アベンジャーズ/エンドゲーム
監督:ジョー&アンソニー・ルッソ
出演:ロバート・ダウニー・Jr、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ドン・チードル、ポール・ラッド、ブリー・ラーソン、ブラッドリー・クーパー、カレン・ギラン、ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ホランド 他
言語:英語
リリース年:2019
評価:★★★★★★★★★☆
Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios『参照:https://www.imdb.com』
もくじ
『アベンジャーズ/エンドゲーム』の主な登場人物
アベンジャーズ初代メンバーの一人。初登場は『アイアンマン』(2008年)。世界的な発明家で実業家ハワード・スタークとマリア・スタークの間に生まれ、幼い頃から天才的な頭脳で発明家としての頭角を表す。17歳にして米国屈指の名門大学MITを主席で卒業したが、両親がファシスト組織ヒドラに暗殺された後(当初は自動車事故として報じられた)はハワードが創業したスターク・インダストリーズのCEOに就任。主に最新鋭軍事用兵器のデザインと開発で名を知らしめる億万長者となるが、スターク・インダストリーズの最新兵器”ジェリコ・ミサイル”を狙うテロリストに誘拐されてしまう。砂漠の洞窟に監禁され、ミサイルの開発を強いられるトニー。”テン・リングス”と名乗るこのテロリスト集団は、トニーが米軍にのみ供給したはずの兵器を数多く所有していた。
テロリストの要求通り、ミサイルを開発している様に見せかけて脱出用のボディ・アーマーを造り上げたトニー。テロリストの根城を無事脱し、米軍に救助されたトニーは米国を護る為に造り出した兵器が、テロリストの手に渡っている事態を受けて己が秩序を護るべく、ボディ・アーマーをベースにアイアンマン・スーツを開発。初期は全身のパーツを組み立てて着用する必要があったが、改良を重ねて『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)ではナノテクノロジーを駆使し、常に着用している胸部の格納庫から自在にスーツを纏う事が出来る様になる。頭の回転が早いせいか皮肉っぽく、他者を見下す事が多い為に敵を作り易い傾向にあったが、アイアンマンとしての活動を通じて成長して行く。
初登場は『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)。第二次世界大戦中、米軍に入隊を希望するも貧弱な身体と体質から入隊を拒否され、超人兵士を生み出す人体実験の被検体となる。強靭な身体と驚異的な知能を得るも、スティーヴは軍のマスコットキャラクターに起用され、戦地での任務よりも徴兵を目的とした宣伝に利用される。人々からは”キャプテン・アメリカ”の愛称で親しまれる様になるが、前線で米国の為に戦えない日々にフラストレーションを覚えていた。しかし、親友バッキー・バーンズの部隊がナチスとの戦線で消息不明となり、公式には戦死したとの報告を受けて独自に救護作戦を遂行。軍の意向には背いたものの、バーンズを含む米兵の多くをナチスから救い出した英雄として認められる。同様に超人となる血清を投与されたナチスのヨハン・シュミットと死闘を繰り広げた末、米国都市に攻撃を仕掛けようとするシュミットの爆撃機と共に北極海へと沈んだ。
死亡したと思われたスティーヴだが、北極海で氷漬けにされたまま70年後に発見され、現代に蘇った。ニコラス・フューリー率いるアベンジャーズのメンバーとなり、超人的な身体能力と持ち前の正義感で世界を様々な脅威から救う事になる。
『マイティ・ソー』(2011年)で初登場。アズガルドの王、オーディンの子息にして王位継承者。雷神とも称される様に雷を纏う能力を持ち、アズガルドの王に相応しい者だけ持ち上げられる武器、ミョルニルを駆使して闘うアベンジャーズのメンバー。高い戦闘能力を誇るが、初期は傲慢で強い自己顕示欲に駆られ易く身勝手な行動を重ねてしまう。見兼ねたオーディンに雷神の力を奪われてミョルニルと共に地球へ追放される。米国のニュー・メキシコ州へ追放されたソーは、付近の天体に纏わる調査を行っていた天文物理学者のジェーン・フォスターとエリック・セルヴィグに出会う。始めは驕傲な態度を改められないソーだったが、ジェーンやセルヴィグと触れ合う中で己の行いを反省し、追放を受け入れたソーは雷神の力とミョルニルを取り戻してアズガルドへ生還を果たした。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2018年)で壊滅した故郷アズガルドを後にし、地球へ難民船で向かう途中でサノスに襲撃されるも一命を取り留め、救難信号を受信したガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーと出会う。
博士号を7つ所有するガンマ線の専門家で科学者。人体にガンマ線の放射能への耐性を持たせる実験で、心拍数が200前後を超えると体格が異常に膨れ上がり、表皮が緑色に変化して怪力を誇るハルクへと変貌する能力を手にする。しかし、ハルクへと変化したバナーはしばしば理性を失い、ハルクに乗っ取られた人格は怒りのまま視界に入る全てを破壊し、度々人の死をも引き起こしてしまう。ハルクに変化する事態を避けるべく、ストレスの少ない環境を求めてインドのカルカッタで医師として平穏な生活を送っていたが、ソーの義弟ロキによる地球への襲撃を皮切りに、アベンジャーズとして闘う事を余儀なくされる。カルカッタでバナーをリクルートしたS.H.I.E.L.Dのブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフとは後に惹かれ合うが、常人でない己がナターシャを幸せに出来ないと悟り、突き放してしまう。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではバナーの頭脳及び人格をハルクの身体に融合させたプロフェッサー・ハルクとして登場。作中では明かされないが、プロフェッサー・ハルクの場合、怒りの感情が限界を超えるとハルクに変化するのではなく、バナーの身体にハルクの人格が宿った最弱のハルクに変貌してしまう弱点を持つ。
明確な生い立ちは不明だが、ロシア出身のスパイ。特殊な施設で幼少期から射撃や格闘技の訓練を積み、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では母性や女性としての望みがスパイとしての人生を阻害するとして、強制避妊手術を受けていた事が明かされる。S.H.I.E.L.Dのエージェント、ホークアイ/クリント・バートンとは旧知の仲で、クリントがナターシャをS.H.I.E.L.Dに参画させる一因である事がこれまで示唆されているが、経緯は定かではない。
S.H.I.E.L.D長官ニコラス・フューリーからも優秀なスパイとして信頼されており、突出した超人的能力を持たない常人だが高い戦闘能力と秀でた先見性を買われてアベンジャーズのメンバーとして活躍する。初登場は『アイアンマン2』(2010年)で、当初はトニーのアシスタントとして正体を隠していた。
S.H.I.E.L.Dのエージェントで超人的とも言える天性の動体視力と弓矢の才能を誇る。ナターシャと同様、生い立ちは明確に描かれないが、原作コミックスでは孤児院で育ち、サーカスに入団して“ホークアイ”の異名を取る弓矢の名手となる。アベンジャーズのメンバーとしては様々な機能を搭載した矢を駆使して闘うが、素手を使った近接戦でも高い戦闘力を持つ。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では、妻子の存在が明らかになり、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)のライプツィヒ・ハレ空港での戦闘を受けてアントマン/スコット・ラングらと共に拘束され、F.B.Iの監視下で自宅謹慎に課される。
原作コミックスではヴィランとしての一面も持ち、“ホークアイ”の他にも”ローニン”や”ゴライアス”の名で知られる。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)では、ある事件が引鉄となって”ローニン”へ転じる。
元米国空軍のパラレスキュー部隊に所属していた男性。任務中にウィングマンを亡くした事をきっかけに前線から身を引き、同じ様な境遇からPTSDなどを患う人々を助ける道を選んだ。ランニング中に偶然スティーヴ・ロジャーズと知り合い、サムの経歴もあってキャプテン・アメリカの闘いに協力する事になる。初登場は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)。
飛行翼を搭載した高機能ジェットパックの試験プロジェクトに関わっていたサムは、改良を重ねた装備を纏ってアベンジャーズのメンバー、ファルコンとしてスティーヴをサポート。話し易い人柄だが信念が強く、キャプテン・アメリカの事を信頼している。
ホワイト・ウルフなどの異名も合わせ持つ。幼少期からスティーヴ・ロジャーズと友情を築いた人物。元米軍の軍曹で、第二次世界大戦中にキャプテン・アメリカとなったスティーヴに命を救われるが、それまでは貧弱だったスティーヴを助けていた正義感が強いキャラクター。スティーヴとヒドラを襲撃する際に事故で谷間へと落下し、死亡したものと推測されたが秘密裏にヒドラのアーニム・ゾラ博士によって治療を施され一命を取り留める。しかし、落下時の損傷で左腕は切断され、金属性の義手に置き換えられた。ヒドラによる”ウィンター・ソルジャー計画”の第一の被検体となり、スティーヴ同様に超人化する血清を投与された上、絶対服従を強制する洗脳を施された。次第に過去の記憶もなくし、ヒドラの命令に従う凶悪な暗殺者と化したバッキーは任務を完了するとクライオスリープに処されて老化を防がれていた。
『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で初登場し、スティーヴの前に姿を現したがバッキーとしての記憶はなく、スティーヴに容赦なく牙を向ける。スティーヴの努力で記憶を少しずつ取り戻し、正気を掴み始めるがヒドラの命令でトニーの両親を殺害していた過去が明かされるなど、その手は血で赤く染まり果てていた。洗脳を完全に解くべく、ワカンダで平穏な生活を送るが『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でサノスに挑み、死亡した。
元米国空軍のパイロットで1989年のテスト飛行で事故死したと考えられていた女性。『キャプテン・マーベル』(2019年)でテストに使用していた機体はインフィニティ・ストーンの1つ、4次元キューブを動力源とするエンジンの試作品を搭載していた事が判明し、事故で爆破したエンジンのエネルギー波の放射を受けたキャロルは両腕からフォトン波を放つ能力を得る。しかし、同時に記憶を失った彼女はエンジンを狙ったクリー人の兵士として鍛えられ、精鋭部隊”スターフォース”のメンバーとなる。任務中に図らずも地球へ戻った彼女は若きニコラス・フューリーと出会い、超人や異星人の存在を彼に認めさせた。キャロルは後にS.H.I.E.L.Dの長官となったフューリーがアベンジャーズを結成する契機となる。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でフューリーが死亡する直前に呼び寄せ、『アベンジャーズ/エンドゲーム』でアベンジャーズと共にサノスに立ち向かう。
『アントマン』(2015年)で初登場。2代目アントマンで元窃盗犯。初代はワスプ/ホープ・ヴァン・ダインの父ハンク・ピム。電気工学に造詣が深く、手先も器用でヴィスタコープ社のシステム・エンジニアとして勤務するも社の不正を見兼ねてセキュリティ・システムをクラック。不当に搾取されたヴィスタコープ社の被害者を救ったが、違法行為を働いたとして投獄される。出所後は妻と愛娘のキャサリンの元へ戻ろうとするが、前科者で無職のスコットは妻に拒絶されてしまう。一方で年老いたピムはアントマンに活用されている技術、分子間の密度を自由に変えられるピム粒子を軍事目的で複製しようと目論むダレン・クロスを阻止すべくスコットをアントマンとしてリクルート。ピムとホープ・ヴァン・ダインと協力してクロスの野望を阻止したスコットは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のライプツィヒ・ハレ空港で巨大化し”ジャイアントマン”として多数のアベンジャーズと戦闘した事を受け、F.B.I監視下で自宅謹慎処分を受ける。
その後、ピムは現役時代に当時のソヴィエト連邦が米国に発射した弾道ミサイルを迎撃する際、分子以下に縮小して量子世界へ迷い込んで消息不明となった妻、ジャネット・ヴァン・ダインを探索。アントマンのピムと肩を並べ、ワスプとして活躍していたジャネットは実際の世界と比べて時間の流れが著しく遅い量子世界で生存していた。その後、調査の一環で量子世界に入り込んだスコットだが、その直後『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でホープ、ジャネット、ピムが死亡した為、抜け出せなくなってしまう。
高い俊敏性や壁に張り付くなど蜘蛛の様な能力を得たクイーンズの高校生。自作のコスチュームで正体を隠し、近所の人助けを行っていたがトニー・スタークに見破られ、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でハイテクのスーツを与えられてスティーヴとの闘いに呼び込まれる。アイアンマン/トニー・スタークに憧れていたピーターは、トニーに認められてアベンジャーズ加入を叶えるようとするが、尽く失敗。しかし、戦闘能力は非常に高く、自身でウェブ・シューターを開発するなど高校生ながら高い知能を有する。
反面、年齢相応の少年らしい行動もしばしば見られ、特に戦闘中にも関わらず饒舌でどんな状況でもジョークを放ってしまう(原作コミックスでは顔を隠し、軽口を叩きながら闘う理由は敵に恐怖心を悟られない為だとされている)。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではトニーから最新鋭のアイアンスパイダー・スーツを与えられ、サノスと果敢に闘うがインフィニティ・ストーンを手にしたサノスによって死亡した。異変を感じてから塵になるまで最も時間がかかったのはピーターだが、スパイダーセンスが避けられないピーターの死を早々に予期した為だった。
幼い頃に母親が脳腫瘍で死亡し、同じ夜に突如ヨンドゥの宇宙船によって地球から連れ去られた。その後は宇宙の盗賊、”ラヴェジャーズ”の一員として育てられる。父親は長らく行方不明で顔さえ分からなかったが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)で天界人と呼称される存在である事が判明した。賞金や金銭目的で珍品を狙っていたが、図らずもインフィニティ・ストーンの一つを手中にし、クリー人テロリストのロナンに狙われる。ロナンが派遣した暗殺者でサノスの娘ガモーラの襲撃を辛くも逃れるが、賞金稼ぎの樹木型ヒューマノイド、グルートと遺伝子改良されたアライグマのロケットにも襲われる。しかし、クイルの持つインフィニティ・ストーンをロナンに渡せば壊滅的な大虐殺が起こる事に気付いた4人は結託してロナンと対峙。
ロナン打倒後は”ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー”なるチームを名乗り、クイルが実質リーダーとなる。お調子者だが仲間想いで、ガモーラとは恋仲になるも『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でサノスにガモーラを殺害され、自身もサノスの凶行によって死亡した。初登場は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)。
ゼン・フーベリ族の女性。サノスの娘(厳密には養女)で、幼い頃に故郷をサノスに襲われた後、サノスによって暗殺術や格闘術を叩き込まれ、”宇宙で最も危険な女”とまで言わしめるに至った。サノスに忠誠を誓うが、秘かにサノスを恨んでおり、ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーのメンバーとなってからはサノスに反逆。同じく養女のネビュラとは姉妹関係にあるが、特訓の名目で闘い合いながら育てられ、常に敗北を喫していたネビュラには恨まれている。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でソウル・ストーンと引き換えに、サノスが殺害した。初登場は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)。
ガモーラと同じく、サノスの養女。高い戦闘能力を誇るが、ガモーラとの組手では常に苦渋を喫しており、その度に罰則としてサノスによって身体の一部分を機械と取り替えられた為、半サイボーグと化している。頭部にはコンピューターの回線も組み込まれており、目撃した映像をファイル化してホログラムとして再生する事が出来る。サノスとガモーラを深く恨んでいたが、ガモーラとは普通の姉妹の様に過ごす事を望んでおり、ガモーラから歩み寄った事で心を少しずつ入れ替え始める。
経緯は不明だが、擬人化されたアライグマで高い知能を持つ。実際のアライグマと同じく、俊敏で鋭い嗅覚や張力を兼ね備えており、狙撃手でもあるがアライグマと呼ばれる事を極端に嫌がる。相棒のグルートと共に宇宙で賞金稼ぎを行っていたが、ロナンからパワー・ストーンを護るべくガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーとしてスター・ロードやガモーラと行動を共にする。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではワカンダでアベンジャーズと並んでサノス軍と接戦を広げるも、敗北し、グルートの死を見届ける事となった。
“I am Groot(私はグルート)”以外は言葉を発せない樹木型ヒューマノイド。ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーのメンバーとソーにしか通じないが、“I am Groot”と発しているだけでも意訳すると実際は会話をしている事が判明。手足の樹木を自由に伸縮させる事が出来、戦闘能力に限らず防御能力も高い。再生能力も強く、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で粉々になったが、残った小枝から復活し、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではポータブル・ゲームに熱中するティーネイジャーに成長している。サノスによって殺害されて塵と化した。
屈強な出で立ちで、肉弾戦が得意。サノスによって妻子を失い、報復を誓っていた為、ガモーラを手に掛けようとするがクイルの説得により標的をサノスに改めてガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーの一員となる。種族として比喩的表現や遠慮の概念を持ち合わせておらず、しばしば会話の中で頓珍漢な返しをする事が多いが本人には自覚が無い。
クイルの父親で天界人のエゴに利用されていた女性。強力なエンパスで触れた相手の感情を読み取るだけでなく、感情のコントロールを行う事が出来る。エゴ以外の相手と意思疎通を行う機会がなかった為、コミュニケーション能力に難があったが、ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーにの一員となってからはコミュニケーション能力が大幅に向上した。マイペースな性格で戦闘能力は低いが、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではサノスを一時的に戦闘不能にするなどチームプレイで本領を発揮する。初登場は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)。
天才的な米国屈指の脳外科医としてその名を轟かせたストレンジはジャガー・ルクルトを纏い、ランボルギーニを疾駆させ、他者を見下す傲慢な男だったが、自動車事故で人生は転機を迎える。両腕の神経に甚大な損傷を受け、最先端の医療でも手術室への復帰は絶望的とされ、プライド故に勤務医の道も受け入れずに失業。藁をも掴む思いで、どの様な傷も治療出来るチベットの魔術師を訪れ、魔術師としての道を歩み始める。両腕を以前の様に動かせるだけの魔術力を手中にしたストレンジだが、もう医者の道に未練はなく、地球を様々な脅威から護るタイム・ストーンの守護者となる。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではタイム・ストーンを利用してサノスに勝ち得るシナリオを探した結果14,000,605通りの未来でたった1通り勝機がある事をアベンジャーズに伝えた。しかし、サノスと対峙した末にタイム・ストーンをトニーの命と引き換えに手渡す事となり、自身はサノスに殺害されてしまう。初登場は『ドクター・ストレンジ』(2016年)。
初登場は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』。アフリカ大陸の先進国ワカンダの王。父で前国王のティ・チャカは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でジモの計略によって爆死し、ティ・チャラがブラック・パンサーの称号と共に王位を継いだ。アベンジャーズ、特にスティーヴ・ロジャーズと親交があり、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではワカンダの部族を集結させてサノス軍を討つべく、アベンジャーズと第一線で闘った。ブラック・パンサーのスーツはワカンダでしか採掘されない希少な鉱物、振動を吸収するヴィブラニウムによって構成されており、柔軟ながら地球上では類を見ない強度を誇る。サノスがインフィニティ・ストーンを全て手にした結果、死亡。
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で双子の兄、クイックシルバー/ピエトロと初登場。スターク・インダストリーズの武器が利用された紛争で両親を失った事から、トニーに強い怨念を抱き、自らヒドラが秘密裏に決行した人体実験の被験者になる。4次元キューブによる実験でワンダは協力なテレキネシスとマインドコントロール能力を手にした。兄のピエトロは超人的な速度で移動する能力に目覚めるが、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のソコヴィアで死亡。残されたワンダは改心してアベンジャーズの一員となる。マインド・ストーンによって生まれた人造アンドロイド、ヴィジョンと恋仲になるが『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でヴィジョンを失った後、自身もサノスによって世を去った。
“マッドタイタン(狂ったタイタン人)”の異名を持つ。初登場は『アベンジャーズ』(2012年)のポスト・クレジット・シーン。ソーの義弟、ロキやロナンを利用してインフィニティ・ストーンの回収を試みたが失敗し、自らサノス・チルドレンを率いて動き出した。宇宙全体の人口増大によって資源が枯渇し、銀河が滅亡の一途を辿っていると論じて全ての生命体を半減させる事を救済と考える様になる。己の目的を果たす為には犠牲や殺戮を厭わず、冷酷な性格だがガモーラの死に表情を歪めたり、トニーの覚悟に敬意を表するなど感情は確かに持っている。アベンジャーズ随一の怪力を誇るハルクを素手で仆すに留まらず、地球上で最も高い強度を誇るヴィブラニウムで造られたヴィジョンの頭部を指先で破壊するなど戦闘において驚異的な実力を有する。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではアベンジャーズを敗り、インフィニティ・ストーンを手中にして全宇宙の生命を半数覆滅させた。その代償としてインフィニティ・ストーンを制御するガントレットを纏った左腕は殆ど焼け爛れたが、サノスはスペース・ストーンの力でワープし、消息を断つ。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』本編の解説と考察
ストーリーの振り返り
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でサノスが全宇宙の生命体を半滅させた直後、トニーとネビュラはベナターに搭乗したまま宇宙を漂っていた。宇宙を放浪して22日間が経ち、燃料、食料共に底を尽きてトニーは衰弱していたが、キャプテン・マーベルに救助され、スティーヴやナターシャが待つアベンジャーズ本部へ生還を果たす。
敗北感に打ちひしがれ、意気消沈したアベンジャーズだが、サノスを探し出してインフィニティ・ストーンを奪還し、全宇宙の半数を蘇らせるべく動き出す事を決意。インフィニティ・ストーンが引き起こすパワー変動から、ワカンダの死闘後も再度使用された事が判明。変動が発生した星を特定したアベンジャーズは奇襲攻撃を仕掛け、サノスの右腕をガントレット諸共切り落としたが、インフィニティ・ストーンは見当たらない。サノスが2度目にインフィニティ・ストーンを使ったのは、インフィニティ・ストーンを原子レベルに破壊する為だった。インフィニティ・ストーンは、もう存在しない。
瞋恚に燃えるソーがストーム・ブレイカーでサノスの首を刎ね落とし、儚い復讐を果たしたアベンジャーズは失意に肩を落として地球へと戻った。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
サノスの死から5年後、地球は荒廃して残された人々は安寧を求める日々を送っていた。無力感に苛まれたアベンジャーズのメンバーは散り散りになり、ソーはビール漬けで威厳を失った憫然たる姿になっていた。
他方、5年の時を経て、量子トンネルの操作盤上を歩いた一匹のネズミにより、スコット・ラングは量子世界を脱した。しかし、スコットの時計では5時間しか経っておらず、サノスの侵略を知ったスコットは量子世界を通じたタイムトラベルで、破壊される前のインフィニティ・ストーンを全て回収すれば、サノスによる大量死を相殺する可能性を閃く。
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だが闇雲に量子世界を利用すれば抜け出せなくなる危険もある上、サノスの野望を未然に防ぐ為には、特定の瞬間に戻る必要があった。その技術を見出す可能性がある人物はトニー・スタークしか居ない。
しかしトニーは地球に生還した後、妻ペッパー・ポッツ、娘のモーガンと共に静かな暮らしを細々と営んでおり、タイムトラベルを熱弁するスコットやスティーヴを一蹴。悄然とした一行はトニーを後にし、ブルース・バナーを頼る。ブルースは5年の間にハルクの肉体を己の人格と融合させる事に成功し、常時ハルク特有の巨体で生活していたが、頭脳はブルースが誇る天才科学者そのものだった。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
スティーヴやスコットに懇願され、量子物理学の理論を基点にタイムトラベル実現一歩手前まで迫るブルース。しかし、タイムトラベラーを通じて時間を行き来する事は出来たが、時間を通じてタイムトラベラーを行き来させる事が出来ない。スコットを被験者としてテストを繰り返すも、若返らせたり老齢化するだけだった。
その頃、スコットのアイディアを一蹴したトニーは、秘密裏に全く同じ方法論を閃き、独自に研究を進めていた事が明かされる。時間を通じたタイムトラベルを実現するGPS装置を開発し、アベンジャーズと合流。一時期、ニューヨーク市に3つのインフィニティ・ストーンが存在していた事に気付いたアベンジャーズは少数部隊に分かれて過去へ。ハンク・ピムが死亡した今、タイムトラベルに必要なピム粒子は各々、一往復分しかなく失敗は許されない。
2012年、ロキの襲撃を受けているニューヨーク市に戻るも、4次元キューブを逃してロキに奪われてしまったトニーとスティーヴは、残りのピム粒子を使って1970年のニュージャージー州へ。そこにはS.H.I.E.L.Dが保管している4次元キューブと、若きハンク・ピムがピム粒子を開発している研究室があった。
時を同じくしてブルース/プロフェッサー・ハルクはエンシェント・ワンにタイム・ストーンを引き渡す様に懇願。安易に時空間を行き来して過去や未来に変化を齎すと、それまでは存在しなかった別の時間軸が派生し、その時間軸に及ぼす影響を危惧したエンシェント・ワンは頑なに断るがドクター・ストレンジの策略である事を知ると、要求に応じる。プロフェッサー・ハルクは新たな時間軸と未来を派生させない為、インフィニティ・ストーンを遣い終えたら元の場所に戻す事を約束。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
惑星ヴォーミアへ戻ったナターシャとクリント。どちらかの命と引き換えにしなければソウル・ストーンが得られない事を知り、ナターシャは自らを犠牲にしてクリントへソウル・ストーンを託した。一方で、2014年の惑星モラグを訪れたローディとネビュラは、当時のクイルに先んじてパワー・ストーンを入手。ローディは難なく未来へ戻るが、ネビュラに埋め込まれたコンピューターが2014年のネビュラと図らずも記憶ファイル諸共ネットワーク共有してしまう。これによって未来のネビュラが目撃したアベンジャーズの計らいを2014年のサノスに知られ、ネビュラは囚われの身となる。2014年のネビュラは未来の己に扮装し、タイムトラベルでアベンジャーズに紛れ込んだ。2013年のアズガルドからエーテルを無事入手し、ソーはヘラに破壊される前のミョルニルと共に未来へ。
犠牲になったナターシャを悼む一同だが、インフィニティ・ストーンを全て揃えたアベンジャーズは押っ取り刀でガントレットを開発。アベンジャーズでも最も強靭な肉体と、インフィニティ・ストーンが放つ協力なガンマ線に耐え得るのはプロフェッサー・ハルクと考えたメンバー。ガントレットを嵌めただけで身体を伝う強大なエネルギーで半身が焼け焦げ、苦悶の表情を浮かべるプロフェッサー・ハルクだが辛うじてガントレットで指を鳴らし、5年前の大量虐殺を取り消す事に成功。アベンジャーズが表情を綻ばせたのも束の間、紛れ込んで居た2014年のサノスに忠誠を誓うネビュラにより、サノスは戦艦諸共現代へ姿を現した。単なる大量虐殺では、遺された半数が流された血に執着し、栄えられないと考えたサノスはインフィニティ・ストーンで全宇宙を原子レベルまで崩壊させて新世界を創造する事を目論んだ。
アベンジャーズ本部はサノスの急襲によって鉄屑と化し、アベンジャーズも甚大な被害を被る。アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーは全身全霊でサノスに挑むが太刀打ち出来ない。傷だらけのキャプテン・アメリカが半壊したシールドを片手に立ち上がると、サノス・チルドレンを筆頭に幾千と知れないサノス軍が波濤の如く遅い来る。その刹那、聞き覚えのある声が。
無数のポータルが開き、甦ったティ・チャラとワカンダ軍、サムとワンダ、ドクター・ストレンジが次々と姿を表す。アベンジャーズ最後の闘いが始まった。終わり無きカオスと殺し合いの中、サノスはトニーのガントレットを追う。クリントからスパイダーマン、スパイダーマンからブラック・パンサー、そしてキャプテン・マーベルへ。インフィニティ・ストーンを元の場所へ戻すべく、スコットが5年間閉じ込められていた量子トンネルを起動させるもサノスに破壊されてしまう。行き場を失ったガントレットの奪い合いはサノスとアイアンマンへ亘るも、遂にはサノスがガントレットを纏い、再びインフィニティ・ストーンを全て手にする結果となる。驚嘆と絶望に唖然とするトニーに、強い眼差しと共に人差し指を一本だけ立てるドクター・ストレンジ。
他に方法は無かった。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.slashfilm.com/』
サノスに飛びかかるトニー。ガントレットに触れるも、再び跳ね除けられてしまう。勝利を噛みしめる様に”私は絶対だ”と息巻いた直後、ガントレットで指を鳴らしたサノス。しかし、虚空に乾いた音が鳴るだけだった。困惑し、ガントレットを検めるとインフィニティ・ストーンが一つも装備されていない。焦燥の表情を浮かべたサノスを見つめ返すトニー。盾を構える様に右手を立てると、手の甲にはガントレットに触れた刹那、掠め取ったインフィニティ・ストーンが色鮮やかに煌めいていた。
息も絶え絶えに”それなら・・・”と呟くトニー。
乾いた音と共に世界が一瞬だけ白光に包まれる。
静かに砂とも灰とも知れない屑と化し、消え去るサノス。アベンジャーズの勝利に終わったが、インフィニティ・ストーンの絶大なエネルギーを全身に受けたトニーは、駆け付けたピーター、ペッパーとローディに虚ろな瞳を向け、アイアンマンとして静かに最後の一息を吐いた。
トニーの葬儀を終えた後、スティーヴはインフィニティ・ストーンをあるべき場所へ戻す為、再び過去へ旅立つ。しかし、5秒間で戻るはずが一向に戻って来ないスティーヴを案じて焦るプロフェッサー・ハルク。だが、川辺のベンチに目を向けると、一人の老人が静かに腰を据えていた。それは良き人生を生き、幸せな表情を湛えたスティーヴ・ロジャーズだった。穏やかそうなスティーヴを優しく見つめるサム。徐ろにスティーヴはベンチに立てかけた円形のケースを開き、取り出した物をサムに手渡した。
“君のだ”
サム・ウィルソンがキャプテン・アメリカになった瞬間だった。
・・・暖かな陽光に包まれた家から、微かに溢れる優しげな音楽に合わせて寄り添い、ゆっくりと体を揺らす男女。スティーヴは目を閉じて、ペギーを胸に幸福な時を味わっていた。そしてしばし見つめ合った後、二人は口付けを交わすのだった。
タイムトラベルの解説
『アベンジャーズ/エンドゲーム』で鍵となるタイムトラベル。インフィニティ・ストーンが破壊された為、苦杯を嘗めたアベンジャーズがサノスの野望を阻止する唯一無二の望みは、過去のインフィニティ・ストーンを全て回収し、大量虐殺を帳消しにする事。
しかし、タイムトラベルはSF映画で度々取り上げられたものの、『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではプロフェッサー・ハルクが説明した通り『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)の様に過去を変える事で未来を変える事は事実上不可能とされています。即ち、ローディが提案した様に幼いサノスを殺害して、インフィニティ・ストーンを追い求める狂人が居ない”今”を齎す事は出来ません。
『LOOPER/ルーパー』(2013年)で描かれた様に、過去が未来に影響を直接的に及ぼす事は量子物理学的には誤りとされ、『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではエヴェレットの多世界解釈に従って物語が進みます。
エヴェレットの多世界解釈って?
英語では単にMany-Worlds Interpretation(多世界解釈)と呼称され、1957年に提唱された理論。平行世界(パラレルワールド)の概念に通ずる考え方で、『アベンジャーズ/エンドゲーム』で幾度か発言がある通りあらゆる出来事は時間の流れに分岐を齎し、無数の現実が派生しているというもの。
有名な思考実験に”シュレーディンガーの猫”が挙げられます。簡易的に説明すると、箱の中に一匹の生きた猫、時限式(アトランダム)に放出される毒物を仕込んで箱を閉じます。箱を閉じてしまうと、いつ毒物が放出され猫が死んだか知る方法がありません。観測者としては、箱を閉じ続けている間、猫が生きていると考えても間違いではないし、死んでいると考えても間違いはない。普通の感覚では”どっちなのか分からない”が正しい捉え方ですが、量子物理学的には猫の様子を確認するまでは箱の中に2つの現実が存在していると解釈出来ます。生きていると同時に死んでいる、現実の“重なり合い”が起きていて、箱を開けるた瞬間に現実は一つに収束します。
出典:”Superposition(2018) ©Mark Ryden”『参照:https://artchive.ru/』
言ってしまえば解釈の仕方ですが、ポイントは箱の中で分岐した現実が同時(平行)に存在しており、相互に干渉する事は無いという事。猫が死んだ時間軸が生きた猫の時間軸に影響する事はないし、その逆も然り。
過去の出来事によって現実に分岐が発生する場合、幼いサノスを殺害してもサノスが存在しない時間軸を発生させるに過ぎず、敗北したアベンジャーズが存在する時間軸とは全く関係ない現実を生じさせます。
量子物理学の世界でもしばしば争点となり、“幼いサノス殺し”は有名な”祖父殺しのパラドックス”と大部分で重なる考え方です。現実は分岐する事なく、絶対的と仮定すると逆説(パラドックス)と呼ばれる矛盾が生まれてしまう。
祖父殺しのパラドックスって?
動機はさて置き、貴方は自身の祖父を殺したいと考えます。過去にタイムトラベルし、若き日の祖父を殺しに行きました。しかし、充分に戻った過去で祖父を殺せば、孫である貴方は生まれるはずがありません。貴方がそもそも存在しないなら、祖父を殺す犯人も存在しません。つまり、祖父は殺されるはずがない。しかし、そうすれば貴方は生まれる事になり、犯人が存在する事になるので祖父はやはり殺されます。しかし、そうすると・・・この通り議論はループに閉じ込められて終わりが無く、つまり結論が見えない状態に陥ります。
上記のパラドックスを踏まえ、前提として過去にタイムトラベル出来る事が誤りだとする声も多く、過去に戻る事が不可能だと唱える学者も少なくない様です。しかし、『アベンジャーズ/エンドゲーム』でトニーが触れた”ドイチュの定理”が問題のループを解消してくれます。量子物理学では物質を構成する素粒子(原子などを構成する小さな粒子と考えてください)の挙動を波動と考えて定式化し、差し詰め、とある素粒子の位置と移動の方向は確率論的に表現されます。ある時刻にある素粒子がA地点に存在する確率、B地点に存在する確率、C地点に・・・
この理論に従うと祖父を殺した人物も確率論に支配されています。パラドックスの問題は単一のループ(世界)で同時に起こりえない状況(ある素粒子がA地点とB地点に同時刻に存在する)を思考している事にあるのです。つまり、閉ざされたループで異なるシナリオを綯い交ぜにして考える事が矛盾に繋がり、タイムラインが分岐する事を是とすれば確率論的にはシュレーディンガーの猫と同じ様に生きている場合と死んでいる世界、同一の素粒子がA地点とB地点に同時刻に存在する世界が同時に存在する事が出来ます。
祖父を殺した結果、孫が生まれない世界が分岐するだけで、殺意を持った孫の存在する世界では、祖父は殺された事になりません。サノス殺しに限らず、過去に立ち返って『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の出来事を帳消しにする事は量子物理学的に不可能と解釈されるので、揺るがない未来で新たな分岐を起こすしか解決方法はないのです。アベンジャーズがインフィニティ・ストーンを使う”世界”を創り出す事が勝機となります。
しかし、実践してみると被験者となったスコットは若返ったり年老いたりしてしまいます。この現象をトニーはEPRパラドックスに起因すると説明。
EPRパラドックスって?
アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックスとしても知られますが、頭文字をとって単にEPRパラドックスと呼称される事が一般的。このパラドックスを理解するには、前提として2つの考え方に納得する必要があります。
一つは既に紹介したシュレーディンガーの猫。箱に閉じ込めた猫は例に過ぎませんが、ポイントは素粒子に対しても何処に居て、どのくらい速く、どの方向に動いているのか等の状態”は観測してみるまで、あらゆる可能性が確率に支配された世界で同時に存在している事。様々な状態が重なり合った状況が発生するのです。言い換えると、観測する事で素粒子の物理的な状態を”変えてしまう”事になります。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
もう一つはハイゼンベルクの不確定性原理。これも中高で学習する内容ですが、端的に言えば素粒子の”位置”と”速度(正確には運動量)”を同時に観測する事は出来ないと提唱する原理です。日常に置き換えると分かりづらいのですが(例えば、自動車なら位置も速度も同時に計測出来る)、イメージとしては電子の様な極小の物体の位置を計測する為に”見る”、つまり光(フォトン粒子)を照射するとフォトン粒子が電子に与える運動エネルギーによって移動スピードに変化を与えてしまうと言った具合。逆も然りで、極小の世界で発生する不思議な現象の一例です。
EPRパラドックスは、素粒子の”スピン”と呼ばれる物理量に纏わる逆説ですが、簡易的に説明する為に”エネルギー”に置き換えて解説します。素粒子は細胞の様に分裂する事があり(尤も、生理学的な現象ではなく、安定性に起因しますが細かくは気にせず)、この時、2つになった素粒子がそれぞれ保有するエネルギーの総和は元の素粒子が有していたエネルギーとイコールでなければなりません。“エネルギー保存の法則”と言えば聞き覚えがあるはずです(少し触れたスピンにも類似の保存則が成り立ちます)。
さて、いずれの素粒子も観測するまでは”状態”不明でした。様々な”状態”が重なり合った世界に存在しています。問題は、片方の素粒子を観測してエネルギー値を把握した瞬間、もう片方の素粒子のエネルギー値も同時に観測できてしまう事(総和さえ分かっていれば、エネルギー保存の法則によって自ずと”観測”出来る)。即ち、重なり合った状態の素粒子が相互の”状態”に影響をし合っている。より砕くと、コミュニケーションを取っている事になります。素粒子間の距離に関係なく、情報の遣り取りが光速を超越したスピードで行われた事になり、光速を越える事は不可能とする物理の大原則に違反します。この規則違反が起こり得る状況こそがパラドックスなのです。
光速を越えたスコットの移動を通じて時間軸を捻じ曲げる事は出来ましたが、時間軸の捻じれを通じてスコットを移動させる事が出来ず、タイムトラベルは難点を迎えます。差し詰め、極小の単位を表すプランク単位系での移動は難を極め、自在に時空間を往来する事が理論上は不可能である事をトニーは指摘しているのですが、結果的に量子世界でも作動するGPSナビゲーターを開発し、アベンジャーズはタイムトラベルに臨むのでした(残念ながらトニーのGPSがどの様に作動するのかは不明です)。
一見難解な専門用語の解説
ドイチュの定理に限らず、小難しい専門用語が飛び交って気になる方の為に解説します。無論、トニーがどの様な理論でタイムトラベルを実現させたのか不明瞭なので、全体感のある繋がりとして解説するには至りませんが、ご参考までに。
エイゲン値とエイゲンベクトルって?
エイゲン値(Eigen Value)とは数学用語で、特に線型代数学で多用される概念。英語の発音は”アイゲン・ヴァリュー”で日本語では”固有値”や”固有ベクトル”とも言われます。
“線形性”と表現されるベクトル空間(幾つかのベクトルを足し合わせたり、特定のルールに従って演算すると生成される架空の空間)の構造を損なわない写像(乱暴に言うと、ある種の関数)に相当する定数を、エイゲン値と呼びます。少し数式も交えて詳述します。
あるベクトル空間が2つのベクトルa,bで構成されている平面とします。中学の数学で馴染みのあるx軸とy軸で創られた平面です。この平面上のどのポイント(座標)もa,bを足したり倍々にする事で到達できます(例えばx軸に1進んで、y軸に2進んだ点)。さて、この2次元の平面空間を、あるルールに従って全く別の空間に”マッピング”させる事を考えるのが線形写像です。無数にある座標を、もう片方の座標に紐づけする関数(写像)を探し出したので、この関数をTとします。ベクトルを変数とする関数です。この時、T(a)はとあるベクトル、乃至は座標を表すのですが、T(a)=λaを成立させる謎の値λこそエイゲン値なのです。ベクトルbに対するエイゲン値は、T(b)=νbを成立させるνの事を指します。
高校生で学習する概念なので、理系の方なら聞いた事はあるはず。線形代数学に於いても初歩的な知識なので、タイムトラベル実現にどの様に繋がるか明確には分かりません。
メビウスの帯って?
メビウスの帯(Möbius Strip)とは位相空間学(トポロジー)等の分野に登場する図形です。裏も表も存在しないのが最大の特徴で、数学的にモデリングする事も出来ますが、大学数学に触れる範囲ですので詳しくは述べません。
祖父殺しのパラドックスとも関連する数学的特性を持ち合わせますが、ループと時間軸の流れに関係しています。トニーはメビウスの帯を時空の流れに見立てて、帯上の任意の座標を行き来する方法を閃いたのだと考えられます。
ネビュラの死
2014年のネビュラが『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』後のネビュラに心臓を打ち抜かれて死亡するシーンがありますが、この時、何が起きたのか。未来のネビュラには全く影響が無さそうですが、このシナリオは、前述した多世界の概念を踏まえて考えると合点が行きます。
出典:”Guardians of the Galaxy(2014) ©Marvel Studios『”参照:https://www.imdb.com』
2014年のネビュラが死んだ世界がこの瞬間に発生したものの、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』後のネビュラとは分断された世界に存在するもう一人が死んだに過ぎません。ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーのメンバーとなったネビュラには無関係と言って良く、典型的なSF映画の様に過去と現在が繋がっている描写が無いのも多世界解釈の考え方に従った世界故です。
キューブを手にしたロキの行く末
2012年のニューヨーク市を訪れたトニーとスティーヴは4次元キューブを辛くも取り逃し、図らずも拘束されてアズガルドへ連行されるはずだったロキの手に。空かさず4次元キューブを用いて何処かへ空間移動し、逃走したロキ。本来のタイムラインに従えば、アズガルドに囚人として収容されたロキは自らの死を偽装してオーディンに扮するもソーに見破られ、『マイティ・ソー バトルロイヤル』を経て『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にてサノスに命を奪われます。
しかし、トニーの失敗が引鉄となってロキは別の現実に分岐したものの、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のタイムラインでは史実が変わる事はありません。ロキは難民船でサノスに殺害されたままです。
出典:”Avengers(2012) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
一方で分岐した現実に逃れたロキが、その後どの様な一途を辿るのかはTVシリーズとして公開予定の『ロキ』で明かされる可能性が期待されます。『アベンジャーズ/エンドゲーム』で観たロキは、これまでのロキとは別人です。
トニー・スタークのエンディング考察
『アベンジャーズ/エンドゲーム』の衝撃的なエンディングは、世界中のファンを震撼させ、感動と 哀哭の狭間に突き落としました。トニー・スタークが宿命を勇ましく果たした壮絶な最期は、不思議と悲劇と言うよりは達成感が強い。
トニーの決断には、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』でトニーがスカーレット・ウィッチ/ワンダに見せられた、最悪のエンディングが強く影響しています。フューリーとの会話で明らかになる通り、トニーはアベンジャーズが死に絶え、己が生き残るシナリオを最も怖れていました。
そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で絶対に避けたかった強烈な悪夢は現実に。トニーには耐え難い現実でした。
出典:”Avengers: Infinity War(2018) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
そして11年間で高度化するスーツと共に人間としても成長したトニーですが、銀幕にデビューした『アイアンマン』(2008年)から変わらないトニーの信条の中心には、常にレガシーの概念が存在していました。トニーがインフィニティ・ストーンを纏ったのも、後世に遺すレガシーの為です。
テン・リングスから脱したトニーは、当時パートナーだったオバディア・ステインに死体の山が唯一のレガシーとして語り継がれるのは避けたいと述べています。その結果スターク・インダストリーズの軍事兵器開発ラインを即座に解体し、経営方針を大幅に変更した事で社内外から多大な批判を受けてしまいますが、トニーの意思は堅い。レガシーに纏わるトニーの想いは、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で壊滅したアベンジャーズの幻影を見た際にも語られ、その重要性はトニー自身の命にも代えられない概念である事が分かります。彼のレガシーを完結させる為、指を鳴らすのは彼である必要があったのです。
11年に亘るトニー・スタークの物語は、世界最高峰レベルの頭脳を湛え、天狗になった億万長者から心の奥底に眠る真のヒーローを引き出し、正面切って向き合わせるまでの軌跡を描いています。ストーリーテリングの観点からも、2008年に”I am Iron Man”で幕を開けたインフィニティ・サーガは”I am Iron Man”で終焉を迎え、至極エレガントにアイアンマンのアークを完結させるエンディング。『アベンジャーズ/エンドゲーム』のオープニングも、全てのイグニッション・キーとなったテン・リングスの洞窟を再現している事も大きなポイント。
迫る死から逃れるべく、当時インセン博士と協力して状況の打開を試みた様に、ネビュラとベナターのイオン・ジェットエンジンを逆流させて時間を稼いだり、ペッパーに遺したメッセージでも”SNSに掲載するな”と半ば冗談交じりに述べたりしています(テン・リングスに襲撃される直前、ツーショットを求めた米兵に”Myspaceに載せるなよ”と発言したトニーへのコールバック)。『アイアンマン』の始まりをミラーリングした『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、全ての先駆者となったアイアンマン/トニー・スタークの歴史に終止符を打つ事を初めから宣言しているのです。
静かなコテージでモーガンとペッパーと平穏に暮らそうとしても、タイムトラベルを考え続けていたトニーは、前線から身を引く事が出来ず、アイアンマンになる事こそがその宿命。インフィニティ・ストーンで指を鳴らしたヒーローは己の未来の為に闘うトニー・スタークではなく、無数の命とモーガンの未来の為に闘うアイアンマンでした。
『アベンジャーズ』でスティーヴが異見した、大勢の為でも自己犠牲を厭わない精神の欠陥。インフィニティ・ストーンを手にしたトニーはスティーヴの言葉を覆す結末となりました。
インフィニティ・ストーンを纏ったあの瞬間から、アーマーを外してもトニー・スタークはアイアンマンなのです。
スティーヴ・ロジャーズのエンディング考察
トニー・スタークとは対照的に、キャプテン・アメリカは星条旗をクローゼットに仕舞った途端、そのアイデンティティは霞んでしまいます。スティーヴ・ロジャーズは誰なのか。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』でウルトロンの鋭い指摘に駁論出来ずに口を噤んだスティーヴの表情から、己のアイデンティティに葛藤している事が窺えます。
戦争が無い世界で生きられない男。皮肉な事に、『アベンジャーズ』でトニーの横柄で身勝手な態度に憤慨したスティーヴがトニーに放った”スーツを脱いでしまったら、お前は一体何なんだ”の一言はスティーヴ自身も答えられない問いです。アベンジャーズの正義を象徴し、常に正しくあったキャプテン・アメリカは他者にとっては明確なアイデンティティを確立しましたが、スティーヴ・ロジャーズのペルソナにとっては判然としません。
現代に目覚めた後、スティーヴは慣れない世界で”前に進む”事で居場所を見付けようとします。しかし『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で邂逅したバッキー・バーンズや殲滅したはずのヒドラが、スティーヴを過去へと引きずり込む悪夢の様に襲い、病床に臥した白髪のペギーはスティーヴが世界を救う為に犠牲にした人生、スティーヴを人間として形造る人生を偲ばせます。アベンジャーとしてのスティーヴは前に進めないのです。
そして『アベンジャーズ/エンドゲーム』で1970年に戻り、キャプテン・アメリカになる前の自分とペギーを見てスティーヴは兵士である前に、人間である事を思い出します。未来ではキャプテン・アメリカとして生きる目的を果たせても、スティーヴ・ロジャーズとして生きる目的は過去にしかない。
出典:”Captain America: The First Avenger(2011) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
『アベンジャーズ』でトニーが異見した、キャプテン・アメリカが特別な理由は全てラボで造られた人工物と言うもの。ミョルニルを手にしたスティーヴはトニーの言葉を覆す結末となりました。
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』で奪われたペギーとのダンスを取り戻す事。それがスティーヴの物語として、彼を人間として完成させる為にも必要な瞬間だったのです。
“ペギー最愛の人”パラドックス
キャプテン・アメリカの盾を捨て、スティーヴとして幸せに生きたとすると、ある疑問が浮かびます。年老いたスティーヴの左薬指には結婚指輪と思しき銀の指輪が光っており、ラストでペギーとスティーヴが静かに踊っているシーンが映し出される事から二人は結ばれたと考えるのが自然です(尤も、どちらも同一のスティーヴ・ロジャーズと仮定しての事ですが)。
問題は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』でスミソニアン博物館の記念館で、1953年に撮影されたペギーのインタビュー動画の内容。キャプテン・アメリカの活躍について述べる中で、スティーヴは第二次世界大戦中に後の夫となる人物を救ったと発言しており、それに加えて死期を目前にしたペギーの病室には2人の子供を写したフォトフレームが確認出来ます。
ペギーには夫と子供が居た事になりますが、その間、ステーィヴは北極海で発見を待っていたはず。即ち、夫とスティーヴは同一人物では有り得ません。その場合、年老いたスティーヴは誰と踊り、結ばれたのか。
ネビュラの死や4次元キューブを手にしたロキと同じく、過去に戻ってペギーの人生に干渉した瞬間、スティーヴは全く別の現実を発生させたので結ばれた相手はペギー・カーターに間違いありません。混乱しない為には、“どの”スティーヴ、或いはペギーの話をしているのかが重要です。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で登場した白髪のペギーと、『アベンジャーズ/エンドゲーム』でスティーヴが踊ったペギーは別人です。
ペギーとダンスを叶えたスティーヴはサノスと雌雄を決したスティーヴで、名が明かされていない別の男性と結婚するペギーとは別のペギーと結ばれます。しかし、そのスティーヴが未来のサムやバッキーと何故出会う事が出来たのか。過去に戻ったスティーヴが発生させた分岐は、無数の分岐点を持ち、サムにキャプテン・アメリカの座を譲ったのもある地点まではペギーと踊った過去を共有していたスティーヴの一人です。サムにシールドを渡さなかったスティーヴも存在しますが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』で観ているのは渡す事にしたスティーヴ。
つまり、スティーヴが過去に戻ってペギーと再会した事でパラドックスは発生しないのです。
次世代アベンジャーズにX-メン参戦か
原作コミックスではアベンジャーズとX-メンは肩を並べて闘う存在。
しかし、これまでは著作権上の問題から同じ映画で共演する事が叶いませんでした。デッドプールと始めとするX-メンは20世紀フォックスに映像化の権利を握られており、アベンジャーズはディズニーに属していましたが、ディズニーによる買収で遂に一つのスクリーンを共有する事が可能になります。
後は、どの様に登場させるか。
出典:”Avengers: Endgame(2019) ©Marvel Studios”『参照:https://heroichollywood.com』
『アベンジャーズ/エンドゲーム』は従来のMCU映画と違って次回作の予告やセットアップを行う描写がありませんが、オープニングでアベンジャーズがサノスを見付け出す為に観測したパワー変動がX-メンの誕生に関係しているかも知れません。プロフェッサー・ハルク/ブルース・バナーが幾度か発言した通り、インフィニティ・ストーンが放つエネルギーの殆どがガンマ線。ブルースがハルクの能力を得たのも、ガンマ線による放射能が引き起こした遺伝的な突然変異によるものです。即ち、インフィニティ・ストーンを遣う事で惑星規模のパワー変動が起きた事を考えると、多量のガンマ線が放射された可能性が高い。
X-メンの世界には多くのミュータントが存在しており、必ずしも放射線に被爆した結果生まれたヒーローではありませんが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』でガンマ線に被爆した初代X-メンが誕生する事が考えられます。インフィニティ・サーガが幕引きとなった今、次フェーズでX-メンを登壇させる事に期待が高まります。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』のイースターエッグ
いいぞ”ホークアイ”
『アベンジャーズ/エンドゲーム』のオープニングで娘と弓矢の特訓を楽しむクリント・バートン。娘のライラ(ジョー・ルッソ監督の実娘エヴァ・ルッソ演)が見事に的のブルズアイを射抜くとクリントは表情を綻ばせ、”いいぞホークアイ”と言いながらライラにハイタッチ。
出典:”Hawkeye #1(2016) ©Marvel Comics”『参照:https://bamsmackpow.com』
アベンジャーズのホークアイは無論クリントですが、ライラを”ホークアイ”と呼んだのは原作コミックスへのコールバック。原作コミックスではクリントと並んで、”ホークアイ”の異名を取った初の女性射手ケイト・ビショップをクリント自身が特訓するシーンがあり、『アベンジャーズ/エンドゲーム』にケイトは登場しませんが、脚本に宿った遊び心が垣間見える演出です。
ジョー・ルッソ監督のカメオ
サノスの死から5年後、行き場や人生の意義を見失った人々と会話しながらカウンセリングを施すスティーヴ。そこでデートの悩みを打ち明ける一人の男性が登場しますが、LGBTQの話題で溢れた現代に相応しく同性愛者という設定。
“彼”とのデートで込み上げた悲しみを抑えきれずに泣いてしまった事を淡々と語る男性は、数多くのマーベル作品を手掛け、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の監督でもるジョー・ルッソ自身です。
宇宙を放浪したのは22日間
虚ろな瞳で半壊したアイアンマンのヘルメットを起動し、妻ペッパー・ポッツにメッセージを遺そうとするトニー。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で敗れた後、ベナターに搭乗して宇宙を放浪していたトニーに限界が訪れかけます。胸が張り裂ける様なメッセージと共に、状況を簡単に説明。
“宇宙をさまよって21日・・・いや、22日だ”
インフィニティ・サーガなる『アイアンマン』に端緒を開く物語は、22作品目となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』で幕引きとなりますが、“22日間”放浪したトニー・スタークの物語の終焉も予示しています。
警備員が読んでいた本もエンドゲーム
量子世界から偶然にも抜け出したスコット・ラング。トランクルームに出現した彼が助けを求めたのは、監視カメラを見ていた警備員(ケン・チョン)でしたが、良く見ると洋書を読んでいます。
題名はThe Terminal Beach(原題)で世界が滅亡した後の、所謂ポスト・アポカリプスの物語を描いたSF短編集です。米英のエディションによって収録話が若干異なりますが、チェスに纏わるサイコ・スリラー”エンドゲーム”と題されたショート・ストーリーが含まれています。
ヒドラ万歳
2012年にタイムトラベルしたキャプテン・アメリカが、マインド・ストーンを第二次世界大戦より続くヒドラから奪還する為、エレベーターに乗り込むシーン。張り詰めた緊迫感がクライマックスへと高じ、いよいよ拳を交えるかと思えば一言。
2012年当時はシールドのメンバーとして水面下で活動していたヒドラ。“ヒドラ万歳”はメンバーでなければ絶対に分かるはずもなく、困惑しつつもキャプテン・アメリカも秘密裏にヒドラへ加盟していたと解釈せざるを得なかった一味はマインド・ストーンを預けます。
出典:”Captain America: Steve Rogers Vol. 1(2016) ©Marvel Comics”『参照:https://www.vulture.com』
このシーンは、2016年に刊行されたコミックスでファンに衝撃を与えたキャプテン・アメリカの一コマを借りたパロディ演出。常に正義の象徴であったキャプテン・アメリカが、ヒドラの陰謀に加担している事を示すショッキングな発言として”Hail Hydra”が描かれてインターネット上で広く物議を醸しました。『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではコミカルな場面として描かれています。
1970年なアントマンのヘルメット
2012年のニューヨーク市で4次元キューブを取り逃したトニー。最後の望みとして1970年に戻り、4次元キューブとタイムトラベルに不可欠なピム粒子の入手を試みます。若きハンク・ピム博士の研究室が映し出されますが、机の上には触覚らしい突起が飛び出た銀色のヘルメットが確認出来ます。
出典:” Irredeemable Ant-Man vol. 1 #5(2007) ©Marvel Comics”『参照:https://www.comingsoon.net』
このヘルメットは原作コミックスで初代アントマンが着用していたスーツのデザイン。ハンク・ピムが実際に問題のヘルメットを着用して活躍していたかは定かではありませんが、初期のデザインとして考案したモデルかも知れないと考えられ、マーベル作品らしいイースターエッグと言えます。
キャプテン・マーベルの恋人候補
強い女性だって恋をする。
アベンジャーズ本部でホログラムとして登場し、各々の任務状況を報告するアベンジャーズ。ロケットとネビュラ、キャロル、そしてローディが次の行動を軽く討議し、ログアウトする直前にキャロルはローディを一瞥し、表情を和らげて”Good Luck”と声を掛けます。
それだけではフレンドリーな挨拶代わりに留まりますが、2018年刊行のコミックスでキャロルとローディは惹かれ合い、恋仲となります。『アベンジャーズ/エンドゲーム』で露骨な描写は避けられているものの、今後の関係を期待させる一瞬として捉えても良いかも知れません。
トニーの葬式に現れた謎の青年
『アベンジャーズ/エンドゲーム』で最も多くの人々から水分を奪ったであろうトニーの葬式。黒ずくめのアベンジャーズとトニーを慕う人々が、俯き、別れを惜しむ姿を見ると、徐々にトニーの死が現実味を帯びて鼻先がじんわりとします。
ペッパーを始め、葬式に姿を見せた人々にカメラが回りますがワンダの後ろに一人立ちすくむ青年の正体は一見、謎です。
この青年は『アイアンマン3』(2013年)に登場したハーリー・キーナー(タイ・シンプキンス)。マンダリンの襲撃を受けてハーリーのガレージに身を潜めた事がトニーとの出会いでした。『アベンジャーズ/エンドゲーム』で実際に出演しているのもタイ・シンプキンス本人です。アイアンマン亡き今、今後はハーリーがアイアン・ラッドとして代替わりするのではないかとの憶測も飛び交っています。
出典:” Iron Man(2013) ©Marvel Studios”『参照:https://media.comicbook.com』
ハンク・ピムがスターク嫌いな理由
『アントマン』で初登場した初代アントマンで、分子間の距離を伸縮させられるピム粒子の発明者ハンク・ピム。元々はS.H.I.E.L.Dに所属する科学者でしたが、『アントマン』のプロローグでトニーの父ハワード・スタークに食い付いている様子が描かれます。ピム粒子をスタークが管轄している部門で保管している事を突き止めた、と。その後も如何にスターク家が信用ならないかを述べるシーンがあり、軽蔑の念が見え隠れします。
『アントマン』のオープニングでの遣り取りから察するに、ピムはハワードがアントマンに纏わる研究内容を盗もうとした事を指摘。ハワードは明確に肯定も否定もしませんが、ピムがスタークに抱く疑念は『アベンジャーズ/エンドゲーム』での出来事に起因するかも知れません。
出典:” Ant-Man(2015) ©Marvel Studios”『参照:https://www.imdb.com』
トニー・スタークがサノスを敗った後、スティーヴは過去に戻ってインフィニティ・ストーンを元の場所へ返還します。
しかし、この時、インフィニティ・ストーンは確かに過去へ持ち去った様ですが1970年にニュージャージー州から盗んだピム粒子を戻す様子はありません。つまり、1970年にS.H.I.E.L.Dで研究を進めていたハンク・ピムの下へ奪われたピム粒子は戻る事なく、行方不明のままです。盗難を疑ったピムは何らかの理由でスタークによる計略と考え、二人の確執が始まったと推察する事が出来ます。アベンジャーズ最後の失態・・・かも知れません。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』後の未来は・・・
次のサーガは予想の域を出ませんが、アイアンマン/トニー・スターク亡き後は『アベンジャーズ/エンドゲーム』の大戦でも専用アーマーを纏って活躍したペッパー、そして初登場シーンで5歳にして早くもガレージ好きが判明した娘のモーガンがトニーの意思を受け継いでいく事が考えられます。カメオ出演したハーリーも候補と考えられますが、原作コミックスに立ち返ると2005年刊行の”Young Avengers #1″ではナサニエル・”ネイト”・リチャーズがアイアン・ラッドとしてヤング・アベンジャーズのメンバーとなります。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』の冒頭で登場したクリントの息子も、名字こそ違いますが、ナサニエル・バートン。成長したナサニエルが次期アイアンマンとして銀幕に姿を現す可能性も捨て切れません。
スティーヴ・ロジャーズは『アベンジャーズ/エンドゲーム』で100歳を越える老人となりますが、彼にキャプテン・アメリカの肉体を与えた血清によって常人よりも寿命が長いのではないかと考えられます。前線で闘う事はなくても、代替わりしたアベンジャーズの今後に深く関わるアドバイザーとして登場する事は大いに有り得ます。
2019年の暮れ頃に撮影開始が報じられているブラック・ウィドウを主演にしたスタンドアローン映画に関しては、『アベンジャーズ/エンドゲーム』での出来事を受けて前日譚となる事は避けられないと考えられます。無論、多世界解釈に則ってブラック・ウィドウが死なないパラレルワールドを語るのであれば話は変わりますが、その場合は映画化された一連のマーベル作品とは切り離す事となるので避けて欲しいところ。
今後はキャプテン・マーベル、ドクター・ストレンジ、ブラック・パンサー、スパイダーマンを中心とする2代目のアベンジャーズが世界を牽引して行くとの見方が自然です。直近では、制作予定の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』(正式タイトル/公開予定年不明)で消息不明となった2014年のガモーラを探し出す事が次のサーガをキックオフさせそう。ビール腹のソーとガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーがどの様なストーリーを紡ぐか、期待が高まります。
いかがでしたか?
『アベンジャーズ/エンドゲーム』は映画史上、最も多くの人々に衝撃を与えた作品と言っても過言ではありません。集大成と表現するだけに留まらない作品、素晴らしい感情を喚起させてくれる映画でした。(詳しくは今後執筆予定のレビューにて述べます)
有難う、トニー・スターク。
今もこれからも、あの音は耳から離れません。
カーン・・・カーン・・・カーン・・・