれます。正義感に溢れ、いつ何時でも自己犠牲を厭わないスティーヴ・ロジャースに非難された利己主義だったペルソナを捨て、偉大な人間となって世界を去ったトニーを観て涙せずには居られません。
片やスティーヴもトニーに揶揄された様に、人体実験によって偶発的に誕生した、血清を取り除けば何も残らないモルモット。超人的な兵士ですが、スティーヴ自身が特別である証拠は何もありませんでした。しかし、『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではアズガルドの王に相応しい者だけが手中に出来る、ソーのミョルニルを遣ってサノスと一戦を交えます。
キャプテン・アメリカだからミョルニルを持ち上げられたのではない。スティーヴ・ロジャーズだから持ち上げられた事を証明するこの瞬間は、スティーヴがアベンジャーとして宿命を果たしたシーンです。
(『アベンジャーズ』(2012年)でトニーで口論になった結果、一騎打ちを挑んだスティーヴでは持ち上げられ無かったと考えています)
『アベンジャーズ/エンドゲーム』の血となるキャラクターの進化は是非、肌で感じて頂きたいポイント。
或いはタイムトラベルで触れられる過去作品へのリファレンスも観どころ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)の独創的なオープニングでは、スター・ロード/ピーター・クイルがレッドボーンのCome and Get Your Loveに腰を揺らしながら惑星モラグを探索する様子が描かれますが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではクイルからパワー・ストーンを奪取すべく尾行していたローディとネビュラの目線からクイルの様子を観る事になります。その滑稽なこと。
クイルのイヤホンを着用しているローディとネビュラは、静寂の中、一人で歌詞を口遊みながら踊るクイルを白い眼で監視します。
“…Yeah♪…oh, come and…looooove♪”
間抜け面で楽しそうにスライディングを決めたクイルの顔面に一撃を食らわせるローディのパンチ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を観た事がない鑑賞者をも誘う笑い。失敗が決して許されないタイムトラベルのトーンとは若干ミスマッチですが、こうした軽やかなコメディは場違いながらも確かに笑いを誘い、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の観どころになります。
そして目を離せないサノスとの最終決戦。
キャプテン・アメリカがミョルニルと盾でサノスに切り返すアクションは、思わず万歳してチアしたくなる記念すべき瞬間。そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で仆れたアベンジャーがドクター・ストレンジ率いる魔術師の一団と共に戦地へ出現した瞬間も喉の奥で声が詰まる程に奮い立つワンシーンです。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のワカンダと異なってフィールドが暗い事もあり、戦争映画を彷彿とさせるシーンには至りませんが、暗雲に立ち向かう命懸けの大戦に似つかわしいアンビエンスが漂います。ハイスピードで展開される乾坤一擲の勝負は、気付けば歯を食いしばらずには観られません。サノスが優勢かと思いきや、次の刹那、ミョルニルを乱舞させたキャプテン・アメリカの逆襲が始まるも、一瞬の隙を突き豪然たる勢いで反撃するサノス。縦横無尽に駆け巡る攻防は気の緩みを許しません。
そしてアベンジャーズに訪れた勝利の瞬間。正義の味方に論を俟たず訪れる当然の結末とは違い、アベンジャーズの勝利は敗北の深潭から弓を引き、鬼気森然とした敵をも怖れず挑み、多大な犠牲を払ってさえ土俵際まで掴めなかった勝利です。
竜攘虎搏の闘いが創出する切迫感。その果てに掴んだ世界の安息。
ラストで波濤の様に雪崩れ込む感情の嵐は言葉に代え難いのですが、全てが終わった後はこの上ない感動を与えてくれた作品に感謝の念で溢れ返ります。
難もあり、パーフェクトな映画とは言えませんが、サーガへのパーフェクトなエンディングを与えてくれる作品です。
この映画を観られるサイト
『アベンジャーズ/エンドゲーム』はコチラの動画配信サービスで鑑賞頂けます!
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(無料体験期間中に解約すればお金はかかりませんが、解約しないと次月分の利用料がかかりますので注意!解約はオンラインで出来ます)
まとめ
『アベンジャーズ/エンドゲーム』は11年の歳月で溜め込んだ全ての感情がドッと流れ込む、スーパー・ブロックバスター映画。
熱烈なマーベル・ファンは当然ですが、詳しく無い方でも圧倒される作品だと感じました。百聞は一見にしかず、文章や言葉で素晴らしさを掘り下げるよりも、観ないと伝わりきらないジェットコースターの様な体験。
2019年、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のインパクトを越える作品は無いと言って良いと思いますが、2019年に限らず、来る10年後に同等以上の感動を与える事が出来るのか。スーパーヒーロー映画のハードルを大幅に上げたマーベル・スタジオの今後にも期待が高まります。